FG Free Report トヨタのカーボンニュートラル実現への道(1月16日号抜粋)

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誰しも一度は、「カーボンニュートラル」や「脱炭素社会」といった言葉を耳にしたことがあるでしょう。しかし、そのような環境にやさしい社会の実現には未だ課題は多く、世界各国が目標達成に向けて苦戦している現状があります。そんな中、日本最大の自動車メーカーである「トヨタ自動車」は、車のカーボンニュートラル実現に向け、積極的に研究開発を行っているようです。今回はその注目の次世代技術をプロのファンドマネージャーの視点からご紹介します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド「トヨタのカーボンニュートラルへの取り組み」

カーボンニュートラルの定義と解決策

昨今、カーボンニュートラルに関しては新しい話題が多い

特に自動車産業においては、

・欧州圏ではBEV(=Battery Electric Vehicle、電気自動車)一本足打法が疑問視されつつある

・中国ではBEVブームの陰りが見えてきている

といった世界的な動きが確実にある。自動車のカーボンニュートラル対応策への関心は、「電気自動車(BEV)」だけにとどまらないようだ。

 

そもそも「カーボンニュートラル」の定義とは、

 

カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

※人為的なもの

 

とある。(環境庁HPより引用。)

しかし、2050年までにこの目標を達成するには(みなさまもご想像の通りではあると思うが)かなり困難であると言われている。

なぜなら、温室効果ガス排出の大きな原因が化石燃料の燃焼であるからだ。

「化石燃料の燃焼」には例えば発電やごみ焼却、身近な生活の中では自動車の排気ガスといったものが挙げられ、人間が生きていくうえで欠かせないものだ。

下図は発電に関する我が国においての課題をまとめたものである。

(出典:https://www.kepco.co.jp/brand/for_kids/carbon_neutral/index.html

この図から分かるように、脱炭素のために必要な技術はまだまだ発展途上であり、時間もコストも大幅にかかる現状なのだ。

 

さらに、自動車に関しては「2030年にはガソリンエンジン車の製造を禁止、2035年にはガソリン車の新車発売を禁止する」と菅元首相が宣言した。

そのような中で、いち早くカーボンニュートラル実現への解決策に技術を投資してきたのが、他でもない「トヨタ自動車」だ。前回のレポート参照。

初代プリウスが公道を走るようになって約26年が経過したが、普通に公道を走れるBEV、HEV(=Hybrid Electric Vehicle、ハイブリッド車)、PHEV(=Plug-in Hybrid Electric Vehicle、プラグインハイブリッド車)、そしてFCEV(=Fuel Cell Electric Vehicle、燃料電池車)を生産する唯一の自動車メーカーがトヨタ自動車なのである。

つまり、これまでの「BEV一神教」からは離れた戦略ということだ。

(しかしながらメディアの多くが「BEV一神教」に支配されていることもあり、日本最大の民間企業であるトヨタへの風当たりは現状、不思議なくらい強い。)

決してBEVがダメという話ではない。BEVはもちろん重要な選択肢のひとつだ。

ただ、「BEV一神教」では無理難題が多過ぎるのだ。今現在、BEVに供給し切るだけの発電能力は日本も、欧州も、米国もないのだから。

時々ノルウェーなど欧州の小国の例を挙げる論調を見かけるが、国としての規模も人口も小さすぎる。

そして残念ながら、リチウムイオン電池の材料も少なく、バッテリー価格は一向に目立った値下がりを見せていない。

そのような流れもあってか、近時急激に注目を集めているのが「水素」である。

燃料電池を使ったFCEVと、従来の内燃機関を利用して燃料を水素とした水素エンジン、そして水素と二酸化炭素から合成する「e-fuel」というソリューションなど様々だ。

水素の関わる多くの技術は、これからより深く掘り下げる必要があると私は考える。

(こうしたことを鑑みると、テスラの株価が急激に低下している背景も分からなくもない。決してイーロンマスクCEOがTwitterの経営に関わりきりだからという理由だけではないように思えて仕方がない。)

従来の名車をBEVと水素エンジン車へと生まれ変わらせたトヨタの凄さ

そんな中、トヨタ自動車が1月13日の東京オートサロン2023で、4代目「カローラレビン/スプリンタートレノ」(通称AE86)を電気自動車(EV)と水素エンジン車に改造したコンセプトカーを披露したことは物凄い画期的な事実だ

豊田章男社長は「新車をEVにするだけでは、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)は達成できない。保有車、つまり誰かの『愛車』にも選択肢を残していくことが大事だ」と述べ、旧車のコンバージョンによる脱炭素化の可能性を示した。

下の写真の2台のクルマがそれ。私が学生時代に登場したクルマであるが、後輪駆動の最後のMT車のスポーツカーということで、今なお多くのマニアがレストアに励んでいるクルマだ。

それをトヨタのエンジニアが、一台をBEVに、そしてもう一台を水素エンジン車に改造したというのが今回の革新的な発表なのである。

何が凄いかと言えば、BEVの方はエンジンをモーターに変えただけで、トランスミッション(=変速機、自転車で言うギアチェンジの役割を果たす)が残っているという点だ。

本来BEVはMT(=マニュアル・トランスミッション、ドライバーが手動でギアチェンジを行う)も、クラッチ(エンジンの動力をタイヤに伝える装置)もいらない。

ただ運転する楽しさを残すために、エンジンだけをモーターに変えた。つまり現有車がBEVに簡単に改造できる可能性を示したのだ。

そしてもう一台は、エンジンそのものは従来のものを使い、燃料がガソリンではなく、水素ガスで走るように改造したもの。つまりガソリンの燃料系を水素系に変えただけということになる。現在市販されている「MIRAI」というFCEV車の水素タンクを2本積んでいる。

BEVの方は、走行音を外から聞くと電気自動車そのものなのだが、車内ではエンジン音が合成されている。何故なら、MT車の操作にはエンジン音が必要だからだ。

見ているだけでワクワクするが、テストドライブした人の感想はべた褒めだった。

トヨタ自動車がこういった取り組みをすることの最大の理由の一つは、

仮に新車が全部BEVになったとしても、カーボンニュートラルの達成は程遠い(下記の写真の右下のチャート参照)からに他ならない。

つまり保有されているクルマも積極的にカーボンニュートラルに変えていかないと、目標には追いつかないということだ。

ただ残念ながら、それを提示できる技術を有する自動車メーカーを、トヨタ自動車以外に私は知らない。

既に他社の多くがBEV一本足打法に舵を切っているか、内燃機関の開発を止めたかであり、そもそも水素エンジンを24時間耐久レースで完走出来るレベルにまで開発を進めた企業はトヨタ自動車しかないということだ。

『ついに欧州で「水素エンジン車」が初走行! モリゾウに密着取材 WRC 2022 Round9ベルギー|トヨタイムズ』

こちらの動画で、豊田社長が「私自らが水素エンジン車に乗ることで、”水素=爆発”という危険なイメージを、”水素=未来の選択肢”に変えていく」といったコメントをされており、社長の(トヨタという会社の)熱い想いと未来への新しい展望が一心に伝わってきた。

そこで今回、「豊田章男が愛したテストドライバー 」という本をみなさまにお勧めしたい。

投資対象先の社長が会社にとってどれだけ重要かもイメージが湧くかも知れない。ご興味があれば、購入して是非読んでみて欲しい。証券アナリストのレポートを読むよりいろいろなことが見えてくるだろう。

トヨタが取り組む、次世代のクルマ作り

カーボンニュートラルへの取り組みを世間に紹介したのが2023年6月に行われたトヨタの「テクニカル・ワークショップ2023」

「クルマの未来を変えていこう」をテーマにしたこの技術説明会の模様が「トヨタイムズ」にて公開されていたので、動画内で紹介されていた新技術を下にまとめた。動画自体は約35分あるので、お時間のある時に視聴してみることをお勧めする。

 

①水素エンジンLX(レクサスのSUV)

…水素タンクを4本搭載し、250km走行可能。市販化予定(時期は未定)。ちなみに水素エンジン車はいまだ世界で一台も市販化されていない。世界初の市販水素エンジン車となるか?

②オンデマンドカー

…乗車している人の好みに応じて車を選択できるEV。見た目はRZ(レクサス初のEV専用モデル)だが、操作一つでLFA(レクサスのスポーツカー)・ パッソ(コンパクトカー)・タンドラ(北米トヨタのピックアップトラック)に変身する。ギアの音や乗り味を再現することで、1台で3台分の運転を楽むことが可能。

③マニュアルBEV

…前項のAE86同様、エンジン音あり、クラッチあり、もちろんMT車特有の坂道発進も再現。ボタン一つでオートマに替えることも可能。

④次世代自動駐車

…ドライバーが駐車する動きを記憶するシステム。例えば家族の中で運転の得意な人の駐車を記憶しておけば、その後は手も足も使わずに駐車できるため、運転の苦手な人でも安心して駐車できる。障害物がある場合、それを避けるように軌道修正も可能。突然の子供の飛び出しなどにも対応。

⑤電動車椅子

…階段を上ることができる画期的な車椅子。スムーズに動き、バックや高さ16㎝の段差も昇降可能。実際の車の搭載品を使うことで、信頼性の高さも実現。「Mobility for all.すべての人に移動の自由を。」というコンセプトのもと発明された。

⑥Arene OS(アリーンOS)

…ナビと今までよりずっと自然な会話ができるように開発された、会話型AI。量産化決定。

⑦次世代電池

…第5世代のプリウス電池は、初代のものに比べて、コストを6分の1にカット、大きさはコンパクトに、パワーは25%アップしている。コストの高さゆえになかなか手の届かなかったバッテリーEVの普及に向けた取り組みである。2026年-27年を目処に実用化。

⑧マルチ水素タンク

…従来の気体水素タンクとは全く形状の異なったタンク(動画内ではモザイクがかかっている)にすることで、ほとんどの車に搭載可能。

⑨次世代FCシステム(燃料電池駆動システム)

…次世代セル(=セルモーター、エンジンをかけるときの原動力となる。):耐久性2.5倍、コスト5割減、燃費2割増。

材料の組み合わせによって化学反応が無数にあるので、それをすべて実験しようとするとかなりの時間とコストがかかってしまう。しかしトヨタは燃料電池の開発を30年やっている。長年のトヨタエンジニアの経験と技術力が、今の研究開発のベースとなっている。

⑩ギガキャスト

…車の部品統合の際には通常約30、40分かかる工程を、約100秒で作ることが可能に。

さらに、ベルトコンベアなしで工場を自動で走りながら車が作られていく「自走生産」への取り組みでコスト半減、リサイクル材の使用でCo2排出削減にも貢献している。

また、水素自動車に関しては、まずは商用(欧米や中国などを対象)からたくさん使ってもらい、徐々に市販化を目指していくという話であった。

このように、トヨタ自動車はフルラインナップのカーボンニュートラル戦略を今も続けている。

豊田章男社長の「選ぶのは消費者だ」という言葉の通り、トヨタ自動車は消費者のニーズに合わせて選択肢を増やすことでいっそう、クルマの楽しさや可能性を広げている会社と言えるだろう。

まとめ

今回は、

 

  1. 世界的に「BEV離れ」が起きつつある。
  2. BEVのみでは、車のカーボンニュートラル実現は不可能に近い。
  3. トヨタは様々な視点からカーボンニュートラル実現に向けて取り組んでいる。

 

ということを中心にお伝えした。

確かに化石燃料は私たちの生活を豊かにしたし現代の生活には欠かせないものだが、同時に温室効果ガスの排出は加速の一途をたどってきた。地球はどんどん暖かく、弱くなっている。

是非みなさまご自身が将来性を感じられ、共感できる企業や取り組みに投資したり応援してたりしていただきたい。今後も右肩上がりのビジネス・トレンドには敏感にアンテナを張り続けるとよいだろう。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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