カーボン・ニュートラル

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「ESG」や「SDGs」という最近の3文字英語の流行言葉ではないが、最近はカーボンニュートラル、脱炭素、ゼロエミッション、再生可能エネルギーなどなど「環境問題」を前面に押し出した話題は枚挙に暇がない。だがそれらのもっとも基本的なこと、つまり「カーボン=炭素=C」という基本が理解されていないのではないかと思ってしまうストーリーも散見される。本稿はその点を再確認するために、プレミアム会員専用のプレミアム・レポートに掲載した記事の再編集ものである。

カーボン(炭素)の元素記号はCだって覚えてますか?

脱炭素社会という発想について考える

ある意味、私から見ると「脱炭素社会」というのは、どうしても「綺麗ごとの詭弁」に聞こえてならない。それは地球温暖化をどうでも良いと考えているという意味では全く無い。ふざけて言うのではなく、ホッキョクグマの棲家が温暖化でどんどん狭くなっているというような話を聞くと、「人間なんて糞くらえだ」と本気で思う。人間が自らの行為で地球を温暖化し、その結果として住みづらい環境を作り、自滅していくだけならばそれはある意味で納得がいく話。だが何の罪もない自然界の動物たちがホッキョクグマ以外にも、食料が無くなったり、山火事などで死んでいくのは本当に許せないと思っている。

ただそういう目線で物事を捉えてみると、実は昨今言われている「脱炭素社会」も、「ESG投資」と言われるものや、「SDGs」などと呼ばれるものが、どうしても本質的でない話をしているように個人的には思えて仕方がない。「ESG投資の真実」みたいな話は機会をあらためてさせて頂くが、「サステーナブルな・・・」を連発する企業をどうしても胡散臭いと感じてしまうことがる。

そもそも地球温暖化と二酸化炭素の関係は科学者の間でも意見が分かれている。これは疑いのない事実だ。つまり関係があるという学者閥と、そもそも地球の温暖化はその寒冷化のサイクルの中での話だという学者閥と両方あるからだ。ただ、地球温暖化は二酸化炭素のせいであり、これを温暖化ガスと名付けて減らすことを目指せば、そちらの方へ人類の目を向けられるというのも、日々の世界中の政治家や治世者の行動や言動を見ていれば、「脱炭素社会」と旗を振ることが正論になるというのは、あながち頭ごなしに否定出来る話では無いのだろう。

とは言え、投資の世界にこの手の問題がどんどん入り込んできているのは確かなことだ。自工会会長でもあり、トヨタ自動車の社長でもある豊田章男社長が「カーボン・ニュートラル」という単語を前面に強く押し出し始めている理由も、この辺りの理解を進めるとわかるようになると思う。そこでいちど「脱炭素社会」とは何か、「カーボンニュートラル」とは何かについて、その「ソリューションと問題点」は何かなどをまとめて考えてみたいと思う。

カーボンニュートラルという考え方

「カーボンニュートラル」とは、「カーボン」、すなわち「炭素」排出がゼロという考え方ではないことがまず大きな出発点だ。一時期「カーボンゼロ社会」という単語もあったと思うが、昨今は「カーボンニュートラル」とほぼ統一された。「ゼロ」ではなく、「ニュートラル」というところに私の問題意識がある。

「カーボンゼロ」というのは「二酸化炭素を排出しない」という事になるが、「ニュートラル」という段階で「中立」すなわちプラスマイナスがゼロという形に読み替えられる。この点では「ゼロエミッション」という言葉の方が実はより胡散臭さが強い。何故なら時と場所、或いは発言者によって「ゼロエミッション」は「排出(emission)がゼロ」となる場合と、やはり「カーボンニュートラル」と同じようにプラスマイナスゼロとなる場合と、同じように使われるからだ。この辺りはESG投資などに絡む投資信託の目論見書でも統一されていないので確りと押さえて置きたいところだ。

「カーボンニュートラル」に話は戻るが、Wikipediaによれば「何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念」とある。すなわち前述したように、排出しても、その分相当を吸収する何かがあればプラスマイナスゼロとして「ニュートラル」となる。

バイオマスにおける「カーボンニュートラル」の考え方

カーボンニュートラルやゼロエミッションという話の時、必ず出て来るのが「バイオマス燃料」だ。バイオマスとは「動植物等の生物から作り出される有機性のエネルギー資源で、一般に化石燃料を除くものの総称」のことで、木材や可燃ごみ、或いは下水汚泥や家畜糞尿などがある。これらは燃料として燃やしたりすることが出来るので「資源の有効活用」というイメージがあるが、当然のことながら「燃やせば二酸化炭素」は排出される。

ただこの時に排出される「二酸化炭素」すなわち「カーボン」は、バイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素なので、一旦吸収したものが再排出されているだけであり、総量は変わらないという考え方を当て嵌める。ならば石油や石炭も同じだろうと思われるが、こちらは数億年前の昔の事なので、違うものと扱われるようだ。ただ考えてみて欲しいが、地球の年齢自体が約46億年と言われる中で、数億年前の話はそんなに昔の話になるのだろうか?

そして地球温暖化が騒がれ出したのは少なくとも100年前の話では無い。ならば樹齢百年の木を切って燃やしても「今」の炭素排出とは次元が違うのでは無いかと素朴な疑問が浮かぶ。バイオマス燃料の元となる植物の光合成段階からの時間軸を捉えると、これも1年や2年の話では無いだろうと私は思う。だからバイオマスにおける「カーボンニュートラル」というのは今一つピンと来ないというのが本音だ。

化学反応式を使って元素記号Cを考える

バイオマス燃料と完全燃焼

例えば代表的なバイオマス燃料と言えばメタンがある。動植物の死骸や腐敗した状態のものからガスが発生して臭い匂いを発している時があるが、あの匂いの源がメタンだ。高校の科学の時間にちょっとタイムスリップをして貰って思い出すと、メタン分子の電子式はCH4であり、構造的には下記の黄色い絵のようになる。つまり、炭素原子Cの1つに4つの水素原子が結合して出来たものがメタンだ。覚えておいでだろうか?なに、有機化学は得意じゃなかった?でも実は私も同じだから心配ご無用。

そのメタンはよく燃料として使うことが出来る。つまり燃えるという事だが、そもそも燃焼反応とは何かと言えば、高速での酸化反応だ。つまり、メタンに酸素を与えると炭素原子Cは水素原子を手放して酸素原子と結合しようとする。その方が分子としてより安定するからだ。この急速な酸化反応の時に熱を発生するので燃焼反応と呼ばれるが、突き詰めると「酸化」、そう「錆る」ことである。

これを化学式で表すと下のようになる。

つまりひとつのメタン分子と2つの酸素分子が寄り添うと、ひとつの二酸化炭素と2つの水の分子が出来上がる。この左から右への変化が燃焼反応であり、必ず二酸化炭素が出来上がる。不完全燃焼した場合に、ひとつの炭素と原子にひとつの酸素原子しか結合出来ずに一酸化炭素が発生する。

一酸化炭素がなぜ中毒症状を引き起こして死に至る原因になるかと言えば、一酸化炭素の状態は分子として不安定な状態と言えるので、例えば体内に入り込むと、ヘモグロビンに結合している酸素原子を奪って自らが安定しようとする。だから血中の酸素濃度が一気に低下して一酸化炭素中毒、すなわち酸欠状態を起こすことになる。

バイオマス燃料の場合、動植物等の有機物が大気中の二酸化炭素を取り込んでCH4というメタンガスを育成するので、燃焼により出来上がる二酸化炭素は元々は大気中にあったものということで「カーボンニュートラル」という考え方が当て嵌まるという。二酸化炭素は排出しているが、そもそも自然界に存在した二酸化炭素を元に戻しただけだという考え方だ。だからサステーナブルだ、ESGだと言われても、詭弁に聞こえるのは私だけだろうか?

理想の究極燃料としての水素

上述したように、燃焼反応とは急速な酸化反応だとお伝えした。これでもう答えもお分かりだと思うが、水素原子Hが酸素原子Oと結合して酸化すると、出来上がるのは水であるH2Oだ。幾ら燃やしても出て来るのは水だけというので、究極の燃料と呼ばれている。水素エンジン車の排気管から出る白い煙を顔に受けても、ミストを浴びているのと同じでしかない。

ただ残念なことに、水素原子は単独で自然界に存在することは普通はまず有り得ない。単独で存在するにはあまりに不安定な元素だからだ。まずは酸素原子と結びついて水になり易い(急激な場合は爆発となる)。また炭素原子とも結合して多くの化合物を作り出す。そもそも炭素原子が同じように単独で自然界には存在し難いものであり多くの化合物を作っているからだ。元素記号のCとHとOで出来ている物質がいかに多いかは調べて貰えばすぐにわかるだろう。

例えば晩酌する時のアルコールの化学式はC2H5OHなので、2つの炭素、6つの水素、ひとつの酸素から出来ている。お酒に酔った人の独特な息の匂いはアセトアルデヒド のもので化学式は CH3CHOとなる。これが二日酔いの時の頭痛の原因なのだが、その頭痛薬として飲むアスピリンはアセチルサリチル酸と言ってC6H4(OCOCH3)COOHという化学式だ。さらに言えば、CとHとOに窒素Nを加えるとタンパク質の化学式になる。これは余談。

話は戻って、そこで昨今は水素の酸化反応は水が出来るだけという特性の着目して理想の究極燃料として水素を利用することが各方面で研究されている。燃料電池なども水素を利用するが、正確に言うと酸化させて燃焼エネルギーを得ているわけではなく、水素と酸素が結合する過程で放出される電子の流れから発電をしているだけだ。いずれにしても前述した通り、水素は単独で自然界に存在することはまず有り得ず、他の元素と結合して水、アンモニア、メタンなどとして存在する。水を電気分解すると水素と酸素が得られるが、この逆の反応を起こさせて水素から電気を発生させて水に戻すというのが燃料電池の基本的考え方だ。

水素を取り出す時に必要なもの、そして残されるもの

水素は理想の究極燃料であり、地球は海があるので原料となる水は無尽蔵に近くある。この海水から水素が自由に取り出せれば、「地球温暖化ガス」などという話は無くなるだろうし、原子力発電に頼らずとも水素による火力発電が理想的な発電形態となるからだ。電気自動車など作らずとも、既に水素をガソリン代わりに水素エンジン車をトヨタは先月(2021年5月)に24時間耐久レースを完走させて見せた。また燃料電池車ならばミライがあり、既に市販化されている。

だが、水素を取り出す段階で電気が必要となったり、二酸化炭素や窒素化合物が出来上がってしまう問題を解決しないと、このソリューションは日の目を見ない。そこで例えば、海水から水素を作る時に風力発電により電気分解すれば、水素と酸素が取り出せるというアイデアが考えられている(グリーン水素)。もし風力発電が無尽蔵に出来れば、或いは水力発電などでも良いのだが、充分な電力が供給出来れば水素は無尽蔵に取り出せるという寸法だ。恐らく、そうした自然エネルギーによる発電で充分な電力が得られるならば、何もわざわざ水素を作らないでも良いだろうと思われるかも知れないが、水素は液体にして貯蔵出来るが、電気は基本的に貯蔵出来ない。だからこそ水素を取り出す価値はあるのだが、まず行ったり来たりだということにお気付きだろう。

ならばということで昨今注目されているのがバイオマス燃料や天然ガス(プロパン)、或いはアンモニアなどから水素を取り出すことが考えられている。だがその化学式を思い返せば、かならず余計なものが残されることがわかる。例えば代表的な炭素化合物の化学式を上げるとこんな感じだ。なるほど右に行けば行くほど、ひとつの分子から取り出せる水素原子は多くなる。

だが水素を取り出した後、どうしても「C」である炭素原子が残され、大気中の酸素と結合して二酸化炭素CO2が出来上がってしまう。アンモニアの化学式はNH3であり、水素除くと窒素Nが残ってしまう。これが酸素と結合すると窒素酸化物が育成され人体にとっては有毒ガスとなる。

HとCの今後の課題

グリーン水素、ブルー水素、グレー水素

水素は現在その生産方法によってグリーン水素、ブルー水素、グレー水素の三種類に分類されている。水を再生可能エネルギーで得られた電力で電気分解して得られる水素が「グリーン水素」と呼ばれ、これが理想の水素だ。トヨタが水素エンジンの耐久レースで利用した水素は福島で岩谷産業が作っているグリーン水素だ。

一方、天然ガスや石炭などの化石燃料から改質して水素を得る方法がある。二酸化炭素が排出されるが、それを回収することによって温暖化には問題なしとされている水素が「ブルー水素」と呼ばれるもの。そして同じ方法で二酸化炭素を回収しない方法で作られた水素をグレー水素と呼ぶ。これは二酸化炭素を排出しているので脱炭素か社会という意味では無意味である。

そこでこの二酸化炭素を回収する技術が、もうひとつの大きな着目点となる。

注目される二酸化炭素貯留技術

現在、CCS(Carbon capture and storage)と呼ばれる二酸化炭素回収・貯留技術が注目されている。もしこれが実現出来れば大きなイノベーションとなることは間違いない。ただ逆に言えば、この手の技術が実用化されない限り、現時点で言われている「カーボンニュートラル」とか「脱炭素社会」というのは中々実現性に乏しいと思われる。すると、原子力発電に頼るフランスなどを除いて、電気自動車EVに全てを依存するという考え方も成り立たなくなる。

現在、日本でも苫小牧のCCS実証実験センターで研究開発が進んでいる。今はまだひたすらその実現の可能性を願うばかりだ。その実証実験プラントの写真を下記にご紹介する。(写真は経産省資源エネルギー庁のWebページより転載)

 

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ファンドガレージ 大島和隆

Fund Garageへようこそ。主宰の大島和隆です。投資で納得がいく成果を得る最良の方法は、自分自身である程度「中身の評価」や「モノの良し悪し」を判断が出来るところから始めることです。その為にも、まず身近なところから始めましょう。投資で勝つには「急がば回れ」です。Fund Garageはその為に、私の経験に基づいて、ご自身の知見の活かし方などもお伝えしていきます。