今、半導体業界で起きていること:AMDのザイリンクス買収、さよならインテルなど (Part-1)

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AMD、ザイリンクスを3兆6000億円で買収 株式交換で

噂通り、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)がザイリンクス(XLNX)を買収すると正式に発表した。株式交換による買収額は350億ドル(約3兆6000億円)に及ぶ。日経新聞報道を引用すれば「中長期で成長が見込めるデータセンターや通信分野の事業基盤を強化し、インテル(INTC)やエヌビディア(NVDA)に対抗する。」とその背景理由が説明されているが、この説明だけでAMDがなぜ350億ドルの合併に踏切、なぜザイリンクスがそれを受けたのかを充分に理解出来た人は少ないのでは無いか?またそもそもAMDやザイリンクスが何をしている(どういう種類の半導体を作っている)会社なのかをご存知の方も少ないのでは無いか。本稿ではその辺りも含めて「今、半導体業界を取り巻く環境で何が起きているのか」を詳らかにしたい。きっとそれが欧州で感染拡大が再び始まり、どうやら長引きそうな新型コロナウイルス・COVID-19との戦いの中で、適切な投資リターンを上げていく近道になると思っている。

半導体ってそもそも何ですか?

ザイリンクスが取り扱っているFPGAについては、9月25日にアップした「FPGA(ザイリンクスなど)がこの先こそ必要な簡単な理由」で概ね説明したつもりでいるが、いつも簡単にひと言で括られてしまう「半導体」と呼ばれるものに、どんな種類があって、どんな役割や機能の違いがあるのかを理解しておかないと、恐らくこの先の業界動向や業界地図を正しく理解して投資に活かすことは出来なくなるだろうと思われれる。

「半導体、半導体」と市場関係者は簡単に言うが、「半導体」という単語自体には「物質には電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」とがあり、その中間の性質を備えた物質」という意味しかない。だから更にその「関連」とまで拡げると、その範囲は限りなく広くなることになる。なぜ誰も不思議に思わないのかと思ってしまうが、そもそも株式市場には「景気敏感株」などと呼ぶ曖昧な表現、具体的に何を指しているのかが受け手によって異なる表現は沢山ある。あたかも「阿吽の呼吸」で分かったつもりで聞いてください言っているようなものだ。その一例として、恐らく、最近は照明にも使われることが多くなったLEDが半導体の一種だという事を知っている人はそう多くは居ないだろうと思う。

だからここではこう定義をしておこう。一般に株式市場で「半導体」と呼んでいるものは、シリコン(ケイ素:Si)の単結晶を薄くスライスした薄い円盤の上に、色々な方法で電気回路を作り込んだ、ICとか、トランジスタなど「半導体素子」と呼ばれるものを指しているとすると。「半導体」としては、他にも炭素(カーボン)やゲルマニウムなどもあり、用途によってもっと幅広いものを定義しないとならないが、本稿では的を絞っていくために「シリコンウェハの上に電気回路を作り込んだもの」を「半導体」と呼ばせて貰う。

半導体にはどんな種類がありますか?論理回路と記憶回路

「シリコンウェハの上に電気回路を作り込んだもの」を「半導体」とここでは定義したとしても、実はまだここから更に本来は色々な種類に分けることが出来、その用途によって作り方さえも違ってきたりする。

代表的なところで、半導体には「論理回路」と呼ばれるものと「記憶回路」と呼ばれるものがある。前者の代表的な製品がCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)と呼ばれるものだ。たぶん、これは寧ろ「インテル入ってる」という宣伝で有名になった、インテルの「ペンティアム」とか、「Corei7」とか言った方がピンと来る人が多いかも知れない。要はコンピューターがコンピューターたる所以となる「考える頭脳」の部分がCPUだ。

後者はかつて日の丸半導体とも呼ばれ、日本の殆どの総合電機メーカーの独壇場ともなった記憶回路であるメモリー半導体を指す。恐らくそれも「DRAM」と呼ばれるものが多いだろう。これは揮発性メモリーとも呼ばれ、コンピューターのスイッチを切ると、自動的に蓄えていた記憶も忘れてしまう記憶回路だ。

パソコンがWinows95ないしWindows98で大衆化した頃(90年代後期)、パソコンはCPUであるペンティアムがものを考え、モノを考える時に一時的に資料を拡げて置く机とよく喩えられるメモリー(これがDRAM)、そしてデータを保存する場所として後にハードディスク・ドライブに変わったフロッピーディスクが機能を主に左右していた。だから当時は、「CPUは何を使っているの?」とペンティアムの型番号や速度を競い合ったり、「メモリー(DRAM)の容量はどの位?」と聞いたりしてマニアはその性能を競い合ったものだ。

論理回路と記憶回路の流れが動き出す

逆に言えば、昔は「論理回路」はCPU、「記憶回路」はDRAMのことだけを勉強していれば事足りたし、他の半導体製品は企業の屋台骨に関わるような大きなビジネスにはなかなか育たなかった。

余談だが、日の丸半導体のDRAM産業が華やかだった頃、第一次湾岸戦争があり、「スカッドミサイル」と呼ばれるミサイルを米軍などが使った。暗闇の中をミサイルが一斉に発射されるCNNの映像を見ながら、某総合電機の人が「これでDRAMの古い在庫がはけるから、また儲かるなと思ったんですよ」と得意満面で言うのを聞いて「二度とこのメーカーの株は買わない」などと思ったものだ。

話は戻って、あれからコンピューターの著しい性能向上あり、インターネットの普及があり、モバイル通信の普及があり、それぞれが相乗効果を持ちながら飛躍的に進歩したことにより「デジタル革命」などと呼ばれた流れが起きた。そして今また新しい右肩上がりのビジネス・トレンドが始まっている。その結果、いや原因なのかも知れないが、「論理回路」にも、「記憶回路」にも、それまでには必要性もあまり無かったものが、どんどん主役のポジションに浮上してきている。代表的な例で言えば、「論理回路」として「GPU」や「ASIC」或いは「FPGA」があり、「記憶回路」には「Flush Memory」やインテルとマイクロンテクノロジーが開発した次世代メモリーの主役とも期待される「3D XPoint」と呼ばれる新しい半導体製品含まれる。

今回の合併の背景にあるのは、これら半導体の中で「論理回路」と呼ばれる半導体の技術革新だ。なので、「記憶回路(メモリー)」の話はまた機会をあらるとして、今回は「論理回路」に絞っていこう。

「論理回路」にはどんな種類があるの?

10年に遡らずとも、「論理回路」のことと言えば、パソコンやサーバーのCPUの事が語れれば充分だった。つまりそれはインテルの製品のことだ。パソコン用が「Corei」シリーズ、「ペンティアム」シリーズ、そして「Celeron」シリーズで、サーバー用に「XEON」ぐらいを知っていれば充分だった。当時、AMDはインテルの陰に隠れて見えないような存在だった。

だが、この頃から秘かに始まっていた「論理回路」半導体の地殻変動は段々大きくなってくる。それがスマホやタブレットの登場だ。2008年に初めてiPhoneがデビューしてから、パソコンの牙城は見事なまでに崩れ始め、スマホやタブレットに侵食されていった。浸食というとどうしても「パイの食い合い」のゼロサムゲームのイメージが強いが、実はこれが「論理回路」と呼ばれる半導体のパイ自体を大きくした。何故なら、スマホで全てが事足りる人も居るのは事実だが、多くはパソコンの他に、スマホやタブレットを持つようになったからだ。

私は「オタク」と呼ばれる方だから仕方ないが、デスクトップ型パソコン、ノート型パソコン、スマホ(iPhone)、タブレット(iPad)は業務上でも、プライベートな生活面でも必需品だ。私はゲームはするが、片時も手放さずにスマホでゲームをするタイプでは無い。ただ映画を観たり、音楽を聴いたり、読書をしたり、新聞を読んだりと言ったものが普通に生活時間の多くの局面で繋がるようになった。例えば混んだ通勤電車の中では嵩張らないiPhoneで日経新聞を読み、会社に着いたらモニターが大きいデスクトップパソコンで続きを読む。帰りの電車で座れれば、画面の大きなタブレットで映画観たり、読書をしながら帰るという使い方だ。一日の生活時間の中で、シームレスにこれらを使わないとならない。

そんな流れの中で、インテルはスマホのCPUでは牙城を築くどころか、碌な橋頭保も築けなかった。スマホにはどうしても低消費電力のCPUが求められるからだ。インテルの作るCPUは消費電力が大きい。

一方で、半導体の製造技術の進歩は著しく、より処理能力が高く、高速で低消費電力の半導体を作れるようになった。またユーザーがパソコンをオフィスの仕事道具以外として、つまりオフタイムのエンターテイメントの道具として使うようになる流れが、画像処理を専門としたGPU(Grafic Processor Unit)の台頭を許した。ハリウッド映画でCGが多用されるようになったのも背景は同じものがある。そもそもリアリティの高い映像表現、所謂CG映像を作ったり、描画をするには特殊な演算能力(浮動小数点演算)が要求される。これに特化してきたのがGPUだ。CPUみたいに何でも出来る文武両道のお利口さんでは必ずしもないが、絵を描かせたら天下一品、CPUの能力など敵ではないと言える。こうしたニーズの高まりと共に、GPUはGPGPUコンピューティングなどと呼ばれながら、「論理回路」と呼ばれる半導体のメインストリームに浮上してきた。仮想通貨のマイニング用途がひとつの例であり、今はAIに関してはGPU抜きでは語れない。自動運転のシミュレーションなどでも、エヌビディアのGPUが大活躍だ。

そうした人の目に振れやすい作業や機能を提供するCPUやGPUだけではなく、隠れた縁の下の力餅的な存在の「論理回路」も忘れてはならない。どんな用途かと言えば、例えば自動車用のADAS用途だ。例えば、前の車との車間距離を測って追従したり、急ブレーキを踏んでもタイヤがロックしないように制御出来るクルマは、この20年程度で相当に車種も増え、一部の超高級車の専売特許的な機能では無くなった。実はこれも各種センサーから入力されるデータを集めて「瞬間だけ、ブレーキを緩めよう」などと考える専門家(論理回路)がクルマに同乗しているのと同じようなものだ。

だが彼は残念ながら、最初に決められたことしか出来ない。ブレーキは制御するが、ハンドル制御には使えない。そして何より、産まれた時から死ぬ時まで、機能を強化したり、拡大したりすることが出来ない。そうした特定用途に絞って作られたのがASICと呼ばれる「論理回路」だ。代表的なADASでレーザー光線を使って先行車との距離と相対速度を秤にかけ、もう少し加速するとか、減速するとかを制御することは出来るが、数年後に新機能追加として車線の逸脱管理を制御させるなどは出来ない。製造段階で最初に決められたお役目しか果たせないのがASICだ。

しかし昨今、ご存知の通り、クルマの機能は日進月歩を加速させている。高齢化社会が進んで、可能な限りクルマがドライバーをサポートして、なるたけ安全にクルマが走れるようにする機能へのニーズは、高まることはあっても後戻りすることは無い。ただ以前お話したかと思うが、クルマの平均使用年数(新車登録から廃車登録まで)が13.4年にもなってくると、途中でより良い運転アシスト機能が付加される場合は想定上に、新しい安全装置を使うためにクルマを買い替えるという本末転倒な事態がおこりつつある。その為、製品として一旦は完成した後にも、数年後にプログラムを変更することが出来る論理回路が求められるようになってきた。

実はこれがFPGA(Field Programable Grid Array)と呼ばれるザイリンクスとインテルが作っている半導体だ。

ここまでを整理すると、「論理回路」と呼ばれる半導体の種類は大きく分けて4種類あることが分かった。

  1. CPU———–文武両道で仕事が出来る優等生
  2. GPU———–絵を描くための特殊な能力に長けていることから、技術進歩と共に応用用途がどんどん広がっている
  3. ASIC———-特定の用途のためだけに不要な部分はそぎ落とした、でも特定の用途には素晴らしく優秀で、しかも安い。
  4. FPGA———ASICの親戚のような存在だが、途中で世の中の進歩に合わせてプログラムを書き換えることが出来る。

時代のニーズに合わせて、論理回路半導体企業の合併がはじまった

今回、上記の論理回路の中で、CPUとGPUを設計開発してインテルを窮地に追い込んだAMDが、FPGAのザイリンクスを買収することとした。勘所のある人は、その背景事由を直ぐに思いつくだろうが、CPUとDRAMの区別程度だけで投資環境を捉えてきた人には、ここから先のことは、ちんぷんかんになるかも知れない。つまり製品を評価出来ないという事だ。そして企業は単に「安い売り物」になっているという理由だけで、異業種のM&Aや企業を買ったりはしない。そこにはちゃんとビジネスモデルの発展・躍進のための理由がある。それを理解すれば、インテルが今後どうなるのかとか、今後の半導体業界は世の中の流れの中でどんな業界絵面となるのか、すなわち投資機会はどこにあるのかも見えて来るだろう。

次回(Part-2)から徐々に核心に踏み込んでいこうと思う。乞うご期待。

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ファンドガレージ 大島和隆

Fund Garageへようこそ。主宰の大島和隆です。投資で納得がいく成果を得る最良の方法は、自分自身である程度「中身の評価」や「モノの良し悪し」を判断が出来るところから始めることです。その為にも、まず身近なところから始めましょう。投資で勝つには「急がば回れ」です。Fund Garageはその為に、私の経験に基づいて、ご自身の知見の活かし方などもお伝えしていきます。