無料版の始めに
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。公開から半年以上経った記事になりますが、当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。 より最新の情報や個別企業の解説に関心をお持ちになられた方は、是非プレミアム会員にお申し込みください。 前置きが長くなってしまいました。では「プレミアム・レポート 2022年4月11日号」の一部を無料抜粋という形でご覧頂きましょう。
記事のポイント
- ロシアに対する経済制裁には抜け穴が多い。耐久性を賭けた持久戦は、想像以上に長引く恐れがあるのは事実だ。
- タカ派の連邦理事の発言により時価総額が大きめの半導体関連企業が売り込まれている。
- しかし、私の知る限りにおいて「将来に起こりそうな悲観的な出来事」のお絵かきはあっても、足許で決定的な悪材料などは出てきていない。
- 寧ろイールドカーブが正常化してきたことを評価する。何故なら、先々の景気は失速しないと考えられているという証左だからだ。
———–<以下、プレミアム・レポートより抜粋>———–
安易な決めつけはリスクを高めるだけ
ロシア正教が起こした宗教戦争とみると理解できる流れ
前回「相当なところまで、戦争終結に近付いてきてはいるようにも見えるが、まだ安堵出来るのは当分先だろう」とお伝えしたが、少なくともこの一週間はその通りになった。この戦争は「ロシア正教」による「宗教戦争」的な意味合いが強いことが、ウクライナでの民間人への残虐行為で明らかになったと思われる。当初は単にロシアにとって「NATOがウクライナまで来るのは嫌だ」と押し返したい地理的な問題だけに見えた。だからNATOに加盟しないこと、最悪ウクライナの親ロシア派の多い地域の割譲でもすれば手打ちに出来るかと思えたが、想定は随分と違ったようだ。
<FG Free Report では後略>
経済制裁の効果が無ければ、解決策はなかなか見えない
国連人権理事会からロシアの理事国資格停止をする決議案が採択された。ただその決議内容は、国連に加盟する193か国のうち93か国が賛成したが、24か国が反対、58か国が棄権している。つまり過半数は国数としても取れておらず、人口最大の中国は反対、人口僅差のインドは棄権ということで、地球の人口で言えば必ずしも国際世論を正確に反映した決議結果とは言えないのかも知れない。
この結果が示す最大の問題点は、経済制裁の抜け穴が幾らでも出来てしまうこと。「経済制裁により国民経済が疲弊し、プーチン大統領の支持率が低下して、結果として政権が内部崩壊を起こす」というのが、宗教戦争として捉えた場合の核戦争にならない数少ない解決策のメインシナリオだ。だが経済制裁の効果が無ければそれもままならない。事実、急落したルーブルは回復している。下のチャートが示す通り、3月初めに急落して以降、あっという間に値を戻しているのが分かる。
耐久性を賭けた持久戦は、想像以上に長引く恐れがあるのは事実だ。
米国金利は正常化へ向かう
NYダウはほぼほぼ前週末と同水準を保てたものの、グロース株の代名詞でもあるナスダックは4%近い下落となった。半導体関連銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体指数はナスダックよりも更に下落している。下記に示すのはナスダックに対するフィラデルフィア半導体指数の超過部分。一気にその貯金を吐き出しているのが良く分かる。
その背景にあるのが、FRBが先月のFOMC議事録を開示するタイミングで、連銀理事の口から相当にタカ派的なコメントが聞こえたこともあり、時価総額が大きめの半導体関連企業が売り込まれる結果となった。私の知る限りにおいて「将来に起こりそうな悲観的な出来事」のお絵かきはあっても、足許で決定的な悪材料などは出てきていない。後述するが、寧ろこのウクライナ戦争がより半導体のニーズを多方面で搔き立てていると思っている。
米国金利は確かに上昇した。下に示すのがいつものイールドカーブのチャートだが、この週末は明らかに全期間に割って米国金利は上昇している。赤い線が週末のそれだが、明らかにこのチャートの中で一番高いところに線が引かれている。「金利上昇、すわハイテク株売り」と動く条件反射ならば、それも正しいかも知れない。ただ金利上昇は必ずしも常に「グロース株にマイナス」というわけではない。それは「円安が輸出株にプラス」というのが常ではないのと一緒だ。
寧ろ、このチャートを見てホッとした一面もある。それはエコノミストが景気見通しの先行きに悲観的な絵を騒ぎまくる「逆イールド」の状態がかなり解消されたからだ。緑色の線が前週末で、この段階では5年債利回りが一番高く、次が2年債となり、30年債と10年債は順に低下して「逆イールド」を形作っている。特に2年債と10年債の間で発生する逆イールドについて、エコノミストは騒ぎ易い。
だが今回、2年債金利は殆ど動かないままに、5年債、10年債、30年債と揃って金利を上げて、だいぶイールドカーブとしてまともな形となってきた。5年債と10年債では「逆イールド」と言えなくも無いが、少なくとも一番注目される「2年債と10年債」では逆イールド状態は解消された。実数値でも確認してみよう。それが下記の表だ。
「金利が上昇したからグロース株(ハイテク株)の売り」という考え方もあるが、私は寧ろイールドカーブが正常化してきたことを評価する。何故なら、先々の景気は失速しないと考えられているという証左だからだ。インフレが酷く、中央銀行(FRB)は金融政策を急ピッチで正常化し、バランスシートの縮小も行う必要があるが、その結果として、長期的に見たら景気は失速して、再度利下げすることになるというのが「逆イールド」を悲観的にエコノミストが解釈する時の常套句だからだ。
原油価格は峠を越えた
<FG Free Report では割愛>
右肩上がりのビジネス・トレンド
戦争の長期化、核保有専制国家への恐怖は各国軍備増強に繋がる
バンクオブアメリカのアナリストによると、米国の国内総生産(GDP)に占める防衛費の割合が、最近のロシアの侵略に応じて現状の約2.8%から増加し、約3.5%から約4%程度に上昇する可能性があるという。欧州の防衛予算も当然プラスとなる可能性が高い。米国の国防費は2023年に少なくとも8000億ドル(約100兆円)に及ぶともいう。
こうした数値を持ち出すまでもなく、私は第一次湾岸戦争の時のことを思い出す。パトリオットミサイルやスカッドミサイルと呼ばれるものがイラクの上空を飛ぶ映像を観た時、半導体メーカー(当時DRAM)の友達が「これで在庫が履けて、価格が安定するな」と喜んでいたのだ。確かに、戦争は「物を破壊する」行為だが、同時に「破壊する武器も消耗する」からだ。
戦争は最大の実証実験であり、技術開発にも繋がる
ロシア軍が実質的にキーウ(キエフ)から撤退した背景になるのは、ロシア軍の作戦失敗もあるだろうが、武器の技術が著しく劣っていたことが背景にある。ロシア軍、通信が全くダメらしい。
考えてみれば、インターネットもGPSも、元はと言えば軍事技術の民間転用だ。戦闘機のために開発された「Fly by Wire」という操縦システムも、今では「by Wire」の部分などはクルマの操縦系にまで浸透している。
今回の戦争でウクライナ側で大活躍している兵器が「ドローン」だ。自律型で戦車を探し、そして自爆目的で突っ込んでくるドローンが最近投入されたらしい。また対戦車ミサイルで有名な「ジャベリン」を更に正確に誘導するためにもドローンが使われているらしい。ただ本当に正確な最新情報は国家安全保障上の重要機密であることは確かなので、恐らく我々に伝えられる情報の多くは、既にロシア側のインテリジェンスにも流れてはいる筈の「開示出来るレベルの情報」ということになる。
仮にそうだとしても、なるほど凄いなぁと思われる技術がたくさん出てきている。昔から戦争はシミュレーションではない、実証実験の場でもあるので、技術開発を加速させる最高の現場だと不謹慎に聞こえることも言われるが、それは否定出来ない事実でもある。
またそれら国防製品を作るメーカーにとっては、潜在顧客向けの最高のセールスプロモーションであることは間違いない。ミサイル発射試験場でのテストを見せるまでもなく、実地で成果を証明出来るのだから。
近代兵器はハイテクの塊
<FG Free Report では割愛>
まとめ
「もうは未だなり」は続く
見切り発車をするという考え方は間違いなくある。だが今しばらくは様子を見て、現状のポートフォリオのリスク特性を変える必要はないだろうと考える。常日頃からきちんと考えて作ったポートフォリオならば、突っ込む時も、リバウンドする時も、それなりに適切な反応をすると考えられるからだ。
また現在の状況を、「ウクライナとロシアの戦争」とだけ狭隘に捉えるのは間違っている。核兵器は投入されていないし、戦う当事者はウクライナ軍とロシア軍ではあるが、既に状況は世界大戦のレベルに発展している。
そのひとつが戦時下の経済封鎖やサプライチェーンの混乱によるものだ。また中国で行われている上海のロックダウンも、実は経済には大きな影響を与え始めている。経済封鎖に関与している国はどこも当然返り血を浴びているが、その影響が可視化されるのはもう少し先だろう。
その一方で、静かに着実に前に進んでいるものもある。当然、この戦争により加速しているものを含めてだ。そのひとつがIT関連、取り分け「サイバーセキュリティ」に関わる分野だ。その中にはVPNなども含む。VPNを使って、情報統制をすり抜けて、外部情報にアクセスすることも出来れば、一方でそのVPNに対するハッキングも行われている。
また今回の戦闘を通じて、より一層その必要性が再確認されたのが堅固な無線ネットワーク・システムだ。この有無が勝敗を左右するとなれば、国を挙げての開発競争ともなろう。
ポジティブな材料を探しつつ、今しばらくは様子をみたい。
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———–<以上、抜粋終了>———–
(編集:Fund Garage編集部)
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