
みなさんは、Palantir Technologies・Oracle・NVIDIAという名前を見て、なぜこの三社が一つの文脈で語られるのかを説明できるでしょうか。
「SaaS企業」「データベース会社」「AI関連銘柄」のように大まかに捉えられがちですが、AI常時推論が広がる世界においては本質を見誤るリスクがあります。
今回は、常時推論における三社の役割について、プロのファンドマネージャーが整理していきます。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
「PLTR×ORCL×NVDA」常時推論の三位一体
2026年初来、エンタープライズ・ソフト/SaaSの銘柄群が、ひとまとめに売られる局面が続いている。Salesforce(CRM)、ServiceNow(NOW)、Adobe(ADBE)といった代表格が弱く、ニュースでも「AIが既存ソフトの価値を壊すのでは」といった不安が繰り返し語られている。そしてその流れでよく聞かれるのが、
「結局、Palantir Technologiesも同じ“エンタープライズ・ソフト枠”で売られるんですよね」
「Oracleも、ソフトが売られる流れに巻き込まれているだけでは?」
という意見だ。
しかし、この捉え方には大きな誤読がある。というのも、Palantir Technologies(以下、Palantir)とOracleが担っているのは、業務そのものを止めずに回すための基盤だからだ。
では、なぜこのような誤読が起きるのだろうか。まずはその要因を探っていこう。
誤読の正体——「AI=喋るもの」?「ソフト=SaaS」?
誤読の第一の原因は、「AI=生成AI=喋るAI」という連想が、まだ圧倒的に強いことだ。質問して答えが返ってくるという、B2C的な“驚き体験”が、AIの中心に見えてしまうのだ。しかし、企業の現実は違う。企業の中で価値が最も大きくなりやすいのは、業務が止まらず回り続けるところ、すなわち常時稼働の運用領域である。そこではAIは「見せ物」ではなく「工程」であり、「答える」ではなく「実行する」なのだ。
第二の原因は、「ハードでもない、LLM開発でもない、だったらソフトだろう。ソフトならSaaSだ」という短絡だ。ここで語られるSaaSという言葉は、厳密な定義に基づいておらず、“ソフト枠”の代名詞として使われている。言うなれば、「よく分からないものを、分かったことにして棚に入れる」ためのラベルのようなものだ。だから、PalantirもSaaS扱いされる。しかし、SaaSは多くの場合、特定の業務をアプリとして提供するモデルに寄る。一方でPalantirがいるのは、単機能アプリの世界などではなく、データと権限と実行を束ねて運用を回す場所なのだ。
第三の原因は、B2Bの価値は個人投資家には体感しにくいことだ。個人投資家の生活の中で、データベースは見えないし馴染みが薄い。すると、「Oracle=昔オンプレで使ったRDB(リレーショナル・データ・ベース)の会社」という狭い自己体験が、全体像を決めてしまう。
第四の原因は、クラウドを「どこが覇権を取るか」という勝ち負けだけ見てしまうことだ。企業の現場では、すでに複数のクラウド利用が当たり前になっている。そこでOracleは、すべてを自社クラウドへ移してもらうのではなく、顧客が使うクラウドの近くにOracle Databaseを配置する戦略を取っているのだ。これについては後ほど解説する。
Palantir のコア――「アプリ」ではなく「業務の境界層」を売っている
では、Palantir は実際に何を担っているのだろうか。
Palantir をSaaS枠に押し込める誤読の根っこは、やはり「ソフト=アプリ」という連想にある。しかし、同社の主戦場は、企業や政府の業務そのものをデータと権限の上で回し続けるための、業務の境界層を作ることにある。
この境界層を成立させる中心概念が、Ontologyだ。企業の中には、顧客・契約・注文・在庫・設備・部材・取引・リスクなど、膨大なデータが存在する。そうした対象を、組織内でズレない共通言語として定義し直し、さらに処理の単位に落とし込む。具体的には、「何を事実として採用するか」「誰がどこまで見てよいか」「誰が何を実行してよいか」という三つのポイントを、現場の運用に耐える形で固定し、業務が回り続けるように設計するのだ。これが、「データを集めました」で止まる世界とは決定的に違う、Palantir Ontologyの特徴である。
この仕組みは、AIを企業業務へ組み込む際にさらに重要になる。たとえば「仕入れの異常」というイベントが起きたとする。その際、現場担当は代替手段を探し、監査部門は判断や承認の履歴を確認、あるいは経営陣は損益への影響を把握するなど、必要な情報と行動は異なるだろう。ここでもし、全員が同じ画面を見て同じボタンを触れる設計にしてしまえば、必ずそのシステムは壊れる。ここでPalantirは、同じ出来事を扱っていても、Ontologyによって役割ごとに「見える事実」と「実行できる手」を変えるのだ。
そして、このOntologyという設計図があるからこそ、AIを実際の業務へ安全に入れることができる。人間と同じように、AIにも「見てよい情報」と「実行してよい作業」の境界が必要だからだ。そのOntology上の業務世界にAIを接続し、決められた権限とルールの中で働かせる役割を担うのが、AIPと呼ばれるものである。
このように、Palantirが握るのは、組織の事実(データ)・意味(Ontology)・責任(権限)・現実の操作(アクション)を束ね、業務が動き出す境界を設計し、その境界の内側でAIを安全に働かせるための構造である。それゆえに、「ソフトだからSaaS」という短絡は成立しないのだ。
なお、OntologyやAIPがどのように「提案→実行→確認→学習」を回し、常時推論AIを成立させるのかについては、以前の無料記事『Palantir決算で見えた常時推論AIの実装力』を参照のこと。
Oracleのコア――DBは“驚き体験”ではなく“壊せない台帳”である
Oracleについては、いまだに「昔ながらのデータベース会社」というイメージが根強い。しかし、企業の現場でデータベースが担っているのは、データの”保存場所”というより“台帳”に近い役割だ。それは、取引・契約・在庫・請求・入出金・権限・監査ログなど、「後から改ざんできない」「整合性を崩せない」「誰がいつ何をしたかを説明できる」記録を、止めずに積み上げる装置である。
そして、ここ数年でOracleが決定的に変わったのは、台帳の価値そのものではなく、「台帳をどこに置くか」という戦略だ。企業のシステムはすでにAWS、Microsoft Azure、Google Cloudなど複数のクラウドに分散しているため、すべてをOracle Cloudへ移すのは現実的ではない。そこでOracleは、顧客にクラウドの引っ越しを求めるのではなく、顧客がすでに利用しているクラウドの近くへOracle Databaseを持っていく方向へ動いているのだ。実際に、AWS、Azure、Google Cloudの各環境からOracle Databaseを利用できる仕組みを展開している。
つまりOracleが狙っているのは、分散が当たり前になった世界で、企業が手放せない台帳を最も使いやすい場所に配置すること。決して、「どのクラウドが覇権を取るか」という勝負ではないのだ。私たち投資家は、Oracleを「古いDB会社」としてではなく、AIが企業を動かすほど重要になる“壊せない台帳”を握る会社として捉え直す必要があるだろう。
PLTR×ORCL×NVDA──常時推論を支える「運用の鎖」
ここまで見てきたように、OracleはAIが参照する「壊せない台帳」を担い、Palantirはその上で、AIが何を見て何を実行できるかを制御する「境界層」を担う。つまり両社は、企業の業務をAIで止めずに回す「運用側のAI」という点で一本につながっているのだ。
さらにこの2社の運用を計算面から支えるのが、そう、NVIDIAである。
というのも、常時推論とは、業務が動いている限りAIも止まらずに判断・照合・実行を繰り返す世界である。推論が止まらないとは、GPUが止まらないということであり、つまりサーバーが回り続けるということだ。そこで登場するのが、推論を回し続けるための「演算」を供給するNVIDIAなのである。
つまり三社の役割を整理すると、NVIDIA=演算、Oracle=台帳、Palantir=境界層となる。NVIDIAは常時推論AIの演算を支え、OracleがAIの参照する記録を守り、PalantirがAIに許された判断と実行の範囲を固定する。この運用の鎖が繋がってはじめて、AIは「答える存在」から、承認や監査のルールの中で実際の業務を前へ進める存在となるのだ。
ここで重要なのは、この鎖が一度企業の業務に組み込まれると、簡単には逆回転しにくい点だ。生成AIが便利な機能にとどまるうちは、利用を止めても大きな問題は起きない。しかし、AIが請求・在庫管理・監査・意思決定などの工程に組み込まれれば、止めることは業務そのものを止めることにつながる。だから企業は、演算を確保し、台帳を守り、境界層を整備し続ける。ここが、三社が同時に効く理由なのだ。
この視点に立つと、市場が「ソフトは弱い、ハードは強い」といった表面的な分類で語ること自体が的外れになっていく。AIの収益は、喋る体験から生まれるのではなく、運用の鎖から生まれる。運用の鎖は、演算(NVIDIA)だけでは完成しない。そこに、壊せない台帳(Oracle)と、業務の境界層(Palantir)が揃って初めて、常時推論は工程になり、さらには止まらない需要になる。ここを理解すると、PalantirをSaaS枠に押し込める誤読も、Oracleを古いDB屋に押し込める誤読も、同時に崩れるはずだ。
まとめ:「SaaS一括り」にしないための三位一体

いかがだっただろうか。
NVIDIA・Oracle・Palantirは、同じ「AI関連株」といった言葉で括られながらも、それぞれ演算・台帳・境界層という異なる役割を担っている。そして、常時推論が企業の業務に入り込むほど、この三つは一つの運用の鎖としてつながっていくのである。
したがって、年初の「エンタープライズ・ソフトが売られている」というニュースだけで、PalantirとOracleをソフト枠の一括売りとして処理したのでは、本質を捉えているとは言えないのだ。ここで私が言いたいのは、「他より優れているから買いましょう」ではない。「何を売っている会社なのか」という点を明確にすることが、投資判断を誤らないための重要な一歩だということだ。
編集部後記
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