世界のIT業界をリードし、米国株式市場の大部分を支配する「GAFAM」や「マグニフィセント・セブン」。2023年10月末に行われた各社の決算発表は、当時の市場の明暗を分ける要因となりました。
有料版のプレミアムレポートでは、銘柄ごとに決算の内容を確認しながら、それに伴う市場の動きと、各社の強みや将来性について、プロのファンドマネージャーがリアルタイムに解説しており、今回は、その記事の一端をお見せします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
「GAFAM(マグニフィセント・セブン)」の決算が招いた混乱
先週一週間の各市場の騰落率は下記の通り。
先週(2023/10/30当時)の米国市場の大きな混乱要因は、米国政府閉鎖問題(詳細は前回の無料記事『米国政府閉鎖への懸念』を参照)と、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる7銘柄の決算発表だろう。
「マグニフィセント・セブン」とは、「GAFAM」(アルファベット(GOOG)、アップル(AAPL)、アマゾン・ドットコム(AMZN)、メタ・プラットフォームズ(META)、マイクロソフト(MSFT))に、エヌビディア(NVDA)とテスラ(TSLA)を加えたものである。
「マグニフィセント・セブン」はたいてい、S&P500で3割前後、NASDAQで5割前後のウェイトを占める。参考として、各社の2023年10月30日終値と、2024年5月24日終値の比較表を以下に掲載する。
前週のテスラに続き、先週はアップル以外のGAFAM4銘柄が揃って2023年7‐9月期の決算発表を行った。
その中で、特に市場に大きな影響を与えた動きは以下の通りだ。
- マイクロソフトのクラウドサービス「Azure(アジュール)」の動向に比ベ、アルファベットの「GCS(グーグル・クラウド・サービス)」の勢いが、主として生成AI関連面で劣勢と捉えられた。結果、極端に両社の株価が反応した(マイクロソフトが上昇、アルファベットが下落)。
- メタ・プラットフォームズが、2四半期連続増収増益となって過去最高の決算を発表した。しかし、決算説明会でスーザン・リー最高財務責任者(CFO)の説明が曲解され、株価が急落した。
- アマゾン・ドットコムの内容は、純利益が前年同期に比べ3-4倍となるほど、祖業であるネット通販が力強さを取り戻していることが証明された。同時に、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の売上についても過去最高を更新した。
では、GAFAMの中で今回決算を発表したアップルを除く4社の決算内容を、次から個別に見ていこう。
アルファベット(GOOG)の決算
- 第3四半期のGAAP EPS は$1.55で、市場予想を $0.10上回った。
- 収益は $76.79B (前年比+11.1% ) で、市場予想を$980M上回った.
過去5四半期で最高の売上高成長率を達成し、売上高と最終利益で予想を上回った。この増加は、広告市場の回復が続く中、これまでの一桁の収益増加が続いていた流れが変わったことを意味する。しかし、Googleのクラウド部門の収益は予想ほど速くは伸びず、市場予想を上回らなかった唯一の部門となった。
メタプラットフォームズ(META )の決算
- 第3四半期の GAAP EPS は $4.39で、 市場予想を $0.76上回った。
- 収益は $34.15B (前年比+23.2%) で、市場予想を$700M上回った。
スーザン・リーCFOの投資家向け電話会見で、「われわれはマクロ環境の変動に大きく左右される。2024年の収入見通しは不透明だ」と述べたと伝わり、メタプラットフォームズの株価が下落するきっかけになったとされる。
アマゾンドットコム (AMZN)の決算
- 第3四半期 EPS の $0.94 は、リビアンオートモーティブ社への投資による税引前評価益11 億ドルが含まれるため、市場予想の $0.60との単純な比較は難しい。(FundGarage脚注:だが、過去に評価損で最終損益にダメージを与えた時の市場反応はとてもネガティブなものだったことを忘れてはいけない)
- 収益は$143.1B (前年比+12.6% ) で、市場予想を$1.54B上回った。
- AWS部門の売上高は231億ドル(前年同期比+12%)。
CEOのアンディジャシー氏は、AWS にとって生成 AI は今後数年間で数百億ドルの収益に相当すると述べた。「アマゾンにとって生成AIはまだ初期段階ではあるものの、すでに比較的大きなビジネスとなっている」と幹部らは電話会議で言っている。
マイクロソフト(MSFT)の決算
- 第 1 四半期の GAAP EPS は $2.99 で、市場予想を$0.34上回った。
- 収益は$56.5B (前年比 +12.8%) で、市場予想を$1.95B上回った。
エイミー・フッドEVP兼CFOは、「当社の営業チームとパートナーによる一貫した努力により、Microsoft Cloudの収益は前年比 24% 増 (為替変動の影響を除いて 23% 増) の 318 億ドルとなり、会計年度は好調なスタートを切った」と語った。
メタ・プラットフォームズ(META)とアルファベット(GOOG)下落の背景
正直、なぜ市場がネガティブなリアクションをメタプラットフォームズ(META)とアルファベット(GOOG)に対して起こしたのか全く分からない。
メタに関しては、先月シリコンバレーの本社でのイベントで現状の考え方なども確認していた通り(無料記事『FG米国視察ツアー①シリコンバレーの光 編』を参照)であり、またスーザン・リーCFOが発言した内容は、「CFO」としての職責で、現下のマクロ環境であれば、何ら「因縁をつける」かの如くにネガティブ・リアクションを起こすようなものではなかった。
総じて、スーザン・リーのコメントは、外部環境の不確実性を認識しつつも、ビジネスの基本や製品の価値に自信を持っているというバランスの取れたものであったと言えよう。つまり彼女は、悲観的な立場を明確に取っているわけではなく、現在の状況や将来の不確実性を、CFOとして現実的に評価しているということだ。
むしろ、「マクロ環境に何が起きようと、わが社のビジネスモデルは堅牢であり、社員のモチベーションも高いのでアップビートで行けるだろう」とでも言われた方が、よほど信頼を失うだろうさえ思われた。CFOという職責が「ビッグマウス」である必要は全くないのだから。
また、アルファベット(GOOG)の決算内容も、広告ビジネスの回復が見られる。さらにGCSに関しても、決して「批判すべき」ようなレベルの収益状態ではない。
アルファベット(GOOG)は、対話型AIを開発する米新興企業「Anthropic(アンスロピック)」に最大20億ドルを追加投資することで合意したとも発表している。Anthropicは、OpenAIが開発したChatGPTの最大のライバルと目されているが、どちらも元を質せば、グーグルの研究者たちによって2017年に発表された論文 “Attention Is All You Need” で初めて紹介された「Transformerアーキテクチャ」が元となっている(半導体のアーキテクチャについては、無料記事『AI時流に乗るARMアーキテクチャ』を参照)。ちなみに、Anthropicの創業者は、大規模言語モデル「GPT-2」や「GPT-3」などの開発に5年近く関わっていたダリオ・アモデイ氏だ。
アルファベットCEOのサンダー・ピチャイ氏は、「検索・YouTube・クラウド・Pixelデバイスなどにおける“AI主導”のイノベーションにより、今四半期の財務結果と製品の勢いに満足している」と述べた。
ただ強いて言えば、マイクロソフト(MSFT)の決算内容の方が、若干プラスに見えたことは否定できない。
決算では、「当社は、オラクルのデータベース・サービスを実行する他の唯一のクラウドプロバイダーである。顧客によるオンプレミスのオラクルデータベースを、当社のクラウドへ移行させることが容易になる」と説明されており、マイクロソフトのそれが先行しているように感じられたのかも知れない。
もっと言えば、「ChatGPT」という非常に分かり易い生成AIや、夏に発表された「Copilot」など、生成AIの収益モデルの見える化が進んでいたことも、株価上昇の要因だろう。
まとめ
今回は、GAFAM(アップルを除く)の決算発表の内容を以下の通り解説した。
- 先週の米国株式市場は、「マグニフィセント・セブン」の決算発表があったことで、大きく動いた。
- アルファベットは、過去5四半期で最高の売上高成長率を達成したが、クラウド部門(GCS)は伸び悩み株価は下落。ただ、アンスロピック社に追加投資するなど、生成AI事業に注力する姿勢はもっと評価されるべきだ。
- メタ・プラットフォームズは、過去最高の決算を発表したものの、スーザン・リーCFOによる決算説明が曲解され株価は下落。しかし彼女の発言は、現在の状況や将来の不確実性を、CFOとして現実的に評価していたにすぎない。
- アマゾン・ドットコムの決算発表では、ネット通販の強さが強調されると同時に、クラウド部門(AWS)の売り上げについても過去最高の結果となった。
- マイクロソフトの決算内容は、自社の生成AIやクラウドサービスの優位性が見えるものであり、株価の上昇につながった。
冒頭で表にした通り、半年間で各社の株価は大きく動いている。特に「マグニフィセント・セブン」はS&P500で3割前後、NASDAQで5割前後のウェイトを占めるため、各社の株が動けば、市場は敏感に反応する。
今回のように、決算発表をおさらいすることも日々の投資活動に役立つだろう。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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