FG Free Report FG米国視察ツアー②米国物価高のリアル(10月9日号抜粋)

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最近、メディアやSNS上で、円安や物価高の影響でなかなか海外旅行に行けないという声を多く耳にします。しかし実際のところ、アメリカの物価高の現状はどうなっているのでしょうか。今回は、FundGarage主宰の大島が2023年9月に行なった米国視察旅行で感じた、米国物価のリアルについて解説していきます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

FG米国視察ツアー第二弾!

舞台はシリコンバレーから東へ

現在、テキサス州ヒューストンにてこのレポートを纏めている。現地のリアルな材料をたくさん入手することができたので、今回は多角的にその様子をお伝えしよう。

こうして記事を執筆していると、やはり自分の目と耳でリアルに見る世界の重要さは今も昔も変わらない、とあらためて実感している。

まだ私がファンドマネージャーとして駆け出しの頃、調査レポートや証券会社のセールスの説明だけを頼りに巨額の運用をしている上席のファンドマネージャーを見て、いつも私は不思議に思ったものだ。

だからこそ私は最初、数字とコンピューターの演算能力に頼る運用、すなわちクウォンツ運用の世界から始めることにした。

そして、徐々に企業とその株価の動きが体感できるようになってくると、実際にその企業が何をしているか、どんなところで、どんな人たちが働き、その人たちは何を考えているのかを知りたいと思うようになった。

これが私の投資スタイルの原点であるので、今回のレポートもお楽しみいただければ幸いだ。

米国物価高の実情①——ガソリン

一般に、「アメリカは凄い物価高だ」と誰もが思っているだろう。確かにそれは「かなり正しい」

例えば今回、レンタカーを借りて西海岸からツアーを開始したが、「急騰」していると話題になっているガソリン価格に関して、カリフォルニア州のそれが極端に高いことにはさすがに到着直後から驚きを隠せなかった。

というのも、サンフランシスコ市内では、レギュラーガソリン1ガロン(=約3.8リットル)が6ドルを超える看板を見たからだ。リーマン・ショック前、ゴールドマン・サックスがWTI(West Texas Intermediate、西テキサス地方で採れる原油)の急騰を予測し、一時期それが140ドルを超えた頃でも、ここまで高くはなかったように思う。

 

だが、その景色も内陸部に入ると一変した。

途中に立ち寄ったネバダ州の田舎街では、3ドル台の看板さえチラホラ散見されたし、現在私が滞在しているテキサス州ヒューストンでも、ガソリン価格は軒並み3ドル台だ。この地域には、製油所がたくさん所在している。

シカゴに住む友人も、「こちらは3ドル台ですよ」と教えてくれた。

そもそもカリフォルニア州のガソリンは構造的に高いものになる。その理由は下記の通りだ。

  • 州の税金: カリフォルニア州は、ガソリンに対する税金が高い
  • 環境基準: カリフォルニア州は、独自の厳しい環境基準を持っており、これに対応する特別なガソリンを製造する必要がある。この特別なガソリンは、他の州で使用されるガソリンよりも高価。

また私が思うに、上記だけでなく「製油所のある場所とガソリンスタンドの位置関係」も大きく関わっているのかもしれない。

テキサス州などのメキシコ湾岸沿いに集中している製油所から、ガソリンをカリフォルニア州まで運ぶためには、パナマ運河経由の海上輸送は通常行わない。基本的には鉄道かトラック、すなわち陸路だ。

だとすれば、必然的にコストは高くなると考えられるだろう。

 

米国物価高の実情②——チップ

更にもうひとつ。レストランのチップが、それこそ「バブルだろう(笑)」と言いたくなるほど上昇している。

かつては伝票の15%から25%程度が通常レンジ、そしていいサービスを受けたなと思えば20%というのが相場だったが、今は20%が下限であることが多い。

というのも、「テーブルチェック」と呼ばれる、食事代をテーブルで精算する方法は従来通りなのだが、
クレジットカードを請求伝票に挟んで置いておくと⇒一旦店員がそれを取りに来て⇒戻ってきてからカードのサインとチップ金額を書き入れる
というスタイルは減ったのだ。

現在は、コロナの影響でなるべく非接触にしようという“フィンテック”のおかげで、「モバイル精算端末」による決済が増えた。

これを使うことで、店員が持ってくる「モバイル精算端末」にクレジットカードをタッチするかiPhoneを近づけてApple Payで精算完了、となる。

もっと驚いたのは、端末画面上に食事の合計額が表示されるのと同時に、その下には既に自動的にチップの選択肢が3つ表示されることだ。従来のように計算しなくてもいいから便利は便利だが、「Skip」や「0%」というタッチボタンに気が付かないと、必ずどれかを選択する羽目になる。

参考として、以下にCNBCのYouTubeリンクを貼った。「米国では支払い時にチップが3択の選択式になったことで、チップ支払いが手に負えなくなってきている」という内容。

動画内では、

これまでコーヒーショップやファストフード店などには、レジ横に”Tip Jar(チップを入れる容器、日本の募金箱のような見た目)”があり、そこにチップを入れることができた。しかしそれは完全に任意で、入れなくてもOKな風潮、つまり“Active thing=能動的行為”であった(し、実際そこにお金を入れる人は少なかった)。
だが、今はどのお店に行っても「チップを払うか・払わないか」の選択を余儀なくされることで、Tippingは “Passive thing=受動的行為”になってしまった

と語られていた。

そして問題は、その選択肢がかなりなインフレになっていることだ。上記動画でも説明されていたが、「チップを払う機会と費用が大幅に増えること」を表す、“Tipflation”という造語までできたほどだ。

私の肌感覚では、最初のスタート枠が18%からのケースはかなり少なく、多くが20%から始まっている。前述の通り、その欄をスキップする方法はあるが、それまで笑顔で話してきた店員を前に「Skip」や「0%」をタッチする勇気は私には無い。

聞くところによると、今や「15%」を選択すると、むしろ「何かサービスに問題があった」という反応になるらしい。やはりこれは、チップが「受動的行為」になってしまったことの大きな弊害と言えるだろう。

 

米国物価高の実情③——日本より安い物品も?

しかし、何もかもが極端に高いかと言えば、必ずしもそうではない。

つまり日本から来た者の感覚では、円安という為替の影響が関わるので、極端に「何もかも高い」と思う面はあるが、ドルベースで見た場合は、必ずしも全部が全部とは言えないことは強調しておきたい。

その証拠に、ビッグマックがサンドイッチだけで$6.99というのは、米国内でもハンバーガーとしては「高過ぎる」と受け取られているようだが一方で、その近くにあった「inn & out」(こちらの方が絶対的に私の好みの味である)は、フレンチフライとソフトドリンクを付けた場合でも、明らかに安い。

マクドナルドがビッグマックのコンボで$11.99にもなるのが、「inn & out」の同等品の場合、$9.25(double burger with cheese)で収まる。

円換算してしまうと、それでもどちらも高いと思えてしまうが、何処の店を見ても混んでいる「inn & out」に対し、両方の店があるモールだとマクドナルドでは閑古鳥が鳴いていた。

 

また、食料品スーパーの「Safe Way」では、500mlのペットボトル24本入り×2ケースが7ドルで買える。これなら、1ドルを150円で仮に計算したとしても、1本の単価は22円弱だ。

さらに他のスーパーでは、キリンの缶ビール「1番絞り」が12缶入りで$9.99という特売さえあった。1缶が1ドルに満たないので、明らかに日本でキリンを買うよりも安い。

つまり何が言いたいかというと、安く買い物をする方法はあるということだ。

米国での電気自動車(BEV)事情

先述のとおり、カリフォルニア州におけるガソリン代が異常な高さであるのは明らかだ。

それもあってか、フリーウェイ101号線を走っていると、「ベイエリアではテスラ(TSLA)が取引先向けの特別社販をしているに違いない」と冗談で言いたくなるほど、テスラのBEVが多い。

なので、シリコンバレーの各企業の駐車場やショッピングモールの駐車場には、山のように「テスラのスーパーチャージャー」が並でいた。イメージで言うと、80年代大バブルの頃「BMWが六本木のカローラ」と揶揄されたが、「シリコンバレーのカローラ(今風ならアルファード?)」という趣すらあった。

 

だが、ひとたびカリフォルニアを離れて、太陽光発電などの再生可能エネルギーが豊富なエリアに入ってみると、そこから先でテスラの市場占有率は、目にも明らかなほど激減する。

ただ、カリフォルニア州が地球温暖化に神経質になるには正当な理由がある。

そもそもカリフォルニア発展の歴史の裏には、人口増加に伴う水資源の確保のための数多の灌漑事業が切っても切れない関係にあるのだ。

高湿度のアジアの国から行くと、その湿度の低さには驚くだろう。事実、異常気象による自然火災が後を絶たない。2020年夏にはナパバレーの近くで大規模な山火事があり、その爪痕は今でもロバート・モンダヴィやその正面にあるオーパスワンのワイナリーでさえ目視できる。

さらに、米国の3大国立公園のひとつ「ヨセミテ国立公園」を襲った2022年の山火事では、東京都23区の面積の約1割相当以上を焼失している。

だからある意味、「地球温暖化ガス排出」については、とても身近な問題として人々が感じるのもわかる。

ただその一方で、カリフォルニア州の事情が「全米」の状況を代弁していないという点には注意したい。

現在ヒューストンに着いて丸一日が過ぎたが、驚くほど「ガソリン大食いピックアップトラック」が多く、テスラどころか、他のBEV車やHEVでさえ、ほとんど見られないのが事実だ。

 

ただ、日本に入ってくる情報はどうしても西海岸(ロサンゼルスやサンフランシスコなど)や東海岸(主としてニューヨーク)のものに偏りがちだ。

日本はBEV(電気自動車)で、あたかもかなり世界に出遅れていると言われるが、間違いなく、テキサス州ヒューストンに比べたら、日本の方がEV化が進んでいるのである。

まとめ

今回は、FG米国視察ツアー第二弾として、内陸部の様子を以下の内容を中心にレポートした。

 

  1. 米国の物価高は確かに加速しているが、賢く買い物をすれば安く手に入るものも多い。
  2. ガソリン代は特にカリフォルニア州で急騰しており、それには州の税金・環境基準・地理的要件といった要因が大きくかかわっている。
  3. 非接触端末の普及による“Tipflation”が問題となっており、チップの値上がりや、これまでチップが不要だったシチュエーションでもチップが要求されるようになった。
  4. ガソリン代が法外に高いカリフォルニアでは、テスラのBEVが至る場所で見られたが、その他訪れた内陸部地域においてはBEV・HEV共に全く見られず、むしろ日本のほうが多いくらいである。
  5. 自分の目と耳でリアルに見る世界に、大きな価値がある。

 

今回、コロナ以降で初めて渡米し、西海岸から東海岸までを回るツアーを始めたことで、やはり色々と感じるものがあった。

繰り返しになるが、やはり現状はなかなか現地に行くことが難しいかもしれない。だが、もし自由が利くのであれば、実際に海外に足を運び皆様ご自身の目で確認していただくと、必ずや大きな成果が得られるだろうと思う。

そしてもちろん、FundGarageとしては今回のツアーの成果をあらためていろいろな形でご紹介していきたいと思っているので、今後にも乞うご期待いただきたい。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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