【連載記事】新入行員諸君!リスク商品でござる vol.2「リスク商品の基本②」

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はじめに

月曜日の「新入行員諸君!」はお楽しみいただけたでしょうか?今回は、前回に引き続き「リターンとリスクのトレードオフ」について、金融機関のコストという視点も加えた内容となっています。

つみたてNISAの知名度が上がってきた中で、信託報酬や販売手数料といった聞いたこともあるのではないでしょうか?ただ、それが何のことを言っているのかわからなかった方も決して少なくないと思います。この記事を読むことで、何がコストとしてかかっているのか、ご理解いただけると思います。

今日が終われば1週間も半分を突破したことになります。あと少しだと思って、最後まで油断せずに頑張っていきましょう!

では、本文をどうぞ。

本文「リスク商品の基本②」

コストはパフォーマンスの悪化要因

私は運用サイド/商品組成サイドで長く運用パフォーマンスの評価を受ける立場で居た。そのためか、運用に関わるコストに関してのセンシティビティは普通の人よりかなり高い方だと思う。何故なら、コストは全てパフォーマンスの悪化要因となるからだ。そして顧客の受取りを減らし、パフォーマンスの劣化として運用サイド/商品組成サイドの首を絞めるからだ。逆に言えば、如何にコストを引き下げるかに腐心してきた立場とも言える。

単純な例を挙げてみよう。販売手数料が3%、年間の信託報酬*1が1.5%の投資信託があったとする。これは極めてオーソドックスな投資信託の手数料体系で、利益率が高いため販売サイドには非常に受けが良いタイプだ。だが、この二つの手数料を合わせた4.5%分のマイナスを取り戻さない限り、お客様は「儲かったわ。この投資信託にして本当に良かったわ」とは言ってくれない。現状の日経平均株価(約27,000円前後)で言えば、約1,200円分相当の上昇をフルに享受出来ないとマイナス分を取り返すことは出来ない水準である。

よく販売員がお客様に「手数料の合計4.5%分を“除いて”考えれば、ファンドは3%近い利回り(日経平均株価800円相当分)で回っており、このマーケットの中では健闘している部類に入ると思いますよ」などと説明しているのを知っている。だが、お客様にしてみれば手数料控除後のマイナス1.5%が受取り利回り(つまり損失)となるので、当然そんな能書きなど知ったことではなく、顔色は今一つ冴えない。

ただ当然のことながら、金融機関の営業サイドから考えると、これほど力を入れて販売したくなる商品は無い。販売手数料と信託報酬を合わせた4.5%分が収益として認識出来るからだ。この時代、銀行が預貸利ザヤ*2で4.5%稼ごうなど、幻のような話だ。

ただ、もし金融庁が「投資信託に関わる手数料収入は銀行の実力を示す業務純益からは除外する」とでも宣言することがあったとしたら、銀行業界の投資信託に対する熱意は瞬時に消え失せるに違いない。現に金融庁が販売手数料の問題について狼煙を上げたら、すかさず長年の懸案であったノーロード(販売手数料ゼロ)の投資信託がデビューした。

すなわち、投資信託に関わる手数料は飴であり、フィディーシュアリー・デューティー宣言は鞭、というのが足元の状況となる。まだ当然そんな実感は新入行員諸君は感じていないだろうと思うが、これがひとつの大人の裏事情でもある。

運用商品組成とコストの関係を把握しよう

話をコストの話に戻そう。投資信託の販売手数料や信託報酬のように分かり易いものは、まだ良い。もっと大きな問題のひとつはあまり表に出ないコストをどのように把握するか」ということである。

以前、富裕層のお客様で元外資系投資銀行の幹部だった人が居た。当然のことながら金融業界の内情は全て理解されている。何せ元業界人。ある日、担当の営業が新商品をセールスに行くと「面白い商品だけど、手数料の内訳が知りたい。計算は自分で出来るから、これと、これと、この原データを貰えませんか?」と恐ろしいことを言われた。

当方も特にいかがわしい手数料設定をしているわけではないので、快く全てのデータを開示した。すると、後日先方から「思ったよりも良心的ですね。買わせて頂きます」という返事を頂いた。その金融商品を組成する上で、どうしても掛かってしまう手数料だけだったので、逆にお客様はその仕組みが分かっている。ご納得の上、快く伝票にサインをしてくださった。これなどは「超レア・ケース」な話と言える。

どういう金融商品の手数料だと投資信託の販売手数料と信託報酬のように”クリア”に見えてこないかと言えば、代表的なものはデリバティブ*3が組み込まれた商品だろう。または外国籍のファンドやETF*4を組み入れたような、日本の法律体系の中だけで処理し切れない商品が組み込まれたものである。これらの金融商品のコストは素人目には非常に分かりづらくなる。ファンドラップ*5などに案外多い。順に見ていこう。

オプションを組み込んだ金融商品

金融商品の重要な仕組みとしてオプション*6を組み込んだものは極めて多い。「対象資産の値段が○○になると繰り上げ償還となります」という「IF文」が入っていれば、殆どの場合、オプションが入っていると見て良い。

その代表的なものが「株価連動仕組債(EB債)」「カバードコール付き投資信託」そして「プレミアム外貨預金」などだ。あのタイプのリターンの条件設定は、オプション取引を絡めないとまず作り込むことは出来ない

そして厄介なことに、これらオプション取引に関わる手数料の場合、まず「お客様にご負担いただく手数料」という形で、そのコスト分が人目に晒されることはまず有り得ない。専門的に成り過ぎるので説明は省略するが、それはオプションの価格理論式の中に上手く包み込まれるからだ。

従って、ここで発生するコストは販売会社や運用会社、或いは商品組成会社などの受取り収益とはならない場合のものが殆どである。誰が受け取るかと言えば、そのオプションを組成した業者である。

「2階建て」「3階建て」と呼ばれる金融商品

次に業界では「2階建て」とか「3階建て」と呼ばれることの多い商品が、外国籍のファンドやETFを組み入れたようなファンドである。

商品の目論見書には「予め計算できないお客様にご負担いただく手数料」などと、非常に分かりづらい表現で存在自体は明らかにされている。だが、実際にそれは蓋を開けてみないとわからないファンドの監査費用であったり諸々の諸経費であったりする。仕方ないと言えば仕方ないのだが、これも運用コストとしてパフォーマンスの劣化要因となる。すなわち、お客様負担の部分となり、運用サイド/商品組成サイドは取り返さないとならない。

もうひとつがファンドラップやSMEと呼ばれる、「個々のお客様ニーズに合わせたテーラーメード」を謳う運用サービスも「2階建て」や「3階建て」の典型的な商品である。その費用は、投資顧問会社が一任勘定手数料として受け取るものと同等のもの、それプラス投資対象の信託報酬などの諸々の諸費用で2階建てとなる。中には販売用手数料が含まれる場合もある。

ファンドの運用結果を第三者が保証する金融商品

最後にファンド運用の結果について、第三者が保証せざるを得ない場合を想定しての保険料がかかるパターンの投資信託もかつて存在した。

最大のセールス・ポイントとなったのは「ある一定金額以上、基準価額が下落すると、防衛ライン(プロテクトライン)と称する予め設定された水準で強制償還します。ただこの水準は、基準価額が上手く上昇すれば、それに合わせて引き上げるので、当初運用開始後、基準価額が10,600円を超えれば、防衛ライン(プロテクトライン)は10,000円まで引き上げられます」という、まるで手品のような仕組みが組み込まれた点だ。投資家であるお客様の損失はある水準で固定されるという建付けであり、上手くいけば、設定時からの投資家は投資元本が毀損することが無いという商品だ。

この商品特性を達成するために、ファンド運用の関係者のひとつとして、その防衛ライン(プロテクトライン)を死守する保険会社役が介在したのが実は味噌だ。そして最悪の事態の場合は、その会社が防衛ライン(プロテクトライン)以下となったパフォーマンスの損失部分を埋め合わせする。だが当然にして、その拠出すべき保険金額に見合う分だけの保険料はコストとして予め恒常的にファンドの中から徴収する

生命保険や損害保険の多くが、生存率や事故率などの統計的データを元に保険料の金額は決定されている。対して、このファンドの保険料率がどうやって算定されているかは、かなり疑問が残されるところであった。過去の発生確率のデータなど当然にして無いので、どういう方法でその保険料が算出されたかは分からない。だが実際にこの投資信託は2020年3月のパンデミック・ショックによる市場急落で基準価額が防衛ライン(プロテクトライン)に急激に近づいてしまった。そしてその後、運用コストでジリ貧状態の基準価額下落となり、遂には2021年9月に繰り上げ償還となった。

実はパンデミック・ショック後から2021年9月までの約1年半と言えば、世界的に株式市場が急騰したのは有名だ。しかし、本ファンドの基準価額は不思議と微動だにするどころか、更なる低下を演じた。その理由を確認すべく、運用レポートなどで状況を確認すると、株式市場が上昇するのを横目に、殆どリスク・アセットの組入れが行われていない。結果的に運用コストが膨らんで防衛ライン(プロテクトライン)に抵触したというのが実態だ。

但し、目論見書で確認すると、確かに「基準価額がプロテクトラインに近づいた場合、より安全な運用に切り替える」という一文が免罪符のように確りと書き込まれている。聞くところによると、この件に関しては金融庁がその運用実態について、何らかの調査に乗り出したとも聞いている。

結論:コストは完全な悪ではない

ここまで見てきたように、金融商品に関わるコストの種類は、スキームが複雑になり、組成に関与する金融機関/業者が多くなればなるほど高くなることは明らかだ

ただ問題はその高くなるということ自体ではなく、お客様が正しくその仕組みを理解し、納得されているかどうか、それ以前に販売員がそれらをきちんと理解しているかという点である。「リターンとリスクのトレードオフ」という点からいえば、そのリスクに見合った期待リターンが描けて、適切な説明が出来ているのかということでもある。

お客様に「当面浮かんでくることのない原子力潜水艦」のような商品を知らず知らずのうちに販売してしまうことが皆さんには起こらないことを願ってやまない。専門家として見ても、その潜水艦が何が起きれば浮上してくるのか分からず、永遠に潜航したままになるのではないかと思われるものが数多あるからだ。そして残念ながら、金融商品の仕組みはより複雑化して、益々素人目には解かり辛くなっている

だが、念のため誤解の無きように本稿の最後に加えると、オプション等を組み入れると必ず「顧客本位ではない金融商品」が出来上がるわけでは決してないということ、これは間違えないで欲しい。そもそもオプション取引自体は本来最先端の投資理論で運用される素晴らしい金融商品だからだ。ただ理論値の計算などが複雑でもあるため、素人目には分からないように悪用することも可能という一面があるだけだ。

次回はそのオプションについて、話してみよう。

用語解説

*1. 信託報酬:投資信託の運用・管理費用のことです。投資家の目線で見ると「支払う手数料」ですね。

*2. (預貸)利ザヤ:銀行の本業収益に当たる、預金利率と貸金利率の差額での儲けにあたる部分です。銀行は個人から預金を集めて利息を支払う代わりに、企業にお金を貸して金利収益を得ているわけですが、そこの差額を「利ザヤ」と言います。

*3. デリバティブ:株式や債権といった基本の金融商品から派生した、先物取引やオプション取引などの総称のことです。

*4. ETF(Exchange Traded Fund):日経平均やTOPIX、NYダウ等の指数に連動するように運用されている投資信託のことです。上場しているので、株式のようにリアルタイムに取引をできることが特徴です。

*5. ファンドラップ:投資家に代わって、金融機関がその投資家の投資意向に沿って資産管理・運用を行う商品のことです。

*6. オプション:決められた期間内や期日に、ある資産を予め決められた価格で買うor売る権利のことです。この権利を取引することを「オプション取引」と言います。オプションには2種類あり、買う権利「コール・オプション」と、売る権利「プット・オプション」があります。

おわりに

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ではまた次回の記事でお会いしましょう。

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vol.3「オプション活用の基本」

(編集:Fund Garage 編集部)

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ファンドガレージ 大島和隆

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