ポートフォリオの概況
2020年12月の月間パフォーマンス
「リスク中程度のモデル・ポートフォリオ」の12月末までのパフォーマンスは、ドル建てポートフォリオで設定来が月末200.53%となり、年初来のパフォーマンスは絶対値でプラス8.60%となりました。円建てポートフォリオは12月末時点で175.91%ですから、年初来のパフォーマンスはプラス3.40%となります。ドル建てと円建てポートフォリオのパフォーマンス差は為替が要因です。昨年末の108.67円から見ると円高が△4.79%も進んだことが円建てポートフォリオの足を大きく引っ張っています。
単月のパフォーマンスはドル建てポートフォリオが+3.19%、円建てポートフォリオもプラス+2.79%となりました。上のチャートでも明らかな通り、ドル建てモデルの方は年初来及び設定来の高値更新です。円建てモデルの方は、流石に為替の影響を排除出来ません。そもそも為替ヘッジの必要性については議論が必要です。筆者の前職であるバークレイズ・ウェルスでは基本的に為替ヘッジはこうした長期投資にはお勧めしていませんでした。バークレイズは英国の老舗銀行なので、英国のお客様には沢山のポンド資産をお持ちの方がいます。また当然非USドル圏の富裕層との取引は非常に多いです。ただ基本的にはすべてUSドルベースでのご提案でした。それは長期的には為替変動に伴う変化は国際分散投資では資産価格に反映されるからです。ただ日本のお客様はどうしても「円建て」を望まれることと、久しく為替市場からの発信される為替見通しが円高を予想しているからです。
今現在もロイターの記事で報じられた通り、日本の殆どの為替ストラテジストは円高見通しを発信しています。おかしくなるぐらい、皆さん理路整然と円高ストーリーを組んでいます。これが多くの個人投資家を円建て運用に走らせるのだと思いますが、私はドル建て資産は個人的にもドル建てで保有したままです。因みに、プレミアム会員向けの情報MFCL(My Favorite Companies List)では、10銘柄ポートフォリオのパフォーマンス・チェックを継続しておりますが、この約2年間のパフォーマンスは投資信託の基準価額で言うなら約「16,269円」(ドル建て資産はこの段階で円評価)にも及びます。半分はドル建てのままで、スタートした時のドル円為替は110.51円です。為替ヘッジの効用と手間暇、投資機会などを総合的に考えた場合、どちらの方針で行くかは慎重な議論が必要かと思います。
12月にパフォーマンスがプラスとなったアセットクラスは断トツで株式です。先進国株式が+4.24%で、更に新興国株式が+7.35%と気勢を上げています。またコモディティも+5.97と好調でした。12月はパフォーマンスがマイナスになったアセットクラスがありません。先進国国債や投資適格債は0.48%台ですが、ハイイールド・新興国債券は1.82%になります。
原則3か月程度毎に微妙にアセットアロケーションを調整するTAA(Tactical Asset Allocation)を利用する場合は、若干株式をトリミングして高値警戒感を考える必要性があるかも知れませんが、このアセットアロケーションはSAA(Strategic Asset Allocation)モデルなので、検証の結果、当面は未だ変更する必要性が生じていません。このままで継続します。
CY2020年通期のパフォーマンスと国際分散投資の効用
年間通期のパフォーマンスと、2019年年初来のパフォーマンスの両方をまとめたのが下記の表です。バックテストでシミュレーションを走らせた結果ではなく、リアルで皆様にも毎月開示しながら重ねてきた数値ですから、時々世の中にある「後付け良いところ取りモデル」ではないことはお分かり頂けると思います。
この「リスク許容度が中程度」の国際分散投資モデル・ポートフォリオのもうひとつの特徴は、特にこれと言って「ジタバタしていない」ことです。「あそこでこれを利食って、あそこではあれを買増して・・・・」というような操作は一切行っておりません。それは皆さまが証人になって頂けると思いますが、この7つのアセットクラスに分散した運用を続けているだけで、これだけの投資収益を挙げることが可能でした。それは最初にきちんと定量計算した分散ポートフォリオを組んであるからです。
因みに、メガバンクなどがキャンペーンで特別金利を付す定期預金でも、今時は0.25%が精一杯です。それも期間は3か月だけ。円建てで3.40%、ドル建てで8.60%の意味はお分かり頂けると思います。因みに、7.2%で10年回せたら、元金は2倍になります。このタイプの運用はその位の期間をのんびり、じっくりするのが基本です。昨年2020年のように、約9か月間はコロナの影響に支配されることなどよくあることですから。
一方で、これを投資信託やラップ口座、SMAなどで運用しようとすると、結構な手数料が取られてしまいます。仮にその手数料が年間3%だとすれば、ファンドラップの最低契約金額が500万円ならば毎年15万円、SMAの最低契約金額3,000万円だとすれば毎年90万円も必要です。それでも3%という水準は同種商品の中では安い筈です。その手数料、払いたいですか?
証券会社でも銀行でも、最低限の預かり資産の明細は発行されます。もしFund Garageなどで投資を勉強されて、いちど知識を身につけてしまえば、この程度の国際分散投資であれば、15万円も、90万円も手数料は掛かりません。Fund Garageのアセットアロケーションの投資比率などは、プレミアム会員に年間契約頂いたお客様には、ご照会の都度ご案内させて頂いております。
CY2021年の市場を展望する<以下はプレミアムレポートの1月11日号からの抜粋になります>
普通に考えれば、2021年の市場見通しは明るい。確かに新型コロナウイルスの問題は由々しき事態ではあるが、米国のISM景況感指数が示したように、景気は回復している。それはやはり各国の中央銀行がジャブジャブになるほど金融緩和を続けて景気の下支えをしていること、景気刺激策が打たれていることなどがある。その上で、テレワークやリモートワークが進んでおり、米国では住宅建設が需要に追いつかないまでになっている。デベロッパーは既に来年の分の住宅用地を使い始めているほどだ。
当然、テレワークやリモートワークの流れを支えているのは、ITインフラだ。データセンタ、ネットワーク、5G、IoTなどもあれば、VRやARと言った技術もより加速する。それらを活かしてAIが可能性をより拡げていく。パソコン、スマホ、タブレットなどは1人が複数を駆使するのが当然になるだろう。
またリモートのキーワードの下にはヘルスケアがあることを忘れてはならない。遠隔医療と呼ばれるものも幅広く捉えらえる。離島に高度医療を提供するような話もあれば、掛りつけ医に心電図や血中酸素飽和濃度を常時モニタリング出来るように届けるというレベルのものまで様々だ。今やアップルウォッチに代表されるスマートウォッチを使って、米国では既にこれらを医療として認めている。
そして予想に反して半導体の不足を招くほどに需要回復した自動車がある。公共交通機関の利用を控える動きがある中で、世界的に自家用車のニーズは膨らんでいる。欧州では30万円前後の中古車の在庫は払底しているようだ。日本では高齢者の移動にはやはりクルマが欠かせなくなっている。ただ高齢者特有の危険もあり、それを支えるためにADASの普及はより加速するだろう。
ただ大きな懸念があることを忘れてはならない
残念ながらいい話ばかりとはいかないのが世の常である。コロナ禍で自由な移動を束縛され、自粛を要請され、通常の人とのコミュニケーションが制限されたことで、世界中で人々の心にストレスが溜まっている。米国のBLM騒動が必要以上にエスカレートしたのも、背景には溜まったストレスがあるだろう。身近なところでは、最近街中に出ると、妙にカリカリ、ツンツンした御仁が多いと感じる。それは若い人よりも中高年、高齢者に多い。社会が物凄く荒んでいっているように感じるのは私だけでは無い筈だ。
それを如実に映し出しているのがネットの世界だ。トランプ大統領のツイッター・アカウントの永久閉鎖が言論の自由への弾圧なのか、単なるツイッターの規約違反に対する通常の措置なのかという議論は置いておいても、少なくとも誰もが自由に何でも思い付きで発信出来、それが一定のトレンドに乗ると、ひとつの世論を形成出来るというのがネット社会だ。かつて「アラブの春」と言われる民主化の波を齎したのもネットのSNSだ。
SNSでは無いが、ネット配信されているニュースへの書き込みを見ると、明らかに新型コロナウイルス問題については2つの世論が形成されている。「より慎重にシリアスに受け止めている層」と、「メディア等が騒ぎ過ぎと受け止めいている層」の二つだ。両社に共通しているのは、どちらも誰かを悪く吊るし上げていること。ネットの世界では、誰もが評論家になり、識者になり、専門家になる。完全に国論は二分されている。
だが恐らく総人口1億2,680万人の日本で、死亡者数累計3,931人、重症者827人の段階では、直接身近な人が亡くなったり、重症になったりした経験がある人はごく稀だ。亡くなった人で言えば、人口比で約3万3千人に1人の割合でしかない。だから殆ど居ないと言っていい。つまり多くの人が憶測でああだこうだと言っている。ただ妙に危機感を煽られ、明日は我が身と考え、重症化したらどうしようと怯え、そして経済的な不安にも憑りつかれている。実際には何も被害は出ていなくてもだ。長く続いた自粛のせいで、気持ちが荒んでいることもあり、何かあれば一触即発なイメージを感じなくもない。
米国ではそうした流れの象徴的なものとして、1月6日のワシントンの国会議事堂周辺で事件が起きた。暴徒のひとりが事件後に「最悪な判断をしてしまった」と悔やんでいる報道が妙に印象的だった。米国では人口比881人に1人の割合で亡くなった人が出ているので、そのストレスは日本の比では無いだろうと思われる。
米国では民主党バイデン氏が20日から新大統領としてホワイトハウスに入るが、2つに割れた米国をまとめるのは苦労するだろう。トリプルブルーになったのがせめてもの救いだが、多数決による民主主義が成り立たなくなる可能性を、まだ現職であるトランプ大統領とその支持層が示してしまった。
日本でも、新型コロナ対策について、野党、左派系メディア、そしてネットの「より慎重にシリアスに受け止めている層」は現政権が何をしようとも常に反対だ。政治が安定しなくなると外人投資家はその市場を冷ややかに見始める。長期安定政権だった安倍政権が終わり菅政権に代わった。当初は支持率も高かったが今では惨憺たるありさまだ。政治が2021年の大きなリスク要因だと思われる。
最後に地政学的リスクなのかウォーリスクなのか
そして最後にもうひとつ。中国に対する世界の対応がもうひとつのリスクだ。元々空母艦船群を展開している米国に続き、現在では英国、フランス、ドイツ、そしてオーストラリアが南シナ海から東シナ海に展開している。英国は最新鋭の空母「クイーンエリザベス」を中心とした艦船群を佐世保に入港させる予定だ。当然、F35が艦載されている。ドイツが対中国で軍艦を派遣するのも従来の独中関係からすると大きな変化だ。
日本のメディアは中国による日本への挑発行為は殆ど報じていないが、空自の緊急スクランブル回数の増加データなどを見るだけでもかなりエスカレートしているのが伺える。これは海外メディアを頼るか、自ら調べるかしか無いが、2021年のもう一つのリスク要因だ。