国際分散投資シミュレーション 2020年8月末

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ポートフォリオの概況

2020年8月の月間パフォーマンス

「リスク中程度のモデル・ポートフォリオ」の8月末までのパフォーマンスは、ドル建てポートフォリオで設定来が月末186.46%となり、年初来のパフォーマンスは絶対値でプラスの0.98%となりました。実は8月31日が月曜日だったため、もし最もパフォーマンスが良かった前営業日28日で区切ればプラスの3.31%となります。これは円建てに関しても同じことが言え、月末時点では為替の影響で絶対値をプラスとすることは出来ませんでしたが、前営業日28日で区切るとプラス1.39%となります。8月31日のドル円相場が105.37円での評価に対し、28日ならば106.65円となるからです。

単月のパフォーマンスを見ると、ドル建てポートフォリオが+0.84%、円建てポートフォリオが+1.63%でこれは月中を通じた為替円安分+0.78%が有るか無いかの違いになります。パフォーマンスが良かったアセットクラスはご想像通り先進国株式で+6.68%となりました。債券は僅かながらに足を引っ張った感じです。ただこうした「良い結果」のものと、「今一つの結果」のものとを併せ持つことで全体の収益のバランスを取るというのが基本的な分散投資の考え方ですから、個別にあそこかが良くて、これが駄目と判断する必要はありません。混ぜ合わせて「ひとつのリスク-リターン特性の金融商品」です。間違えてもパフォーマンスの良いものを利食って、悪いものと「合わせ切り」をするとか、単純にその結果だけで配分比率を変えるような事があってなりません。

分散投資の価値を理解するのは難しい

お客様に月次パフォーマンスの報告をする時、これはバークレイズのプライベートバンクでインベストメント・ソリューションのヘッドとして、プライベートバンカーに同行して運用報告に行く時でも多くのお客様に見られた共通反応だったのですが、「この先進国株式のウェイトを上げるために、債券のどれかを売ってしまった方が良いのではないの?」と短期的な見通しに傾かれることです。

もうひとつ、冗談のように聞こえるかも知れない話なのですが、運用会社でファンドマネージャーをしている時でも、毎月の運用報告会(別名、ファンドマネージャーの査問会議)で上席役員から「何で収益が上がっていないアセットを持っていないとならないんだ。これを売って、あっちを買ったら良いじゃないか」という、笑えない話もありました。約20年間在籍していた運用会社が銀行系であったこともあり、上席役員が運用畑出身者では無く、所謂「銀行からの天下り」的な人事配置が沢山あった為、どうしても「分散投資」ということの意味が理解出来なかったようです。ですから、普通の個人投資家の方がそう思われるのも無理からぬことです。

時々、単に鉛筆舐め舐めでアセットアロケーションや分散投資比率を決めようとする人が居ますが、分散投資の比率計算、アセット・アロケーションの決定の仕方は基本的には数学の世界です。結果から見ると同じようなことになっていることは頻繁にあります。ただ正しくはそれぞれの資産のリスクとリターンを計算して、それぞれの資産間の相関を計算し、どういう比率で投資配分した場合に「最もリスクと期待リターンのバランスが効率的になるか」ということを計算します。頑張って電卓で計算出来ないことも無いと思いますが、一般的にはコンピューターで計算させます。

肝心な部分はどこかと言うと、実は各資産クラスのリスクと期待リターンの決定方法です。ご承知の通り金融商品で「リスク」と呼んでいる内容は「価格の振れ方/変動率」で、その標準偏差を使う事が一般的です。でもちょっと具体的に考えてみると、毎日の値動きを使うのか、毎週の値動きを使うのか、月末毎のそれを使うのか、全部出て来る答えは違ってくると思いませんか?当然、どの位の長さを計測するのかなども、どうやって決めましょうか?毎日の値動きを3か月分で良いのか、1年分使うのか、或いは一週間分を数年分にするのかなど、色々な決め方があります。

更に追加的に考えると、今年の3月末の前後のような急落と急上昇の局面のデータをどう取り扱うかも問題です。リーマン・ショックなども同様です。考えられる方法としては、その前後の一定期間だけ「イレギュラーな期間」としてデータを抜いてしまう方法もあれば、全て使う方法もあります。そうした過去データの分析方法も色々と研究して、独自に最適と思われるものを決めないとなりません。当然それは一度決めたら長く使うルールですから。毎回毎回変更していたのでは意味がありません。

期待リターンの決定方法にも色々な方法がある

同じように難しいのが期待リターンの算出です。この期待リターンの違いによって全く別のアセット・アロケーションが出来上がります。また非常に恣意性が入り易い部分でもあります。恣意的に成ること自体は問題ありませんが、それが欲目だったり、願望だったりしたら、折角定量的にデータ解析しようとしても意味が無くなります。

古典的かつオーソドックスな方法が「年末の日経平均株価を25,000円と仮定すると、今年の日本株の期待リターンは○○%になる」と言った「えいや!」と言った感じのアナログな方法です。その一方で、例えばマクロ経済のデータ数値を予測して、そこから計算して期待リターンを決める方法もあります。これは一見すると合理的に計算されているようですが、そもそもマクロデータを予測する段階でアナログな「えいや!」方式が含まれてしまっています。

ならばということで当然そのマクロデータ自体の予測を定量的に行おうというやり方もあります。計量経済学などを専攻されている人には馴染みのある方法かも知れませんが、基本的に確かな数値は過去の実績値以外にはあり得ず、どう計算するにしてもパラメータ(変数)設定や取得方法に恣意性が入ります。

一方で、全く違ったアプローチもあります。それは現在の市場価格には市場が考えている「未来予測」が既に時価に織り込まれているので、そこから逆算して現在価値との比較から期待収益率を求めようとするやり方です。実際にバークレイズ時代のモデルがこのイメージを利用していました。ただこれについても、必ずしも恣意性が無いかと言えば当然あります。つまり市場の未来予測は「どの程度の未来」なのかという部分です。来年までを見通しているのか、5年先まで見ているのかなどは決めないとなりません。ただ個人的には今までの自身の経験に照らして、このアプローチが最も理に適ったやり方だと思っています。

そこで考え出された、尚且つ一般の人に説明すると非常にセールストーク的にも優れて聞こえる「AIに計算させる」というものがありますです。最近はいろいろなAIモデルが商品化はされていますが、ひとつ断言出来るのは自己プログラミングを自ら書き換えて、人間の人智を全く通さずに計算するAIは今現在でもありません。何らかの道標は必ず人間が提供しています。基本的には何某かの説明力の高い事項を莫大な量、或いは無尽蔵に近いかも知れない量のデータから探し出して、或いはデータ化して、それを元に計算するのがAIです。

例えば全世界の新聞記事で取り上げられているニュースや単語からディープラーニングして、過去にそれらに対して市場がどう反応したのかなどを分析した上で未来予測を立てるといったものです。Yahooファイナンスの掲示板の書き込みを隅々まで読み込んで、市場の思惑を判断するというAIは既に作られて某社の投信運用に利用されています。ただ当然国際分散投資のアセット・アロケーションにはYahooの掲示板の書き込みだけでは対応出来ません。AI、AIと喧伝されてはいますが、技術水準的にはそうしたものまでが現状です。

そして一番大事なことは、いつもお伝えしていますが、今現在、物凄い勢いでこれらAIの演算能力の技術革新が行われているということです。つまり今は最先端だと思っていても、あっと言う間に陳腐化するということです。私が定量分析専門のファンドマネージャーとしてデビューした当時(1988年)に1台1000万円以上するワークステーションでひと晩かけて計算処理させていたものが、今では手許のパソコンでもExcelで瞬時に計算出来てしまいます。クルマの自動運転だって既にレベル3がほぼほぼ完成が目に見えて来た段階です。目標はレベル5の完全自動運転なのだとしたら、まだまだ技術革新は続きます。

長期投資の為の国際分散投資なのに、数年後には電卓並み扱いになる可能性がある今のAIに任せてしまったら、あっと言う間に「竹槍戦法」と同じになってしまうかも知れません。

国際分散投資のモデルポートフォリオと言っても沢山の種類がある

このように、アセット・アロケーションを決定する一番大事な要素である、各アセットクラスの配分割合の決定方法でもいろいろな決め方があります。ただひとつ確かなことは、運用会社や専門家は誰もがより良いパフォーマンスに繋がる分散比率を可能な限り単純な「相場観」で決めようとはせず、多くの合理的な方法を考えているという事です。

一方で、それと同時に、その方法がお客様にとって「それらしく見える」、つまりアピーラブルな方法としても考えているという事です。セールスに繋がらなければ意味が無いからです。だからこそ、信頼のおけるアドバイザーが必要な乗ろうなと思います。逆に一番やってはいけないのが「適当にこう決めて置けば、同じような結果になる」と適当に決めることです。必ずどこかで「こんな筈では無かった」という目に会うだろうと思います。

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ファンドガレージ 大島和隆

Fund Garageへようこそ。主宰の大島和隆です。投資で納得がいく成果を得る最良の方法は、自分自身である程度「中身の評価」や「モノの良し悪し」を判断が出来るところから始めることです。その為にも、まず身近なところから始めましょう。投資で勝つには「急がば回れ」です。Fund Garageはその為に、私の経験に基づいて、ご自身の知見の活かし方などもお伝えしていきます。