所感/雑感
僅か一週間で日経平均株価、TOPIX、NYダウそしてNASDAQなど全てが約1割の急落を演じ、年初来の上昇分が全て吹き飛んだ。より凄まじいのは中小型株で、マザーズは年初来△21.93%、JASDAQが△14.14%となっている。久し振りに見た市場パニックと言えるだろう。その証左のひとつが売買代金。週末金曜日は通常の2倍に当たる4兆1,289億円にも膨らんでいる。
日米各株式市場の先週の終値と週間騰落率
このプレミアム・レポートに先立って「簡単、冷静に市場動向を読み解く方法。天邪鬼の奨め」という記事を書き下ろしたが、その時に使った「S&P500とVIX指数の過去3年間」というチャートを下記に更新した。注目点は週末のVIX指数の終値。一晩で39.16から40.11まで更に上昇している。かなり米国市場もパニックになっていることが伺える。
NY市場の引け具合はいい感じだ。
以前お見せしたチャートの方が分かり易いと思うので、その時に描いたトレンドラインも残したままのものを前週末まで延長したのが下のチャートだ。見事にトレンドラインで蓋をされた後、この2週間で「アイガーの北壁」を思い出すような勢いで急落している。
しかし、注目したいのは週末の陽線だ。下髭を長く伸ばした陽線となっている。実際の日中足を見ると上に下に結構狼狽しているが、△357.28ドル安(△1.39%)にまで戻した25,409.36ドルで終わった。最安値は24,681.01ドルなので、終値よりも△728.35ドルも安い(前日比△1,085.63ドル:△4.21%)まで売られたことが分かる。
そしてNASDAQについては、僅かながらプラスとなる8,567.37(+0.89:+0.01%)だ。S&P500もプラスにこそならなかったが2,954.22(△24.54:△0.82%)だ。こちらも安値2,855.84(△122.92:△4.13%)まで一旦は突っ込んでからの戻しだ。
上のチャートでも明らかな通り、NY市場は1月24日以降、毎週末大きな下落を5回も繰り返しており、28日も同様ならば6週間連続ということになる。NASDAQ以外はマイナスはマイナスだが、ローソク足が陰線ではなく陽線であること、そして下髭が長いことは、テクニカルの基本知識として相場反転のシグナルとなる場合が多い。
更に前述したように原資産価格とは負の相関関係を持つボラティリティの代表格VIX指数は過去3年で最高水準まで急騰しており、セリングクライマックスを日米共に迎えた可能性が高い。
金利と為替は金融市場が正常に稼働していることを示している
週末のドル円の終値は108.07-108.10の水準だ。数日前には112円台を付けたことが嘘のように円が買われた。GPIF(日本の公的年金)が大量の外債を買うために円売り/ドル買いをしたために112円台まで円安になったという説はあるが、これは確認のしようが無い。ファンダメンタルズとして「日本売り」だったという説にも一理ある。しかし、それが再び安全通貨として買われるようになった、少なくとも忌避される通貨では無くなったということは喜ばしいことだ。
更に、米国債券市場では新型コロナウイルスの感染拡大が世界景気に与える悪影響を懸念して、利下げを催促するような展開となっている。下のチャートは前出のチャートと同様、「簡単、冷静に市場動向を読み解く方法。天邪鬼の奨め」という記事用に作ったものに28日分を加えたものだ。
ご覧頂けるように、僅か一日で2月27日のイールド・カーブを示す赤いラインから2月28日のそれを示す黒いラインまで全期間にわたって金利低下している。実はY軸は下限を1.0%から0.9%に拡大したが、2年債金利はほぼ下に余裕が無い。実際には、1年債金利が1.01%、2年債金利が0.91%、5年債金利が0.94%、そして10年債金利で辛うじて1.15%となる。30年債が1.68%などと言うのも異常と言えば異常に低いレベルだ。
実は米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長が必要であれば利下げする用意があると示唆したことが大きい。声明では「米経済の基礎的条件は引き続き力強い。ただし、コロナウイルスは経済活動に進行性のリスクをもたらす」との見解を示し、「FRBは状況の進展と景気見通しに対する影響を注視している。経済を支えるためにわれわれの政策手段を活用し、適切に行動していく」と言っている。これは市場には保険となるだろう。
この先の動向のまとめ
それにしても茲許のパンデミック騒ぎは異常だ。マスクの次はトイレットペーパーやティッシュペーパーが買い占めで姿を消した。この大衆の行動パターンこそが今回の世界同時株安の原因を象徴的に表していると思う。連日メディアから流される危機感を煽るようなコンテンツ(もう報道とか、ニュースと呼べるような内容とは思えない)、インターネット上に錯綜する情報の大洪水、専門家とか識者と称する単なる雄弁者のコメントなどが大衆のヒステリーを掻き立てている。
今回の大きな教訓は中国共産党の一党独裁政治の中国や北朝鮮などと違い、通常の民主主義の国はネットの普及とポピュリズムや似非ヒューマニズムのもたらした弊害として、災害等の発生時に情報統制が効かず、大衆心理は危機的な方へ、危機的な方へとドンドン流されていくという事だと思う。PCR検査の有効性について、正しく正確な裏付けのある情報以外のものが遥かに大量に流布されているのが証左だ。
ただどこかで市場も大衆心理も常軌を取り戻すだろう。そのきっかけになるのは、例えばジョンズホプキンス大学が公開しているデータなどで、感染者数が85,187人、治癒39,545人(2/29/2020 4:23:11 午後現在)、つまり既に46.4%の人が回復しているというような数値かも知れない。つまり全世界に大流行と言っても、現時点で感染したままなのは45,642人だということだ。
恐らくこうしたデータが公表されても「政府が検査を充分に実施していないから、隠れ感染者が沢山いる筈だ」などと反論する人も沢山出て来るだろうと思う。ただそうしたものも時間と共に消えていくだろう。その時始まるのは、本当にこれだけマーケットを痛めるほどに経済がダメージを受けるのか、それはどの程度の時間でリカバリーするのか、と言った議論の筈だ。5年、10年先の話とならない限り、長期の資金は戻って来るだろうと思われる。実際、ビジネス・トレンドに何の変化も無いのだから。
注目の右肩上がりのビジネス・トレンドとトピックス
注目の右肩上がりのビジネス・トレンドはいつもお伝えしているように、5G、AI、IoT、自動車CASEで新型コロナウイルスの話程度では決して変わるものでは無い。今週のMF10Cの個別コメントで確認出来るように、企業は引き続き積極的な技術開発と製品開発を行っている。確かに、周辺情報を調べていくと、物流の停滞による工場稼働への影響や、一時的な需要低下が無いわけでは無い。確かに、iPhoneの生産工場が停滞すれば、それに伴い部品の発注も後ずれする。同様なことはパソコン関連にも言えるだろう。
だがそれは最終需要が消滅したことは意味しない。消費者からのディマンドはある中で、供給サイドの中でサプライチェーンが滞っているに過ぎない。これは動き出せば解消される話だ。また今回の騒動の中で「テレワーク」が注目されている。新たな関連銘柄探しなどする必要は実は無い。逆にビデオ会議システムの会社などに注目したところで、それは一過性のブームに終わる可能性が高いからだ。
だが社員が自宅待機で自宅から仕事をする場合、必要なものは何だろうか?それは最低限会社のIT環境同等の執務環境だ。誰も自宅に会社と同じレベルのIT環境を持っている訳でない。特にパソコンとネットワークはクリティカルな部分だろう。古いパソコンだったり、遅いネットワークだったりだ。だがアップグレードしたり、買い替えたりしたいと思っても、今回のこの局面には間に合わない。なぜなら生産が混乱しているのだから。
だが、これをきっかけに自宅で仕事が出来る環境を用意して置かないならないことは確認された。会社でいつもノートパソコンならば、それを持ち帰るだけかもしれない。ワイヤレス・ルーターが貸与されているのならば、それを使うという手もあるだろう。だが一般的には会社業務はデスクトップパソコンが使われ、モニターもそこそこのサイズはあるのではないか?そして何よりネットワークが有線で早い筈だ。個人が買うか、会社が買うかは別にして、テレワークに対応出来る動きは確実に起こる。
Windows7のサポート終了に絡んで出てきた法人のリプレイス需要はまだ消化され切れていない。個人ならば、ひとまずOSだけを入れ替えたという人も多いだろう。だがその器材でNetflixやAmazon Prime Videoなども観たいとなると、段々と能力不足に記がつく筈だ。
「テレワーク」や「巣篭もり消費」という発想は、間違いなく注目しているビジネス・トレンドについては、アクセラレーターとして効いてくるだろう。少なくとも、市場の悲観論とは別の所に流れはあると思われる。
今週注目の米国企業の決算発表
今週はビジネス・トレンドに絡んで特に注目の決算発表はありません。
正規版のFG Premium Reportでは、
このあと「株主となってその企業と一緒に夢を見たいと思う会社10選」
および「個別の企業に関わるニュース・コメント」が解説と続きます。