FG Free Report 自分の目で見て投資を考える(12月5日号抜粋)

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年末に入ると、米国市場は落ち着いた動きを見せます。そのような中、新年に向けてみなさんはどのような計画を立てて過ごせばよいのでしょうか。今回は「自動車関連分野」に焦点を当てながら、正しい投資判断のポイントをプロのファンドマネージャーがお伝えしていきます。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)

年末に向けて落ち着いている市場

今年はいつまで投資家が市場を見ているのか?(前回のおさらい)

先々週に引き続き、先週一週間の日米各株式市場の週間騰落率は下記の通り穏やかな結果となった。まさに「消化試合」を見ているようでしかないと言える。

前回のレポート『アメリカの商習慣は市場に通ずる』のおさらいにはなるが、11月21日から11月25日の週(米国市場がサンクスギビングで休場となった日を含む一週間)は、本来ならば海外投資家がお休みになる。

つまり国内投資家が増えて当然と思いきや、発表された数字を見ると、なんと全体のボリュームが低下した上で、その前の週よりも海外投資家のウェイトが上がっている。これは、ますます海外投資家の存在感が高まっているという証左でしかない。詳細は下記の通り。

約7割が海外投資家の売買に主導されているのが現下の日本株式市場だが、ならば欧米の市場動向を含めて、その主たる投資家達はCY2022をいつまで戦うだろうかを考えておく必要がある。

今週は目立ったイベントは無く、寧ろ12日と13日に開催されるFOMCを前に「様子見」や「動けない」と考えるサラリーマン機関投資家が多いだろうと思われる。来週はさすがにFOMCがあり、ECB理事会もあるので、多少は利上げ幅やその後の記者会見の内容で上下に動くとは思われるが、最後の2週間は赤フォントにした通り、恐らく超閑散な状態となるだろう。

年内はまず大きな変動は起こりにくいだろうと言える。

 

さて以上の通りこのような穏やかな年末であるので、今週のレポートでは、右肩上がりのビジネス・トレンドに焦点を当ててみなさまに情報をお伝えしていきたい。

具体的には、私の専門分野である「自動車関連分野」について、一緒に見ていこうと思う。

右肩上がりのビジネス・トレンド

自動車部品メーカーの売上高ランキング

まずは下の、自動車部品メーカーの直近の売上高ランキングをご覧頂きたい。

あまり自動車部品業界の勢力図というのは一般的に知られていないようであるが、

実は殆ど全て「トヨタ」と言っても過言ではない状態なのである。

一方ホンダの傘下では2020年10月19日に、日立オートモティブシステムズとケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合をして新しく「日立Astemo(アステモ)」という会社が設立されている。

日立製作所は自動車関連事業の売上だけなので、ここではその「日立Astemo(アステモ)」の数字が「日立製作所」として示されている。

トヨタのグループ力の強さ

昨今、自動車メーカー各社の生産計画はかなり遅れている。

そのような中私は先週、いつものトヨタディーラーへと足を運んだ。ショールームに新型クラウンが展示されていたが、納車は早くても8カ月先だそうだ。並んで置いてあった小型のSUV(シエンタ)は、標準モデルにオプションを付けると1年待ちだとか。だから、最近は車検整備を受け付けたら直ぐに次のクルマの提案をするのがトヨタ流だそうだ。

ところがそんな矢先、YouTubeを観ていたらこんなニュースが目に留まった。

「海外生産台数、10月の過去最高を更新 生産能力向上などから トヨタ自動車」とある。(下の画像をクリックするとYouTubeに飛びます)

前年同月比で+19.5%というだけならば驚きは少ないかも知れないが、10月として月間生産台数が過去最高というのは驚かずにはいられない。

その背景には、半導体の調達も上手くいき、大きな障害にはならずに済んだからということが勿論大きいが、そもそもそれだけ多くの注文があるということだろう。

ちなみにトヨタ自動車は、デンソーやアイシンというTier1サプライヤーをグループに持つ上に、ルネサスエレクトロニクス(東京都内に本社を置く半導体メーカー)にもデンソーと合わせて17%程度出資をしている。ルネサスエレクトロニクスを調べると、株主上位10社の中に他の自動車メーカーの名前は並ばず、強いて言えば第8位に日立製作所で顔を出すが、僅かに3.17%だ。

やはりグループ力の強さというのはこういう時に現れる。

日本電産の自動車関連ビジネス

いきなり「なぜ、日本電産?」と思われた方も多いかもしれない。しかし日本電産の自動車関連ビジネスについては私なりの見方をお伝えし、業界分析の参考にして頂きたいのだ。

実は日本電産という会社、証券マンだけでなく、個人投資家の中にも同社の熱烈なファンがいる。私自身もかつてはその一人だったから良く分かるが、永守会長の飾らないお人柄が素敵だったのだ。ただ後継者問題については、やや辟易したというのも事実ではあったが。

しかしまた問題はそんなこと以上に、最近ではめっきり祖業のひとつでもあるHDD向けスピンドルモーター(HDDディスクを支持、回転させるためのモーター)よりも、

電気自動車向けのE-Axle(モータ、インバータ、減速機が一体となったEV駆動用モータ)などを前面に打ち出していることが非常に気掛かりなのだ。このまま自動車部品メーカーへと変身出来るのだろうか?

まず同社の事業規模だが、2022年3月期の決算資料から内容を確認してみよう。この決算説明会の時にちょうど「新中期戦略目標 Vision2025」を発表している。それによると現状と今後については以下の通りとなっている。

現状だが、スライドの真ん中あたりの赤線のところが今であり、2022年度(2023年3月期)の連結売上目標を2兆円としている。

この現状の売上高を、2025年には2倍の4兆円にし、さらに2030年には10兆円にするという。平たく言えば、あと8年で5倍にする計算だ。

ではどんなブレークダウンでその絵を描いているのかを下で確認しておこう。

現状が真ん中にある2020年度のバーチャートであり、右側が目標である。

車載は2015年度に2713億円だったが、2020年度には3581億円となり、これを2025年には「自律成長」として約3倍の1兆円にするという目標を掲げている。更に挑戦目標まで合わせて4兆円達成というシナリオだ。

この目標を野心的と見るか、達成可能と見るか、手堅い数字と見るかは投資家それぞれの判断だ。

しかし現在の事業規模も、車載の規模はデンソーの約1/10程度。また「自動車部品」は「命に関わる安全であるべき部品」のため、かなり厳しい品質基準があり、参入障壁の高い分野への挑戦であることは忘れてはならない。

そして現在、日本電産が電気自動車向けE-Axleの主たる販売先として成長目標を賭けているのは実は中国自動車メーカーだ。

それにもかかわらず、その中国系自動車メーカーをカバーしているリサーチ・レポートは殆ど入手不可能か、その開示資料についてどこまで信頼置けるか不安なものばかりなのである

つまりこの企業の現状は正直、「わからない」ものなのだ。

アナリストのカバレッジが異なることによって起きる問題

上記、日本電産が自動車部品メーカーに変身できるのかという問いに、私が「わからない」と答えたのにはもう一つ大きな理由がある。それは、

一般的に証券アナリストというのは業種別に担当者が異なる、ということだ。例えば銀行担当は電子部品は見ないし、電機担当は建設機械を見ないであろう。

実は自動車については、完成車メーカーを見るアナリストと、自動車部品メーカーを見るアナリストは異なる場合が殆どだ。どちらかと言えば、自動車部品のアナリストとして実績を積んで、完成車メーカーを見るようになるというのが、アナリストの世界では出世コース、成長コースとも言える。

つまり、デンソーをカバーするアナリストは、自動車部品担当のアナリストなのだが、

日本電産をカバーするアナリストは、電子部品の担当であるのが一般的ということになる。なぜなら日本電産はHDDのスピンドルモーターが主力ビジネスだったので、従来からの電子部品のアナリストがそのままカバーした方が都合が良かったからだ。

これは多くの問題を孕んでいるということは想像に容易いだろう。それは、これから主力ビジネスを自動車業界に置こうというのに、担当アナリストは自動車業界に疎いということになるからだ。だから、アナリストレポートは見つからないし、開示資料についても信頼度が低い。

そして実はその橋渡しが出来るのが、我々ファンドマネージャーなのである。アナリストは担当業種・担当企業を深堀するが、時々業種を跨ぐような企業が存在する。

一例として、味の素の半導体絶縁材料(※2)のように、食料品とは全く関係のない技術の産物は食料品のアナリストには評価し辛いため、代わりにファンドマネージャーが全体像を練り上げることが多い。

※2…「ABFフィルム」と呼ばれる。アミノ酸の技術を応用して完成された。(クリックして味の素HPへ

年末までの過ごし方のご提案

そのような中、今年は2022年12月14日-16日の3日間、東京ビッグサイトでSEMICON Japanが開催される。(5か月先だがこちらから2023年の概要がご覧いただける。

今年は主催者企画「SEMI Mobility パビリオン」で最新の電動車両を構成する電装品やECU(電子制御ユニット)の進化が分かる分解展示ブースを設けられるようだ。

私が特に注目しているのは、

  • 新興メーカーとして独自の設計でEVに革新をもたらしたテスラの「モデル3」を中心に、最新EVの電装品を比較できる形で展示。テスラのモデル3は車体をはじめ、電動部品や主要な電装品が展示される。
  • フォルクスワーゲンがEV専用プラットフォームとして設計し、初採用した「ID.3」の電装品も用意。
  • 自動運転機能を司る車載コンピューターとして、トヨタ自動車「MIRAI」の部品も展示される。

主催者曰く、「EV戦略で先行するテスラとフォルクスワーゲンの最新EVを比較しながら見学できる、またとない機会です」とのこと。

もし時間の都合がつくようであれば、足を運ばれては如何だろうか。きっとモニターの前にかじりついているよりも、余程有意義な刺激を得ることが出来る思われる。

そうしてCY2023をどう戦うかを考える。投資は決してギャンブルではなく、理路整然とした知的な行為だと思う。その為には充電期間も必要であり、インプットして整理・分析してアウトプットする必要がある。

まさに人間の脳というAIも「Perception AIからGenerative AI」に変わる必要があるということだ。投資家としての師走の過ごし方を今一度考えてみてほしい。

まとめ

今回のレポートでは、

 

  1. 市場は穏やかな状態を保って今年の幕を閉じるだろう
  2. 現在の自動車部品業界はトヨタ主導、その強さはグループ力にあった
  3. アナリストのカバレッジによっては企業の安定性や成長性が正確に計れないことがある
  4. 自分の目で市場を見ることのススメ

 

が大きなテーマであった。

アナリストさえもレポートを作成できていない、監査できていないような状態では、たとえ決算資料等の一次情報であったとしても、信憑性に欠ける場合がある。

だからみなさまが投資判断をするにあたっては、アナリストの判断や資料上の数字だけに委ねるのではなく、ご自身の目で確認して企業価値を見極めていく必要があるということを私は伝えたい。

そのうえで自分が「わからないな」と疑問に思ったものには、慎重に対応する姿勢を忘れてはならない。

また毎週のプレミアムレポートでは、さらに深く掘り下げた内容の発信や、リアルタイムでのフォローを継続的に行っている。多くの方の手助けになれば幸いである。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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