FG Free Report Amazon.comとAWSの生成AIへの取り組み(4月17日号抜粋)

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みなさんは、仕事や日常生活で「生成AI(Generative AI)」を活用していますか。今や生成AIは、世界の名だたる企業で積極的に研究されており、新しい価値を生み出すための惜しみない企業努力が続けられています。今回は、ビッグテックのひとつである、アマゾンドットコムとAWS(アマゾンウェブサービス)の生成AIへの取り組みについて、プロのファンドマネージャーがお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——「AmazonとAWSの生成AI」

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、「生成AI(Generative AI)活用拡大へのアマゾンドットコム(AMZN)とAWSの取り組み」について解説していきたい。

また、以前のFree Reportでも生成AI関連分野について紹介しているので、そちらも合わせてご覧いただけると、より理解が深まるだろう。

☟リンクと記事概要はこちら☟

『Generative AIとの正しい付き合い方』…生成AI関連の半導体分野の株価は上昇傾向にある。また、デジタルデバイドも問題になりつつある。

『生成AIが世界を牽引する』 …生成AIの台頭で、それ自体を動かすのに必要なハード面が半導体市場の先頭を走っている。IGF2023が10月に京都で開催された。

右肩上がりのビジネス・トレンド

Amazon.comの値動きと、「Dear shareholders」で伝えられたこと

アマゾンドットコム(AMZN)は、毎年この時期(4月中旬)にDear shareholdersというものを株主に送っている。

今回も内容が非常に興味深い。なぜなら、これを受けて株価が4月12日の前日終値97.83ドルから翌日終値102.40ドルまで+4.57ドル(+4.6%)も急騰したのだから。

何がそんなに市場に興味を与えたかを考えていこう。

まず、アマゾンドットコム(AMZN)の最近の動きを確認すると、以下のチャートの通りだ。

ナスダック(黒線)に対するGAFAM各銘柄の株価の相対パフォーマンスを示しているが、現状最も下降気味の赤線が、アマゾンドットコム(AMZN)だ。

 

今回の詳細に入る前に、まずはPDFの8頁から始まる「1997 LETTER TO SHAREHOLDERS (Reprinted from the 1997 Annual Report)」を見ていただきたい。

これは、1997年当時、創業者兼最高経営責任者であったジェフベソズ氏が記したものが毎回今でも添付されているものだが、その当時から株主に対して普遍的な同社のポリシーとして伝えてきた重要なことが記載されている。

それがPDF中の、8頁の下段にある黒丸で始まる部分だ。特に2個目の後が重要だ。

曰く、

“We will continue to make investment decisions in light of long-term market leadership considerations rather than short-term profitability considerations or short-term Wall Street reactions.”

すなわち、

「私たちは、短期的な収益性や短期的なウォール街の反応ではなく、長期的な市場のリーダーシップを考慮して、引き続き投資判断を行います」

と言っている。

ここで言う投資判断は、企業経営として設備投資などを行う時の判断基準を示す。

そしてもうひとつ重要な文章が、

“We will continue to focus relentlessly on our customers.”

の部分。

日本語訳すると、「これからもお客様のことを絶え間なく、第一に考えていきます」となる。

如何に同社が、カスタマーエクスペリエンスを大切にし、そして、四半期決算などに一喜一憂するウォール街の反応など一顧だにせず、長期ビジョンで経営判断をする会社であるかを示しているだろう。

そして今回においてもこの部分を添付しているあたり、まだまだこの考え方はアマゾンドットコムの経営の根幹を為す思想だと理解しておく必要がある。

AWSのビジョン

その上で、今回の株主への手紙に戻ると、まず冒頭で、

“AWS has an $85B annualized revenue run rate, is still early in its adoption curve, but at a juncture where it’s critical to stay focused on what matters most to customers over the long-haul. “

とある。つまり、

「今もしっかり稼いでいますが、それでも導入曲線の初期段階であり、長期にわたって顧客にとって最も重要なことに集中し続けることが重要な時期にあります」

ということだ。

AWS(=アマゾンウェブサービス)とは、世界最大のクラウドサービス・プロバイダーだ。

今やアマゾンドットコムの屋台骨を支えるビジネスになってはいるが、それでも尚、まだまだ初期段階であり、顧客を向いて慎重に事を進めるべき段階にあるという。

すなわち、ウォール街のアナリストなどの小さな狭い視点では捉え切れないような大きな物語の入り口に立っているだけだという解釈ができる。

そもそもクラウド・サービスというのは、「オンプレミス(=On-Premises、ソフトウェアやサーバーを、会社など施設に設置して使用すること)」環境のように常に一定の固定費を払い続けなければならないものではなく、必要な時に必要なだけ、顧客のニーズに応じて変動費として対応できるITサービスだ。

それは同時に、マクロ環境が厳しい時には、サービス・プロバイダーにとっては、本来的には売上も利益も削られる構造であることを意味する。

ただそれを提供しなければ、真のクラウドサービス・プロバイダーとは言えない。

つまり、そのメリットを享受して貰って初めて顧客との長期的な信頼関係を構築することができるのだ。その話を、あらためて「Dear Shareholders」の中で伝えている。

もしかすると、短期的な視点だけのウォール街の投資家(投機家?)から見れば、「ふざけるな!」という話かも知れない。しかし、「これがアマゾンドットコムだ」と理解している投資家(恐らく既に株主)から見れば「それで良いと思います!」ということだと思う。

そうすることで、同社への初期投資家は無配である株式を抱えながら、莫大な利益を手にしてきたのだから。これは、ビジネスの仕方としても、個人的に私は同意する考え方だ。

AWSが独自開発したTrainiumとInferentiaという半導体

その大きな物語の入り口のひとつとして、AWSは独自の半導体開発の話も伝えている。

それは、自社製のAI用チップ、「Trainium」および 「Inferentia」という新しい半導体だ。

こられは、機械学習タスク専用に AWS がカスタム設計したチップであり、以下のような特徴を持つ。

  • 「Trainium」:機械学習モデルの費用対効果の高い高パフォーマンスのトレーニングを提供することに重点を置く。
  • 「Inferentia」:低レイテンシ(=低遅延。ある要求に対し素早く応答すること。)で高スループット(時間あたりの処理量が多い)の推論を低コストで提供するように設計されている。

簡単に言えば、これらは特定のタスク(主に生成AI用)に合わせてカスタマイズされたチップであり、最適化されたパフォーマンスと電力効率を提供するためのものだ。

AWSを世界最大のクラウドサービス・プロバイダーに育て上げたアンディ・ジェシーCEOの采配に感銘を受けた。ある意味では私は、カーボンニュートラルに向けたマルチパス戦略でここまで来ている、トヨタ自動車の現在の立場と似たものを感じている(前回レポート『トヨタのマルチパスウェイ戦略』を参照)。

AWSとエヌビディア(NVDA)のAIインフラ協業

さらに、アマゾンドットコムは、2023年3月22日(米国時間)にAWSとエヌビディアとの協業を発表した。

それは、

AWSとエヌビディアがAIインフラ分野での協業し、NVIDIA H100 GPUを搭載した「EC2 P5インスタンス」の提供を始めとするさまざまな取り組みを通じて、大規模言語モデル(LLM)の学習や生成系AIアプリケーションの開発に最適化した、拡張性の高いAIインフラの提供を目指す』

というものである。

エヌビディアのジャンセンCEOは、詳細について次のように語っている。

「生成系AIは、企業が自社の製品やビジネスモデルを再構築し、破壊される側ではなく、破壊する側になることを目覚めさせるものだ。アクセラレーテッドコンピューティングとAIはまさにちょうど良いタイミングで到来している。AWSとは長年のパートナーであり、NVIDIA GPUを提供した最初のクラウドサービスプロバイダーだ。アクセラレーテッドコンピューティングと生成系AIの活用に向けて、お客さまに支援ができることを楽しみにしている」

ということだ。

またAWSとエヌビディアは今後、サーバの最適化に焦点を当てた研究を基に、次世代システム設計、冷却技術、ネットワーク拡張性によるスケーリング効率の向上などに取り組む、としていた。

どうやら、AIの世界は相当に奥深く、まだまだ知らないことがたくさんあるようだ。

コラム:ChatGPT、使ってますか?

「ITmedia NEWS」というネットニュースで、『みんなどのくらいChatGPTに課金してるの? 読者調査結果』という記事が紹介されていた。

今話題のGenerative AI、その火付け役ともなったのがChatGPTであり、AI関連銘柄の株価がエヌビディアを筆頭に爆謄したりした。

だからChatGPTを利用しているのは、ある意味では相当な割合で、更に課金している人はどの程度居るのかなというのがこの記事の最初の目論見だろうと思う。

また、『ITmedia NEWSの読者に対してTwitterでアンケートをとってみた』というX(旧Twitter)での調査もあった。

その結果には驚かざるを得なかった。百聞は一見に如かず、下記の図を見て欲しい。

何が一番の驚きだったかというと、

有料版/無料版合わせて「ChatGPTを使ったことがある」のは67%、逆に「実は使ったことはない」のは27%という結果だ。

約3割の人が、まだ使ったことが無いというのは普通の結果なのだろうか?

私は有料版のChatGPT Plusを利用している。モデルもGPT-4で話すようにしているし、ChatGPTの学習量の問題にも配慮して、なるたけ英語でやり取りするようにもしている。

だからかもしれないが、やはりAI関連の投資や知識を得たいと思われている方は是非ともChatGPTには触れておいていただきたいと私は強く思う。

そのものをリアルに感じ取っていただいた方が、投資先選定の確度は高まると思われるし、またその投資成果についても納得ができるだろうと思われるからだ。

まとめ

今回は、

 

  1. アマゾンドットコムが株主へ送った「Dear Shareholders」は、示唆に富むものだった。
  2. 「Dear Shareholders」によると、アマゾンドットコムは長期的な経営・投資判断に焦点を当てていくとしている。
  3. AWSは、アマゾンドットコムのメインビジネスのひとつであるにもかかわらず、未だ初期段階であるとし、今後は更なるビジネス拡大が期待される。
  4. AWSは、「Trainium」と「Inferentia」というAI用チップを新しく独自に開発した。
  5. AWSとエヌビディアは、協業して、LLM学習や生成系AIアプリケーションの開発に最適化した、AIインフラを提供すると発表した。
  6. 世界はどんどんAIの時代へと進んでいる。実際に使用してその魅力を感じてみよう。

 

ということを中心にお話しした。

アマゾンドットコムのビジネスを例にとったものの、確かに今回の内容は、「相当にオタク」な世界であり、一般の個人投資家がこれらを理解するというのは、かなりハードルが高いものかもしれない。

ただそれでも、「そんなわけ分かんないオタク」な世界が、ファンドマネージャーやアナリストの間などではどこかで議論されており、それが株価の価格形成に影響を与えているということも、ひとつのリアルである。

だから、みなさまにはご自身の目で一度でもいいので、新しい世界を確認してみてほしい。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
また、こちらは無料版記事のため、最新の情報個別企業の解説についてはカットしております。
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