FG Free Report インフレと利上げ、そして投資の関係とは? (10月17日号抜粋)

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昨今、「インフレ」や物価上昇に苦労されているという方も多いのではないでしょうか。インフレの生活や投資への影響を乗り越えるためにはまず、「インフレ」とは何かをきちんと理解することが大切です。

そして既に「インフレ」を理解されている皆さまは、今回のインフレが発生した背景を正しく理解できているでしょうか。

本記事では、そもそも「インフレ」とは何か、それが金利とどのように関係しているのか、そして投資にどのように影響しているのか、プロのファンドマネージャーの視点から解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(FundGarage編集部)

インフレだと何故金利は上がるのか?

インフレという言葉が使われる背景の経済

米国の雇用統計が引き続き労働市場がタイトなままであることを示したことから、先週の米国株式市場は週初から緊張感のあるものとなった。それはPPI(生産者物価指数)とCPI(消費者物価指数)が続けて発表されることもあり、その数値がインフレを引き続き示唆するようなことになれば、利上げ懸念が湧き上がるからだ。そして結果は、PPIもさることながら、CPIは40年振りの高値を示すものとして発表された。結果的にこれで11月と12月で0.75%の利上げがほぼ確実なものと市場は捉えた。

※労働市場がタイト:会社側にとって人手が足りていない状態

このような文脈で「インフレ」という言葉は使われる。

なお、賢人たちの知識と経験によれば、現下のインフレを抑える最有効手段は「利上げと金融引き締め」が正解となるのだろうが、私はそれが今回のインフレのケースでは当て嵌まらないと、その対応策が腹落ちしていない。

そもそもインフレとは何かを再考する

債券運用の世界でその名を轟かす「PIMCO」という米大手運用会社によれば

「インフレとは、全体的な物価水準が持続的に上昇する状態を指します。」

とある。そして、

「一般的に経済成長は適度なインフレ率の上昇を伴います。しかし、過剰に高いインフレ率は経済の過熱を意味します。景気拡大に伴い、企業や消費者は財やサービスに対する支出額を増やします。景気循環の拡大局面では、需要が財の供給を上回り、生産者にとっては製品価格を引き上げるチャンスとなります。値上げの結果、インフレ率は上昇します。経済成長が急激に加速すると、それを上回るペースで需要が拡大し、生産者は頻繁に製品価格の引き上げを行います。その結果、物価が連鎖的に上昇することがあります。これは「悪性インフレ」、もしくは「ハイパーインフレ」と呼ばれます」(原文はこちら

とある。私もこの定義には全く異論はない。だからこそ今の状態が通常の「インフレ」という判断に違和感を抱く。

今回のインフレの背景

PIMCOも定義しているように、インフレとは通常は景気拡大に伴うものである。今回の場合はその背景事由が全く異なると私は理解している。

その原因とは、

  1. コロナ禍のロックダウンやステイアットホームにより、純粋にモノの供給が急減した。
  2. コンテナ埠頭などの港湾施設のロックダウンやストライキ、或いはその後の荷捌きが急激な人手不足により停滞し、サプライチェーン(物流)の目詰まりに拍車を掛けた。
  3. 更にそれに追い打ちを掛けたのが、所謂人海戦術に頼るサービス業などの人手不足(重要)
    日本と違い、欧米のこの手の職業は最も流動性が高い職種だ。簡単に雇用削減が行われる代わりに、景気が回復すればすぐに再雇用される。終身雇用を前提とする日本の労働環境とは全く異なる。だが人は何らかの形で収入を得ないことには暮らしていけず、特にこの所得階層は貯蓄や各種保険制度も充分ではない。職を変えて落ち着く場所を見つけた人が多かった。一度転職して落ち着いてしまった者は、以前よりも高い報酬で無ければ再雇用の呼びかけに応じる理が無い
  4. 加えて3回にわたる給付金などもあり、転職しなかった人も慌てて求職する必要も無かった

こうした層の労働力を取り戻すためには、通常の「解雇⇒再雇用」という流れの中で行う賃上げ以上に引き上げないと、普通に考えてもそれは難しいだろう。

そして、パンデミックが始まる前の2020年初頭まで、世界景気は順風満帆だったかといえば「否」である。

つまりPIMCOの説明にあるような「景気循環の拡大局面では、需要が財の供給を上回り、生産者にとっては製品価格を引き上げるチャンスとなります。値上げの結果、インフレ率は上昇します」という状況とは少なくとも今回のインフレの背景は異なる。

インフレに更に追い打ちをかけたもの

それは「ロシアによるウクライナ侵攻」だ。これによる穀物生産が滞り、生産済みの小麦などは輸出出来ず、そして何よりロシア産天然ガスと原油が無くなったことで燃料価格が高騰、これが電気代にまで波及し、インフレを引き起こした。アメリカではガソリン価格の急騰が効いた。

更にこれらによる物価上昇の影響を軽減しようとFRBが利上げを継続したため、結果として住宅ローン利率を含めて、多くの企業の調達金利が上昇し、結果としてそれらを相殺するために「価格転嫁の値上げ」を余儀なくされた。猿にでも分かりそうな物価上昇のストーリーだ。

恐らくFRBの金融政策は後に愚策と評価されるだろう

景気拡大局面において需要の増加が供給増を超えているために起こるインフレならば、金融引き締めと利上げで景気を冷やし、景気を軟化させることで調節が可能であろう。だが今回は前述の通り、全くその背景事由が異なる。疫病と戦争なのだ。そして米国の事情と、欧州の事情も異なる。ロシアからの天然ガスに大きく依存していた欧州の燃料価格の上昇は、そうそう簡単に素早く代替エネルギーに変えられるわけもなく、高値で取引されている他産地の天然ガスなり、原油、或いは最悪は石炭などにも手を拡げざるを得ないであろう。だから欧州の物価高の背景は明らかに米国とは異なる

本来米国が採るべき政策は、シェールガスやシェール石油の増産、及び穀物の増産、或いはガソリン価格高騰を抑えるための補助金などにより、景気を維持すべきだった。余剰生産まで出来るのならば、更に積極策に出て、欧州に回すぐらいの発想があっても良いだろう。にも拘らず、バイデン政権は「インフレ対策はFRBの責任」とばかりに何もせず、またFRB内部もタカ派の連銀総裁などに押し切られてしまった。

こうしたことが背景にあるにもかかわらず、FRBがこのままタカ派に押し切られて利上げを続ければ、恐らく米国景気、しいては世界景気は予想以上の落ち込みに見舞われるリスクが高い。少なくともハイテク関連株の代表格である半導体銘柄は既にこのリスクを織込んだ。

市場は何をどこまで織り込んでいるのか

ただ市場は前述したような相当に悪いシナリオを既に織り込んでいると見る。それは先週のCPI発表を受けての市場反応にみることが出来た。確かに金曜日の市場は再度ナスダックは売り返しを浴び、年初来安値を更新した銘柄も数多あるが、CPIのあの内容を受けてからの木曜日午後の切り返しは、市場が織り込んでいる水準が相当程度に「最悪な状況」だということの証のように考える。下の表、日本市場は金曜日の米国市場の売り返しを反映していない。

40年振りの高水準と言われ、また市場予想も上回ったCPIの発表時、日本時間で日付が変わるまでは米国市場を見ていたが、早朝目覚めてみると大逆転となっていたのには正直驚いた。再び週末は売られたが、市場はこの先の11月と12月のFOMCで0.75%ずつ2回の利上げがあることは覚悟を決めたと思われる。寧ろこの先、それを覆すような材料が出てくれば反転の機会さえうかがい始めるのではないだろうか。ただ、現時点で見えている限り、そうした材料が市場に与えられる可能性はそう高くないというのも一方の憂うべき事実でもある。

右肩上がりのビジネス・トレンド

仮に「高インフレの時代」と見えても落胆することは無い

「金利上昇により高PER銘柄が売られた」というコメントはよく耳にする。それを受けて、多くの市場関係者が現下の金利水準においても、金利上昇という定性的な表現で「株式投資はもう駄目かも知れない」と落胆する。

だが前述したように、今よりも遥かに金利の絶対水準が高い時を含めて、株価は継続的に上昇してきた。それは「株価上昇の最大のファクターは企業利益の増加だから」だ。株価の根源的な価値は「企業の解散価値」である以上、増益トレンドが一旦は小休止しても、利益が出る以上は必ず解散価値は増加する。確かに、金利が資産形成をする上で必要十分な水準に仮にあったとしたら、何もリスクを取ってまでもその報酬(リターン)を得る必要は無いとも思えるかも知れない。だが、金利が高いということは、今がそうであるように、物価上昇(インフレ)期であることを意味し、安全資産と言われるものの利回りで放置していたら、必ずインフレにより資産価値は目減りする(通貨価値の購買力が落ちる)。

その為、将来の給付に備える年金基金を典型例として、インフレに打ち克つような手立てを講じない限り、単にジリ貧になるだけだということは誰しもが知っていることだ。従って「高インフレ」だからリスク資産による運用は出来ないと考えることは早計だ。

逆の状況を考えてみよう。インフレの無い、モノの値段が下がるデフレの状態。デフレである以上、金利は最低水準とも言える「ゼロ金利」或いは「マイナス金利」の時代が続いた。この間、日銀や政府が無策だったかと言えば、何度となく金利低下を促すよう動いてきた。

そのような事態の中も私はずっと株式市場に関わってきたが、明らかなる事実は「株価は企業業績に支配される」ということ。短期的にはもちろん需給により株価は振り回される。中には異常に根拠なく高騰するものもあれば、どうかと思われる程に叩き売られるものもある。だが最終的には当該企業の収益トレンドに収斂するということを身をもって体感してきた。だからこそ、私の投資スタンスは今の方針で一貫している。

悪く言えば、テクニカル分析なども駆使して、短期的な相場のあや、上下変動を上手に泳げる自信は無い。頼れるものが企業収益しかないので、それに反する動きを合理的に説明出来ないからだ。「相場観」ではなく、所謂「相場勘」「野生の勘」は自信を持って「悪い方」だと思っている。

企業収益をプラスに導くもの

様々な企業の栄枯盛衰を目の当たりしながら株式投資を続けてきて得た唯一確かなポイントは、

その企業が右肩上がりのビジネストレンドの真ん中に居るかどうか

だ。そしてそもそも「右肩上がりのビジネストレンド」と思っているもの自体が、きちんと右肩上がりのままに存在しているかどうか、すなわちポジティブな変化を産んでいるかどうかということだ。

私は今でも間違いなく下記の流れはその例にぴったりと当て嵌まると思っている。そしてそのどれもが未だ成長期であり、決して成熟はしていない。5合目までも達しておらず、これがITバブルの当時(2000年頃)との最大の違いだ。だからこそ、この流れが完熟するまでは、その中心となる企業については、正直、投資について何ら心配はしていない。寧ろこの年初来の株価剥落の過程で、「似非モノ」で漁夫の利を得ていたものが遠ざけられたぐらいに考えて良いだろうと思っている。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。

公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。

また、こちらは無料版記事のため、最新の情報個別企業の解説についてはカットしております。

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ファンドガレージ 大島和隆

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