FG Free Report ”GPU高すぎ”論は本当か? TPU・Trainium時代のNVIDIA(12月8日号抜粋)

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「GoogleやAWSが自社チップを強化するなら、NVIDIAの時代は終わるのではないか」、そんな見方が市場に広がっています。

けれども、GPUとASICは単純に置き換えられる関係ではありません。

今回は、GPU高すぎ論の落とし穴を、マクロの視点からプロのファンドマネージャーが詳説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

GPU高すぎ論の罠──TPUとTrainium時代のNVIDIA

TPU・Trainium・「NVDAマージン崩壊」シナリオの正体

モンスター決算を叩き出した直後にもかかわらず、NVIDIAの株価はここにきて足踏みしている。決算当日は一瞬買われたものの、その後はGoogleのTPU報道やAWSのTrainium3発表をきっかけに、じわじわと上値を切り下げてきた。PERも足元では30倍台後半(12月5日時点は39.14倍)にまで低下し、5年平均の45.87倍と比べても△14.67%のディスカウントになっている。

ここで、いま市場で語られているストーリーを丁寧に分解しておきたい。最近のニュースフローをざっと振り返ると、Googleは自社TPUを用いてGemini 3を訓練・推論し、「GPUと比べてコスト・電力効率に優れる」とアピールしている。AWSもTrainium 3を打ち上げ、「同じ性能ならGPUより安く、消費電力も抑えられる」と誇らしげに語る。こうした情報が断続的に流れ込むと、「そろそろGPUの時代も終わりではないか」と感じる投資家が出てくるのは自然だ。

このとき、悲観論が頭の中で描いているストーリーは、およそ次のようなものだろう。

GoogleやAWSは、自社TPU/TrainiumでGemini 3級のモデルを問題なく回せるようになってきた。

もはやNVDAのGPUだけが唯一の選択肢ではない。となれば、メガテックのCSP(クラウド・サービス・プロバイダー)は『あなたのGPUは高すぎる。TPU/Trainiumで十分代替できる。値下げしないならGPUの発注を止める』と強気に値下げ交渉できるはずだ。

そうなればNVDAはマージンを削らざるを得ず、いまの粗利率70%台は長く持たない。

半導体として“普通の水準”に収斂していくのは時間の問題なのでは?

というもの。

しかし、この物語にはいくつかの重大な飛躍が含まれている。第一に、「自社ASICでGPUをほぼ全面的に代替できる」と暗黙に仮定している点。第二に、「クラウド事業者1社の脅しが、そのままNVIDIA全体のマージン構造を崩せる」と見ている点。第三に、「クラウドの社内原価」と「NVIDIAの粗利率」をほぼ同一視している点だ。

これらの前提が、現実の構造とどの程度ズレているのかを確認することが、今回の出発点になる。

GPU vs ASIC──どこが置き換わり、どこが残るのか

まずはGPUとASICの棲み分けについて確認していこう。

それぞれを例えるならば、GPUは治具を変えれば様々な製品を流せる、いわば「汎用工場」である。一方、TPUやTrainiumのようなASICは、特定の品目に最適化した「専用ライン」にあたる。なぜなら、ASICはその名(Application Specific Integrated Circuit、特定用途向け集積回路)の通り、あるワークロードに対しては極めて効率的だが、大きく仕様が変われば、ラインそのものの作り替えが必要になるからだ。

さらにクラウド内部のワークロードをこの枠組みで整理すると、おおよそ三つのゾーンに分かれる。

第一ゾーンは、検索・広告・動画配信・リコメンドなど、自社サービスのバックエンドとして巨大で安定したワークロードであり、ここはまさにASIC向きだ。

第二ゾーンは、外部顧客が利用するクラウドインスタンスで、エンタープライズやスタートアップの開発者がCUDAやPyTorchを前提にモデルを作っている領域である。ここでは、エコシステムとツールチェーンの整備状況を考えれば、依然としてGPUが標準だ。

第三ゾーンは、新サービス開発や研究開発、PoCのような試行錯誤のゾーンであり、モデル構造やフレームワークが短いサイクルで変わる。ここも柔軟性が求められるため、GPUの優位が続きやすい。

つまりASICでほぼ全面的に置き換えられるのは、第一のゾーンだけだ。しかもそこですら、完全にGPUをゼロにできるわけではなく、「ベース部分をASICに寄せることで、GPUをより価値の高い用途に回す」程度の話にとどまる。外部顧客向けインスタンスや研究開発までTPU/Trainiumに全面移行しようとすれば、顧客側のコード資産や人材プールの再教育に膨大なコストがかかるうえ、最終的には他クラウドに顧客を奪われるリスクも高まってしまう。

したがって、合理的な落としどころは、「自社の安定ワークロードは自社ASICの専用ラインで極限までコストを削り、変化の激しい部分や外部顧客向けには引き続きGPUという汎用工場を使う」という棲み分けになる。この棲み分けのもとでは、GPUはむしろ「最も付加価値の高いゾーン」を預かる存在として位置づけられ続ける。そのゾーンにこそ、高い粗利率が乗る余地があるという事実は押さえておくべきだ。

値下げ交渉という幻想

悲観論の中核にある「メガテックなどのCSPが自社ASICを楯にNVDAに値下げを迫る」という交渉ゲームについても、少し踏み込んでみたい。このゲームを単純化して描けば、CSP側は「値下げしないならGPUの発注をやめる」という脅しをちらつかせ、NVIDIAは「発注を失いたくないから値下げに応じる」という結末になる。

ここで鍵になるのは、「その脅しがどこまで本当に打てるのか」だ。

クラウド事業者がGPU発注を本当に大幅に絞った場合、最初に困るのは誰か。自社の安定ワークロードはASICで回せるとしても、外部顧客向けのGPUインスタンスを前提にシステムを構築してきた企業や研究機関は、そのクラウド上でこれまでどおりの開発・運用を続けることが難しくなる。なぜならエコシステムがCUDA+GPU前提で組み上がっている以上、「明日からは全部TPU/Trainiumで」というのは現実的ではないからだ。そうなれば、その顧客はGPUインスタンスを提供している別のクラウドに移行するだけだ。

一方、NVIDIAから見れば、買い手は一社ではない。複数のハイパースケーラーに加え、各国の主権クラウド、国営・準国営のAI/HPCセンター、大企業のオンプレAIファクトリーなど、需要はグローバルに分散している。供給がタイトな環境が続く限り、ある一社が発注を減らした分は、別の誰かに振り向ければよい。供給に逼迫感がなくなってはじめて、買い手の交渉力は本当に強くなるが、現状はまだその世界には達していない。

粗利率75%の正体──「クラウドの粗利」と「NVIDIAの粗利」を分けて見る

最新の決算数字を改めて眺めると、エヌビディアの粗利率は依然として異常値に近い水準を維持している。GAAPベースで70%台前半、non-GAAPベースでは75%前後のガイダンスが示され、売上規模もAIデータセンター向けの成長を背景に、四半期で数百億ドル規模に達している。

ここでまず押さえておくべきは、「クラウド事業の粗利」と「NVIDIAの粗利」を意図的に切り離して考える必要がある、という点だ。

GoogleやAWSが自社TPU/Trainiumを用いて検索・広告・動画配信などを処理すれば、その分だけ社内コストを下げることができる。結果として、クラウド事業の粗利率は確かに改善するだろう。

しかし、NVIDIAの粗利率は別の式で決まっている。それは、

NVIDIAの粗利率「GPUやシステムをクラウドにいくらで売るのか」という売価「TSMCやベンダーにいくらで発注するのか」という製造原価

である。つまり、クラウドが自社ASICの導入によってクラウド内部のコストを削減したとしても、それだけでNVDAの粗利率が同じ分だけ削られるわけではないのだ。

さらに重要なのは、NVIDIAが粗利を稼いでいるのはGPUチップ単体ではないという点だ。GPU+NVLink/NVSwitch+ネットワーク+ラックシステム+ソフトウェアというように、「AIファクトリー」全体に食い込んでいる

だから、「GPUが高いから利益率が高い」という単純な見方ではなく、「GPU+ネットワーク+システム+ソフト」というレイヤーの重なりが粗利率を押し上げている、という構造を投資家は理解すべきなのだ。

教科書ミクロの罠──「超過利潤は平均に収斂する」神話を解体する

また、教科書的なミクロ経済学の罠も存在する。それは、「粗利率が高すぎる企業には競争相手が集まり、やがて価格競争が起きる。そうなれば超過利潤は消え、利益率は業界平均に近づいていく」というロジックである。たしかに、これはDRAMのようなコモディティ半導体では比較的当てはまりやすい。似た性能の商品を複数の企業が作れ、顧客も比較的容易に乗り換えられるからだ。

しかしここまで述べてきたように、NVIDIAが立っているのはその種の市場ではないし、そもそも「GPU=ASIC」ではない。GPU+CUDAエコシステムは、単体チップではなく、「ハードウェア+ソフトウェア+ツール+人材+教育+ライブラリ」という複合体だ。これらはすべて無形資産であり、会計上は簡単に測れない。つまり新規参入者が参入した瞬間に同等品を作れる世界ではなく、参入した後も長期間にわたって膨大な学習コストを払い続けなければならない世界である。

さらに、NVIDIA自身がターゲットを動かし続けている。新アーキテクチャを前倒しで投入し、NVLinkやNVSwitchを進化させ、AI向けソフトウェアスタックを継続的にアップデートしている。後発企業は、ただ今のNVIDIAに追いつけばいいのではなく、「走り続けるNVDA」を追いながら、自らも走り始める必要があるのだ。「超過利潤があるから少し遅れて参入しても、すぐ平均マージンに押し戻される」という教科書モデルは、この動的な構造をまったく描いていないと言えよう。

競争が起きること自体は当然だし、時間の経過とともにマージンレンジが少しずつ下方に滑っていく可能性も否定はしない。それでも、「粗利率70%は高すぎる ⇒ だからすぐに平均水準まで崩れる」というストーリーは、現実の構造を無視した“神話”に近い。パラダイムシフトを実際にいくつか経験してきた投資家から見れば、なおさらそう感じられるはずだ。

まとめ:今回のNVIDIA下落は「パラダイムシフト」か?

私は長年ファンドマネージャーとして市場に身を置いてきたこともあり、いくつかの本物のパラダイムシフトに出くわしてきた。メインフレームからPCへの移行、フィーチャーフォンからスマートフォンへの転換、オンプレミスからクラウドへのシフト──そうした局面では、旧来の強者が蓄積してきた資産や組織構造が、一夜にして足かせに変わることがある。

では、今回議論しているTPUやTrainiumの台頭は、果たしてそうしたパラダイムシフトに当たるのだろうか。

少なくとも現時点では、GPUもASICも同じ「行列演算+デジタルロジック+データセンター」という地政の上に立っている。その中で、GPUは汎用工場として柔軟性の高いゾーンを、ASICは自社安定ワークロードという専用ラインを担っている。だからゲームそのもののルールが変わったというよりも、「新しいゲームの内部での棲み分け」が進んでいるという方が実態に近い。GPU高すぎ論を声高に語る者の多くは、この「どのゲームの、どの局面を見ているのか」という問いそのものを立てていない。

パラダイムシフトがいつか再び訪れることは、長く市場を見てきた者であれば疑いようがないだろう。しかし、だからといって「高い粗利率を維持している企業はすべて、すぐ平均マージンに収斂する」という教科書モデルを、そのまま目の前のケースに当てはめるのは早計だ。エヌビディアを「高すぎるGPUメーカー」として矮小化するのか、「AIファクトリー・インフラ企業」として次の30年ゲームの中心に位置づけるのか。問われているのは、「この価格変動の背後で、構造にどの程度の変化が起きているのか」という一点なのだから。

編集部後記