We workの件で値下がりしていますがどのように考えたら良いですか?
最近はソフトバンク・グループについて沢山の質問を頂戴する。それだけ注目されている企業だということなのだろうが、中には「この人はどうしてソフトバンク・グループの株を買ったのだろう」と寧ろこちらが不思議に思ってしまうような例も散見される。
ここでは具体的な同社に対する投資判断は控える(FGレポートプレミアムでは、投資判断の材料をより詳細に解説)が、その導入部分という意味も含めて、今回のような場合はどう対応したら良いのかをお伝えしたい。
不安と好奇心が交錯する
事象としては『ソフトバンク・グループが運営している「ビジョンファンド」の投資先であるWe workが上場延期になり、また諸々メディアを賑わす話題が振り撒かれていることから、同社の株価が連日のように軟調に推移している』ことが問題だ。
そして
保有しているが大丈夫か?
値下がりしたので買いたいが大丈夫か?という質問や問い合わせを頂戴することになる。
こういう質問を頂戴した時、私が最初にするのは「どうしてソフトバンク・グループに興味を持たれたのですか?」という動機、きっかけの確認だ。まずはそこから始めるのがFund Garageの投資哲学だ。
冷たく聞こえるかもしれないが、もしその答えが「何となく面白そうだと思ったから」とか「営業マンに薦められたから」という希薄な答えだとしたら、保有されている方には「タイミングを見て早めに処分された方が無難でしょう」とお答えし、買おうかなと思っていらっしゃる方には「他の銘柄にされた方が良いかと思います」とお答えするようにしている。
何故なら、株式投資とは「その企業のオーナーとなって、その企業と同じ夢を共有すること」であると考えているからだ。これは私がファンドマネージャー時代から変わらず続く基本の投資哲学だ。企業と同じ夢を共有する為には、その企業が何をしているのか、どこを向いて走っているのか、その夢は正夢となる確率は高いのかなどは最低限知っておかなければならない。
「夢」と言う表現はかなり抽象的だし、資本主義社会のど真ん中の株式市場にあっては、何ともロマンチックな言い方に聞こえるかもしれないが、投資の原点というのはまずそこから始まると思う。単に「金儲け」がしたいだけならば、成功するかしないかは別にして、もっと直接的に投機的アイデアを語るところは他にあると思う。ただ、私はこの考え方で今まで成功してきたと思っている。
話は戻ってソフトバンク・グループ。実はこの会社は昨年子会社のソフトバンク株式会社(通信会社)を上場させたことにより、通常の事業会社というより純粋な投資会社に変貌した。極端な言い方をすれば、会社自体が「投資信託(ファンド)」のようなものである。
従って、財務諸表の見方も、事業内容の分析の仕方も、普通の上場企業とは違った方法で行う必要がある。恐らく普通に貸借対照表や損益計算書を紐解いて収益予想モデルでも作ろうとしたならば、それは完全に徒労に終わるだろうと思われるぐらいだ。だからこそ、同社自身が率先して決算短信の中で「今後の見通しについて:未確定な要素が多く、連結業績を見通すことが困難なため、予想の公表を控えています。」と記述しているぐらいだ。
ならばどうしたら良いのだろうか?実は答えは簡単だ。同社のWebサイトを訪ねて、IR情報(投資家向け情報開示のコーナー)の文字をクリックしてみれば良い。そこに答えがある。
何かあったら、その企業のWebページのIR情報を確認するという方法は今回のソフトバンク・グループに限らず、他の銘柄でも同様だ。
「犯罪現場には必ずヒントがある」という推理小説ではないが、米国企業に比べると日本企業のそれは見劣りする場合が多いものの、企業のWebサイトにあるIR情報を訪ねることこそが、刑事さんの「現場100回」に相当する投資の基本アクションであり、情報の宝庫へのアクセス手段である。
何故なら、通常、上場企業は幅広く投資家を集めて、安定した株主となって貰い、それが増えることによって株価を上げていきたいと思っている。だからこそコストと手間暇を掛けてIR活動などを行っている。逆に言えば、IR活動が疎かで、株主や投資家の方を向いていない会社ならば、余程の例外的な企業を除いて投資対象などと考えるべきではない。それは資本市場から資金を搔き集めた本質的な意味を理解していない証拠であり、いずれ経営が行き詰まるか、投資家から見放されて株価は悲惨な状態へとなっていくだけだからだ。
ソフトバンク・グループの場合、まずWebサイト上のIR情報にアクセスすると、他社に比べた場合の情報量の多さに驚かれるかも知れない。前述したように、普通には分かりづらい面が多い会社であるがため、何とか株主や投資家に理解して貰おうと工夫を凝らしているのが良くわかる。
その端的な例が、定時株主総会を含め、決算説明会や記者会見など、孫正義会長自身がプレゼンテーションをしている動画が、その資料と併せて開示されていることだ。まずはその幾つかの動画を視聴してみることが、同社を理解する上での第一歩になると思う。
そして「ああ、なるほどね。そういう事を目指している会社なのね。面白いじゃない」と思えて同じ夢を見ようと思ったら投資を始めたら良いと思う。また四半期毎には決算説明会が行われ、最新の情報がアップデートされる筈だ。それらを見て「頑張っているね」とか「同じ方針を貫いているね」と思え、そして変わらずに面白いと思えば株主であり続ければ良いし、同じ夢を追い続けることが出来る。定性的なものだけでなく、きちんとデータや考え方も記載されているから、それらをどう判断するかは投資家自身の考え方によるだろう。
逆にもし「まだあの考え方に固執して、舵を切り返していないのか」と疑問に思うようならば、株主でいることを諦めれば良い。たとえそれが利食いでも、損切りでも、経営者が見ているものが違っている、受け入れられないと思ったならば、株主を辞めるしかない。もし過半数以上の議決権を持つほどの大株主ならば、経営陣をクビにすることも出来るのだが、普通、それは難しい。そんな大金持ちはそうそう居ないからだ。繰り返しになるが、株式投資は短期に上がった下がったを追い掛け回すものではない。それでは、競馬と同じだ。
このやり方はソフトバンク・グループに限った話では無く、全ての銘柄に対する投資の入口ですべきことであり、途中で迷った時には、投資方針を確認出来る方法だ。
唯一欠点があるとすれば、損益度外視で会社やその経営者に惚れ込んでしまって、株価が上がろうが下がろうがお構いなしになってしまう可能性があることだ。ただその時は金銭的な損得勘定とは全く違った効用に満たされているので、結果的には問題ない投資となる。
ソフトバンク・グループは通常に分析するには、恐らく専門家でも難しい会社だと思うが、逆に株式投資の仕方を学ぶ上では、極めて有意義な会社の一つだと思う。だからこそ、もしソフトバンク・グループの株式投資のことで悩んでいるのならば、まずは自ら最低限WebサイトのIR情報から孫正義会長のプレゼンテーションを視聴することを強くお勧めする。きっとそこに投資家が探している答えがあるからだ。
保有しているが大丈夫か?
値下がりしたので買いたいが大丈夫か?
という問い掛けに対する安易な答えを求めている限り、あなたの株式投資のスキルは決して上達しない。
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