FG Free Report ファンダメンタルズを正しく評価するには? (10月24日号抜粋)

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「ファンダメンタルズ」という言葉は聞いたことはあるでしょうか。

一般的にファンダメンタルズとは、経済活動の状況を示す基礎的な要因のことであり、企業(株式)についていえば財務、業績、将来性、収益力からみる企業価値を指します。

しかし、昨今はメディア報道やSNSを通じて、過度に悲観的でファンダメンタルズを無視した見通しが話されていることも多々あります。

例えば「円安」。物価高ばかりが取り上げられますが、日本企業には大きな富をもたらしてくれていることも事実です。

本記事では、これらの悲観論に流されずに賢い投資をするために何をプロは見ているのか、ファンドマネージャーの視点から解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

ファンダメンタルズを見れば現状は悪くないとわかる

メディアが喧伝するほど悪くない現状

間違いなく、米国株式市場は上に行きたがっていると見た

詳細は後述するが、年間のアルミナとボーキサイトの出荷予測を引き下げたアルミ関連世界最大手のAlcoa ( AA )という企業がある。
時間外取引でこそ一時前日比△10%を超える下落を演じたが、翌日の本市場では一時期10%近く、大引けでは6.4%、そして翌日は更に5.53%も上昇したのだ。

各市場の先週一週間の騰落率は下記の通り。米国市場は概ね全市場が+5%前後となるホッと週末を迎えた。

いくつかのポジティブな要因があるが、まず株式にとっての最重要ポイントはやはりファンダメンタルズ。つまり企業収益が市場の想定とは違って予想外に「良い」という印象のものが多かったことだ。

IBMの決算内容

IBMの決算は先陣を切って、現在の市場を席巻しているエンタープライズ・テクノロジーの悲観的な需要見通しに対して、驚きをもって迎えられた。

IBMはソフトウェアとハ​​イブリッド・ クラウド ・ビジネス ラインに特に力を入れており、最高経営責任者の Arvind Krishna氏は 2023 年の通年の収益成長率を「当社の 1 桁台半ばのモデルを上回ると予想している」と自信を語った。これを受けてBank of America のアナリストは、IBMは継続的な「幅広い基盤の強さを示唆しており、IBM の好転は続く」と述べ、売上高の予測を引き上げた。

Morgan StanleyもIBMのようなエンタープライズ テクノロジーの需要に関して「私たちは肯定的に驚いた “we were positively surprised”」と言い、「建設的な見通し”constructive outlook”」は、同社の事業売上構成の改善と経常収益ベースの増加を示していると付け加えている。

つまり彼らはIBMのファンダメンタルズを好感したということだ。

エンタープライズテクノロジーとは

エンタープライズテクノロジー(Enterprise Technology)は、組織や企業の活動を支援するために使用される技術やシステムのことを指す。

情報技術(IT)の一部であり、組織内でのデータ管理、コミュニケーション、プロセス自動化、意思決定支援などを含む幅広い機能を提供するもの。

例えば、企業内の異なる部門間でデータを共有するためのデータベースシステムや、顧客関係管理(CRM)ソフトウェア、生産管理システム、人事管理システムなどがある。

導入の目的は、組織の効率性や生産性を向上させることであり、情報の共有とフローの改善により、組織内のコミュニケーションやプロセスがスムーズになります。また、データの分析やビジネスインテリジェンスの活用により、組織の意思決定をサポートすることも可能となる。

半導体産業のファンダメンタルズはこう見る

実は喜ばしいことに、テクノロジー株が反転する中で、フィラデルフィア半導体指数(SOX)もナスダック総合以上に上昇した。

これはIBM効果も大きいと思われるが、半導体製造装置大手のテラダイン(TER)が好決算を発表したことも大きいだろう。

テラダイン(TER)のCEOマーク・ジャギエラ氏によれば

「供給不足と産業オートメーションの成長鈍化にもかかわらず、テストグループの出荷が好調で、第2四半期のガイダンスの中間点を超える売上と利益を達成」

「第3四半期に入ると、モビリティ関連のテスト需要の減少、産業オートメーションの成長の鈍化、および継続的な供給不足に合わせて、出荷計画を引き下げます」

という。

これはこのところ威勢のいいパワー半導体系の動きとも歩調を合わせるものであり、また18日に発表された日本のディスコ(6146)の決算内容とも補完し合える内容のものだ。

ディスコは半導体製造における後工程の装置、すなわちウエハーをチップに切り分けるダイサー(切断装置)、薄く削るグラインダー(研削装置)といった装置を手掛ける。テラダインのテスター(集積回路の試験装置)とは異なる内容だが「後工程」という意味では同じだ。またディスコが説明したのは「半導体メーカーの工場の高稼働に連動し、利幅の大きい替え刃など消耗品の売り上げも増えた」ということで

「”半導体”は止まってないぞ」

ということを証明した形となった。

台湾積体電路製造(TSMC)は22年7~9月期の純利益が四半期で過去最高になった。その一方で「通期の設備投資計画は360億米ドル(約5兆3000億円)と従来想定より1割減らした」というような報道がされることで悲観的見通しが優勢だったが、いつも繰り返す通り「休んで歩みを止めたら熾烈な技術競争から脱落し、原価低減が遅れ、競合に負けざるを得なくなる」のが半導体企業だ。決して未来を失ったわけではない。

円安で日本の国富は増えていることも忘れずに

FRB発表の米国債金額の国別ランキングが教えてくれることは数多い。まず第一に日本は米国の最大の債券保有者、つまり債権者だということ。既に中国のそれを大きく上回っている。因みに、チャートの方がビジュアルに分かり易いので、下記に参考資料として掲載する。

実は第2位の中国よりも断トツで多く、第3位の英国と比較すると2倍にもなる大債権者だということが分かる。他の欧米諸国など、足許にも及ばない。

そして実はもっと大事なことをこの表やチャートは教えてくれている。それは日本が保有する米国債は約1兆2000億ドルだが、これらが日本に約42兆円もの為替評価益を齎しているということ。

何故なら昨年末のドル円は115.11円。現在のドル円相場からすれば約35円の円安となる。1兆2千億ドル分の米国債は金利だけでなく。それだけの為替差益も齎してくれているということだ。これは2022年度予算の国の一般会計歳出、つまり国家予算が過去最大となった107.6兆円の約40%に相当する。日本のGDP約550兆円と比較するならば、その約8%弱に相当する金額となる。

なぜ円安なのに日本は利上げをすることが出来ないのか、すべきではないのかという本質的な議論をすることと同様、こうしたポジティブな情報も本来はメディア等がきちんと適切に伝えるべきだと常々思う円安は決して悪い面だけの話ではないのだ

例えば、米国市場で高く評価されている米国トヨタのSUVトラック、もし同じ値段で売れたら、それだけ売り上げも膨らんで計上される。かつてデトロイトのビッグ3が日本に腹を立てて散々ロビー活動をしたのは「円安メリットを生かして、高品質の車を安価で輸出してくるから、米国車が負けるのだ」というロジックだ。

当然これらは関連企業のファンダメンタルズにも大きく影響を与える。

そうした意味では、バイデン大統領が「強いドルを容認する」という発言は、ある意味では「慈雨の雨」なのだ。

右肩上がりのビジネス・トレンド

アルコア社決算でCEOが語るアルミ産業のファンダメンタルズ

アルコア社(Alcoa Inc.)(ティッカー:AA)はアルミニウム、アルミニウム製品およびアルミナの世界的なメーカーである。知らない人はこれを機に知って欲しい。

社名の由来は「Aluminum Company of America」の頭文字を取ったもの。このアルコアが19日に発表した第 3 四半期決算は見た目は驚きの内容だった。それは7 億 4,600 万ドルまたは 1 株あたり 4.17 ドルの純損失であり、年間のアルミナとボーキサイトの出荷予測も引き下げた内容だったからだ。

四半期収益としても1 年前の 31 億 1,000 万ドルから 8% 減少して 28 億 5000 万ドルとなり、主としてアルミナの平均実現第三者価格が 16% 下落し、アルミニウムの平均実現第三者価格が17%下落したためとした。一方で総コストと経費は、前年同期の 26 億 1000 万ドルから 35 億 8000 万ドルに増加している。

つまり、これだけ見れば相当悪く見える。

アルミ精錬には莫大なエネルギー、それも電気が必要だ。CEOのロイ・ハーヴェイ氏によれば

「ロシアのウクライナに対する戦争は、不確実性と重大なエネルギー危機を引き起こしました。これは世界的に影響を及ぼしますが、ヨーロッパで最も深刻に見られる。」

「この状況は、信頼性が高く手頃な価格のエネルギーを必要とする世界のアルミニウム産業にも劇的な波及効果をもたらしている。」

「ヨーロッパのエネルギー市場のボラティリティに起因して、ヨーロッパの 2 つの工場が当四半期に大きな損失を被った。」

ということだった。そこで同社はノルウェー南部やスペインの生産能力を大きく減らしたという。

ただ一方で、

「ブラジルのアルマー製錬所の完全な再稼働と、オーストラリアのポートランド アルミニウム合弁会社の小規模な生産能力の再稼働が引き続き進展しました。これらのサイトについては、競争力のある中長期のエネルギー契約を結んでいます。また、アルマーの電力は完全に再生可能であり、オーストラリアの製錬所の再生可能エネルギーの割合を高めるために取り組んでいます。」

などときっちりとした対応策も説明した。そして最後に

アルミニウムの長期的なファンダメンタルズについては引き続き強気です。業界は確かに短期的には課題を抱えていますが、エネルギー不足と脱炭素化の目標がアルミニウム業界のファンダメンタルズにプラスの影響を与えることが期待されているため、当社の商品の未来は明るいと引き続き信じています」

とCEOコメントを結んだ。

このコメントから海外の投資家はどのようにファンダメンタルズを評価するのだろうか。次節で例を挙げる。

海外投資家はアルコアのファンダメンタルズをどう評価したか

ゴールドマン・サックスのアナリストは、格付けは引き続き買いであり、同社のコンビクション・リストに載せていることを強調し、現在の魅力的なバリュエーションから

「特に長期的なアルミニウム需要の長期的な成長ストーリーに前向きな見方を維持している投資家にとっては極めて魅力的」

だと発表した。

またバンク・オブ・アメリカのアナリストも引き続き買いを維持することを強調し

「我々のアルミニウム価格の建設的な見通しを考えると、現在のアルミニウム価格は、中国 および 残りの世界の製錬所の現金コストを 25%/50% 下回っている」

とした。つまり安過ぎると言わんがばかりだ

ただ当然悲観論者はいるもので、代表的なところで、モルガン・スタンレーのアナリストは

「アルミニウムとアルミナの価格が現在のスポットレベルに近いままであれば、第4四半期の見積もりに重大なマイナス影響がある」

とし、BMO Capital なども、基礎となる価格が改善されない場合、

「アルコアの収益性の悪化は依然として過小評価されており、暗黙のバリュエーションは アルコア 株がさらに下落圧力を受けるリスクがあることを示唆している」

と悲観的なままだ。

しかし、それでも株価は大きく反発した。これが市場によるファンダメンタルズの評価だ。

まとめ

さて、ここまでお読みいただいてファンダメンタルズを評価する上で最も大事なことは何か。それは企業の発表する一次情報をしっかりと確認することだ

決算発表でSEOが発するコメントがその良い例だろう。

前述のアルコア社の決算ではないが、市場はかなりな悲観論を織り込んでおり、そして何かそれを論破出来る根拠があれば、やはり上昇したいと思っているように思われる。

アルミ精錬が猛烈な「電力eater(消費家)」であることは有名な話であり、電力価格の高騰が製造コストの大幅な上昇に結び付くことは誰の目にも明らかだ。だからこそ株価はアルミそのものの将来性とコスト上昇の双方を織り込んでここまで推移してきた。そして決算を確認して、時間外では急落したものの、それを「幻」価格として反騰した。これが今のマーケットセンチメントなのだ。

また、これは日本も米国も同じことだが、SNSなどの発展が、全く今までとは違った市場関連情報の視聴者とそれに反応する投資家層を築き上げたと言えるだろう。そこには正しい情報もあるが、一面でかなり「ポピュリズム」的なところがあり、情報伝達速度の速さとその内容的な面での裏取りの甘さが時々あることも否定出来ない

世界中がSNSの飛び交う情報に振り回される新しい時代に突入している。その一方で、旧来のメディアの情報に依存する層(主としてITリテラシーが低い高齢者層)も引き続き厳然と存在し、高齢者層ほど資金力のある個人投資家層を築いている。情報の二極化だ。

ただ、徒に世間の振り回されているセンチメントに同乗して自らも振り回されることが、投資の世界では一番の失敗を招く。今はやはり「悲観が過度に織り込まれている」という状況だ。

そのひとつ。なぜ本来為替円安メリットがある筈の日本企業の株価がそれを織り込まないのか、ということをいつも不思議に思っている。

何よりも重要なことは、メディアやSNSに振り回されず、自身の目と耳で得た情報からファンダメンタルズを評価することだろう。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。

公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。

また、こちらは無料版記事のため、最新の情報個別企業の解説についてはカットしております。

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