1988年ファンドマネージャー就任から、何度も何度も経験した突然の株価急落
株式市場は突然急落する時があります。暴落と言っていい時もあります。その中には後世に名前が残るような大幅な急落・暴落もあります。そんな時こそ、どのように対応するかが投資で上手く利益を上げていくには非常に大切です。
1988年にファンドマネージャーになってから、今までに経験した急落、暴落の回数は両手に余ります。ブラックマンデーこそ知りませんが、1989年12月大納会の日経平均株価の史上最高値を知っているということは、その後の全てを知っているという意味です。
阪神大震災もありましたし、アジア通貨危機もありました。ITバブルの崩壊などは日米欧の株式市場の急落全部を被る羽目になりました。
記憶に新しい大暴落は、2008年のリーマンショック、その前は2001年9月11日の同時多発テロからイラク戦争の時ではないでしょうか?
2001年の同時多発テロの時の私のポジション総額は約4,000億円。そんな時にどのように考え、判断をしたかを振り返り、突発的な株価急落・暴落への対応方法の参考にしていただければと思います。
911同時多発テロ発生前のシナリオは?
ニューヨーク・マンハッタンのシンボルだった世界ワールドセンターのツインタワーに2機のジェット旅客機が突っ込んだ時の映像は、20年近く経った今でも鮮明に頭の中に蘇ります。
当時の市場環境を振り返ると、既に2000年4月から始まったITバブルの崩壊がかなり進んでいた段階にきており、米国NASDAQなどは高値から約1/3にも下がっていました。私だけでなく、きっと多くの市場参加者が、そろそろ反転が始まってもおかしくないと備えを始めていました。インターネット革命が終わったわけではありませんでしたから。
具体的には、雨後の筍のように出現した評判先行の利益を出せないドットコム企業の整理は市場でかなり進んだと思われたので、逆に堅実に、そして順調にビジネスも拡大している企業への追加投資や新規投資を検討していました。
株価は下がっていましたが、インターネットを利用した新たなビジネスモデルの企業や技術革新のトレンドをリードしている企業には充分に投資価値があると思われたからです。アマゾンなどはその代表的な例です。
テロが起こって考えたことは?
衝撃の映像を観た瞬間は、正直、頭の中が真っ白になりました。よく言われる話ですが、ハリウッド映画の何か悪い冗談だろうと思ったほどです。やがてそれがリアルに起きたテロ事件だと分かったことから、私の頭は妙に冷静に、クリアな思考を始めました。
勿論、気持ちを落ち着けるまで暫くは掛かったと思いますが、1時間もしない内に冷静になることが出来ました。それはそれまでに幾度も暴落を経験した職業投資家の性かも知れません。感情を何処かに仕舞い込んで、冷静に自分の現状のポジションを自宅のパソコンで確認し、Bloombergを立ち上げ、翌朝になるまでに出来ることをし、確か自宅を早朝4時頃には出てオフィスに向かいました。
何をしたかと言えば、まずは類似の事件を探し、それに対して米国政府や株式市場がどう反応したかを調べました。具体的には1995年4月に起きたオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件(911事件以前では、アメリカ国内での最悪の犠牲者が出た事件)後の出来事を調べるなど、米国がどう対応する可能性があるかを慎重に考えました。
当然、米国が報復攻撃をどこかで仕掛ける可能性、すなわち再度イスラム圏との戦争が起こる可能性も考えました。それには90年湾岸戦争の事例が当て嵌まるだろうなどと例を挙げていきました。
一方で、この事件を教訓や契機として、どんな新しい考え方やビジネスが立ち上がるのか、或いは直接恩恵を受ける産業は無いのか、そんなことを次は考え始めました。具体的に結論としては軍需産業や警備警戒システムなどですが、今まで目を向けていなかった産業の調査を開始しました。ロッキードなどは当然ですが、レイセオンという会社を初めて調べ上げたのも、これがきっかけです。
テロの1週間後にアメリカ出張。そこで見たものは?
911同時テロから一週間後にはニューヨークに飛びました。2か月に1度の頻度で企業調査に出向いていたこともあり、どうしてもこの目で当時の「アメリカ」を見ておきたかったからです。4,000億円ものお客様の大切な資金の運用を任された者として、メディアの報道や人伝の情報で物事を判断したくなかったというのが一番の理由です。
いつもの宿泊先である38丁目のホテルに居ても、大きな摩天楼が燃えた臭いが生々しい時でした。
その出張で一番確認したかったのは、米国の人々の911同時テロの受け止め方、メンタリティの変化です。定期的に渡米していましたので、定点観測的にも現地に赴いて人々と直接話すことで得られるものは多いだろうと思っていました。成果は予想以上でした。
投資判断に影響を与えたインプットは主に3つあります。
一つはセキュリティーの強化、二つ目は元に戻ろうとする力や団結力(United We Stand)、そして三つめは、個々の企業活動への影響は限定的、ということでした。
また、事件そのものは大きな打撃をアメリカに与えましたが、人々の様子を見てアメリカは前よりも強くなったなと感じました。
それにより投資判断は変わったか?
変わらなかったことと変わったことがあります。
変わらなかったこと
検討していた企業、すでに投資をしていた企業については、一時的には影響を受けるがビジネスモデルが大きく変わることはない。株価が下がっても継続して保有する、ということです。
全般については、ショックを精神的に市場が乗り越えるまで、暫く時間は掛かるかも知れないが、間違いなくそれらは克服され、より強いアメリカが誕生するだろうと考えました。
フルスロットルまでとはいかないが、いつでもそうなれるように準備怠りなくしておこうと考えました。
変わったこと
少なからず人々の生活様式にも変化をもたらした(飛行機での米国内の移動が減った)、或いは変えたいと思っていることで恩恵を受けるビジネスは何かという新たな視点をもつようになった。
間違いなく米国は報復戦争に向かって突き進むと思われたことから、軍需産業を投資対象と見るようになりました。
また各地でセキュリティー対策が強化されたことにより、多くの不便が発生し始めていました。空港の長蛇の列がその一例です。また全般に対テロ対策の強化が必至と思われましたので、それらに関係する産業や企業を見るようにもなりました。
ここでのポイントは2つあります。
1. 突発的な事象により株価が大きく下がってもビジネスモデル、収益モデルに変化がないのであれば、保有を継続すること。つまり株価で判断をしない、ということ。
2. 大きな事件は、様々な企業や産業に影響を及ぼすことがある。その影響がどの産業や企業に及ぶのかを良く検討する。