FG Free Report アメリカの商習慣は市場に通ずる(11月28日号抜粋)

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みなさんは日本の株式市場が世界的にどのような立ち位置であるかご存知ですか。実は日本の株式市場というものは世界的に見ると非常に小さく、さらに主な参加者は日本人投資家ではなく海外投資家なのです。今回は、そのような市場で投資を考えていくうえで大切なアメリカの商習慣や文化について、プロのファンドマネージャーがみなさんにお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)

海外投資家の動きは日本株に大きな影響を与える

市場にメリハリが無くなったことの意味

先週の主要株式の動きは以下の通り。

穏やかな一週間であった。一番上昇率が高いのは東証TOPIX、低いのがNASDAQという結果がそれを裏付ける。なぜか?

——それは、11月24日が米国「Thanksgiving Day(感謝祭)」の祝日だったからだ。

 

その背景として現在の日本株式市場の時価総額を見ると、

全世界株式の中で僅か5%でしかなく、しかもその約7割を動かしているのは日本人ではなく海外投資家たちであるということが分かる。

詳しくはこちらの動画をご参考いただきたい。また動画内でもご紹介しているが、東京証券取引所の投資部門別売買状況の資料を併せてご覧いただくとよいだろう。

日本株市場のメインプレイヤーが欧米の投資家となった現在、

日本の市場参加者も米国の文化や歴史、その風習をよく理解しておく必要があるということがお分かりいただけるだろう。

では、この時期の米国をみなさんはどれくらいご存じだろうか。次項で詳しく説明しよう。

Thanksgiving Day と Black Friday、そして Cyber Monday

毎年11月第4木曜日の「Thanksgiving Day」を含む約一週間は、日本で言うところの「お盆休み」や「正月休み」に匹敵するほど、アメリカ人は活動を停止する。

多くの人が故郷や実家に帰省し、家族揃って食卓を囲み、そして「ターキー(七面鳥)」を食べる。日本ではクリスマスに骨付きチキンを食べるイメージが強いが、実はアメリカでローストチキンやローストターキーを食べる日と言えばこの「Thanksgiving Day」なのである。

 

「Thanksgiving Day」とは

収穫への感謝」をする日で、その歴史の始まりは17世紀にまで遡る。イギリス清教徒たちがアメリカ大陸へ渡ってきた際、冬の厳しい寒さが彼らを待ち受けていた。そこで、アメリカ大陸にもともと生活していた先住民族たちは、苦しむ清教徒たちに農作物を分け与えると同時に、農業や狩猟も教えた。結果として無事にみな生きながらえることができ、それを祝ったという逸話が、「Thanksgiving Day (感謝祭)」始まりとされている。

 

日本では近時「Thanksgiving Day」が、「Black Friday」のためのお祭りの如くに注目されるが、多くの人が案外意味を理解していない。楽天グループに勤めていた2008年頃でさえ、なぜ週明けの月曜日を「Cyber Monday」と呼ぶのか、その背景を知らない人の方が多いのに驚いたことがある。

 

「Black Friday」とは

サンクスギビング翌日の金曜日(祝日)のことで、連休中にショッピングに訪れる多くの客に向け、小売店が行う大規模セールのこと。翌月にはクリスマスが控え、いわば年末商戦の幕開けである。「Black」の由来は「黒字」だ。

「Cyber Monday」とは

連休明けの月曜日を指す。サイバーとはネット空間のことで、この日はほとんどのオンラインショップで大規模セールが開催される。連休中に店舗で買い逃した客や、店舗で現物を見てオンラインで購入する客が連休明けに増えることから、この「Cyber Monday」が誕生した。

 

「Thanksgiving Day」の前日23日に発表された11月のFOMC議事録の内容も、「利上げテンポをスローダウンさせる可能性」を匂わせるものであった。動いたのは恐らく日米共にパッシブマネー(=日経平均株価やTOPIXなどのベンチマークに連動するもの)が主体だろう。またデリバティブ(=金融派生商品)を活用したヘッジファンド勢も今年は既に動きを止め始めているように感じられた。

そのひとつの証左が、NT倍率の推移だ。次項で確認していこう。

CY2022はもう終わった①——NT倍率

まず、NT倍率とは、日経平均株価(=N)をTOPIX(=T)で割った数値のことである。つまり現在の市場におけるそれぞれの強さを相対的に知ることができる指標だ。

投資初心者諸兄にとっては少々難しい話ではあるが、下の動画で日経平均とTOPIXについて、NT倍率の仕組みについての解説を入れているので、理解の助けになれば幸いだ。

 

下のチャートでご覧いただけるように、10月初めに日経平均が27000円前後から1000円以上の値上がりを示す中で、実はTOPIXも順調に値を上げたので、NT倍率は低下している。

通常、ヘッジファンド勢が動く時は、まず日経平均先物が先に買われて、それから現物が値上がりする。或いは値嵩株が買われる。そうした値上がりの時はNT倍率が当然上昇しがちだ。

だが今回は逆にNT倍率は順調に下がっている。ということは今回は、通常のパッシブ運用の資金が入ったということになる。

また季節的にも欧米系のファンドや機関投資家は、サンクスギビングを境に動きが緩慢になってくる。ふつう、サンクスギビングの翌週となる11月の終わりから追加的なリスクテイクをしようと考える欧米のファンドマネージャーはあまりいない。

何故なら、ヘッジファンドの多くが既にCY2022の決算対策を終わらせ、そしてそれらを運用するファンドマネージャー達のパフォーマンス・ボーナスの査定も終わってしまっているからだ。だから、ここから年内にリスクを取って多少稼いでみたところで、それは彼らに何のメリットももたらさない場合が多い。

私の知る限り欧米の人は、日本人とは比べものにならない程、働く時は働くが、極めて合理的に無駄なことはしない。ましてや会社に対して滅私奉公などしない。その意味で、今年のスタンスは明白な気がする。

すなわち、彼らは今年中にこれ以上足掻いても焼け石に水でしかなく、「CY2023に賭ける」ことだけ考えるというのが、ファンドマネージャーの典型的なメンタリティだと思われる。寧ろ意図的に何もしないでリフレッシュし、来年のCY2023で稼ぎ返すことを考えるのが普通だろう。

このように、海外の文化や慣習を知ることは意外な視点に思えるかもしれないが、海外投資家の動きを把握できるものの一要素なのである。

CY2022はもう終わった②——恐怖指数とインプライド・ボラティリティの低下

CY2022がもう終わったというもう一つの証左は、恐怖指数の低下と日経平均のインプライド・ボラティリティの低下である。

 

恐怖指数とは

VIX指数とも呼ばれる。米シカゴ・オプション取引所がS&P500を対象としたオプション取引の変動率をもとに算出しており、株価が今後どのように変動するかを予測した指数である。これは投資家の心理状態を表すものであり、例えばこのVIX指数が高いと投資家は市場に対して不安感を抱いているということを意味する。

インプライド・ボラティリティとは

予想変動率、IVとも呼ばれる。オプション取引において株式、債券、為替等がどれだけ変動するかを予測した数値のこと。

 

まずは米国市場のチャートを見てほしい。パンデミック後では低い方になりつつあるとはいえ、それ以前に比べるとややまだ高い。

日経平均とインプライド・ボラティリティのチャートの方を見ても、株価上昇に併せてボラティリティはコンスタントに低下している。

ただ日米株式市場共に、何か想定外のビッグイベントが起きると大きく振れる可能性は高まっているということは頭の片隅に置いておくべきだろう。

まとめ

先週の概要は、

 

  • 先週の米国株式市場の動きは緩やかであった。
  • それは、「Thanksgiving Holiday」でアメリカ人が活動を止めたからに他ならない。
  • ふつう米国ファンドマネージャーは「Thanksgiving Holiday」以降、リスクを負うようなことはしない。
  • NT倍率、VIX指数、IVともに低下している。

 

であった。

今や、全世界の株式時価総額の約43%は米国株式が占めている。その次に中国株式が約10%、そして日本株式が約5%だ。

さらにその日本株を売買している投資家のうち、約7割が海外投資家なのだ。つまり世界経済を支えているのはアメリカであることは言うまでもなく、また日本株は海外投資家によって支えられていると言っても過言ではない。

以上の事実を踏まえると、より市場の動きを正確に、またジェネラルに理解し投資を行っていくには、

アメリカの商習慣をきちんと理解することが私たちには求められていると言えるだろう。

12月のカレンダーを確認してみて欲しいのだが、今年はもう重要イベントがないことが分かる。例月なら市場が気に掛けそうな重要イベントを挙げると、米国雇用統計は12月2日、FOMCが13日と14日、更に日本でも日銀金融政策決定会合の結果発表が20日にある。

だがそれらのどれも、今更、余程のことが無い限り「Who cares ?(誰が気にするの?)」という感は否めない。

市場の動きにはすべて裏付けがあり、それを理解しているかしていないかで将来的に大きな明暗を分ける可能性があることを、日本人投資家である私たちは忘れてはならない。

 

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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ファンドガレージ 大島和隆

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