FG Free Report トヨタの「マルチパスウェイ」戦略(4月10日号抜粋)

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2023年4月、トヨタ自動車の社長が交代しました。世界的に見ても、自動車業界のトップに立つトヨタ自動車ですが、今後の見通しはどのように変化していくのでしょうか。今回は、トヨタ自動車のビジネスを例にとりながら、投資判断を下す際のポイントを、プロのファンドマネージャーがお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——「トヨタ自動車」

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、自動車関連企業、とりわけ「トヨタ自動車の技術」について解説していきたい。

世界的に見ても、自動車業界のトップに君臨しているトヨタ自動車は、今後どのような立ち位置になっていくのだろうか。

また、以前のFree Reportでもトヨタ自動車を紹介しているので、そちらも合わせてご覧いただけるとより理解が深まるだろう。

☟リンクと記事概要はこちら☟

『FTXの倒産から学ぶ、上手な投資の心得とは?』…不確実なものではなく、信頼できるものに投資すべきである。

『自分の目で見て投資を考える』 …投資はギャンブルではなく、知的行為である。数値とにらめっこするより、実際に手足・頭を動かそう。

『株式投資における銘柄の賢い見方とは?』 …「株主になること」の本質とは何だろうか。

『トヨタのカーボンニュートラル実現への道』 …BEVにとどまらない。トヨタが研究開発を進める次世代技術とは?

『投資判断材用としての「社長」の見方』 …投資判断に迷ったときには、是非その企業の「社長」を見てほしい。

伸び悩むテスラ——「カーボンニュートラル」の最適解は、本当にBEVか?

BEV(電気自動車)の雄として一世を風靡した、テスラ(TSLA)が、どうも元気が無い。

世界各国が2050年までに、「カーボンニュートラル(脱炭素社会)」の実現を目標として掲げている。

例えば、欧州が電気自動車一辺倒への政策(2035年にはEU圏内での内燃機関自動車の販売を一切禁止することが決定)から転換した。

そんなことで、EUはやはり一枚岩にはなれないとハッキリしたことが、テスラの経営不振の大きな理由だろう。

また、米中関係の悪化であったり、中国経済の軟化であったり、テスラが元気を失う理由はたくさんある。(テスラは米国自動車企業で、2019年から上海で自動車を生産している。また、中国は電気自動車普及率を急速に拡大させている。)

さらに、現時点までの電気自動車(BEV)普及の大きな原動力のひとつが、「税額控除」などの補助金政策であることはEU圏と米国の共通事項であり、その米国でテスラの主力モデルである『モデル3』が、税控除減額の対象になることなども向かい風になってしまっている。

テスラは以上のような理由から、全車種の値下げを拡げて販売促進を図っている。

しかし、そもそもの話として電気自動車が「カーボンニュートラル」の唯一無二の最適解であるかどうかについては、議論が絶えない。

というのも、電気自動車推しは、単に「環境派」をアピールする政治家などのプロパガンダで使われた側面が強いからだ。

トヨタの「マルチパスウェイ」戦略

カーボンニュートラルへの最適解は、「トヨタ自動車の選択」というのが一番確かで信頼のおける答えになると思う。つまり、「マルチパスウェイ(=全方位戦略。トヨタが掲げる経営戦略)」だ。

トヨタ自動車は4月1日付で、社長が豊田章男氏から佐藤恒治氏へバトンタッチした。

今のところ、この会社の勢いは加速することはあっても、現時点で減速する兆しはないと言っていいだろう。

そして電気自動車戦略については、2026年までに電気自動車(BEV)10車種を投入する方針を7日に明らかにし、年間150万台の販売を目指すという。

その数字は今現在のテスラの年間販売台数よりも多いが、3年後の2026年にはその数値をトヨタ自動車はこなすという。あの会社のことだ、やると言ったら必ずやる。

これは、水素で走る燃料電池車(FCV)や新興国向けのハイブリッド車(HV)など、車の脱炭素化を進める上で多様な選択肢を残す、「マルチパスウェイ(全方位戦略)」を堅持した上での話だ。

実際、レクサス・ブランドのクルマは全てBEVにするとも打ち出している。佐藤新社長はそもそもレクサスのCEOだった。

その他にも、トヨタは水素エンジンの開発に忙しい。佐藤新社長はその水素エンジン車で耐久レースに挑戦しているGazooレーシングのCEOでもあった。

佐藤社長は、「世界中、これだけエネルギー環境が違う中、(カーボンニュートラルは)ワンソリューションで解決できる問題ではないと強く思っています。」と語っている。(『トヨタイムズ』より抜粋。)

技術理解の乏しさが生んだ失敗——ディーゼルエンジン車を例に

昔から、日本ではドイツの工業製品に対する強い憧れがある。当時も、自動車雑誌や自動車評論家などはこぞって、「トルク(ねじりの強さ)もあり、燃費も良いディーゼルが最高」と欧州車を持て囃した。

当時、日本で乗用車向けのディーゼルエンジンを開発・製造しているメーカーはマツダぐらいで、トヨタ自動車でさえ、欧州で販売していたヤリスには、プジョー(フランス自動車メーカー)から小型のディーゼル・エンジンを買ってまで搭載していたぐらいだ。

だから、日本ではトヨタ自動車を「ディーゼルエンジン戦略で出遅れた」と叩くアナリストも多かった。

ところが実際には、そもそも環境対応に適したディーゼルエンジン向けの燃料噴射装置(コモンレール)を開発したのは、デンソー(国内最大手の自動車部品メーカー)の技術であったことは、あまり知られていない。

デンソーはその優れた技術でコモンレールを開発したが、トヨタ自動車がディーゼル・エンジンを開発しなかったので、その技術を独ボッシュに売ってしまっていた。

当時の自動車雑誌や評論家たちが、こぞって論評していた内容は、

「欧州の自動車メーカーがクリーンディーゼルエンジンを採用する背景には、燃焼効率が良く、CO2を削減できるという目的もあるが、何と言っても走りがいいことがドライバーに支持されているからだ」

といったものだった。

反対に、「ハイブリッド車はドイツのアウトバーンでは寧ろ燃費が悪くなる」という、構造上、そして設計上当然であることを、あたかも欠点のように報じた。

(なぜなら、アウトバーンが速度無制限で走れる区間は、全区間ではなく限られた距離であるため、高速でのエンジン出力サポートを主眼としたドイツ車のハイブリッドメカニズムでは、かえって燃費が悪くなってしまうから。)

しかし結果的に、フォルクスワーゲンが排出ガス検査で組織的な不正を行い、ディーゼルエンジン人気が欧州でさえも急低下してしまった。

さらに実は、モーターの立ち上がりトルクの出方に、内燃機関は直接関係がない。

つまり、「走りが良い」云々は好みの問題か、技術理解の浅さが物語ったものでしかないということである。

さらに、米国でもディーゼル車は普及しなかった。

その主な理由は、「軽油に対応したガソリンスタンドがない」ということだったが、当時の専門家の中には、「欧州よりもストップ・アンド・ゴーが多いからだ」と語る者も多かった。

しかし、これは全く間違っている。

というのも、マンハッタン島や、ロサンゼルスのダウンタウンなどを除けば、米国では単に速度を一定に保つだけの、「オートクルーズ」がとても便利な道路事情なのだから。

何が言いたいかというと、専門家でも往々にして間違ったことを発信するということだ。

「では、実際にアメリカやドイツに行って自分で運転してみよう!」と言うのは現実的ではないかもしれないが、そのくらいリアルな感覚を持って物事を判断する必要がある。

企業を正しく評価しよう

協調する部品メーカーやバッテリーメーカー、そしてそれらの素材メーカーまで含めた「仲間」を考えたら、圧倒的に、トヨタ自動車が世界で一番強い。

余談になるが、かつて企業取材をした時、某マシニングセンターの工場長が教えてくれた、トヨタの強さを物語る話がある。

それは、今までに無い製品を作ろうとする時、当然その素材メーカーも含めて議論がされるのだが、トヨタはその研磨を行う機械の「刃」の素材メーカーまでが協力体制に集まるという話だ。

そんな会社は正直聞いたことが他には無い。

だからこそ、プリウスなど、トヨタ自動車が作った電気自動車(HEV)は、他社のそれらのようにバッテリーが爆発したりしない。

残念ながら、中国製のBEVは言うに及ばず、テスラの電気自動車も何度も爆発して既に犠牲者が出ている(あまり報じられていないが)のは事実だ。

恐らくその段階まで安全性に自信が持てるまでトヨタ自動車はBEVの新車を売らないのだが、2026年のことを発表したということは、もうその水準はクリアしたということだ(さもないと生産開始に間に合わない)。

それでも日本のメディアは、「BEV戦略で出遅れたトヨタ」と見出しを書いて挑発し、そして決して評価しようとはしない。

これは、大半のメディア記事は技術理解に乏しいことを意味しているとしか言いようがないだろう。

もし、テスラと同じバリュエーションでトヨタ自動車の株価が評価されたら、それだけで株価は5倍になる。そして時価総額が150兆円の会社になる。

それでも尚、アップルの足元にも及ばない。つまり、その時価総額は不当に高い訳ではないということだ。

「右肩上がりのビジネス・トレンド」の探し方

「右肩上がりのビジネス・トレンド」を探そうと思ったら、まず一般的には「決算発表」から流れを探すのが近道だ。

一度自分自身で「これだ」という流れを見つけることが出来れば、毎度の決算発表を細かく追い掛けずとも大丈夫と言えるが、やはり最初はどうしても投資家自身で決算内容を洗ってみる必要はあると思う。

その時大切なことのひとつは、「一次情報」で裏を取ること。「一次情報」に裏打ちされていない見立ては、基本的に何らかの「OPINION=意見」でしかないからだ。

これは、BEVやディーゼル車が初めはもてはやされたものの、実際は失敗に終わった話でも示した通りだ。

特にこの4月から始まる日本企業の年度決算については、企業側が考える2023年4月~2024年3月までの2023年度中の見通しが、ある程度ディスカウントになって示されるので、要チェックとなる。

例えば、日本の自動車産業はグローバルに見てもヒエラルキーのトップに居るので、技術ロードマップを含めて多いに参考になるだろう。

また、電子部品関連はハイテク産業の前触れを示すことが多い。何故なら、完成品を組み立てる前に出荷されるのが電子部品だからだ。

7月の積層セラミックコンデンサの受注状況で、年末のクリスマス商戦に対する完成品メーカーの見通しが読めるとさえ言われている。

まとめ

今回は、

 

  1. 「カーボンニュートラル(脱炭素社会)」の最適解は、「BEV」だけではない。
  2. トヨタの「マルチパスウェイ」が、賢明な戦略だろう。
  3. 「BEV」や「ディーゼル車」は初めは人気を得たが、実際には失敗に終わった。
  4. 記事や政治のプロパガンダに惑わされてはいけない。
  5. 自分で「一次情報」を取ってきてから、情報を精査し、投資判断を下そう。

 

ということを中心にお話しした。

長期投資を始める・見直すにあたって、まずは「右肩上がりのビジネス・トレンド」をご自身で探してみてほしい。

それは、ご自身の興味のある分野や業界からまずは選択肢を絞って、見ていくのもいいだろう。

または、それでも着目点が見つからないという方は、私の専門分野で毎回のレポートでも紹介率の高い「自動車・自動車部品関連」銘柄や、「半導体関連」銘柄について調べてみてほしい。

ご自身の目で、決算発表の純粋な数字・社長の言葉と、メディア記事を比較してみると、何か面白い発見が必ずあるだろう。

投資判断も、ぜひ「マルチパスウェイ」で挑んでみてほしい。

もちろん、私はみなさまを喜んでサポートするので、ご質問等もお待ちしています。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
また、こちらは無料版記事のため、最新の情報個別企業の解説についてはカットしております。
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