世界の時価総額ランキングで、第3位を誇るエヌビディア。GPUを祖業とする同社ですが、近年では特に「アクセラレーティッド・コンピューティング」や「生成AI(AIPC)」の分野で大きな成長を遂げています。
今回は、そんなエヌビディアの2024年第四四半期の決算内容を確認しながら、同社の現状についてプロのファンドマネージャーの視点から考察します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
右肩上がりのビジネス・トレンド——絶好調のエヌビディア
見事なエヌビディア(NVDA)の決算内容
2月21日にエヌビディアが発表したFY2024Q4の決算内容は、強気で期待していた私でさえも驚くほどの内容だった。しかし、実はそんな素晴らしい内容だったにもかかわらず、時間外取引の最初の数分間、株価はマイナスに動いていた。
では、同社のIRサイトのプレスリリースを見てみよう。
(画像クリックで全文が表示されます)
- 四半期売上高は221億ドルで、第3四半期比+22%、前年比+265%の記録を達成
- データセンターの四半期収益は184億ドルを記録、第3四半期比+27%、前年比+409%増加
- 通期売上高は126%増の609億ドルとなり、過去最高を記録
ここまで一気に興奮した決算発表は、過去を振り返ってもあまりない。あらためて時間外取引の状況を確認してみると、「+12%」まで上昇していた。
さらにプレスリリースの続きを読み進めると、多くのメディアも引用したジャンセンCEOのコメント:
“Accelerated computing and generative AI have hit the tipping point. Demand is surging worldwide across companies, industries and nations.”
「(アクセラレーション コンピューティングと生成 AI は転換点に達しています。需要は企業、業界、国家を超えて世界中で急増しています。)」
が記載されていた。
もう「画像処理半導体のエヌビディア」と呼ばないで
今回の決算発表を聞いていて一番強く感じたのは、おそらくジャンセンCEOが「もはや『画像処理半導体のエヌビディア』では無いんだよ」というメッセージを伝えたいのではないか、ということだ。業界自体が「アクセラレーション・コンピューティングと生成AIは転換点に達した」と考えているのも事実だが、明らかに自社に対するニュアンスの方が強かったように私は思う。
実際、1時間の決算発表の間、ジャンセンCEOの口から単独でGPUという単語が使われたことはほとんどなく、使われているとすれば「GPU acceleration」という使い方か、純粋に商品名(NVIDIA Hopper GPUなど)としてだった。
その一方で、最も多く使われたキーワード(合計14回)は、「accelerated computing(アクセラレーティッド・コンピューティング)」だ。過去に何回か取り上げたことがある※が、「GPU acceleration」と「accelerated computing」こそ、現在と将来のエヌビディアを説明する時にもっとも適した枕詞だといえよう。
エヌビディアの祖業は「GPU」であり、つい一年前までは確かにゲーム部門の売上が大きかったが、この一年間で実態は様変わりした。それを明確に示しているのが、下のチャートだ。
実は「Q4’21」の頃には、既にエヌビディアの主力ビジネスのひとつはAIであった。それが証拠に、プレミアムレポートを創刊した2019年2月の頃でさえも、「AI、自動運転、エッジコンピューティングなどを考えた時、GPUで築き上げた同社の技術は不可欠」とお伝えしている。ちなみに、当時の株価は約40ドル(無償分割考慮後)程度だった。まさに、右肩上がりのビジネス・トレンドが今なお続いているということだ。
※…「アクセラレーティッド・コンピューティング」に関連する以前の無料記事リストはこちら。
では、「エヌビディアは半導体企業」なのか?
「GPUのエヌビディア」でなければ、同社は「半導体企業」と言えるのだろうか。
確かに一部メディアは、「アメリカの半導体企業」という枕詞をつけるが、これがまた、今となっては同社のビジネスを理解する上で、不要な誤解を生んでいるように思われる。
それを裏付けるように、決算発表の質疑応答でジャンセンCEOが、「人々は、 NVIDIA GPU をチップのようなものだと考えています。(as you know, people think that NVIDIA GPUs is like a chip. 」という発言を放った。このイメージを図示すると、恐らくこんな感じだろう。
正に「アメリカの半導体企業」と呼ばれると、このようなものを想像する人が多いのではないだろうか。そして、この星条旗の旗の下にある四角いシリコンチップこそがエヌビディアのGPU、それもひとつで高価なものだと500万円もするというものだ。
「こんな小さいものなのに、500万円前後もするというのはバブルだ」と思ったり、「何やらTMSCという、世界で唯一の最先端半導体工場でしか作れない超微細加工技術で作るから、高価らしい」などと思惑が駆け巡ったりもする。
しかし、ジャンセンCEOはこう続ける。「人々は NVIDIA GPU をチップのようなものだと考えています。しかし、NVIDIA Hopper GPU には 35,000 個の部品があります。重さは70ポンドです。これらは私たちが構築した非常に複雑なものです。(as you know, people think that NVIDIA GPUs is like a chip. But the NVIDIA Hopper GPU has 35,000 parts. It weighs 70 pounds. These things are really complicated things we’ve built. )」という。このイメージを図示すると、恐らくこんな感じだろう。
出典:https://developer.nvidia.com/blog/introducing-hgx-a100-most-powerful-accelerated-server-platform-for-ai-hpc/
私自身、この答えには面食らった。何故なら、部品点数について、トヨタ自動車が公式ホームページで「1台のクルマは、小さなネジまで数えると約3万個の部品からできています。これらの部品は、トヨタでつくるものもありますが、たくさんの協力会社でも分担してつくられています。」と解説している数をも上回るからだ。
さらに、その重さについてもやはり驚きを隠せない。私は、過去幾台となくパソコンを自作し、中でもNVIDIAグラフィックスカードの代名詞でもある「GeForceシリーズ」を組み込んだデスクトップパソコンも作ってきた。ただそれとて、パソコン全体の重さでも10キロあるかないかだからだ。その経験からしても、GPUの部分だけで重さが70ポンド(31.7キロ超)というのは、不勉強さを痛感させられた。
最初の写真のものだと、部品は半導体パッケージまで含めて、数個に収まる。そしてスマホやタブレットにも入るぐらいの大きさのイメージだろうから、今の「NVIDIAのGPU」は多くの人が想像するいわゆる「半導体」という次元の小さなものでは無いということが、今回の決算発表で明らかになった。
エヌビディアの決算が見せてくれたのはやはり、「AIはまだまだ始まったばかり」の世界
あっという間にCY2024も2カ月が終わろうとしている。年初からの株式市場の怒涛の勢いは、見る人によっては当然の帰結であり、違う人が見れば「AIブームに乗った勢い」、つまり「AIバブル」と言いたくなるものなのかも知れない。
かつては「パソコン、やってる?」という言葉があり、続いて「インターネット、やってる?」という言い方が流行した。回答の多くは久しく「仕事ではね。でも家では使ってないよ」というのがほとんどだったはずだ。だが、少なくとも今現在、若い世代になればなるほど、インターネットなしの生活なんて考えられないだろう。むしろ今では、「デジタル・デドックス」といった敢えてネットが通じない世界を求めに行く時代にまでなった。
その一方でAIだ。「投資の神様」として知られているウォーレン・バフェット氏は、既に「AIはカジノ的」と言っているという。しかし、ここで思い出して欲しいのは、バフェット氏は昔「インターネット関連株は買えない」と言い切り、その後数年経ってから前言を翻してアマゾンドットコムの劣後債から投資を始めている。
それはそれで、私は賛成だ。「分からないものには手を出さない」というのは、私も同じ投資信条だからだ。
ただだからこそ、「分からない」と放ってしまうのではなく、そこを調べて学ぶ価値があるのだろう。今は「カジノ的」と言っているバフェト氏だが、きっとAI時流についていけないことにイライラしているかもしれない。ChatGPTでも、会社のofficeソフトに入っているCoPilotでも、とにかくAIを身近なものとして触ってみることだ。
まとめ
今回は、FY2024Q4のエヌビディアの決算内容を見ながら、エヌビディアの現在について以下のポイントを中心にお伝えした。
- 2月21日にエヌビディアが発表したFY2024Q4の決算内容は、通期売上高が過去最高を更新するなど、素晴らしい内容であった。
- 今回の決算発表でジャンセンCEOは、「アクセラレーティッド・コンピューティング」や「GPUアクセラレーション」という単語を強調しており、「もはや『画像処理半導体のエヌビディア』ではない」というメッセージを暗示していた。
- エヌビディアを「アメリカの半導体企業」と紹介するメディアは多いが、これは誤解を生む表現である。なぜなら、例えば同社の代表製品の中には、35,000個もの部品を持ち、重さは70ポンドに及ぶものも存在するため、世間一般に認識される「半導体チップ」とは一線を画しているからである。
投資を行う際は、「わからないものには手を出さない」。しかしだからこそ、「わかるまで調べる」ということが、私が勧める上手な投資の鉄則である。
AIの時代は、これからが本番だ。ぜひ今のうちに、AIについての知見を広げていただきたい。
編集部後記
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