FG Free Report 米国政府閉鎖への懸念(10月23日号抜粋)

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今回のメインテーマは、2023年9月から11月にかけて米国市場を混乱させた、2024年度予算案の合意が取れないことによる政府閉鎖危機についてです。アメリカ以外の国ではあまり聞き馴染みのない「政府閉鎖」ですが、一体どのようなものなのでしょうか。本記事では、アメリカの当時の様子をお伝えしながら、政府閉鎖とその影響について、プロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

米国予算案と政府閉鎖

政府閉鎖とは何か?

政府閉鎖とは、政府機関がその機能を停止することを意味する。

米国の会計年度は10月1日〜9月30日であり、新年度予算が毎年9月30日までに合意されない限り、米国政府は支出ができないと決められている。

もし新しい予算が合意されなかった場合の次なる手段として、暫定予算(=Continuing Resolution。CR、つなぎ予算とも呼ばれる)がある。

「暫定予算」が承認されると、前年度の予算レベルで政府の資金提供を一時的に継続することが可能だが、承認されないと、政府閉鎖が起こってしまう。

政府閉鎖が起こるとどうなるのか?

では、米国政府がお金を使えなくなると、どのような影響が出るのだろうか。

  • 職員の給与が支払われなくなる(約200万人に及ぶ政府職員がその間、無給)
  • 現役軍人に給与が支払われなくなる
  • 中小企業向けや子供向けの主要なプログラムの停止
  • 主要なインフラ整備の遅延
  • 税金還付、パスポート・ビザ発行の遅れ
  • 連邦政府の助成金や奨学金の支払いの遅延

以上が全てではないが、このように多くの公的サービスに影響を及ぼし、長引けば国民生活が大混乱に陥ることが想定される。

2023年の米国政府閉鎖危機について

今回の米国政府閉鎖危機については、2023年10月1日から4回に渡りプレミアムレポートでお伝えしていた。その様子を、本項では時系列にまとめる。

2023年9月30日

2022/10/1~2023/9/30の予算が切れる期限ギリギリの9/30に45日間の暫定法案が成立。これによって、ウクライナへの支援は外された状態、つまり民主党側が妥協した形でのつなぎ予算が成立した。

この暫定予算成立のために、民主党と共和党の両方で折り合いをつけるよう下院で尽力していたのが、共和党のマッカーシー下院議長(当時)であった。

下院議長の空席問題

2023年10月3日

共和党の保守強硬派のマット・ゲーツ議員が、マッカーシー下院議長の解任動議を提出、あっという間に216対210の賛成多数で可決となってしまった。下院議長の解任は、史上初めてとなる。

次の予定としては来週10日に後任候補を協議し、翌11日に投票を行うことになるようだが、この間、下院議長の解任により下院の立法作業は停止する。

現在、「暫定予算」で政府は動いているが、議会が新たな予算案を可決しない限り、11月17日には再び政府機関閉鎖を決する期限がやってくる。

10月12日

11日、共和党のスティーブ・スカリス議員(ルイジアナ州)が、下院議長の共和党公認候補として選出された。

しかし、一部の共和党議員からの不支持(スカリス氏が白人至上主義者の会議に出席した過去が理由)で票を纏めることができず、結局スカリス議員は下院議長の選挙から撤退してしまった。

そして仮に新しい下院議長が決定し、下院での審議が始まったとしても、11月17日までに米国議会が「新しい予算」を決定できるかどうか、そのハードルはどう考えても低いとは思えない。

共和党マッカーシー元下院議長が、党内の保守強硬派から解任動議を提出された流れを考えると、共和党内に強いリーダーシップを持った政治家が出てこない限り、ウクライナ支援や移民問題を巡る対立、貧困層への支援といった課題を残したまま「暫定予算」が承認されると楽観視することは難しいだろう。

10月18/20日

この両日、第2回目と第3回目となる下院議長選挙を行ったが、結局下院議長を決めることはできなかった。

現在、候補となっているのは引続き共和党・保守強硬派で、「ハウス・フリーダム・コーカス」の創設者でもあるジム・ジョーダン議員(オハイオ州)だが、悪いことに、議長選挙の回を重ねる程に得票数は減っている。

このまま予算がつかなければ、バイデン大統領がウクライナにも、イスラエルにも約束している追加支援は「単なる口約束」でしかなくなる。

バイデン大統領がいくら「世界は歴史の転換点にある」と言い、いくら「米国のリーダーシップが世界を団結させている。米国の同盟関係は、われわれ米国に安全をもたらしている。そして他国は米国の価値観を理由に、パートナー国として協力したいと考えている」とアピールしてみても、予算がつかなければ意味がない。だからこそ、ウクライナのゼレンスキー大統領は焦っている。

10月25日

米下院は、共和党の保守派マイク・ジョンソン議員(51)を次期下院議長に選出した。

だが、これで万事解決ではなく、審議するインフラができただけであることを忘れてはならない。

さらに、ジョンソン議員に決まるまでの紆余曲折の中で、共和党内のみならず、米国議会の様々な問題も露呈している。

それが「米国政治の二極化(Political polarization)」であり、その最右翼が共和党・保守強硬派だ。

ジョンソン議員はこの保守強硬派ではないが、「社会的保守派」とみられており、ドナルド・トランプ前大統領にも近い人物とされる。というのも彼は、トランプ氏が弾劾訴追を受けた際の弁護団の一員だったのだ。

ジョンソン議員は、議長としての主な優先事項として、国境警備・インフレ・中東での紛争を挙げ、最初に審議する法案は、超党派の合意が形成されている数少ないテーマである、イスラエル支援に関するものだと約束している。ウクライナをめぐっては、党内の右派の多くと同様、さらなる支援に反対している。

ちなみに、ジョンソン議員は、中絶の権利や同性婚に反対するなど、多くの問題で断固として保守的な立場を取っていることなども、今後の審議への影響が懸念される問題だ。

予算が何らかの形で纏まるのが先か、11月17日の期日が来るのが先か、実は全く予見を差し挟む余地もない。

下院議長の役割

ところで、なぜ下院議長が決まらないことが政府閉鎖につながるのだろうか。

米国の下院議長(英語では「スピーカー(speaker)」と呼ぶ)とは、議会下院の統括者であり、大統領権限継承順位では副大統領兼上院議長に次ぐ第2位に位置する。

また下院議長は、採決する法案の委員会への送付、そして可決された法案や決議への署名という大きな権限を持つ。

これは、米国の大統領制のもとでは厳密な三権の分立があり、下院議長は立法府で最も力のある立場となっているからだ。

逆に、上院議長は副大統領が兼ねるが、立法上の権限はあまり与えられていない。

法案を審議し、立法するまでのイニシアティブを握るのは、三権分立が進んだ米国では下院の役割。その議会を取り纏めるのが下院議長なので、まずはこの席を誰かに決めなければ何も始まらない。

現在、「ねじれ議会」となっている米国では、下院の過半数を握る共和党議員と、バイデン大統領率いる民主党の上院議員が議論をし、予算案に合意する必要がある。

市場の懸念:米国債信用格付け引き下げ騒ぎの可能性

11月17日までに、新年度予算法案を可決するか、2度目の「暫定予算」を決定しない限り、米国政府はその先お金を使えなくなる。

これは、米国の信用格付けの低下を招くリスク(ほぼ間違いなくMoodysが格下げする)につながり、国際的な信頼や外交関係に影響を及ぼす可能性さえもある。

だから、米国の資本市場が今現在、最もナーバスになっているのは、FOMCでもなければ、中東情勢でもなく、この「予算案と政府閉鎖問題」だ。予算が決まらなければ、ウクライナやイスラエルへの追加支援に振る袖さえ、そもそもないのだから当然だろう。

現在、米国債の格付けについて最上位トリプルA格を与えているのは、ムーディーズ・インベスターズ・サービス(Moodys)だけだ。

しかしそのムーディーズも先月25日、「もし9月30日の時間切れによって米連邦政府閉鎖に追い込まれれば、米国債の信用面でマイナスだ」と表明した。

経済への影響は「短期的」とする一方で、金利上昇と債務残高の膨張で年間の返済負担が増える以上、「財政の柔軟性はさらに低下する」とも言っている。

つまり、格付け会社大手3社の中で唯一残った「AAA」のムーディーズも格下げを検討せざるを得ないということだ。間違いなく、フィッチ・レーティングスが格下げを行った時よりもインパクトは大きくなるはずだ。

この問題、更に紐解けば、今年5月の米国債務上限問題に遡る。そしてその根底にある課題は、米国の歳出・歳入そしてその予算手当の審議方法(現状は全てが別々に行われる)にあることが分かっており、この問題は2025年1月の債務上限問題の棚上げ期間終了時に、遅くとも再度必ず蒸し返される。

現時点、それを避けて通る方法はない。

まとめ

今回は、以下のことを中心に、米国の政府閉鎖についてお伝えした。

 

  1. 2023年10月米国下院議長の解任があり、新年度予算法案が可決されなかったため、米国政府は政府封鎖の危機に瀕した。
  2. 下院議長とは、米国の立法に最も権限のある人物であり、下院議長が決まらない限り、予算法案が可決されることはない。
  3. 11月17日までは、「暫定予算(つなぎ予算)」で政府の活動を維持する措置を講じた。
  4. 下院議長解任から約3週間後、ついに新しい下院議長が決まったが、米国国内では「政治の二極化」が進んでいるため、期日までに予算法案がまとまらない可能性も案じられている。
  5. 政府閉鎖は、政府職員(民間含む)や軍人の無給・インフラ整備の遅延・税金還付の遅れなど、国民にとって大きな打撃となるほか、米国市場が特に懸念しているのが、米国債信用格下げの可能性についてである。

 

日本のメディアでは、ウクライナ戦争の悲惨さばかりが報道され、米国政府閉鎖への危機感はあまり大きく報じられていないのが事実だ。

しかし、世界経済をリードしている米国の政府がお金を支出できないということは、長引けば国際的な問題になりかねないことを意味するのだ。もちろん、ウクライナ支援も、政府閉鎖が起こればお話にさえならない。

どの投資家にとっても、米国の状況は必要不可欠なもの。しっかりと情報は入手していきたい。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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