FG Free Report エヌビディアと生成AI(5月29日号抜粋)

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GPUを主力とすることでおなじみの、エヌビディア(NVDIA)。ところが、この数年で「生成AIとアクセラレーティッド・コンピューティング」分野で、その売り上げを大幅に伸ばしているようです。今回は、世界の半導体業界が一斉に注目しているエヌビディアのAI事業について、プロのファンドマネージャーがお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——エヌビディアにみるAIの躍進

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、「エヌビディアとAI市場」について解説していきたい。

最近は株式市場も、「AI」とりわけ「Generative  AI(生成AI)」の周りで何が起きているのか、何がどう動いているのか、という諸々のリアルに気がつき始めたようだ。

そのきかっけとなったのが、エヌビディア(NVDA)の2024年度第1四半期(2月~4月)の決算発表だ。その内容は、「凄まじい」のひと言だった。

ジャンセンCEO率いるチームは見事な結果を残し、この上ないガイダンスを発表してくれた。(次項にて詳しく説明。)

その結果を受け、引け後取引でひとまず2割以上株価は上昇したが、結局翌日の本市場取引でも、終値305.38ドルから+74.42ドル高(+24.37%)の急騰を演じて市場の悲観論を払拭した。更に、その翌日も売り戻されることなく+2.54%の上昇を演じたことは喝采に値する。

さらに、日本市場でもエヌビディアの決算発表を受けて「エヌビディア関連銘柄」と称するものが大幅高を演じ、日経平均株価は上昇した。

エヌビディア(NVDA)決算が示すこと

一番市場が興奮したのは、Q2のアウトルックだ。市場コンセンサスの71億ドルに対して会社側予想は110億ドル。市場コンセンサスを5割以上も上回る今期予想を発表した。

決算会見内では、名だたるウォール街の投資銀行の看板役者のアナリスト達が質問をしていた。Jansen CEOの回答は、常に何かを教える感じのものであり、アナリスト達も「なるほど」と説得されている印象を受けた。彼らにとって、まさに、目から鱗が落ちるような新しい情報に溢れていたのだろう。

メディアがエヌビディアを紹介する時、必ずと言って良いほど枕詞として使われるのは、「画像処理半導体のエヌビディア」や、「仮想通貨マイニングの為のGPUを作るエヌビディア」である

しかし、これからは「AIの」とか、「アクセラレーテッド・コンピューティングの」という枕詞が使われるようになるだろう。

その根拠として、エヌビディアの四半期毎のセグメント別収益の推移を示した下記のチャートをご覧いただきたい。

(左に行くほど最新、右に行くほど古いという米国的なチャートなので注意してほしい。)

「画像処理半導体メーカー」としてのエヌビディアの収益動向の変遷は、グレーの棒が示している。

一方で、「AIもしくはアクセラレーテッド・コンピューティング」のエヌビディアとしての収益を、オレンジ色の棒が示している。

一目瞭然、非常に興味深い結果ではないだろうか。

さらに、このデータセンター・セグメント(オレンジ色の棒)の今後数四半期の需要は、コンピューティングの技術動向と業界の動向の両方からその確実性が見えている、とエヌビディアは説明し切った。そして、決してそれが「気合と根性で達成します!」という努力目標的なものでは無いことも、今回の決算発表で明らかになった。

生成AIに不可欠な、「アクセラレーテッド・コンピューティング」とは?

加えて、今回の決算発表でジャンセンCEOが時間をかけて説明したのが、「アクセラレーテッド・コンピューティング」である。この分野は、恐らく正しく理解しているアナリストや投資家が少ないだろうと推察できる一方で、それが大きな時代の流れになっていると指摘された。

この「アクセラレーテッド・コンピューティング」というものを先ず理解することが、昨今のデータセンター(サーバーを設置するためだけの建物)のニーズを理解するための役に立つ。さらに、今後のハイテク関連の投資判断のためにも是非ともきちんとご理解いただきたいポイントだ。

では、「アクセラレーテッド・コンピューティング」とは何かを分かり易いように説明しよう。

「アクセラレーテッド・コンピューティング」とは、専用ハードウェアを使ってタスクを並行処理することで、作業速度・効率を上げることである

生成AIを動かすには大量の複雑な計算が必要で、これまでのCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)だけでは処理できなくなってしまった。

そこで、助けてくれるのが「アクサラレーテッド・コンピューティング」なのだ。

CPUが抱えきれない演算の部分を取り出し、それを外部装置つまりGPUGraphics Processing Unit、画像処理装置)やFPGA(Field Programmable Gate Arry、即座にまたは後からでも書き換え可能な集積回路)に、「処理をよろしく頼む!」と明け渡すことで、高速処理が可能となる。

 

さらにせっかくなので、今回のトピックに合わせ、生成AI(ChatGPT)に「たとえ話」ベースで、アクセラレーティッド・コンピューティングについて説明してもらった。(英語での回答を、筆者が日本語訳。)

 

「あなたは大きな工場のマネージャーであると想像してみましょう。工場ではさまざまな製品が生産されており、それぞれに異なるスキルや設備が必要です。ほとんどの従業員があらゆるタスクを処理出来ますが、特定の仕事で凄く速いかも知れないし、最も効率的な作業ではない可能性もあります。これらの一般的な従業員こそ、コンピュータの従来型の中央処理装置 (CPU) を表し、あらゆる種類の計算が処理出来ますが、特定のタスクでは最速ではない場合があります。

さて、あなたの工場が特定の製品について大量の注文を受けたとします。一般の従業員がこの注文を自分で完了するには長い時間がかかる可能性があります。そこで、あなたは、この特定の製品を作るのに非常に優れ、迅速に取り組む専門の従業員「スペシャリスト・ワーカー」を何人か雇うことにしました。その「スペシャリスト・ワーカー」の一例が、特定の種類の計算を迅速かつ効率的に処理することに優れた従業員、例えばGPUなどであり、これがアクセラレータ(加速器)の典型例のひとつです。

コンピューティングのコンテキストでは、これらの「スペシャリスト・ワーカー」や「アクセラレータ」は、GPU、FPGA、または特定用途向け集積回路 (ASIC) の役に置き換わることができます。彼らは特定の種類のタスクに非常に優れているように設計されています。たとえば、GPU は、グラフィックスのレンダリングや機械学習計算の実行など、多くの小さなタスクに分割して同時に処理できるタスクの処理に優れています。

要約すると、アクセラレーテッド・コンピューティングは工場に専門「スペシャリスト・ワーカー」を配置するようなものです。それは、仕事に適したツール (またはワーカー) を使用して、物事をより迅速かつ効率的に実行することです。」

 

…何となくイメージが掴めただろうか。

エヌビディアがなぜ、生成AIの世界で強いのか?

これまで述べてきたように、Generative AIの時代になってから、「アクセラレーテッド・コンピューティング」が大きなニーズとなった。

その結果、従来はデータセンターの中にコンピューター(サーバー)があり、ストレージがあり、ネットワークがあるというイメージだったが、データセンター自体がひとつのコンピューターとして働く時代へと変わってきている。イメージとしては、パソコンのケースが、データセンターに置き換わった(巨大化した)という感じだろう。

ネットワークと言えば、インターネットやLANで日常的に使われている「Ethernet (イーサーネット)」は有名だが、Jansen CEOが説明のために持ち出した例は「The InfiniBand(インフィニバンド)」というものだ。

InfiniBandとは、スーパーコンピューターなどでよく使用される高性能ネットワークテクノロジーで、低レイテンシ (最小限の遅延) と高いデータ転送速度で知られている。デバイスのプロセッサを介さずに、異なるデバイスのメモリ間でデータを移動することが可能である。ただInfiniBand は、Ethernetよりも導入と管理が複雑でコストがかかる可能性は否めない。

つまり、アクセラレーテッド・コンピューティングが故に、データセンターがひとつのコンピューターとして存在するなら、その中の数万個にもなるCPUやGPU、FPGAという「スペシャリスト・ワーカー」達はEthernetよりもInfiniBandで繋がる方が良い場合がある。そして、そのトップティアであったメラノックス社を買収したのが、まぎれもないエヌビディアだった。

そしてまた、ジャンセンCEOの説明によれば、「アクセラレーテッド・コンピューティング」で重要になるのは「フルスタック(full-stack)」だそうだ。

「フルスタック」とは、複数の技術分野において、知識・スキルに深い理解があることを意味する。 つまり、複数のIT分野に精通しており、複数の開発工程を一人で担当できるマルチなエンジニアのことだ。

CPU、GPU、ネットワーク、ストレージなどを複合的に理解して開発できる強みを、エヌビディアは営々と築き上げてきた。当初から、或いはGPGPU(GPUの本来の演算機能である画像処理以外の用途に転用すること)という概念を言い出した頃から将来を見据えて手を打ってきたことが、ここに来て実を結び始めている。

以上が、なぜNVDIAがAI分野に強いのかという問いの答えだ。

まとめ

今回は、エヌビディアの決算結果を例にとり、以下の内容を中心に考察した。

 

  1. エヌビディア(NVDA)の2024年度第1四半期(2月~4月)の決算発表は、今後の生成AI市場にとって大きな意味のあるものであった。
  2. これまで「GPU」が主力だったエヌビディアは、今では「AI」や「アクセラレーティッド・コンピューティング」の分野で大幅な成長を見せている。
  3. 「アクセラレーテッド・コンピューティング」とは、専用ハードウェアを使ってタスクを並行処理することにより、作業速度・効率を上げること、生成AIの拡大のためには必要不可欠である。
  4. エヌビディアは、「アクセラレーティッド・コンピューティング」にいち早く注目し、CPU・GPU・FGPAなどを複合的に開発してきているため、今後の生成AIの時代を生き抜く強さがあると言える。

 

エヌビディアのジャンセンCEOは何度も、“AI is just the beginning(AIは始まったばかり)”と繰り返している。

そして、その目指す方向性が「アクセラレーテッド・コンピューティング」であり、この業界は新たな大波の中へ舟をこぎ出した段階と見るのが正解だろうと私は考える。

ではなぜ、Generative AI(生成AI)がそんなに加速する可能性があると思えるかと言えば、それは自ら日常的にChatGPTを使っている経験からの勘、というのは偽らざる実感でもある。

今回も、前項で「アクセラレーテッド・コンピューティング」のたとえ話の説明原案をChatGPTに考えてもらった。便利なお助けツールとして、重宝している。

さらに、以前、エヌビディアとAMDのAI戦略の違いについて、ChatGPTと議論してみたこともある。議論というよりは、寧ろ単に教えられていたとも言えるのだが。

もちろん、内容によってはAIが幻覚を見ることは分かっているので、クリティカルな話題の時には必ず裏を取るが、こういう話題の相談相手は今までいなかったと言っても良いだろう。(ただ問題のひとつは2021年9月までの情報しかないことだ。だからものの考え方などを確認する時に私は常に最近は重宝している。)

でもきっと、こうしてAIが日進月歩で学び続けるように、いくつになっても人間もラーニングするのだろう。それをしないでいては、これからの未来予測(投資判断)は不可能なのだから。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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