FRBの利上げよりも番狂わせを招くもの

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コロナを制して景気回復と考えるのはまだ早い

NYダウが△533ドル下落した翌日、今朝は+586ドルのリバウンドとなった。FRBが利上げをするかしないかを市場は気にしていると後講釈されているが、本当にそうだろうか?寧ろ市場が気にしているのはコロナの感染拡大状況ではないかとも思えるが如何だろうか。以下にその根拠となりそうなものをご紹介する。

再度パンデミックが拡散するリスクは無いのか

現時点で予測されている世界景気回復シナリオは、すべてCOVID-19、すなわち新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かって、早々に世界に元の日常が戻ってくるという前提に立っている。いや既に戻っていると楽観的なものまである。そしてその時にはパンデミックの非常事態の中で確立されたリモート・ワークなどの新生活様式も、新たな生活様式・就労様式として普及するというシナリオに基づいている。私も基本的にその考え方に賛成だし、そうなって貰わないと困るという願いも込めている。だが現実はそんなに甘くはないようだ。その猜疑心がこのところの市場の動きの根底にあるように思われる。

専門家の解説より、ましてやメディアの報道より、数字は何よりも正しく現実を伝える。確かに、少なくともこのところは世界の感染者数の増加は減少傾向になっている。これを疑う余地はない。だからこそ、願わくば東京オリンピックが「大パンデミック再拡大のための祭典」として世界史に名を残さないで欲しいものだと思ってもいる。ただこれについてはかなり疑問点が残る。最大の理由は、日本のワクチン接種率の低さ、そのオペレーションの進捗度合い、主催者側と国民の意識のずれ、などなど枚挙に暇がない。

ただ少なくとも世界の感染拡大をリードした国々ではそのペースは急減している。下にあるのは、感染者数累計の上位国で、上段左から米国、インド、下段左からフランス、イタリアとなっている。明らかに、どの国も新規感染者数は大きく減少している。もうCOVID-19は征服したと感じたとしても無理はない。データはジョンズホプキンス大学だ。ただY軸の目盛りにだけは拘ってほしいと思うが。

 

感染拡大再開が既にチャートにも示され始めている現実

だが世の中はそんなに甘くないのも事実のようだ。上段左から英国、ロシア、下段左からブラジル、コロンビアとなっている。まず気になるのは英国とロシア。一旦はワクチン接種で新規感染者の発生は抑えられたと報じられていたが、どう見ても傾向は底打ちから反転・上昇再拡大へと動いている。すなわち新規感染者数が再び増え始めているということだ。更にブラジルやコロンビアは一旦は減少したという傾向さえ見られず、右肩上がりに上昇している。

この件に関しては、今朝(2021年6月22日)の日経新聞朝刊にも「インド型が世界で猛威 感染者の比率急上昇、経済再開の壁に」という記事として取り上げられている。要はインド型(デルタ株)の再拡大が顕著になってきたということだ。朗報があるとすれば、ファイザーのワクチンを2回接種した場合は88%の予防効果があり、アストラゼネカと英オックスフォード大学のワクチンでは60%になるという。ただワクチンも1回接種では33%にとどまるというのは悪い知らせだ。日本ではまだ1回目の接種すら終わっていない人が大半を占める。2回目はまだ始まったばかりだ(医療関係者や一部のアスリートは除く)。

これを受けて、英国では接種間隔を最大12週間から8週間に短縮し、2回目接種を急ぐ方針に転換し、また米バイデン大統領は国民に対し「身を守る最良の方法は接種を完了することだ。1回打っていたら2回目を打ち、未接種なら接種してほしい」とワクチン接種の加速を呼びかけているという。

市場は見えない不確実性を嫌う

金曜日のNY市場が△533ドル下落したのはFOMC後のFRB連銀理事たちの発言のせいだとか、先物とオプションの同時決済日のためだとか言われているが、一方では冷静にイギリスでの観戦再拡大が伝えられたからだとも言われているのは既報の通り。

ただこれについては英国ヘラルド紙に冷静な記事が掲載されているのでご紹介しておく(全文を読むには記事をクリックしてThe Heraldに飛んで欲しい)。要はインドで見つかった変異株(デルタ株)が若い人たちの間で広まっているが、若者は感染しないか、感染しても治療出来るが、その前に高齢者への2度目の接種を急ぐべきだということ。感染拡大と2度目の接種のレースが繰り広げられているが、楽観的には接種が進むだろうとも。

ただ英国やロシアはまだ良いとして、南米ブラジルとコロンビアはワクチン接種の遅れもあり予断を許さないと思われる。そうした国々がある限り、世界でパンデミックのドラマは終わらない。つまりワクチン接種の遅れは(更なる変異株の誕生を含めて)パンデミックを再発しかねないということ。

この意味では、全国民が2度目のワクチン接種が終わらない、少なくとも若い層は1度目もさえも間に合わないかもしれない日本でのオリンピック開催は相当なリスクを含んでいると見ることが出来るように思われる。「東京オリンピック⇒東京パンデミック」という、酷いことにならないように祈るだけだ。月曜日の日経平均が1,000円超の棒下げを演じたのは、世界の状況よりもかなり立ち遅れている日本の現状を織り込みに行った下げなのかもしれない。

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