みなさんは、これからの時代に欠かせない「AIの種類」について、どの程度細かくご存じでしょうか。例えば、「弱いAIと強いAI」、あるいは「機械学習と深層学習」というような、普段よく目にする言葉の定義をしっかりと理解することが、失敗しない投資判断の第一歩です。本記事では、半導体関連銘柄を専門とするプロのファンドマネージャーが、投資をするうえで最低限知っておきたいAIの基礎知識について解説していきます。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
右肩上がりのビジネス・トレンド—AIの基礎知識—
Fund Garageプレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。
今回のFG Free Reportは、「AIの基礎知識」について解説していきたい。
他のバックナンバーでも、これまで「生成AIとの正しい付き合い方」について多く取り上げてきたが、今回は、「そもそもAIとは何か」ということや、「AIの種類と特徴」について詳しく掘り下げていく。
☟AI関連無料記事バックナンバー☟
- 『Generative AIとの正しい付き合い方(2月27日号抜粋)』
- 『生成AIが世界を牽引する(3月20日号抜粋)』
- 『Amazon.comとAWSの生成AIへの取り組み(4月17日号抜粋)』
- 『エヌビディアと生成AI(5月29日号抜粋)』
AI、それは新たな世界経済のリード役
ISM景気動向指数や米雇用統計、そして先週発表されたCPIやPPI、これらは全て「マクロデータ」と呼ばれるトップダウン・アプローチ(※1)に使われる数値だ。
そして、これらに市場は一喜一憂している。なぜならFOMCの金融政策変更が気になってしまうからだ。
しかし、近視眼的にみれば確かにアップダウンを繰り返している株価でも、「トップダウン・アプローチ」がもたらす「市場見通し」と必ずしも一致しているとは限らない。
つまり、きちんと値上がりし続けている銘柄もあるという意味だ。
ではどうすればその銘柄は見つけられるのか。
世界経済の新しいリード役にAI、クラウドコンピューティング、エッジコンピューティング、IoT、EV、ADAS、再生可能エネルギー、VR/ARなどといった新たな「テクノロジー(技術)の波」が来ている現在、専門的な知識をもって適切な分析・判断ができる人を見つけるのが手っ取り早い。だが、株式市場関係者の間でよく話題になるのは、経験豊富なアナリストの不足でもある。
その中で納得のいく投資をするにはどうすればよいのか。勿論経験豊富な数少ないアナリストを見つけるのも大事だが、自分自身の知識武装も必要だ。
基礎的な知識から徐々に積み上げ、また適切なワーディングとディフィニション(単語と定義)を確認しておかないと、大きな過ちも冒しかねないうえに、大きな投資チャンスを見逃すことにもなり得る。
※1…トップダウン・アプローチとは、投資判断を行う際、マクロデータを参考にして市場動向を確認し、個別銘柄を決めること。
反対に、企業分析から個別銘柄を選別することを、ボトムアップ・アプローチと言う。
2つのAI——「強いAI」と「弱いAI」
そもそもAI、すなわちArtificial Intelligence(人工知能)とは、機械が人間のように学習し、推論し、理解し、そして行動する能力を持つようにする技術のことを指す。
AIは、問題解決・パターン認識・学習能力・意思決定能力を機械に実装することを目指しており、大まかに2つのカテゴリーに分類することが出来る。
そのひとつが「弱いAI(ナローAI)」、もうひとつを「強いAI(汎用AI)」と呼ぶ。
〈弱いAI(ナローAI)〉
特定のタスクに焦点を当てたAI。その設計された特定のタスクでは人間と同等またはそれ以上のパフォーマンスを発揮する。非常に高度なタスクを達成することはできるが、その能力は特定の領域に限定されている。
たとえば、自動運転車のナビゲーションシステムや、音声認識機能を持つスマートスピーカーなどがこのカテゴリーに当たる。
〈強いAI(汎用AI)〉
強いAIは、自己意識・一般的な知識・自己学習・感情・意識・理解など、人間が持つ全ての知的能力を持つ(または超越する)人工的な知能と考えられている。
映画「ターミネーター」に登場する人類を襲うレベルにまで達したAIは、強いAIと言えるだろう。しかし、強いAIは現在のところ理論的な概念であり、その実現はまだ遠い未来のこととされているからご安心を。
では、今話題の生成AI(Generative AI)がどちらに分類されるかと言えば、一般的には「弱いAI」に分類される。なぜなら、生成AIは特定のタスク、具体的には新しいコンテンツを生成するタスクに特化しているからだ。
例えば、テキスト・画像・音楽・ビデオなどの生成がこれにあたる。
生成AIの中には非常に高度で複雑なモデルもあるが、それでもその機能は特定の範囲内に限定されている。
つまり、生成AIは自己意識を持つわけではなく、一般的な知識を理解し、学習し、適応する能力はない。
対照的に、「強いAI」は、理論的にはあらゆるタスクを人間と同等またはそれ以上のレベルで実行する能力があるとされているが、現時点では強いAIはまだ存在せず、科学者や研究者たちはこの目標に向けて研究を続けている。
AIの訓練フェーズ——機械学習と深層学習
みなさんは、「AIの訓練フェーズ」という表現を耳にされたことがあるだろうか。
AIが特定のタスクを実行するために必要な、事前に大量のデータを用いて学習モデルを構築するフェーズのことだ。
この訓練によって、AIは入力データから出力データを予測する方法を学ぶ。
そして訓練フェーズが終了したのち、テストデータを用いてその学習モデルの性能を評価することになる。
一般的に、この「AIの訓練フェーズ」には、機械学習(Machine Learning、ML)と深層学習(Deep Learning、DL)と呼ばれるものがあり、これによっても「AI」に求められるマシンスペックは異なってくる。
では、その機械学習と深層学習について、以下でそれぞれ説明しよう。
〈機械学習〉
「機械」(コンピューター)が自動で「学習」し、データの背景にあるルールやパターンを発見する方法のこと。時系列的な動きを予測するというタスクなどで昨今様々な分野で利用されている。
〈深層学習〉
機械学習の一種で、人間の脳のニューロンの動作を模倣した「ニューラルネットワーク」と呼ばれるモデルを利用するもの。機械学習よりも、複雑なパターンを学習することができる。
機械学習は、特徴抽出(データから重要な情報を見つけ出すこと)は別途手動で行う必要がある一方で、深層学習では、特徴抽出と分類まで同時に行うことができる。
また、深層学習は機械学習に比べて大量のデータと計算能力を必要とし、音声認識・画像認識・自然言語処理などの複雑なタスクにおいて、特に優れたパフォーマンスを発揮する。
つまり、機械学習と深層学習ではそれぞれ必要となるマシンスペックやハードウェアの要件が大きく異なる。
投資家の目線——マシンスペックとAI
単純な機械学習の場合、一般的なCPUやメモリ、ディスクスペースで十分な場合もあるが、大量のデータを扱う場合や、特に処理速度が重要な場合にはそうはいかない。高性能なCPU、可能ならばGPUが必要だ。これはGPUが並列計算に優れており、大量のパラメータを一度に調整できるからだ。
更に、深層学習において多層のニューラルネットワークを訓練するためには、数百万から数十億のパラメータを調整しながら学習を行う必要がある。そのため、深層学習では通常、更に高性能なGPUを用いる。
つまり、機械学習と深層学習では必要となるハードウェアのスペックが異なる。
さらに、AIには「短期記憶」と「長期記憶」があり、それぞれの概念はコンピュータのRAM(DRAMなど)とストレージと分けて考えると分かり易い。
RAMは一時的なデータストレージであり、AIの短期記憶に相当する。
一方で、長期記憶に相当するのは、永続的なデータ保存に使用されるストレージ(HDDやSSD)だ。学習モデルのパラメータや訓練データは通常、このストレージに保存される。
深層学習では特に、大量のパラメータとデータを扱うため、大容量のメモリとストレージが必要となる。
AIが発展していく以上、この分野の技術開発と製品の進化に対して投資をすることが、トレンドを掴んだ投資をする上での大前提となるだろう。
「AIチップ」の種類
AIに必要な技術・製品はこれだけではない。
AIは特定のタスクに特化して設計されており、その範囲は広範で、自動運転・音声認識・画像認識・自然言語処理・推奨システム・予測モデリングなどが含まれる。
そして、各タスクの特性に応じて必要とされる計算能力や、特定の半導体技術は異なってくる。
AIの処理の大部分は、大量のデータを効率的に処理できる高度な計算能力を必要とするので、専用のAIチップが開発され、既存の一般的なプロセッサーよりも高速で効率的な計算を可能にしている。
これらを纏めて「AIチップ」と呼んでしまいがちだが、あらためて、正しく細分化して捉えておこう。
タスクが違えばプロセッサーの種類も違い、それは当然「半導体メーカーの違い」に繋がるので、覚えておきたい。
〈GPU(Graphics Processing Unit)〉
画像処理に特化して設計されたGPUは、大量の並行処理能力を持ち、AIや機械学習の演算にも有効。AIの訓練フェーズでは、特に深層学習などの計算負荷の高いタスクでGPUが広く使用されている。
〈CPU(Central Processing Unit)〉
CPUは一般的なコンピューティングタスクを処理するが、特定のAIアプリケーションでも使用される。しかし、GPUや専用AIチップに比べて並列処理能力では劣る。
〈ASIC(Application Specific Integrated Circuit)〉
特定の用途に特化した集積回路。GoogleのTensor Processing Unit(TPU)は、AIと機械学習のタスクに特化したASICの一例で、効率的なテンソル演算と高速な線形代数処理を可能にしている。Amazon Web Services (AWS) が独自開発したInferentiaという名前もTPUと同様にASICと呼ぶことは可能だが、その設計はTPUとは異なり、一部はFPGAに類似している。
〈FPGA(Field Programmable Gate Array)〉
プログラム可能な集積回路で、特定のAIアプリケーションに最適化できる。FPGAはプログラム可能な特性を活かし、特定のアルゴリズムに対する効率的な実装を可能にする。
これらの半導体デバイスは、AIの演算能力の鍵を握っている。
データセンタでの大量のAI計算から、エッジデバイス(スマートフォンやIoTデバイスなど)でのリアルタイムのAI処理まで、特定のデバイスやアプリケーションに最適な半導体が選択される。
ぜひ、今後の投資判断の参考にしていただきたい。
まとめ
今回は、これからの投資に欠かせないAI分野について以下の項目を中心に解説した。
- AI、クラウドコンピューティング、エッジコンピューティング、IoT、EV、ADAS、再生可能エネルギー、VR/ARなどといったテクノロジー技術は、今後の世界経済を動かす存在になるだろう。
- AI(Artificial Intelligence、人工知能)とは、機械が人間のように学習・推論・理解・行動する能力を持つようにする技術のことを指す。
- 「弱いAI」とは、特定のタスクにおいて人間と同等またはそれ以上のパフォーマンスを発揮するAIである。生成AIが代表例。
- 「強いAI」とは、理論的にはあらゆるタスクを人間と同等またはそれ以上のレベルで実行する能力があるとされているが、現時点ではまだ存在しない。
- AIが特定のタスクを実行するため、事前に大量のデータを用いて学習モデルを構築することを「AIの訓練フェーズ」と呼び、これには「機械学習」と「深層学習」がある。
- 「機械学習」では、データを入力し、アルゴリズムがパターンや構造を抽出したものに基づいて予測を行う。
- 「深層学習」は、機械学習の一種で、人間の脳のニューロンの動作を模倣した「ニューラルネットワーク」と呼ばれるモデルを利用するもの。
- 機械学習と深層学習ではそれぞれ必要となるマシンスペックやハードウェアの要件が大きく異なる。
私は特別な情報ソースや、特殊な数理モデルを駆使しているわけではない。ただ、多分普通の人よりはちょっとオタクな傾向があり、研究熱心なところがあるという程度だ。
また昔からそうだが、「知らないもの」には手を出さない。勿論、既知のものだけに頼っているのではなく、常に知的好奇心を以って、いろいろと新しい知識は常に仕入れようとしている。
そして、新たな知識を取り入れる際は、正しい一次情報を手に入れ、基礎的なものから徐々に積み上げていく(言葉の定義を曖昧にしない)ことが最も重要だ。
AI分野がこれからの経済の主導権を握るようになるのは、確実だ。なので、地道に正しい投資活動を継続すれば、必ず実を結ぶ時が来るだろう。
★★★今回の記事をご覧になったあと、下記の無料記事をお読みいただくと、さらに知識のブラッシュアップになります。ぜひご活用ください。★★★
- 『Generative AIとの正しい付き合い方(2月27日号抜粋)』…生成AI関連の半導体分野の株価は上昇傾向にある。また、デジタルデバイドも問題になりつつある。
- 『生成AIが世界を牽引する(3月20日号抜粋)』…生成AIの台頭で、それ自体を動かすのに必要なハード面が半導体市場の先頭を走っている。IGF2023が10月に京都で開催された。
- 『Amazon.comとAWSの生成AIへの取り組み(4月17日号抜粋)』…クラウド・サービスとは?両社が取り組む新しいAIインフラについて解説。
- 『エヌビディアと生成AI(5月29日号抜粋)』…同社は2024年度第1四半期の決算で、市場コンセンサスを5割以上も上回る今期予想を発表した。これまで「GPU」が主力だったエヌビディアは、今では「AI」や「アクセラレーティッド・コンピューティング」の分野で大幅な成長を見せている。
- 『多種多様な半導体の世界(7月3日号抜粋)』…ひとくちに「半導体関連銘柄」と言ってもさまざまある。これからのAI時代に向け、GPUのみならずもっと多種多様な半導体が必要になり、目をつけるべき企業も増えていくだろう。
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