言葉遊びは卒業して、数字を見よう
COVID-19の感染再拡大、世界の状況をどうなっている?
テレビで昼のNHKニュースを何気なくつけていたら、「オミクロン株の”市中感染”など感染拡大に歯止めがかからない状態になっている」とアナウンサーが報じていた。詳細を調べてみると、それは沖縄県のことで「今月2日が51人、おととい130人、きのう225人と急激に増加している」というニュースの結文が前述のようになっていたようだ。真面目に画面を観ながら内容を聴いていたならば、また違う印象で聞こえたかも知れないが、他のことをしながら耳に飛び込んできた内容は「”市中感染”など感染拡大に歯止めがかからない」という部分だけだった。実はこうした聞き流しで耳に飛び込んだ文字列は案外と記憶に残る時がある。正確な内容ならば記憶に残るのも結構なことだが、誤解が生じ易い内容だとやっかいなものだ。
そこで、まず世界のCOVID-19の感染者動向を確認しておこう。定性的な表現は単なる「言葉遊び」に成ることが多く、投資家ならば正確な数値や原典資料など一次情報に触れることが基本だからだ。お馴染みのジョンズホプキンス大学のWebページ、画像をクリックして貰うとリアルタイムのWebページに遷移するようにしてあるので是非ともご自身でも確認して貰いたい。
中央上部には世界中のCOVID-19の感染者数の累計が約3億人であること、そのうち約5.5百万人が亡くなってしまったこと、一方で既に92億回のワクチン接種が行われたとあり、昨年初夏まで毎日数値を集計していた頃から更に大きな数字になったことは一目でわかる。ただ今肝心なのモノとして目に飛び込んでくるのが、一番右側の赤いバー・チャートだろう。下記にその部分だけを切り出してみた。
週次の新規感染者数の推移を示しているが、最新の一本が飛び抜けて長い。恐らくこれが強い感染力を持つといわれる「オミクロン株」の影響だろう。だが、その下のs白いチャートが示す亡くなった方の数は逓減しており、そのテンポは変わっていないこともわかる。これが先ずトレンド分析となる。
更に注意が必要なのは、各チャートの縦軸の目盛りだ。新規感染者数の方はMがついているが、これは100万人という意味であり、直近のバーは10Mを少し超えたところなので、すなわち1000万人超ということを示している。
その下の亡くなった方の数の方はkが単位となっている。これは1000人という意味で、足元は40k~60kの間なので、4万人から5万人ということになる。これらは全て週次の数字だ。
米国の状況はどうなっているだろうか?
この2年間、すなわち日本に初めてダイヤモンドプリンセス号で横浜港に新型コロナウィルスの感染者が出てしまった時、米国は元より、欧州さえも「日本は大変だねぇ」と呑気だった。だがあっという間にそれは人の移動を通じて欧州へ伝搬された。欧州で感染者数が増えても、当初は米国はまだ対岸の火事、NY市場も平穏そのものだった。だが、サンフランシスコからホノルルに向かった客船から下船した顧客の中にCOVID-19の感染者数が含まれていたことがわかり、それがシリコンバレーを含むサンフランシスコ・ベイ・エリアに広まったとわかると、遂にNY市場も崩落した。その後も、欧州でロックダウンが発生してもまずは「我、感知せず」とばかりに平静を保つNY市場だったが、米国内で感染者数が拡大となるとNY市場は即座に反応した。
ならば最高値を1月3日に更新したNYダウやS&P500を抱える米国の現在の感染動向はどうなっているのかを、上述と同じチャートで見てみよう。実は形状は全世界とあまり変わらない。だが一番右側の一番長いバーは跳び抜けてはいるが、左側の単位目盛りは3Mとなっている。これがチャートマジックで正確には282万人を意味している。だが単純に7日間で割り算すれば、一日40万人となる。40人でも、4千人でもなく、40万人だ。だがやはり亡くなった人の数は逓減傾向が続いている。
東京(人口1396万人)よりも人口が約550万人も少ない842万人都市ニューヨーク市、その一日の新規感染者数が4万人を超える中で、大晦日のカウントダウン・イベントが2年ぶりに一般人も詰めかける中でタイムズスクエアで賑々しく行われたのは、こうした背景があるのかも知れない。株式市場も現状はオミクロン株による直接的な被害に怯えるのではなく、サプライチェーンへの影響やその結果としての金利上昇の方を嫌がり始めている。
我が国、日本の状況はどんなに悲惨な状況か?
さて全世界、米国と見てきて次はいよいよ我が国「日本」の状況だ。まずは同じベースのチャートを見て貰おう。おや?あれ?
ムムム、まず大きく形状がこれまでの二つとは異なることに気が付く筈。つまり足元で急騰する筈の一番右側のバーがまだ全くないことだ。更に目盛りを確認すると、最大で200kとなっている。つまり200人×1000倍=20万人までしか表示が出来ないチャートだ。先ほどの米国のチャートのそれは300万人だったので、既にチャート自体のスケールが15分の1になっている。更に一番右側に仁王立ちする筈の赤いバーが未だない。「感染拡大に歯止めがかからない状態」などという言葉が万が一にも記憶に残れば、大変な誤認識を招くことになる。
世界と日本をきちんと数値で比べてみよう
言葉による表現は、受け取る人によってどうにでも変わる。また「凄い」とか、「加速度つけて」とか、或いは「爆発的」などという表現は、文章を書く人が「強調」したり、意識的に際立たたせようとする時に自由自在にイメージを膨らまさせる為に使うものだ。更にチャートも金融人の間では常識だと思うが、Y軸やX軸の目盛りなどを変えることで、これもまた自由自在に表現したいようにアクセントをつけることが出来るものだ。
例えば全世界の新規感染者数を示したY軸目盛が上限12Mになっているチャートに米国のそれ(上限3M)を挿入したら、縦の長さは1/4になる。更にそこに日本の上限200kのチャートを挿入したら、バーの高さは20万人÷1200万人なので60分の1程度だ。米国のチャートに挿入しても20万人÷300万人なので15分の1程度になる。因みに、日本の総人口は米国の約2.6分の1だ。あとは単純な算数でその比率は思い浮かべてほしい。
それでは最後に世界の主要国の状況と、日本の状況を具体的な数値で比較してみよう。これは2022年1月5日の正午にジョンズホプキンス大学のWebページから引用している。As you can see,,,,,,,
左側が現在のTOP10となる。米国に始まり、英国、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、ロシア、トルコ、ベトナム、ポーランドだ。その米国の過去28日間の新規感染者数の合計は691万人、同様に以下、英国292万人、フランス239万人、スペイン146万人、イタリア128万人と続く。その右横の白い数値が同期間の亡くなった方の数。米国の3.6万人に始まり、次はロシアが2.8万人、そしてポーランドが1.2万人といった感じだ。
では日本はどうかと言えば、その右側の一番上に表示したが、28日間の新規感染者数が7千人、亡くなった人は31人だ。隣国韓国と中国も表示しておいたので参考にしてほしい。但し、ジョンズホプキンス大学が集計出来ている中国の数値が正確なものかどうかは昔から議論があるのだが・・・。
いずれにしても、日本の現状の数値を100倍しても70万人とスペインの半分にも及ばない。この事実は事実として、個々の方々の罹患した苦しみや辛さとは切り離して、市場分析や景気の先行きを考える時は冷静に評価しないとならない。ましてやそれを政争の具として使うなどあってはならないことだ。