FG Free Report 電気自動車の課題と水素エンジン車の未来(4月24日号抜粋)

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世界的に推し進められている「カーボンニュートラル(=脱炭素)」。自動車に関しては、「電気自動車(BEV)」というひとつの解決法がありますが、一筋縄ではいかないようです。そこで、注目されているのが「水素エンジン車」です。今回は、本当に環境にやさしいエネルギーとは何かを、プロのファンドマネージャーの視点で考えていきます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——「電気自動車と水素エンジン車」

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、「電気自動車の問題点と水素エンジン車の将来性」について解説していきたい。

また、以前のFree Reportでもトヨタの水素エンジン車について紹介しているので、そちらも合わせてご覧いただけると、より理解が深まるだろう。

☟リンクと記事概要はこちら☟

『トヨタのカーボンニュートラル実現への道』…電気自動車のみでは、自動車のカーボンニュートラルの達成は厳しい。トヨタは、カーボンニュートラル実現に向けてさまざまな取り組みを行っている。

テスラの決算、電気自動車(BEV)の限界か?——BEVの問題点を探る

4月19日に行われたテスラ(TSLA)の決算発表は、低調な結果に終わった。値下げをしているにも関わらず、である。これは、従来の決算内容とは別にして考える必要があるだろう。

内容的には、「売上高233.3億ドル(前年同期比24.4%増、2022Q4比▲6000万)、希薄後EPS 0.85ドルであった。株価は、翌日の本市場で9.7%の下落となる1 月下旬以来の安値で取引を終えた。そして、当日の出来高は 2 億900万株を超える大商いとなった。

イーロン・マスク CEO は決算後のアナリスト電話会議で、主要な電気自動車メーカーはボリューム(販売量)を優先してマージン(利ザヤ)を犠牲にする傾向があり、そこに同社も同調していることを示唆した。それは、ボリューム戦略が長期的には価値を生む可能性があると考えているからだという

しかし、果たして本当にそうだろうか。

値下げを続けてマージンを圧迫してでも売ろうとしないと、もし本当に「売れない」のだとしたら、それはそもそも、消費者のニーズがそこにないことの表れなのではないだろうか。

端的に言えば、「人々は、本当に電気自動車(BEV)を欲しているのだろうか」という問題が浮き彫りになってきたということだ。

また、電気自動車が欧州で相当量販売出来たという裏では、かなりな補助金が支払われているからだという真実も隠されている。事実、その補助金の枠が底を尽いた国では、電気自動車の販売が一気にストップしたという。

だからだろう、テスラが7500ドルの補助金の対象から外れる(中国製のバッテリーを使っているのが一因)となった途端、メーカーが直接値下げをせざるを得ない状況となったのだ。

ハッキリ言えば、値段を下げないと販売出来ないものは、その裏に「定価で買うだけの魅力がない」というものが基本的な考え方だ。(投資判断で大切にしたいポイントである。)

もちろん、「カーボンニュートラル」という大命題の前に、排気ガスのない電気自動車(BEV)がソリューションのひとつであることは否定しない。

だが、BEVには以下のような大きな3つの問題がある。

① 電気自動車を充電するための発電をどうするのか

②バッテリー材料、具体的にはリチウムイオン電池に利用されるニッケルやコバルトなどの重金属を作る際の環境負荷が大きい

③材料の安定調達が難しい

これらの点を考慮すると、「電気自動車はこぞって世界が“主力”として受け入れるものになれるのか?」という疑問を解決できない。

BEV充電に必要な発電について考える①——脱Co2 vs. 脱原子力

たとえば、上記①で示した「BEV充電に必要な発電」について考えてみよう。

2023年4月16日、ドイツは15日に国内最後の原発3基が稼働を停止し、「脱原発」を実現したと伝えられた。

しかし、実際にその失われた発電力源を賄っているエネルギーは、直接的に二酸化炭素の排出を伴うものだ(2023年上期のドイツでは、風力や水力など自然エネルギーによる発電が約半分を占め、それ以外は主に化石燃料でまかなっている)。

また、世界原子力産業報告書(WNISR)によると、現在41カ国で412基の原子炉が今なお稼働中であるという。

「脱CO₂」を優先すべきなのか、「脱原子力」を優先すべきなのか、という基本的な議論が蔑ろにされているという印象はぬぐえない。

私個人的には、決して原子力発電に反対ではない。むしろ、発電に自然エネルギーと同程度のCO₂しか排出しない原子力発電は、現実と理想を天秤にかければ、カーボンニュートラルのひとつのソリューションであるだろうと思う。

ただ、原子力発電はまだ社会的なコンセンサス(意見の一致)が取れている話ではないというのが事実だ。

現に日本でも、東日本大震災で頓挫した原発開発が、ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機によって復活しつつあり、日本政府は現在停止中の原子炉再稼働・新たな原発の建設を呼び掛けている。しかしながら、今なお原発への不信や反発が多いのも事実だ。

一方、世界を見てみると原子力発電が活発な国は多い。

  • 中国:現在稼働中の原子炉が57基、建設中の原子炉が21基。
  • インド:19基が稼働中で、8基が建設中。
  • ポーランド:21年に6基の建設計画にゴーサインが出た。
  • 米国:世界最多の92基を稼働する。バイデン政権は原子力発電を脱炭素エネルギーの主力に据えようとしており、昨年には60億ドル(約8000億円)を投じて老朽化した原発を救う計画を打ち出している。
  • フィンランド:4基の原子炉が、国内の3分の1に相当する電力をまかなっている。
  • フランス:56基が稼働している。国内のエネルギー需要の7割近くを原子力発電に依存する。

…などなど。

すなわち、火力発電のオルタナティブになっているのは、基本的には原子力発電だということが分かる。

ベルギーのドール原子炉。全廃が決まっていたが、ウクライナ問題等により運転期間が延長された。

今夏、経済活動の回復に伴い、また地球温暖化も影響しているのか、猛暑・酷暑が続けば日本国内の電力需要は逼迫する。

そんな状態にもかかわらず、ガソリンスタンドで現在ガソリンを給油しているクルマが全部、今度はコンセントにエネルギーを求めたら何が起きるかは、火を見るよりも明らかな結果が待っている

そもそも充電設備が全く足りていない現状もあるので、全てを同時に進行・達成させるというのには、大きな疑問が残るだろう。

BEV充電に必要な発電について考える②——水素 vs. 自然エネルギー

さして話題にはなっていない気がするが、「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法案」が3月30日に衆院を通過したことは意味があると思われる。

「GX(グリーントランスフォーメーション)」とは、化石燃料に頼らず、太陽光や水素など自然環境に負荷の少ないエネルギーの活用を進めることで二酸化炭素の排出量を減らそう、また、そうした活動を経済成長の機会にするために世の中全体を変革していこう、という取り組みだ。

そんな日本が世界に比べて進んでいる技術の1つは、「水素」との関わり合いだ。

ここで、水素と自然エネルギーをそれぞれ比較してみよう。

 

〈水素〉

水と電気があれば水素は作れるが、従来の水素の作り方は化石燃料系から触媒などを使って取り出していたため、どうしてもCO2が排出されてしまっていた。

しかしそのCO2を回収して、そこからe-fuel(=合成燃料。二酸化炭素と水素を合成して生成される。)を作るという技術もあるし、またCO2自体は地下に圧送して貯蔵するという話もある。

しかも、水素は気体のままだと大きな体積が必要だが、液体水素にすれば物理的には体積が1/800になる。ただ液体水素の沸点は-252.6℃と極めて低温であるため、その貯蔵方法などが難しいという課題もある。

〈自然エネルギー〉

太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを活用した発電システムの問題点は、気候自体をコントロールすることができないため、発電量の確保がそもそも文字通り「風任せ」になってしまうことがひとつだ。

そしてもうひとつは、電気が貯蔵できない(効率的にバッテリーに貯めるという技術は、正に今現在の開発課題だ)ということだ。

 

このような現状で、太陽光や風力で発電した電気で水を電気分解して水素を取り出し、それを貯蔵して必要な時にエネルギーとして使うという方法が、現在実用に向けて開発実験が進んでいる。

これは、風力・太陽光発電の問題点である、出力調整と貯蔵の問題を補完できるという長所がある。

このような方法で取り出した水素を、「グリーン水素」と呼ぶ。

風力発電や太陽光発電などの最も効率的な利用方法というのは、この方法だろうとも言われている。

トヨタ自動車が地道に進む水素の道

ここで、カーボンニュートラル達成へと着実に歩みを進めるトヨタ自動車のお話をしよう。

以前にもご紹介したトヨタ自動車の水素エンジンで走るGRカローラだが(『トヨタのカーボンニュートラル実現への道』を参照)、2023年シーズンから開発を進める液体水素GRカローラは、これまで2年間開発してきた水素燃焼エンジンに、液体水素燃料を組み合わせたものになる。写真は2023年シーズンを戦う液体水素GRカローラだ。

水素を貯蔵するタンクは、真空二重槽の液体水素タンクを使う。こうしないと、タンクの外側にあるものが何でも凍ってしまうからだ。

この液化水素を、エンジンの熱を利用して気体に戻す。これがその液体水素気化器だ。

そしてこれが、気体水素圧力チャンバーである。

恐らく、これら装置はどれをとってもトヨタ自動車の特許の塊になっているだろう。

 

BEVの大きな問題点は、安全性が担保されていない可能性が高いということだ。

日本ではノートパソコンのバッテリーが爆発しただけでも大騒ぎのニュースネタとなる文化があり、国内でクルマのバッテリーが爆発したら大騒ぎになる。

しかし、これだけHEV(ハイブリット車)が走っていても、トヨタ車などが爆発したという事例はない(トヨタ自動車発表)。

一方、YouTubeなどのSNSで調べてもらえば分かるが、他国製の電気自動車のバッテリー事故は間違いなく起きている。冒頭に戻ると、今回のテスラ(TSLA)の決算が示したものは、見た目以上に根が深いのかも知れない。

まとめ

今回は、

 

  1. BEVには、①発電の難しさ ②環境負荷の大きさ ③材料調達の不安定さ という問題点がある。
  2. BEV充電には十分な発電が不可欠であり、それには化石燃料によるエネルギーが必要なため、結果的にBEVは「完全にクリーン」とは言えない。
  3. 化石燃料の代替案として原子力発電が挙げられるが、世界的に社会的コンセンサスが取れていないという現状である。
  4. 日本はトヨタ自動車の研究開発を筆頭に、水素の技術が進んでいる。
  5. 水素は、次世代の「クリーンエネルギー」として注目できるだろう。

 

という内容を中心にお伝えしてきた。

改めて、なぜ私が「水素」を推しているかというと、風力・太陽光発電の大きな問題点である「出力調整・貯蔵不可能」という点を、液体水素という貯蔵可能、かつ、体積の小さな物質に変換して解決できるからだ加えて、その発展の一助となる要素技術を、トヨタ自動車が開発している。

しかしながら水素は、供給面と需要面の双方からのコストダウンへの取組が必要だと考えられる。

これについては、今後継続したコストダウンへの努力、サプライチェーンの構築が必要不可欠であり、今すぐに何かブレイクスルーが発生するような簡単なものではないだろう。

ただ結果として水素というエネルギーは、カーボンニュートラルという世界の潮流と、現状の太陽光・風力発電の問題点から評価すると、確かに現状コスト面の課題はあるものの、今後の発展性には十分期待できると見越している。

さらに、日本のトヨタがその先端要素技術のパイオニアとなっているということを、今回のレポートでお伝えした。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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