【連載記事】新入行員諸君!リスク商品でござる vol.3「オプション活用の基本」

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はじめに

水曜日の「新入行員諸君!」はお楽しみいただけたでしょうか?

今回は、前回の内容からレベルアップして「オプション活用の基本」についての内容となっています。「オプションとはそもそも何か?」という方は、是非前回の記事もお読みください!簡単に言えば、Optionという英単語の意味の通り、選択する「権利」がオプションです。

そして、今週も1週間お疲れ様でした。社会人として初めてのフルの1週間は大変だったのではないでしょうか?今週末はゆっくり休んで、友達と息抜きもしたりして、来週に向けて備えましょう!私も金曜日の夜は家族の車を借りて近所の友人とドライブなどを楽しんでいました。そういった楽しみがないと、何のために仕事をしているかわからなくなってしまいますから。笑

では、本文をどうぞ。

本文「オプション活用の基本」

オプションを使うと何が起きる?

オプションを使うと、実に色々なパターンの金融商品を作ることが出来る。プレーンなコール・オプションプット・オプションは前回触れた通り。他にも、ある一定条件を原資産が満たした場合*1に、オプションとしての権利が発生するようなものまで、オプションの種類は実に多種多様である。

そしてこれらを使うことで、多種多様な仕組みを作ることが出来る。例えば、損失限度を設けたり、或いはある一定水準までの原資産価格の上場を前提に利回りを上昇させたりが可能である。そしてオプションには、上場しているものと、上場していない「店頭オプション」がある。商品組成などの場合に頻繁に使われるのは後者だ。いずれにしても、オプションは商品組成の現場においては、正に基本常識のひとつとなっている。

オプションの価値判断に必要なもの

さて、運用のコスト(逆から見ると、金融機関の収益)という点から、このオプションの価値判断を考えてみよう。実は上場オプションについてはあまり問題にすることはない。何故なら、市場という仕組みそのものが、その需給関係から常に公正な価格を提供するからである。すなわち、オプションの価格も、それに関わる手数料も白日の下に晒されている。一方、店頭オプションの場合は逆に非常に細かい注意が必要になってくる。

オプション価格の決定要因は一般に、

  1. 原資産価格*2
  2. 行使価格*3
  3. 残存期間*4
  4. 金利
  5. ボラティリティ*5

の5種類であると言われている。この5種類のうちで一つだけ、リアルタイムで精査出来ない数値、ブラックボックスがある。それが「ボラティリティ」だ。これが良い意味でも、悪い意味でも、宝の宝庫になる。

蛇足だが、つい数年前までは、ボラティリティという単語は、テレビで解説などをする時には、必ず注釈を加えさせられた。なぜなら、一般の人には当然馴染みのない単語だから。最近ではモーニングサテライトでも普通に使われているが、元々はそういう扱いであったことをお客様などと話される時には注意しよう。銀行のお客様にはまだまだ馴染み薄い人は多い筈だ。

オプションの適切な価格を見極めてみよう

話は戻って、まず日経225オプション*6を例に取って考えてみよう。これは上場オプションである。故に、市場が開いている間は、その価格を誰もがモニタリングすることが出来る。6月限月27,000円行使価格のコール・オプションの7月14日の13時時点(記事執筆時)での値は650円(前日比120円)。その元となる日経平均株価の水準は誰にとっても同じく27,138円05銭だ。日経新聞をはじめ、多くのもので確認することが出来るし、行使価格や残存期間は明確、そして金利水準についても新聞でも読める。

5つのファクターのうち、4つまでが簡単に入手出来た上で、その価格も明確である以上、ボラティリティについては、一次方程式を解くのと同じ要領で逆算することが出来る。こうして計算されたボラティリティのことを、インプライド・ボラティリティと呼ぶが、市場がどの程度この先の市場変動を予測して織り込んでいるかを見るのに有益な数値である。

実際の扱い方はこの記事を参照されたい。「【号外】NASDAQ急落、慌てずに」。

しかし、店頭オプションの場合だと、上述のように話は簡単にはいかない。つまり、値付けを自分たちで行わなければならないからだ。最初からボラティリティを含む5つの項目について把握しておかなければ、オプション価格を提示することが出来ない。逆に言えば、ボラティリティの水準如何で、幾らでもオプション価格を設定することが出来るということだ。

これがオプションを使った金融商品の如何わしき部分に最も成り易く、業者はそれを自らのブラックボックスとして内容はあまり開示しない。故に、商品組成サイドはオプション業者とのやり取りに、販売員は商品組成サイドに対して最もセンシティブにその論拠を問い質さないとならない。不確かなままだと、お客様に迷惑を掛けてしまうことになる。

是非やってみてほしいこと

Bloomberg端末には、確か日経225オプションの価格シミュレーションを行える機能があったはず。是非、ボラティリティの項目を任意に変化させて、オプション価格への影響度合いを体感してみて欲しい。案外とシビアに変動するものである。すなわち、ここにオプション組成時において、オプション業者が“抜く”ポイントがある。

機会があれば、運用会社のファンド営業に「御社のオプション価格の決定方法を教えてください」と質問してみよう。恐らく、御託を並べた後に「当社独自の方法で最終的には決定しています」などと答えると思う。それ以上に突っ込んだ質問をしても、皆さんも分からないだろうし、相手も多分そう詳しくは無い筈なので不毛な議論になってしまう。

ただ、ここで覚えておいて欲しいことは二つ。一つ目が質問への回答が頓珍漢なものだったら何かを疑った方が良いということ、二つ目は店頭オプションが手数料を抜き易いということのふたつだ。

オプション価格の適正化はこうして起こる

私が投信投資顧問会社の社長をしている時、リートのETFに店頭オプションでカバード・コール戦略を付け加えることで利回りアップを図る新商品(現在も販売されています)を開発し、ある投資銀行と組んで投資信託を組成した。当然、そんなオプションが日経225オプションのように上場されているわけはなく、店頭オプションを利用することになる。上記の理由から、オプション価格の適正性を担保するため、常に複数の投資銀行でプライス・コンペ(価格入札)を行い、最良価格のものを使うようにした。

結果、当初ファンドサイズが小さいうちこそ、元々の投資銀行が組成する店頭オプションを使うことが多かったが、ファンドが大きくなるにつれ、他の投資銀行が落札することが多くなっていた。すなわち、オプションの組成だけでも充分な旨味が取れるサイズになったので、多くの投資銀行がオプション業者として真剣に入札に参加するようになった。その結果としてオプション価格の適正化がより進んでいったという好例となったのである。

次回はここまでの3回を総括しよう。

用語解説

*1. 一定条件を原資産が満たした場合:バリアオプションや、エキゾチックオプションなどと呼ばれる特殊なタイプがこれに当たります(基本的にこの2つは名前の違いだと思ってください。)これらのオプションは更に2つに分けられ、原資産が一定の価格に達すると効果が生まれるものが「ノックインオプション」、達すると効果が消滅するものが「ノックアウトオプション」と言います。身近なところでは、EB債など仕組債に使われているのはこのタイプが多いです。仕組債のノックイン・ノックアウト(予め決められた条件の価格を下回る/上回る)とは若干違う使われ方なので、注意しましょう。

*2. 原資産価格:オプションの元となる資産(原資産)の価格です。原資産価格が上がれば、コールオプションの価値が上がる、逆も然りということは理解しておきましょう。

*3. 行使価格:オプションの期日(満期)が来たとき、この価格で原資産を売買する権利が発生する、その価格です。コール・オプションなら買う価格、プット・オプションなら売る価格になりますね。

*4. 残存期間:満期までの残りの期間のことです。この期間が短いと価格は上がります。

*5. ボラティリティ:価格の変動を数値化したものです。ヒストリカルボラティリティ(HV)とインプライドボラティリティ(IV)の2種類があります。前者は価格の標準偏差、後者は本文で説明している通りです。

*6. 日経225オプション:日経平均株価を対象としたオプション取引です。

おわりに

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ではまた次回の記事でお会いしましょう。

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vol.4「リスク商品の基本まとめ」

(編集:Fund Garage 編集部)

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