FG Free Report 為替が企業に与える影響〜トヨタ自動車の株価評価〜(12月11日号抜粋)

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長く続く円安の影響により、日常生活を送るうえで不便を感じている方は少なくないでしょう。輸入物価やエネルギー価格の上昇を引き起こす円安ですが、本来悪いことばかりではありません。

今回は、国内株式時価総額第1位のトヨタ自動車に焦点を当てて、為替変動と企業の株価との関係性について、プロのファンドマネージャーがお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

ドル高円安なのに…?正当に評価されないトヨタ株

(2023年12月11日プレミアムレポート発行当時)トヨタ自動車(7203)が、円高に合わせて売られている。敢えてファンダメンタルズの議論は抜きにして、為替の動きと株価の関係性について、私の考え方をお伝えしたい。

ずばり結論を先に言うと、円安は日本の輸出企業(今回の場合、トヨタ自動車)にとって有利になる。

理由は直感的にも非常に簡単。決算時に海外での販売分を日本円に換算すると、1ドル100円の円高時と比較して、1ドル150円の円安時では単純に1.5倍の日本円になるからその分売上が増える。それだけだ。

…そのはずであるが、一時期同社の株価はドル円相場の動きからは考えられないほど、おかしな動きをしていた。つまり、正当に評価されていないとしか考えられないような状況であったということだ。

早速、その様子を辿っていこう。

日本一の時価総額を誇るトヨタなのに…非論理的に割安な株価

下掲のチャートは、年初来の週足チャート※1だ。年初2300円台で始まった株価は、徐々に下値を切り下げて、なんと信じられないことに、3月24日には安値1764円をつけている。

そこに、赤い横線を3本引いてみた。これらは下から順番に、

下:2023年3月期決算が発表された5月時点でのBPS(一株当たり純資産)※2

真ん中:5月に発表された今期予想収益から見た概算のBPS

上:11月1日に修正された2024年3月期予想の数値から概算したBPS

となっている。

現状の会社側の予想に基づけば、それも為替見通しは現状141円なので、現在の為替水準でも充分に差益が計上される水準ではあるが、概ねBPSは2400前後だ。

株価=BPSならば、PBR※3が1倍、すなわち企業の株価がその企業の解散価値に等しいことを意味する。チャートを確認すると、2022年9月から2023年6月あたりまで週の高値さえ、一番下の赤線に一度も届いていない。

つまり、一時期同社の株はとても「非論理的」な水準で割安に放置されたことが分かる。

トヨタ自動車は、日本一の時価総額を誇る会社だ。米国テスラや中国BYDも頭が上がらないようなBEV(電気自動車)を開発し、屋台骨を揺るがすようなリコールも無ければ、工場停止や操業停止も無い。強いて言うならば、豊田章男社長から佐藤恒治さとうこうじ社長に世代変わりしたことで、先行き不透明感を抱いたという投資家がいるかも知れない。しかし、少なくとも株主総会での株主側の評価は真逆であったので、大きな評価ダウンには繋がらないはずだ。

上方修正の決算後も…なぜか株価は上がらない?

そんなトヨタ自動車が、2023年度第2四半期の決算を発表した11月1日には空前の上方修正を発表した。しかし、実はその後、殆ど株価は上昇していない。なぜ?と思ってしまう。

実際に、下掲の過去約5か月間の日足チャートで確認してほしいのだが、

(上方修正前)9月20日 最高値:2911.5円/ドル円相場:約148円

(上方修正後)11月13日 最高値:2817円/ドル円相場:最高値151.93円

となっている。

つまり、(最高値をつけた時に何もかも織り込んでいたというのでない限り、)この上方修正分も、その後の為替円安分も、株価は現時点で何も織込んでいないことになる。

ちなみに、先週末時点の配当利回りは、日経平均採用銘柄が2.03%、東証プライム全銘柄が2.31%だが、トヨタ自動車(7203)のそれはそれらを全て上回る2.42%、PER8.87倍※4、PBR1.13倍だ。ちなみにテスラ(TSLA)は、無配株なので配当利回りは0%、PERは60.66倍、PBRは17.26倍となっている。

この事実を見ると正直、「日本株式市場の値付けは歪んでいる」、或いは「まともに証券分析をしても意味が無いのでは」とさえ疑いそうになる。

このチャートには赤線を2本、

  • 今年2023年3月期の決算時点のBPSのライン(FY2022)
  • 来年2024年3月期決算時点で予想されるBPSのライン(FY2023)

を加えておいた。

重要なことは、トヨタ自動車が2024年度に赤字決算となって資本を取り崩すことにならない限り、BPSはFY2023の線を着実に上回っていくはずだということだ。その階段の上がり方は、今期ほど大きくはないとしても、現在見えている限りはステディになるであろうと予想できる。

仮に世界中が「電気自動車(BEV)」以外は一切販売してはいけないと、異口同音の考え方には染まったとしても、実はトヨタ自動車はBEVもこなしてしまえる力は持っている。寧ろ怪しげなのは欧米のメーカーであり、さらに違う意味で怪しげなのが中国製BEVだろう。

そのひとつの証左は、トヨタ自動車はハイブリット車(バッテリーもモーターも、BEVと同じように搭載している)でさえ、バッテリーが爆発したという実績が無いことだ。もしBEVしか駄目ということになった時は、電気自動車(BEV)は一旦遅らせるなり、開発・生産などを見送るなりして、ハイブリッド(HEV)や水素自動車の開発にシフトすることを決めた欧米勢の方が、再度ダッチロールする(=不安定になる)のは必定だ。

 

〜用語解説〜

※1週足チャートの見方については、SBI証券様の記事が参考になる。

※2BPS(Book-value Per Share)とは、「一株当たりの純資産」を表す。「純資産(総資産−負債)÷発行済み株式数」で求められ、この数値が高いほど、企業が安定していると言える。

※3PBR(Price Book-value Ratio)は、「株価純資産倍率」と訳され、「株価÷BPS」の計算式で求められる数値のこと。その企業の株価が割高か、割安かを測ることができる。先述の通り、株価=BPSならば、仮に企業が活動を停止して株主に資産を分配する場合、株価と同じ金額がそれぞれの株主に分配されるということになる。

※4PER(Price Earnings Ratio)とは、「株価収益率」と訳され、「株価÷1株当たりの純利益」で求められる。株価上昇への期待が高いほど、この数値も高くなる傾向にある。

まとめ

今回は、以下の要点で為替と株価の関係性についてお伝えした。

 

  1. 本来ならば円安は、日本の輸出企業(今回の場合、トヨタ自動車)にとって有利に働く。
  2. しかし、2022年9月から2023年6月あたりまで、トヨタ自動車の株はとても「非論理的」な水準で割安に放置された。さらに、2023年11月の決算後(上方修正後)に最高値151.93円を記録した時でさえも、株価の上昇は見られなかった
  3. つまり、為替や上方修正を市場が正当に織り込めていない、あるいは日本の株式市場の値付けそのものに歪みがあると言えるのではなかろうか。

 

機関投資家のアナリストたちが正しく評価しているのか、あるいはそもそもその評価を下すリテラシーを持っているのかすら怪しいと感じてしまうくらいには、トヨタの株価評価は低い。

とはいえ、やはりいつもお伝えしている通り、市場の動きに一喜一憂するべきではないということが今回の事例からもお分かりいただければ幸いだ。

投資家は、為替や企業のファンダメンタルズを正しく評価して、投資活動を行っていくべきである。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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ファンドガレージ 大島和隆

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