CPU戦国時代、AMDを見ないと半導体業界を見誤る可能性大
現地28日の引け後に発表されたAMDの四半期決算は、23日に発表されたインテルの勢いと比べて、大袈裟に言えば「天と地との開き」があった。またこの決算から見えて来る業界構図の変貌を見誤ると、これからのハイテク株投資は成否を分けるかも知れないと思われる。
まずはAMDの2020年度第2四半期の結果から
まずはAMDの決算数値から見ていくと、収益は前年の$1.53Bから+26.1%となる$1.93B となり、市場コンセンサスを$70M上回った。EPSでは、Non-GAAPベースで$0.18と市場予想を$0.01上回った。僅か$0.01と侮るなかれ。実は前年同期は$0.08に過ぎず、市場予想自体が既に相当に強気になっていた。それはこのところの同社の株価動向にはっきりと表れていたのだが、その市場コンセンサスを更に1セントでもビートした事実は大きいだろう。もし詳細を確認したい場合は、下記の図をクリックして欲しい。「SECOND QUARTER 2020 FINANCIAL RESULTS」というIR用のプレゼンテーション資料にリンクを貼っておいた。下記はその中の決算サマリーのページだ。
2020年第3四半期及び通期のガイダンスはどうか?
四半期決算の発表で注目すべきはガイダンスだ。終わった期の数字が良いのに越したことはないが、株式市場が必要とするのは、アップビートの勢いだ。終わった期の数字がどんなに出来が良くても、それは株価に既に織り込まれている。「さて、ここからどうなるの?」と言うの見えて来るのがガイダンスだ。
そのAMDに来四半期3Qの収益予想、ガイダンスは売上で$2.45-2.65Bと対前年比でプラス42%、対前四半期比でプラス32%だ。市場予想は概ね$2.3Bだったので、ガイダンスはこれを完全に上回っている。
更に2020年度通期見通しについても、前四半期時点での見通しが売り上げベース+20-30%の範囲を予想していたのに対し、なんとプラス32%。これまた全体で上回る見通しを発表した。ここがポイントだが、COVID-19の影響による向かい風、言い換えればGDPの減少なども、現時点で確認出来るレベル、企業の経営陣が感じている限りのものはすべて織り込んでいる。大風呂敷を広げ過ぎて、それをリーズナブルな理由で畳むことが出来なければ、株式市場から見放されることぐらい、程度の差こそあれCEO達は皆知っている。
これを支えているのが、下記に示す正に今の製品ラインナップだ。ただご心配なく。この写真を見て「おー凄いんだろうね」と感嘆する必要は無い。余程のマニア(私?)でも無い限り、CPUの写真を見て興奮する人はそうは居ない(アキバ系の人を除く)から。ただ、AMDがどんな商品を作っているのか、頭の中にイメージを描けるようになって貰えれば良いと思う。
まず上記左からRyzenと書いてあるのがパソコン向けのCPUのRyzen 4,000 Seriesで、デスクトップ向けからノートブック、或いはUltrathinやゲーミング・ノートPCなどまで幅広くカバーする製品群だ。現在、54種類のノートPCに搭載されており、更に下半期からはHPやLenovoのノートPCにも搭載される。実はHPもLenovoも今まではインテル製CPU一辺倒で、AMD製CPU搭載のパソコンを販売したことはない。またCEOの説明によると、下期には30種を超える Ultrathin とゲーミング・ノートPCがメーカー品のパソコンに搭載されて市場に投入されるようだ。
その右隣のRadeonとあるのが、GPUである。GPU自体はケースの中に入っているので、RadeonのGPUを使ったグラフィックス・カードと呼んだ方が正しいかも知れない。正にエヌビディアと戦う商品だ。残念ながらノートPCでは健闘したのだが、デスクトップPC自体が売れていない四半期だったので、GPUビジネスとしては若干減少している。ただ、新しいアップル製やDELL製のゲーミング・ノートに搭載されてこの先出荷されるようだ。
そして最後の一番右側のCPUがサーバー向けのEPYCだ。Lisa Su CEO曰く「マイクロソフトもオフィス・オンライン・アプリケーションのサーバー(毎月2億人以上のユーザーがいるらしい)でEPYCプロセッサーを利用し始めたとアナウンスした」そうだ。マイクロソフトもクラウドでインテル製以外を使い始めた意味は大きい。恐らくAzureの対前年比は急成長しているが、前四半期比が伸び切らずに失望を買ったのは、CPUの供給不足が原因だと私は踏んでいるからだ。その他にも、中国のTencent、Google、そしてAWSが使い始めたといっている。
これらがAMDの第一の武器群である。更に、ここには無いが、セミ・カスタムと呼ばれる新しいゲームコンソール向けの半導体群がある。それは新PlayStation 5向けと、新Xbox向けのSOCsで、これらがAMDの主要な製品群となる。このゲーム用は年末商戦に投入される予定だ。
どうしてAMDが顧客を惹き付けているのか?
どうしてインテルが悪戦苦闘している中でAMDが快進撃を遂げているかと言えば、これははっきり言って世界最大のファンダリーであるTSMCこと「台湾積体電路製造」との協業が大きいだろう。「こんな惨めなインテルは見たことが無い(四半期決算)」でもお伝えしたが、現在、半導体業界の巨人インテルは技術的障害にずっと苦しんだままである。そこにも記した通り「AMDはTSMCをファンダリーとして既に7nmを量産し、更に2022年までに5nmのZen 4を立ち上げる。TSMCは2021年には3nmプロセスによるリスク生産を開始し、同年後半には正式な量産に入ると発表した。このような段階において、尚2年から3年先にやっと7nmが立ち上がる予定だとインテルが白状したからだ。」というのがインテルの現状だ。
その一方で、AMDはプレゼンテーションでリサ・スーCEOが何度も強調したように、Roadmapをきっちりと守って進めてきたことが大きい。ユーザーから確実な信頼を得るのに欠かせないのは、ひとつが安定供給出来る能力であり、常に最先端の技術を適用出来る高い技術力だ。
微細加工技術がどうして必要かと言えば、それは同じ能力を得るなら、微細化された半導体の方がずっと消費電力が減るからだ。当然演算速度が上がるということもあるが、データセンターが一番頭を悩ましているのはTCOと呼ばれる所有ランニング・コストだ。CPU自体が演算の為に消費する電力の他に、CPUが能力を高めて演算していると必然的に発熱が凄くなる。その為に、常にデータセンター内はエアコンをガンガン効かさないとならない。ご自身のパソコンでも発熱は経験されたことがあると思うが、冷却する為にファンが大きな音で回り始めるのをご存知だろう。その状態は一番CPU類が発熱していて、パソコンの消費電力が高くなっている時だ。
微細化すると搭載されるトランジスタの数も増える。結局は必然的にMAX能力に近いところまで使い切り始めるので、発熱との関係はいたちごっこであるのは確かだが、10nmで作るか、7nmで作るかの違いは非常に大きい。同じコストで顧客に提供出来るクラウドの処理能力が違ってくるからだ。
そして現時点のインテルは10nmが精一杯で、7nmについては2022年から2023年になると白旗をあげた。遂にサードパーティーに外注するかも知れない可能性も示唆した。しかし、この段階に来るまでに、既にCPUの供給不足を起こしており「サーバーが足りない」、「ノートパソコンが足りない」という事態を生じさせていた。当然在庫が無ければ商機を逸するのがビジネスであり、パソコンのOEMメーカーも、クラウドなどのデータセンター業者も、「CPUを安定供給できないインテルを見限る」しか無かったというのが実態だと思う。
AMDはロードマップをきちんと守って、きちんと安定供給している。その結果として、インテルからドンドン市場シェアを奪っているというのが現状だ。その流れは上の図からご理解頂けると思う。
何故ハイテク株投資の成否を分ける可能性があるのか?
是非思い出して欲しいのが、昨年の春先の状態だ。「インテルCPU供給の遅れに潜む問題と今後の影響」3部作でも記した通り、需要が無いのと、供給が足らないのとでは、売上が同じでも意味が違ってくる。市場は拡大したいと思っているのに、パソコンでもサーバーでも、最低1台に1個は必要なCPUが足りなければ、販売台数は伸びず、当然周辺機器ではるストレージやメモリーなども在庫がダブつく。全員して商機を逃しているだけなのだ。
ただ今回は流石にデータセンター側も、パソコンのOEMメーカーも腹を括ったのだろう。久しくインテルこそ一流CPU銘柄で、AMDは長く廉価版のレッテルを張られていた。だが地道な努力で最先端技術を伴いながら、徐々に実績を上げてきた。従来インテルしか見ていなかった人達もAMDを見るようになった。インテルの立場から見えて来るビジネス現場の絵面と、AMDの立場から見えて来る絵面では当然拡がりも、未来も違ってくるだろう。どちらに立つかによって、半導体など全ての商品の需給も違って見えて来る筈だ。