今、半導体業界で起きていること:AMDのザイリンクス買収、さよならインテルなど (Part-2)

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「半導体関連株」などと簡単に呼ぶが、肝心な「半導体」についての知識が”貧弱”な市場関係者は案外多い。取り分け、最近は「半導体」をまとめて十把一絡げに括ってしまうのはかなり無理がある。もうインテルのCPUとDRAMメモリーだけの時代では無くなって久しいのだから。投資機会を自分で見つけるためにも、ご自身の知識の整理に役立てばと、まとめたPart-2をお届けする。

「論理回路」と呼ばれる半導体の種類は大きく分けて4種類

前回、半導体と呼ばれるものには「論理回路」と「記憶回路」という大きな分類があり、その中に更に4種類のものがあることをお伝えした。より細かく分けることも出来るし、より広範に捉えて種類を増やして細かく分類することも可能だが、エンジニアではない普通の投資家が知っておくべきはこの4種類程度だろう。列挙すると下記の通りだ。

  1. CPU———–文武両道で仕事が出来る優等生
  2. GPU———–絵を描くための特殊な能力に長けていることから、技術進歩と共に応用用途がどんどん広がっている成長株
  3. ASIC———-特定の用途のためだけに不要な部分はそぎ落とした、でも特定の用途には素晴らしく優秀で、しかも安いコスパの良いやつ。
  4. FPGA———ASICの親戚のような存在だが、途中で世の中の進歩に合わせてプログラムを書き換えることが出来る、これからの主役か。

実は世界広しと雖も、今これらの半導体を設計開発している企業の数は、「3.ASIC」を除いて、実に数は少ない。

「論理回路」半導体を作っている企業はどこだ?

1. CPUに関して

以前は多くの会社が作っていたが、パソコンやサーバー向けでは現在実質的にインテルとAMDの寡占状態となっている。それだけ、CPUの技術進歩、端的な表現で言えば「ムーアの法則」(下記※注釈)に追随するのが大変だったということだ。この2社以外は結果的に皆競争から脱落した。

※インテルの創業者のひとりゴードン・ムーアが1965年に自らの論文上に示した「半導体の集積密度は18か月から24か月で倍増する」という経験則のこと

ただ「スマホ用」のCPUの成長過程の方から眺めてみると、またかなり違った絵面が見えてくる。

今スマホのCPUと言えば、AndroidOS用では「Snapdragon」と呼ばれるARM社のアーキテクチャーを使ったクアルコム社製のCPUが主流であり、iPhone12では「Apple A14 Bionic」と呼ばれる、やはりARMアーキテクチャーでアップルが開発したCPUが使われている。またAmazonやGoogleは自前のサーバー用CPUを開発しているが、これも省電力化の為にARMアーキテクチャーを使っている。そして、アップルは既発表の通り、来年からパソコンのMACシリーズのCPUを再び自社製のCPUへと戻す。それは今回のiPhone12に搭載した「Apple A14 Bionic」からの延長線上の技術経路だと言われている。

因みに、スーパーコンピューターの「富岳」は富士通が開発したARMアーキテクチャー・ベースのCPU、つまりスマホの流れを汲む「A64FX」を15万個繋げて使っている。

お分かりだろうか。要するに、CPUの世界には、x86(エックスはちろく)と呼ばれるインテル・アーキテクチャーの流れと、スマホなど省電力であることが当初要求されたARM・アーキテクチャーの流れがあるということだ。

更にもう少し詰めると、現在これらの半導体回路を設計開発から、シリコンウェハの上に何らかの方法で加工して作り上げるのを自社で一貫して行っている企業は、実にインテルぐらいなものだ。あとは皆、設計開発以降はTSMC(台湾積体電路製造)などの専門の製造請負い会社(ファンダリー)に作らせている。

2. GPUに関して

実はGPUもCPU同様に現状は2社しか作っていない。エヌビディア(NVDA)とアドバンスド・マイクロ・デバイス(AMD)の2社だけだ。エヌビディアはGPUの会社としてスタートし、今でもGPUの専業メーカーだ。一方、AMDはCPUの専業メーカーとしてスタートしながらも、2006年にカナダのGPUメーカーでるATIを買収して今日に至る二枚腰だ。商品名はエヌビディアが「GeForce」であり、AMDが「Radeon」だ。

だがちょうどこの原稿を書いている途中に、最近噂されていたことが正式なアナウンスメントとして発表され、遂に形式上はインテルもGPUメーカーの一角にその名を連ねるようになった。ちょうど本稿のアイキャッチ画像となっているそれが製品だが、薄型ノートブック専用のGPUとして発表された。デスクトップ用、或いはサーバー用のGPUはまだ作り始めていない。

エヌビディアやAMDのGPUはGPU単体として独自に発展してきた。だがインテルが発表したものは、基本的にはCPU内蔵のGPU回路部分を切り出して、少しチューナップしたもの。また同社のCPUとの連携策を様々凝らしたことが特徴と言える。(後述に続く)

3. ASICに関して

ASICは比較的あちらこちらの会社が作っている。それは特定用途に特化した命令セットなどの部分だけを、記憶回路の中から切り出して作るようなものなので、沢山の機能は要らないから逆に作れるとも言える。更に言えば、汎用性のあるものでは無いので、余程の事が無い限りは表舞台で日の目を見ることは無い。ただ身近な具体例として、次期XBOXやPlaystation5のCPUはAMDが専用開発したASICがあげられる。ゲーム機専用の半導体だ。ASICには不要な部分が無いため、消費電力が低いとか、実装面積が小さくて済むなどの利点が多々あり、多くのものに使われている。クルマの搭載量も多い。

最大の欠点は、完成後に開発時のプログラムミスを発見した場合はそれを修正することが出来ないという点だ。

4. FPGAに関して

ASICの最大の欠点である、完成後に内部プログラムにプログラムミスやバグを発見しても修繕は不可能という部分に対応したのがFPGAだ。FPGAとは、「Field Programmable Grid Array」の略だが、要はあとからでも半導体内部のプログラムを改善することが出来るという代物だ。

このFPGAを提供している会社が、ザイリンクス(XLNX)とインテル(INTC)だ。ザイリンクスはそもそもFPGAメーカーであったが、インテルが2016年にaltera社を買収したので、今ではザイリンクスとインテルの2社ということになった。インテル製FPGAの生産はそれ以前と変わりなく、今でもTSMCが生産している。

各社が製造している「論理回路」をメーカー別に製品を纏めてみよう。

  1. インテル        : CPU、FPGA。NANDフラッシュメモリー事業はSKハイニックスに売却してNANDビジネスからは撤退。
  2. AMD             : CPU、GPU。もしザイリンクスとの合併が承認されれば、これにFPGAが加わる。またASICも製造している。
  3. エヌビディア  : GPU
  4. ザイリンクス : FPGA、ASIC
  5. クアルコム    :  スマホ用CPU
  6. アップル        : スマホ用CPU、来年から2月頃からパソコンMACシリーズ用のCPU

 

既にお気付きの通り、全てを作っている会社は無い。また実はこの中ではインテル以外はすべて半導体工場を持っていない。設計開発まで行った後は、製造はTSMCやグローバルファウンダリーと呼ばれる製造請負会社に任せてしまう。

以前は半導体工場を持っていない企業を「ファブレス」とか、「半導体IP(Intelectual Property)企業」などと呼んで少し下に見る雰囲気があったが、インテルが嘗てのように、半導体製造技術でも世界の最先端を走れなくなり、寧ろそれが元でビジネス上多大な苦労やマイナスを背負い込むようになって、ビジネスモデルの見直しが進んでいる。今では設計開発は設計開発に特化し、製造部門は製造技術の開発に特化するという流れが標準形になりつつある。現にインテルもついに自社製造に拘らずに、ファンダリーに製造委託することを視野に入れて検討を始めた。完全に外部委託に移行することは無いとCEOはコメントしているが、自前主義では競争に勝てなくなってきたのだ。

インテルが22年ぶりにGPU「Iris Xe MAX」を正式発表したわけ

インテルが製造技術の開発で他社(TSMCに製造委託している会社)と比べて負け始め、TSMC製造のiPhone12用CPUが5nmの微細加工技術で大量生産される傍らで、未だに10nmのイールド(歩留り)改善に苦労している状況に変わりは無い。ライバルAMDはTSMCの最新技術を利用して、どんどんインテルのシェアを取り崩し、インテルの地盤沈下は更に進んでいる。

また現在のデータセンタのニーズはより低消費電力で、低発熱で、超高速・超低遅延処理(CPU単体の話では無く、ストレージなども含めた総合的なパフォーマンスのこと)が出来ることだ。その中心に座るひとつがAIプログラムだが、巣篭もりに関わる多くの活動が、これらを加速させようとしている。まだ始まったばかりのこのムーブメントは、より力強いディマンドで、これらを論理回路メーカー、或いはデータセンター内で利用される部品メーカーに要求してきている。当然、その後ろには需要がある。新型コロナ禍による「ニューノーマル」な生活様式は、よりこの需要を後押しし、加速させようとしていると映る。

このAI、取り分けマシーン・ラーニング(ML)やディープ・ラーニング(DL)と呼ばれる世界では、高速処理能力に長けているGPUが優位に立ちまわるチャンスを今は与えられている。そこをうまく取り込んでいるのがエヌビディアだ。AMDのサーバー用CPUであるEPYCは純粋にCPUの部分の評価が高い。

そして直近の決算発表でも明らかになったが、最近はFPGAを使ったアクセラレーター機能がAI分野でも、5G分野でも大きく見直されて活用され始めている。そもそもGPUの演算能力の高さが評価の対象だったが、GPUとFPGAを比較すると、FPGAの方がより能力値が高いと最近は言われ始めている。

この情勢を踏まえると、どちらが先に言い寄ったかは分からないが、AMDとザイリンクスの合併統合というのは、技術的な流れから言っても、ある意味では必然的なものだと言える。そうすることにより「CPU+GPU+FPGA」の一気通貫の半導体開発メーカーが出来上がるからだ。インテルには「CPUとFPGA」はあるが、「GPU」が無い。エヌビディアには「GPU」しかない。両社の後塵を拝し続けてきた両社にとって、この時期の合併は千載一遇のチャンスに映ったのではないか。更に好都合なことに、両者共に製造はTSMCに委託しているのだから。

恐らくそうした流れに敏感になっていたこともあり、またはそうすることが技術的な必然性もあったからこそ、インテルは22年振りに、独立したGPU「Iris Xe MAX」を開発し、発表したのだろう。これで見た目的にはインテルはAMD+ザイリンクス連合よりも一足先に「CPU+GPU+FPGA」が一気通貫の半導体開発メーカーになれるからだ。ザイリンクスの買収発表で一時は市場を賑わしたAMDのリサ・スーCEOも、この発表には臍を嚙んだかも知れない。

GPU「Iris Xe MAX」はよく調べると、インテルの強い焦りしか見えてこない

CPUには昔から画像処理回路が組み込まれている。多くの人が会社で使っているパソコンでGPUが別途搭載されたものを使っている人は殆ど居ないだろう。逆に、現時点ではCPU内蔵のGPU機能(グラフィックス機能)で、ローエンドのゲーム程度ならば充分に楽しめるようになってきているので、オフィスソフトを使う、ネットで調べ物をする、多少動画を観たりする、程度の利用方法ならば特別にGPUなど要らない。つまりCPU内蔵のGPUで充分な性能だとも言える。

そこで今回のインテル製GPU「Iris Xe MAX」の話になるのだが、このGPUの基本回路設計は新たに開発されたものでは無い。Tiger Lakeこと第11世代CPUのGPU回路「Iris Xe」を抜き出して単体チップにしたものだ。これは現時点でインテルとして最先端技術の塊である第2世代の10nmプロセスノード(「10nm+」とも呼ばれる)で作られたCPUだ。実はそれも薄型ノートパソコン向けでサーバー向けではないのがインテルの痛いところだ。

「Iris Xe MAX」は現状では第11世代Coreとの組み合わせでのみ提供される。だが第11世代Coreとセットにして利用することで「Deep Link」のようなメリットを発揮するという。何かと言えば、CPUに内蔵されているGPUと外付けのGPU「Iris Xe MAX」の協調行動だ。電力消費面などで最適な可動比率を作ったりすることで、同じ消費電力ならば、より効率的な使用をすることが出来るという。

恐らく、ここら辺までが今のインテルが示せる精一杯なのだと思う。TSMCで製造させるエヌビディアのGPUには性能で遠く及ばず、たぶん、それだけの開発リソースもない。かと言って、無策のままではどんどんシェアを奪われるだけなので、「エッジAI用」と謳ってこの発表を行った感じがある。少なくともハイテク・オタクの投資家にはその程度のものにしか、現時点では見えていない。

半導体の微細加工技術の動向もさることながら、データセンター用のアクセラレーターとしては、GPUよりもFPGAの方がポテンシャルが高いとも聞く。ならば、CPU内蔵のグラフィックス機能を切り出すような安易な話では無く、買収したAltera社のFPGA技術を応用した何かをドーンと打ち出して欲しかった気もする。そうすれば、AMDとザイリンクスの合併が承認されて完了するまでに、微細化技術ではTSMCを追い抜けなくても、違う戦い方が出来たのではないかと思う。

ただ明らかなことがひとつある。今、この分野へのリクワイヤメントが極めて高く、ニーズも強いという事だ。そうした分野は必ず伸びる。そして業界が再び戦国時代に突入したのなら、誰が最後に国を取る「家康」になるのか追い駆けてみたいものである。

 

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ファンドガレージ 大島和隆

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