はじめに
研修が始まって1週間、先週はどのような研修を受けたでしょうか?名刺交換や上座・下座といったビジネスマナー、はたまた銀行の歴史でしょうか?いずれにせよ、銀行の研修は他の企業が外部に委託しているものと比較しても、とても熱心で質も高いことが知られています。是非、将来的な自分の市場価値にも活きると思って、楽しみながら受けてみてください。
さて、今週から「新入行員諸君!」シリーズが本格連載となります。是非、毎週月水金の朝のお供に、寝る前の読書代わりにご覧いただければ幸いです。
では、本文をどうぞ。
本文「リスク商品の基本①」
金融商品に手品は無い
まず最初に肝に銘じて覚えておいて欲しいこと、それは「金融商品に手品は無い」という事。期待リターンの高いものは、必ずそれ相応のリスクを背負っているという事を肝に銘じておいて欲しい。素敵な美辞麗句のプレゼン資料を見て、それをそのまま鵜呑みに信じてお客様に接してはいけない。必ず、自分自身の頭で、確り*1とその金融商品が内在している仕組みと、その抱えているリスクを理解するようにすること。
実はこれ、「言うは易く行うは難し」の典型みたいな話で、複雑そうな金融商品になればなるほど、その仕組みと抱えているリスクを正しく自分自身の頭で理解し、他人に説明出来るようにするというのは難しいこと。それをお客様に全て説明するかしないかという事とは別の次元の話ではあるが、販売員たるもの、自らが大切なお客様にセールスする商品については、完璧な理解をして欲しい。
何故、このようなことを言うかと言えば、それは私自身が今までにそうした実例を沢山見てきたからだ。銀行員向けの新商品の勉強会などで講師をする時、面倒な質問が出ないようにする簡単な“マジック・ワード”がある。この一言を付け加えるだけで、余程のことが無い限りは、その点についての質問が来なくなるフレーズ、それは「皆さんもご承知の通り・・・」「皆さんには釈迦に説法かと思いますが・・・」「As you know, this product……」というものだ。
エリート銀行員の方向けの場合ほど、このフレーズは役に立つ。何故なら、銀行にお勤めの人達ぐらい、プライドの高い人達はそうそう居ないから。なので、この一言を付け加えるだけで質問を封じることが出来る。だが、逆に言えば、そこはきっとわからないままに(或いは分かっていないこと自体がわかっていない)放置されてしまっているだけだ。のちに頓珍漢な質問をされて「ああ、あそこが分かっていないからね」と思った例は、過去枚挙に暇がない。新入行員の皆さんなら、そんな余計なプライドなど持ち合わせる必要はないので、是非、堂々とわからないこと、疑問点、手品の種はとことん質問して欲しいと思う。
これだけは覚えてほしい「リターンとリスクのトレードオフ」
どんなリスク商品についても普遍的なこと、それは「リターンとリスクのトレードオフ*1」。正確に言うならば、超過リターンとリスクがトレードオフということになるのだが、何に対しての超過リターンだろうか。それは無リスク資産*2に対して。無リスク資産というのは投資理論の世界で概念的に使われるもので、世の中に実在はしないが類似品は存在する。
無リスク資産の定義と言うと「元本が保証されている」ということだけが言われがちだが、実は「いつでも換金可能」という定義が大事な要素として入っているのが本来の投資理論。これを踏まえて、最も無リスク資産の定義に近い金融商品というと、オーバーナイトのコール・ローン*3(本来は有担保、ただ現実的にはレートを確認し易いのは無担コールのひと晩もの)ということになろう。
それ以上の期待リターンを得ようとするならば、いつでも換金できるという流動性を捨てて期間を固定するか、何らかのクレジット・リスク(信用リスク)*4を取るか、株のような価格変動リスクを取るか・・・、などなどということで期待リターンを上げるしかない。現時点では、メガバンクの普通預金などは、個人投資家が投資し得る最も無リスク資産に近い金融商品と言える。
すなわち、お客様に提供できる金融商品で、普通預金以上の期待リターンが超過収益としてパンフレットに表示されているものは、対普通預金で比較して、何某かのリスク要因を背負っていると理解して欲しい。参考までに先週末(4/8付)の無担保コール翌日物金利は△0.006%である。普通預金の金利は未だマイナス金利にはなっていないので、それは当該銀行のクレジットリスクを取っている結果の超過収益と言って構わない。
また期間という点について、すなわち何時でも元本保証で換金出来るという流動性を10年間分放棄するとするならば、日本人投資家(円ベースで暮らしている)にとっては日本国債10年物金利が、ほぼ無リスク資産の期待リターンと言っても、そう間違いではない。とすると、同じく先週末(4/8)の新発国債10年物(347回債)の利回りは0.232%である。10年間の長期投資をイメージしても、無リスク資産という尺度で超過収益を計測しようとすると、ベースとなるのは0.232%しかなく、それ以上の部分はすべて超過収益、すなわち「リターンとリスクのトレードオフ」の関係に晒された部分であると言える。
次回に向けて
さて、初回はこの辺りでと終了しよう。お気づきかも知れないが、ここまでの8段落において、一度もコストの話には触れていない。しかし、それこそ釈迦に説法ながら、銀行も営利団体としての民間企業であるから、銀行の収益となるコストが必ずここについてくる。1%であろうと、5%であろうと、0.1%であろうと、ベースとなる期待超過収益にその銀行の収益分を足したものが、リスクとトレードオフになるべき期待リターンということになる。すなわち、その分リスクが高くなっている。この辺りのことについては、次回解説したいと思う。
用語集
*1.トレードオフ:機会費用ともいいます。何かを得るときに、何かを得られない関係性のことを指します。例えば、大学の講義とその時間にしたかったバイト、なんて関係が分かりやすいかもしれません。
*2.無リスク資産:元本が保証されている資産のことです。本文中にもありますが、一般的には預金や一部の国債がこれに当たります。
*3.オーバーナイトのコールローン:金融機関が短期的な資金の過不足を相互に調整する市場(コール市場)での資金貸借のうち、約定日に受渡し、翌日が返済期限になるものを指します。
*4.クレジットリスク(信用リスク):債務者が債務を返済できなくなってしまうリスクのことです。わかりやすく言うと、倒産或いは破産する状況になってしまうリスクですね。
おわりに
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(編集:Fund Garage 編集部)