モリゾウのトヨタ、株価1万円突破を祝す!

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2021年6月15日、日本の時価総額最大企業であるトヨタ自動車(7203)の株価が上場来高値となる1万円の大台を突破した。Fund Garageでは予てから同社をフォローし、プレミアム会員専用のプレミアム・レポートでは、年初来だけでも8回以上取り上げてきたが、以下はその再編集記事である。ご承知の通り、Fund Garageは所謂投資情報サイトを志向していない。寧ろ意識的にもそれらとは一線を画すようしている。「株主として企業を所有する」という基本に立ち返った時、ファンドマネージャーならば何をどう見ているかを感じて貰おうというサイトである。だから一切リコメンデーション(推奨)は無く、それはご自身で考えて欲しいと思っている。

2021年3月期決算発表を受けてトヨタを評価する

強いトヨタが帰ってきた

別にトヨタ(7203)が弱くなっていたとは思っていないが、2021年5月12日に発表された同社の決算内容と、同日に開催された決算説明会、取り分け「決算説明会 第2部」の内容を聞いて「お、強いトヨタが帰ってきたな」とあらためて素朴に感激出来た。もし時間的な余裕があれば第2部については聞いてみて欲しい。特に注意をして耳を傾けて欲しいのは、トヨタ側のプレゼンテーションが終ってからの質疑応答。残念ながら証券アナリストや機関投資家向けの説明会の方ではなく、メディア向けの方なので「市場関係者」の目線とは必ずしも一致しないが、少なくとも世の中の一般ピープルがどこに注意を払っているか、どこに興味があるかが分かるだろう。

まず終わった期の実績だが、2021年3月期(2020年4月~2021年3月)はコロナ禍における有事の決算ではあったが最終利益は前期比10.3%増の2兆2452億円と増益を確保した。また2021年3月期における日本、海外を合わせた連結販売台数(トヨタ車のみ)は、前年度比14.6%減の764万6000台、日本での販売台数は同5.1%減の212万5000台、海外は全ての地域で販売台数が減少したことにより、同17.8%減の552万1000台だった。これらの結果、営業収益は同8.9%減の27兆2145億円、営業利益は同8.4%減の2兆1977億円、税引前利益は同5.0%増の2兆9323億円、純利益は同10.3%増の2兆2452億円となった。詳細は下記の表を見て欲しい。

営業利益の増減要因については、下記の表を見るのが一番分かり易いと思う。スライドの下部にあるスクリプトは決算説明会時に読み上げられたもの。全てのスライドにスクリプトがついているので、プレゼンテーションの内容自体はこのファイルをひと通り目を通すことで理解することが出来る。

だがやはり一番興味深いのは、世の中の人がどんなところに興味を持っているのかを知ることでもあるので、本来は決算説明会の第一部を視聴して貰うのがベストだ。また聞き逃せないところは、トヨタ側が半導体が不足しているという話の中で、サプライチェーンの見直しや、代替品の選考プロセスの見直しなどを行うことにより、多少のスローダウンは織り込んでいるものの、致命的なダメージになることは無いだろうと言っているところ。これは流石「かんばん方式」の産みの親だけのことはある。トヨタの生産管理方式や在庫管理手法を真似た企業は多いが、それを動的にリバイスアップして有事の対応にも有効になるように出来たところは少ない。

事実自動車業界が直面している半導体不足と呼ばれる事態についての報道は殆ど全て「トヨタの在庫管理方法を見倣って、流通在庫までも見直している企業が多いことから、品不足がそのまま工場の操業停止に繋がることが多い」というようなトーンのものが殆どだった筈だ。かんばん方式を作ったところと、その方法を真似たところでは理解の次元が違うということだろう。

トヨタは相変わらず全方位の環境対応、だから強い

自動車業界が環境対応に追われた2000年前後、トヨタはハイブリッド車が目立つようになり、欧州勢はディーゼル車が目立つようになったということは既にご案内した。この辺りの事は是非既報「国際分散投資シミュレーション 2021年2月末 <日本の脱炭素社会のクルマ、自動運転世界初>」の「<EVよりもFCVに期待>」や「FG Premium Report 3月22日号(慎重と悲観主義は異なるもの)」の「注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス」などを再度ご覧頂きたい。きっと今回のトヨタの決算がどうして強かったのかという着眼点も見えて来る筈だ。

これらの中で一つお伝えした重要なことは、トヨタが環境対応のクルマをBEV(バッテリー電気自動車)に特定したり、固執したりしないで全方位で開発を続けていることだった。今回の同社の決算説明会に置いても、記者からの質問はその辺りに集まっている。つまり「トヨタはBEVで出遅れていますよね。大丈夫ですか?」という皮肉が言外に隠れているもの。

恐らくトヨタ首脳陣もその手の質問が多いだろうと予想していたのか、プレゼンテーションの中に既に織り込み済みでもあった。例えば第二部のプレゼンテーションを担当した取締役・執行役員のJames Kuffner氏はその中で「トヨタは1996年にBEVのRAV4」を既に市場投入しています」ということを話している。その後、その技術を踏み台にして更に加速、1997年には初代プリウスを発表している。

この頃、グループ会社のデンソーはディーゼルエンジン用の燃料噴射装置である「コモンレール」の開発を終え、のちにこれが欧州勢のディーゼルエンジンにBOSCH社を通じて供給されるようになる。面白いもので、昔から日本人、取り分け自動車関係の評論家は欧州車、取り分けドイツ車信仰が強く、欧州がディーゼル車を環境対応車としてグイグイ押し出す中で、日本勢はこの分野が弱いと散々トヨタなどを叩いたものだ。その中でルノーと一心同体になった日産は欧州ではディーゼルを手配し易かったため、何故か評価が高った。だがその後の顛末は、ディーゼルは瓦解し、日産は現状ダッチロール状態だ。

そんな中で今回、私も「なるほど」ともう一度認識を新たにしたのが、下記のスライドのコンテンツだ。実は電動車(EV)では世界トップのラインナップである55車種を既に投入しているということ。全てが実はEVである。

どうも電気自動車という呼び方をされると、多くの人が(私も含めて)EVという単純な捉え方をしてしまう。実はそのEVというのはBEV(バッテリー電気自動車)というひとつのカテゴリーであって、上のスライドにあるようにEVにはHEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(バッテリー電気自動車)そしてFCEV(燃料電池自動車)と4種類もあるということだ。ただその中で、昨今はテスラなどのBEVをEVもしくは電気自動車とみなす風潮が強いため、バッテリー技術というところに注目が集まり易い。

だが考えてみれば、HEVも、PHEVも、FCEVも全て電池を搭載して走っている。バッテリー・マネージメントということではある意味一緒だ。因みに、面白いスライドがあった。それはHEVとPHEVが実際にはモーターだけで走行している時がどれだけあるかを示した資料だ。これはプレゼンテーションの質疑応答の中でしか見ることが出来ない。

実はHEVでも6割から7割は完全な電池走行をしており、PHEVになると約8割は電池走行をしているという。つまり逆に言えば、前者で3割から4割、後者では2割しかエンジンは動いていない。そしてこのエンジンも内燃機関としての燃焼効率は非常に高いということだ。

またトヨタは開発中の全固体電池の話をしていた。大風呂敷を拡げて「間もなく完成します」などと三河の堅物達は決して言わない。もしかすると「トヨタの全固体電池はまだまだ開発途上」と侮るコメントをする人も出るかも知れないが、全固体電池を開発している事実を認めたこと自体が彼の社風の中でどんなことを意味すのかを理解出来る投資家でありたいものだ。

バッテリー電気自動車を作りたいのではなく、カーボンニュートラルが目標

既報の通り、欧州や日本の一部政治家はBEV(バッテリー電気自動車)こそ脱炭素に役立つと主張しているが、ならばその電気はどうやって発電するのかという問題がある。そしてそのバッテリーにはコバルトなどのレアメタルが使われ、この採掘の為にCO2が排出される。外部から電気を供給しないとならないBEVは、その電気の発電時にCO2フリー出ない限り、その車が走行を続ける限り、二酸化炭素を排出し続けることになる。この辺りのことを今回もきっちりと主張された。メディアの質問には悉くクリアに返答出来ていたと思う。

そして繰り返し主張されたのは、トヨタが目指すのは、クルマの全ライフステージに置いてカーボンニュートラルであること、そしてこの技術を応用・横展開することで、ウーベンシティ構想を含めて、広く遍くカーボンニュートラルを実現することだという。

その時に大きなカギを握るのが水素だ。地球上で最も多く存在する元素である水素、これを有効に活用する燃料電池の技術では、現在トヨタがトップランナーであることに疑いは無い。バラード・テクノロジーなどは撤退したのだから。一方で、トヨタは既にFCEV(燃料電池車)としてMIRAIが2世代目に入った。

そしてトヨタは4月22日に突然具体的には市販計画がない水素エンジンを発表し、それを車両に積み、5月21~23日にかけて行われる「スーパー耐久(S耐)シリーズ2021 第3戦 富士24時間レース」に参戦するとまで言い出した。しかもなんとその耐久レース車両を運転するのは、トヨタ自動車のマスター・ドライバーこと豊田章男社長自身だという。

「水素エンジンやe-fuelの話は、単なるバズワードですか?」

決算説明会の第2部の質疑応答シーン、ひとりの外国人記者が質問した。「水素エンジン開発などの本気度を教えて欲しい。単なるバズワードですか?」と。もし、これがリアルな会場だったらその質問自体で爆笑を誘ったかもしれないが、残念ながら、全てオンラインだったので笑いは取れていない。

そして、その質問に答えたChief Technology Officerの前田執行役員は真顔で返答した。「かなり真剣です。なにせレースに社長が出るのですから」と。耐久レースがどれだけクルマを酷使するものかはマニアならば知っている筈。もし、中途半端な出来上がりのモノだったら、豊田社長を乗せたまま水素爆発を起こす可能性だってある。事故で水素タンクが破損すればやはり爆発の危険性がある。でも、やるという。逆に言うなら、それだけの自信があるのだろう。この前田CTOの返答を聞いた時、私は本当に「強いトヨタが帰ってきた」と思った。

 

トヨタの水素エンジン、24時間耐久レースを完走した

モリゾウ(豊田章男社長)が運転する水素エンジンがチェッカーフラッグを受けた意味

2021年5月23日午後15:00、富士スピードウェイにて、世界史上初めて水素エンジンで走るクルマが24時間耐久レースを完走してチェッカー・フラッグを受けた。24時間走り切って、エンジンから排出されたのは水蒸気だけ。勿論厳密に言えば現段階では窒素酸化物も排出しているが、これは現在の技術で完全にコントロールできる。そして何より、二酸化炭素を全く排出していないことがポイントだ。

(下の写真がチェッカー・フラッグを受けた瞬間。後続車はチームメートのTOYOTAスープラ。)

耐久レースとは何かをご存知ない方(普通は知らないと思います)には「なんでそんなに凄いことなの?」と思われるかも知れない。当然だ。でも「ル・マン24時間耐久レース」という名前ぐらいはご存知だろう。世界中の自動車メーカーが自社のクルマの耐久力を示すために挑み、多くのメーカーや、そのエンジニアが歓喜に泣き、一方では無念の涙を流してきた。要はクルマを極限まで苛め抜き、その耐久性を競うのが耐久レースだ。

その耐久レースに、なんとトヨタはまだ開発途中、しかも市販車として販売出来るかどうかも見極める前の水素エンジンのクルマで出場し、見事に完走してみせた。MIRAIのようなFCEV(水素燃料電池車)ではなく、簡単に言えば「ガソリンを水素に変えただけ」の普通の内燃機関のエンジンだ。

そのチームの一員としてステアリングを握り、最後の約30分間もステアリングを握り、見事チェッカー・フラッグを受けたのは、モリゾウことトヨタ自動車社長の豊田章男氏だ。豊田社長には同社のマスター・ドライバーとしての顔もあるが、日本自動車工業会の会長でもある豊田章男氏が自らハンドルを握り、水素エンジン車で耐久レースのチェッカー・フラッグを受けたインプリケーションは今後の自動車業界にかなり大きいものがあると考える。

実はこのレースはYouTubeで同時中継されたが、なんと最後は24,000人を超える人がライブで視聴していたほど、関心を集めていた。当然それはゼッケン32番の水素エンジン車への興味だ。

トヨタの考え方を示すレースチーム向けメッセージ

トヨタがどうして水素エンジンをここまで真剣に開発するのか。或いは、運転席の後ろに大きな水素タンク(万が一爆発したら多分即死だろう)を搭載したカローラ・スポーツのコックピットに、なぜ社長自らが乗車して耐久レースなどに出るのか、その真意を端的に示すメッセージがある。それはレース・チームの朝礼で行われたモリゾウの挨拶だ。参考までに原文を転記する。

朝礼での挨拶

時はカーボンニュートラル…。カーボンニュートラルは電気自動車だけが出口だと世界中で言われています。地球温暖化に対して、カーボンニュートラルを目的に自動車業界をあげてやろうと宣言しています。ただ、やり方の順番を間違えないようにして欲しいと声を大にして言っています。

「カーボンニュートラルがゴール」であって「電気自動車を売ること」「FCEV(燃料電池車)を売ること」「ガソリン車禁止すること」ではないと、私は思います。欧州のやり方で日本が進んで行くのも選択肢の一つでしょうが、日本のエネルギー事情もある中で、日本には日本のやり方もあります。

今から2050年に向けて、まだ30年あリます。30年前には、ハイブリッド車もFCEVもありませんでした。ただ、技術を磨いていたエンジニアがいました。

WRCで車体を固くした技術がある…。

MIRAIでタンクをつくってきた技術がある…。

デンソーはインジェクターをコツコツとやってきた…。

トヨタの中でも4年前から水素エンジンをコツコツやってきた…。

ROOKIE Racingもできた.…。

いろいろなタイミングが合致したことによって、一つの選択肢を我々が提案できるチャンスをもらいました。ここにいる人たちは、いわばカーボンニュートラルに向けて、日本の自動車業界550万人の中の最前線。カーボンニュートラルに、こういう選択肢もあることを示してもらうための同志だと思っています。

今の段階でスーパー耐久に出て開発することは、人によっては無謀と言うかもしれない…。昨年、私はスーパー耐久にGRヤリスを鍛える目的で出させていただきました。壊しては直し、壊しては直しが、クルマの開発に、ものすごく良い循環だと実感しました。水素エンジンでも同じことをやってみたい。

水素エンジンのために、ここに集まったそれぞれのプロの方々が、自分の強み出しながら、カーボンニュートラルにおける一つの選択肢をみんなでつくり上げるという目的でやりたい。

モータースポーツは五感で感じるもの。音も必要、匂いも必要。1年たったときには、水素エンジンの音色をつくり上げることも、我々のミッションだと思ってます。是非ともご協力いただきたいですし、力を貸してほしい。

なによりも水素の安全性を証明するには、私自身が乗ることが一番だと思ってます。プロドライバーの足は引っ張りますが、安全のメッセージも重要だと思うので仲間に入れて欲しい。よろしくお願いします!

自動車業界の雇用を守るためにやっているなどと斜に構えたコメントをする人もいるが、私はこれを初めて見た時、最近稀に見る感動に包まれた。仮に皮肉屋の言う通り雇用を守るためだとしても、本当の意味で命懸けでコックピットに自ら座って、その意思を誇示する社長を私は素晴らしいと思うし、社員ならば誇りに思うだろうし、部下ならば尊敬するだろうと思った。だから株主でいることが嬉しいと思った。

決算説明会の席で記者からの質問で本気度を問われた時、回答した技術責任者の役員が「社長がレースに出るのだから真剣です」と真顔で答えていたのを思い出す。物凄い本気だったのだろうし、エンジニア達は並々ならぬ想いでこの仕事を成し遂げたと思う。そんなことが出来る会社が日本にどれだけあるだろうか?

(普通の耐久レース車両に混ざってラスト17分を好調にラップする水素エンジン・カローラ・スポーツと運転する豊田章男社長)

各社が諦めた技術を開発し切ったトヨタ技術陣

水素エンジンのクルマ自体は2003年から2006年ぐらいまでの間、一度話題になった頃がある。当時一番有力候補と言われていたのはドイツのBMWだ。7シリーズの12気筒エンジンを水素用に改造した。それは水素がガソリンに比べて8倍から10倍速く燃焼してしまうので、大排気量で無いと実用化は難しいと言われたからだ。だから最大のセダンに、最大のエンジンで開発が行われた。だが、結局は馬力が200馬力程度しか絞り出せず、BMWは水素エンジンの開発を断念した。

もう一社がマツダのロータリーエンジンだ。この車には私も乗ったことがある。音もフィーリングも内燃機関そのものだった。ロータリーエンジンは吸気ポートがある場所が燃焼エリアでは無いので水素に適していると考えらえた。だが、残念ながら開発コストの問題でマツダの水素ロータリーは表舞台から消えた。現在開発継続中かどうかはまだ分からない。

そんなBMWや、あのポルシェも実用化を諦めたロータリーエンジンを実用化させたマツダでさえ開発を断念した水素エンジン、それも1.6リッターという小型サイズのエンジンで耐久レースを完走出来るレベルにまで仕上げたトヨタの技術陣のレベルの高さには本当に驚かされる。

そもそも、燃料電池車をまともに市販化しているのはトヨタだけとも言える(ホンダにもあることはあるのだが・・・)(後日の情報:ホンダは燃料電池車の開発を中止することを決めたようだ)。この燃料電池についても、既報の通り、カナダのバラード・テクノロジーズ社が開発を数年前に断念した経緯がある。

また上述の朝礼のコメントの中にこんなフレーズがある。「デンソーはインジェクターをコツコツとやってきた…」というもの。気がつかれただろうか?実は今回の水素エンジンの開発で、キーデバイスとなっているのが水素を噴射する装置だ。そうインジェクター。

欧州でディーゼル・エンジンが環境エンジンとして注目されたのは、コモンレールと呼ばれる燃料噴射装置が開発されたからとは既報の通りだが、これを作ったのもデンソーだ。それを「デンソーはインジェクターをコツコツとやってきた…。」とさらりと表現されている。

ポリティカル・ウォーズが待っているだろう

未だにメディアは電気自動車はBEVだけで、HEVやPHEV、或いはFCEVは別物と取り扱って「クルマ・マニアのドイツびいき」が続いているが、カーボン・ニュートラルという考え方は明らかにトヨタ自動車/自工会の考え方の方が正論だ。ただどうしてもそこには「欧州+中国」と「米国+日本」というパワー・ポリティクスが働いてくる。特に対米国という視点で「欧州+中国」はBEVを押したいだろうと思われる。

ただあまり心配は無いようにも思えてきている。それは実際にカーボンニュートラルをクルマの生産段階からスクラップ処理までのライフサイクルで捉えた場合、世界全体ではBEVだけではどうにも対応し切れないからだ。またBEVの技術の重要な部分はバッテリー制御でもあり、これはHEVやPHEVでも変わらないからだ。寧ろ、全固体電池の開発が先になるかも知れない。だから問題は技術的な話よりもポリティカル・ウォーズだと思っている。そして実際に供給出来るメーカーに勝利の女神は微笑むだろう。

因みに電気自動車はスマホの様に部品を寄せ集めれば簡単に出来るという論調があるが、私はどんなにリサーチしてみても、それを素直に認めるだけの材料に未だに出くわしていない。それはあたかも2000年初期にGMが「インホイール・モーター」を使った「フレキシブル・プラットフォーム」のコンセプトを発表したことと類似しているかにしか見えない。(クルマの開発って、そんなに単純では無いんだということがどうして広まらないかが寧ろ逆に不思議なぐらいだ)

また中国製の電気自動車が24時間耐久レースに出場した場合、どれだけの車種が完走出来るかも分からない(因みに、リチウムイオン電池の酷使は爆発を招きます。それはノートパソコンの爆発で実証済みです)。ただBEVが出場する場合、まずは急速充電時間をどれだけ短く短縮出来るかが最初の課題になるだろう。

トヨタの水素エンジン車が刺激を与えたクルマ業界

予想通り、トヨタの水素エンジン車が24時間耐久レースでモリゾウこと豊田章男社長の運転でチェッカー・フラッグを受けたことが自動車業界では刺激的だったようだ。取り分け、BEV車ばかりが注目を集める中に合って、あらたな選択肢の提供は大きな意味があったと思われる。

早速マツダの水素ロータリー・エンジンの話が話題になったのは良いことだ。ただ現状聞こえてきているのは、走行用に水素ロータリー・エンジンを回すというよりは、発電用のエンジンとして使うという話のようではあるが、選択肢が拡大することは良いことだ。更にトラックやバスの世界について、水素エンジンの可能性が拡がっていることは、本質的な脱炭素の為には排出量から見れば圧倒的に多い分野なので、この先の展開が気になるところだ。

メディアでは未だに「電気自動車=BEV」という取扱い方が多いが、やはり今後の展開を見据えて投資を考える上では、正しく整理しておいた方が良いだろう。

  • BEV==バッテリー電気自動車(車外で発電された電気をバッテリーに蓄えてモーターを駆動する)
  • HEV==ハイブリット電気自動車(内燃機関で発電した電気をバッテリーに蓄えてモーターを駆動する)
  • PHEV==プラグインハイブリッド電気自動車(車外で発電された電気・内燃機関で発電した電気をバッテリーに蓄えてモーターを駆動する)
  • FCEV==Fuel Cell(燃料電池)電気自動車(水素燃料電池で発電された電気をバッテリーに蓄えてモーターを駆動する

上記の仕様が全ての電気自動車だ。繰り返しになるが「EV=BEV」ではない。逆にBEV以外のEVは、外部からの電気供給が無くても走行が可能である。外部から供給される電気は、発電時に如何にCO2の排出が抑制出来るかがひとつの鍵であり、もうひとつが配送電時に如何に電力ロスをなくすか、またピーク利用時をどうやって平準化するかが課題となる。逆に言えば、それらの効率性と比較してよりCO2排出が少ないとなれば、BEV以外の選択肢を考える必要がある。

下記が日本の今年の電力事情としてNHKが報じた最新データである。今夏でさえ、予備率が最低限の3%にニアミス状態だ。とてもBEV車が急増した場合の電力など賄い切れる状況では無い。

リチウムイオン電池に代わる新しい技術として全固体電池も同時に脚光を浴び始めているが、現時点では未だ業界図などは見えてきていない。進捗があり次第、速やかに報告する予定。

脱炭素化社会の中で注目される全固体電池

ニッケル水素電池がリチウムイオン電池に置き換わる時、最も話題となったのが電池の爆発だ。クルマが脱炭素化社会の標語の元に電気化され、EV、HV、PHVが今後益々増えるのは明らかだが、なかなか解決されていない問題が電池の爆発だ。かつてSONYのノートPCであるVAIOが爆発したこと、或いはSamsung電子のスマホGalaxyが爆発して大騒ぎになったことを忘れた人はいるまい。

だがバッテリーのエンジニアに言わせると「そもそも爆発するものだと思って取り扱った方が良い」という。その理由は物凄いレベルのエネルギー密度だという。そして製造工程が極めて難しい。逆に言えば、簡単に爆発するレベルにまでエネルギー密度を上げられるからこそ、同じ体積で大容量の蓄電池が開発出来たとも言える。

この爆発の一つの原因が、リチウムイオン電池で使っている電解質が液体だということで、これが漏れて爆発を引き起こすという。それをクルマのシートの下に敷き詰めておいたら、実は地雷の上に座ってステアリングを回しているのと似たような状態と言えなくもない。

そこでその液体電解質を固体にして安定性を高めようというのが全固体電池である。ただどちらも同じリチウムイオン電池ではありながら、製造方法などは全く違う。更に、全固体電池の小型のものは既に実用化されているが、自動車用のものはまだ実用化段階までは到達していない。今のところ、もっともゴールに近いところにいるのがトヨタ自動車とPanasonic連合だと思われるが、まだ数年は掛かりそうな気配もある。ちょうど日経新聞に分かり易い比較表があったので下にご紹介する。

 

新しいタイプのインベスター・リレーションのスタイル、トヨタイムズ

必ずしも昔のトヨタはIRが良いとは言えなかった。ただ社長が創業家出身の現在の豊田章男社長に変わられてから、徐々に、そして最近は加速度をつけて変わってきている感じる。それも既存概念の「インベスター・リレーション」をかなりはみ出た形でだ。勿論、これは誉め言葉。投資家として投資先を見る時には、財務諸表の類には表れないものをより沢山仕入れたいものだが、そのひとつに「トップ・インタビュー」がある。そう社長との面談だ。多くのファンドマネージャーがそれが大事と唱え続けてきたし、私自身もそうだった。だがそんなことはしなくても、今のトヨタはより多くの情報が開示出来ていると思う。これだけ大量のメッセージと、社長の人柄、社員・現場との関わり合いを発信している企業は他にないかも知れない。ただこの価値は、社長を運用会社の応接に呼びつけてインタビューすることで満足しているファンドマネージャーには理解出来ないかも知れないが・・・。

「なぜトヨタは水素エンジンでレースに出たのか。激闘の24時間に密着取材 | トヨタイムズ」

約30分のYouTubeだが、今のトヨタ自動車(7203)への投資判断のためには、恐らく一番価値ある情報ソースだと思う。株価が上場来高値の1万円の大台を突破した今だからこそ、ここからの投資判断には極めて有益だと思う。

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ファンドガレージ 大島和隆

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