半導体関連銘柄の決算関係資料を読む(川上及び前工程編)

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本レポートは2019年5月25日に「プレミアム会員様限定」として掲載した記事を編集し、皆様にお読み頂けるようにしたものです。

決算資料は自分で読めるし、こんなにメリットがいっぱい

代表的なB to B産業である半導体関連企業の決算書を使い、時に産業の川上に遡り、時に川下まで下ったりしながら、半導体産業全体の動向を読み解く方法を概観してきた。最初は当然「難易度が高いなぁ」と思われるかも知れないが、慣れてくれば、寧ろ段々面白くさえ感じて貰えるのではないかと正直思う。

何故なら、市場から聞こえてくる話やメディアから得られる情報がどうして、どのように作られているのかが見えてくるというのが一点。そしてそれらが本当に事実なのか、或いは誰かの意見や見解に過ぎないのかなどが見えてくる可能性があるというのが2点目。更に何よりなのが、自分自身で出来る投資判断がより上手になってくる可能性があるということだ。少なくとも一般的な金融機関のセールスマンよりは濃い情報に接し、それを持っていることになる筈だ。

以下の記事を事前にご覧いただけるとより決算関係資料の確認の流れがつかめると思います。もしまだご覧になっていないようであれば、合わせてご覧ください。

 

https://fundgarage.com/stock/post-0-77/

https://fundgarage.com/stock/post-0-73/

https://fundgarage.com/stock/post-0-74/

半導体製造装置(前工程)の東京エレクトロンから取り掛かる

それではもう一度、各社のWebページのIR情報(投資家情報)などのコーナーには、どんな決算関連の資料があるのかを確認してみる。

試しにまずは、東京エレクトロンのWebページを使って具体的に見ていくことにしよう。まず下記のURLをクリックしてトップページを開く。
https://www.tel.co.jp/

トップページにはコンセプトムービーなどが流れるが、上段に「About TEL」に始まって「研究・開発」「製品・サービス」「株主・投資家情報」「CSR」「採用情報」とメニューがある筈だ。その中から「株主・投資家情報」のとこをを開いて頂いて下方向にスクロールしていくと「IR資料室」というのがある。この辺りの呼び方は企業によって若干の違いがあり「IRライブラリ―」などとするものもあるが、東京エレクトロンの場合は「IR資料室」となっている。

その最上段に「決算短信・決算説明会資料」というのがあるので、そこが目的地だ。分かり易いように下の図では赤丸で囲っておいた。実はその周りのコーナーを見て貰うと、色々と面白い情報、すなわち「その企業自身に関するいろいろな情報」が掲示されているのが見て取れる。株主となってその企業を所有する(している)ならば、時間のある時に見て回って親近感をより抱いて貰うのは、とても良いことだと思う。だが今回は目的が違うので、そこには触れずに先に進ませて頂く。

東京エレクトロンIR資料室
そして辿り着くのが下のページ。

東京エレクトロン決算短信、決算説明会資料
正にあるべき4つの資料がすべて揃っている。その4つの資料とは下記の通り。どの企業の類似の場所を開いても、まずは下記の資料の内、どれとどれが揃っているかのを確認するところから全てがスタートだ。

  1. 決算短信
  2. 決算説明会プレゼンテーション資料
  3. 決算説明会の質疑応答集
  4. 決算説明会の動画中継(録画を含む)

どの資料から見に行けば良いか?

さて、4つ揃っている場合ならばどの資料から手を付けるべきか?

「極論を言えば決算短信は見なくていい」ことは別記事でお伝えした通りだが、全部揃っている東京エレクトロンのような企業の場合はどこから手を付ければ良いだろうか?

答えは3番目にある「プレゼンテーションに同期した音声配信(質疑応答含む)はこちら」だ。もし、これを全編視聴する(約53分)余裕があれば、基本的には東京エレクトロンの決算を利用した調査はほぼ終了と言える。

何故なら、決算説明会資料に沿って、終わった期の業績についての説明を経理部長が、そして現在の事業環境及び業績予想について代表取締役社長自らが行ってくれ、その後、待望の質疑応答へと続くからだ。会社が発信したいメッセージも、市場関係者の関心事もすべてこの一本で聞き取ることが出来る。

だが正直、全編視聴に挑んで頂いても、もうひとつ壁がやってくることを最初に白状しておく。それは専門用語の壁だ。財務諸表の勘定科目やそれについての説明は、ある意味「全産業共通」なので良いのだが、業種別の専門用語が壁を高くしてしまうことは否定出来ない。

私自身、実はハイテク企業と自動車関連企業ならば、英語での取材もきちんとこなせるのだが、事実を告白すれば、薬品企業が苦手な一つの理由は「病名や薬の成分などの医療専門用語の英単語の壁」があることだ。「diabetes」と聞いて「糖尿病」と直ぐには浮かばない。「Stomachache」(腹痛)程度ならば問題ないのだが・・・・。だから専門用語に直面した時の皆さんの気持ちは非常によくわかる。

ただ私もこの専門用語の問題については、申し訳ないがよく効く特効薬は持ち合わせず「最初は頑張って慣れてください」としか言いようが無い。Fund Garageの記事やレポートでは、だから出来る限り噛み砕くようにさせて頂くので、何とか最後までお付き合い頂きたい。

動画が見れなくても、まずは質疑応答集を読もう

あるべき資料の4つの内、信越化学工業のように、決算説明会の動画は無いが「質疑応答集」ならばある企業の場合は、何から見に行けば良いだろうか?

それは正に「質疑応答集」からだ。まずそこで市場関係者や報道関係者の関心事がどこにあるか、或いは決算説明会資料にあるポイントなどが見えてくるからだ。更に、決算説明会資料は予め用意された台本のようなものであり、質疑応答までの部分はただ書いてある原稿を読み上げるだけの場合もある。一方、質疑応答は正にその場で経営陣が返答した生の声だからだ。勿論「てにおは」の部分は修正され、分かり易く編集されたりはするが、「へぇー、そんな風に言ってんだ」という例がちょくちょくある。

東京エレクトロンの場合には、動画も質疑応答集も両方あるので、ここでは敢えて最初は同社の資料で追ってみる。何故なら、質疑応答集で追った後、若しくはその前でも勿論構わないのだが、全編動画を見ることで、資料だけの場合と、ライブ感もある動画の場合の違いを如実に感じて貰えると思うからだ。投資家への情報開示の仕方、という点でも、皆さんの投資スタイルが変わるきっかけになるかも知れない。

経営陣が半導体製造装置(前工程)需要の見通しをどう見ているかを知る

例えば東京エレクトロンの質疑応答集の第一問目には

「業界では、WFE市況の回復の兆候が見え始めているという話を聞く。TELの見方は?」とある(動画を後で観れば、これが誰からの質問かも分かる)。

WFEとは”Wafer fab equipment”、すなわち「半導体前工程製造装置」のことであり、シリコンウェハに電気回路パターンを作り込む過程で使われる装置群のことだ。TELとは東京エレクトロンのことである。よって質問者の意図は、経営者から生の声で業界の現状と先行き見通しを聞こうとしているということになる。

答えはこう記載されている。「ロジック/ファウンドリでは、5Gやその先のハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)に備えた投資を期待している。メモリでは、特に不揮発性メモリは今夏ごろに在庫調整が進むだろうと顧客からは聞いている。その後データセンタなどにけん引されてメモリ需要が盛り上がることにより、CY2019後半から装置の受注や納入が進むだろう。CY2020にV字回復へと向かっていくのではないかと期待している。」

さていきなり専門用語のオンパレードになってしまったが、個社を特定されないように、業態や製品別に隠語のように使われるのが、ロジック/ファウンドリやメモリといった言い方だ。決算説明会の多くは常連のアナリストやファンドマネージャーなので、いちいち具体名を出さないでもこうした良い方で「あ、あそこだな」と阿吽の呼吸でわかるように出来ている。

この場合「ロジックとファウンドリ」と記載しないで、接続詞に「/」を使用しているので、ロジック・チップ系のファウンドリ(半導体製造請負業)ということ、更にその後の答えから類推してエヌビディアやクワルコムなどからの半導体製造を請け負うTSMC(台湾積体電路製造)などのことだろうと考えられる。

それらに対しては「投資を期待している」と回答しているので、質問(内容:回復の兆候が見え始めているのか?)に対して肯定していると読むことが出来る。

またメモリとは、恐らくサムスン電子やハイニックス、或いはマイクロンテクノロジー社などをさしていると思われるが、「不揮発性メモリ」とは「NAND」のことであり、フラッシュメモリーのことでもあり、これについてはこの夏には在庫調整が進むと「顧客が言っている」と説明している。

つまり、何らかの言質を顧客から取っているわけだ。そしてその後にDRAM(揮発性メモリ)も、「データセンタなどに牽引されて需要が盛り上がる」と答えている。CYとはカレンダー・イヤーのことであり(年度はFY)、CY2019後半からとは2019年7月以降ということを意味するので、その位のタイミングから装置の受注や納入が進み、「2020年(1月から12月)にV字型回復へ向かうと期待している」と返答している。

これらが重要な意味合いとしては、すべて「顧客と直接商談を日常的にしている企業側のトップマネージメントが発しているコメント」だと言う事だ。市場関係者の想像の世界では無い。自分が営業活動をしていることを想像してみればお分かりの通り、お客様との日常のコミュニケーションの中で、おおよそ発注タイミングなどの予想はつくものであり(勿論、外れることはよくあることだが)、お客様も「秋ぐらいには正式に行こうかと思うんですけどね」ぐらいのことは言ってくれるものだ。増してや半導体製造装置なら、常にショーケースの棚に並んでいるものを売買するわけではなく、発注・受注から納品までには「製造装置自体の製作期間」も必要だからだ。そんな背景を分かりつつビジネスがあるのがB to Bの特徴だ。だから「期待している」と締めくくってはいるが、全く根拠脈絡のない絵空事を言っているわけではない。

露光装置についてはどうなっているか?ニコンを例に

既に「インテルCPU供給の遅れに潜む問題と今後の影響」の中でお伝えした通り、半導体製造の前工程の中で重要なパートは露光装置の部分である。シリコンウェハ上に髪の毛よりも遥かに細い幅の回路パターンを描き上げる為には、特殊な光源を備えた露光装置が必要だ。主力は蘭ASML社であり、日本ならばニコン、そしてキャノンという感じだ。

同じようにニコンのWebページに行ってみることにする。

ニコンIR資料室
ご覧頂ける通り、一見すると全ての4つの情報資料があるように見えるのだが、実は動画の時間が約28分とあり、案の定、質疑応答の部分はカットされている。そして質疑応答集も掲載されていない。これでは機関投資家と個人投資家の間に情報格差が生まれて、機関投資家だけ特別な情報を得ているのだろうという誹りを受けても、私は何ら反論出来ないだろうと考えるし、実は当局にはこうしたところの改善に取り組んで欲しいと思っている。

本題に戻して、こうした場合は当然「決算説明会資料」から色々と出来る限りのことを読み解くことを考える。

「決算説明会資料」の一般的な構成は、最初に今回ならば2019年3月期決算の状況について説明し、その後「今期見通し」や「中期経営計画」との整合性などが解説されるのが一般的だが、ニコンのそれも同様な仕立てになっている。

また「セグメント別情報」などと呼ばれるように、各事業毎に分かれている場合もあり、ニコンの場合は「映像事業」と「精機事業」とに分けられている。前者がデジカメなどの一般消費者にも馴染みの深いニコンの顔の部分であり、後者が半導体露光装置に関する部分となる。またテレビやスマホ画面などのフラットディスプレイに使われる露光装置関連も後者に含まれるが、今回の興味対象は半導体露光に関わる部分だ。

12ページ目に「2020年3月期 通期見通しのポイント」という次のようなスライドがある。

ニコン2020年3月期見通し
今回のチェックでは精機事業を確認するが、スライドの上段にある通り2020年3月期売上収益のところ、精機事業については「半導体の増収でFPD(フラットディスプレイ)の減収を押し返す」とある。ならば個別に精機事業について触れたスライドは無いかと探すと16ページに該当するページが出てくる。

ニコン2020年3月期見通し、精機事業
予想通り、半導体については「当社顧客の設備投資は引き続き堅調に推移。新品装置は台数増が寄与し増収」とある。露光装置は受注から納品までの時間が長い。製造するのに半年以上掛かる機器もあり、更にそれを一旦分解してから梱包・出荷し、顧客のクリーンルーム内で再度組立て調整するという手間暇がかかるので、これはかなりリアルに読めている数値と考える。資料をよく見ると、販売台数予想まで書かれている。それも31/14などと極めてリアル感のある数字だ。

質疑応答までの動画はあるが、質疑応答は無い場合

どうやら「決算説明会資料」の上では、半導体製造装置(前工程)の中の露光装置の部分も今年度は切り返すようである。これは東京エレクトロンの見通し全般とも一致するタイミングだ。

本来ここで「質疑応答集」があれば、このあたりに食いつくアナリストの質問や、それに対する会社側のコメントのトーンなどで、この資料以上の感触が掴めるのだが、無いものねだりをしても仕方がない。ただ動画があるので、この部分を含めて、今期見通しに関する部分を説明する時の「マネージメントの声色」、すなわちトーンを聞き分けることを考える。

「丁度良い按配に、精機事業の中でも半導体関連とFPD関連とで状況が違うようだ。説明のトーンに違いを感じられるかもしれない」と考えても不思議はない。

実際に視聴してみた。折角社長がプレゼンしてくれているのだからと確認してみると、割と単調な感じで話される方ではあるが、やはり半導体関連で挽回しようというポジティブな印象を声色から読みとることが出来る。ただこれも複数社の「社長コメント」を聞くことでより慣れてくるセンスだと考える。

こうした分析の仕方で、東京エレクトロン、アドバンテスト、スクリーンHD、ニコン、キャノンとひと通り見て回ると、半導体業界自体はやはり前向きに今期後半からは設備投資を続けるようだ。半導体製造装置に半導体企業が設備投資をする理由などは別記事でご紹介した通りであり、2019年第一四半期から第二四半期の足元までがボトムとなり、その後反転してくる可能性が高いと読み取れる。

実は世界最大の半導体製造装置メーカーは米国のアプライドマテリアルズ社なのだが、同社が近時行った決算発表、その後のWebcastingによるアナリスト達とのディスカッションを確認してみると、充分日本企業の方で裏付けの取れる内容と同様であった。寧ろ、想定以上に良い内容だったと言えると思われる。

米中貿易摩擦問題はまだ市場のかく乱要因であり続けることは間違いない。Huawei(ファーウェイ)の問題一つとっても、市場はまだ暫くはこの辺りのセクターについては強気と弱気が入り混じるだろう。そんな状態だからこそ、同じ要領で次回は半導体原材料の川上と川下の具体例を確認してみることにしたい。

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ファンドガレージ 大島和隆

Fund Garageへようこそ。主宰の大島和隆です。投資で納得がいく成果を得る最良の方法は、自分自身である程度「中身の評価」や「モノの良し悪し」を判断が出来るところから始めることです。その為にも、まず身近なところから始めましょう。投資で勝つには「急がば回れ」です。Fund Garageはその為に、私の経験に基づいて、ご自身の知見の活かし方などもお伝えしていきます。
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