FG Free Report 「コングロマリット・ディスカウント」を正しく理解しよう(6月12日号抜粋)

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企業株の値動きにはさまざまな要因がありますが、「コングロマリット・ディスカウント」もそのうちの一つとされています。「コングロマリット・ディスカウント」とは、一体どのようなもので、何が原因で起こるのでしょうか。プロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

右肩上がりのビジネス・トレンド——コングロマリット・ディスカウント

プレミアムレポートでは、毎号『右肩上がりのビジネス・トレンド』として、最近の注目すべき市場動向・株式を取り上げ、投資家のみなさまにご紹介している。

今回のFG Free Reportは、「コングロマリット・ディスカウント」について解説していきたい。

コングロマリット・ディスカウントとは何か

日本株投資と米国株投資の比較を考えた場合、ひとつの大きな注目ポイントとなるのが、「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれるものだ。

「コングロマリット・ディスカウント」とは、多様な業種や産業にまたがる企業(コングロマリット)の株式が、各部門の実際の価値の合計よりも割安で取引される場合が多い事例として説明される。

そして、そうなってしまう理由としては、市場参加者が企業の多角化シナジー効果や経済的なメリットを適切に評価できないからだと説明されることが多い。

例えば、近時(2023年6月当時)の株高のきっかけになったと言われる、「ウォーレン・バフェット氏が総合商社株を始めとした日本株に追加投資をする」という話がある。ウォーレン・バフェット氏は、言わずと知れた世界最高の投資家である。

この、「なぜバフェット氏は日本株(総合商社)の株を買うのか」というテーマの理由として、バフェット氏が率いるBerkshire Hathaway(バークシャー・ハサウェイ、BRK.A)社自体がコングロマリットであり、身をもってコングロマリット・ディスカウントを理解しているからだというものがあった。

なるほど、同社は保険業・鉄道・エネルギー・小売業・製造業など、さまざまな業種に投資しているコングロマリットに見える。

だが前述のような、「市場参加者が企業の多角化によるシナジー効果や経済的な利点を適切に評価できないがゆえに、ディスカウントになる」という理由付けは、本当に的を得るものなのだろうか。

そしてつまり、バークシャー・ハサウェイの株式が、その持っている事業部門の本来の価値よりも割安に評価される傾向があるのは、バフェット氏の投資手法と長期的な成果によるもので、市場がその戦略を十分に評価できていないためである、という解釈は本当に正しいのだろうかという点については、あまりに同氏を神格化する前に考えてみた方が良いと思われる。

そこで実際に、「コングロマリット・ディスカウント」の事例として良く取り上げられる米国株にはどのなものがあるだろうか。下に6企業を具体例として挙げてみよう。

  1. Berkshire Hathaway(バークシャー・ハサウェイ)(BRK.A):ウォーレン・バフェットが率いるアメリカのコングロマリット。同社は保険業、鉄道、エネルギー、小売業、製造業など、さまざまな業種に投資している。
  2. Johnson Controls Interntional(ジョンソン・コントロールズ)(JCI):建築・電力・自動車産業などにサービスを提供している多国籍複合企業。
  3. General Electric (ゼネラル・エレクトリック)(GE):航空・ヘルスケア・再生可能エネルギー・発電などのさまざまな産業に携わる複合企業。
  4. Honeywell International(ハネウェル・インターナショナル) (HON):航空宇宙・建築技術・機能材料・安全ソリューションなどの業界で事業を展開する多国籍複合企業。
  5. United Technologies Corporation (ユナイテッド・テクノロジーズ)(UTC):現在は Raytheon Technologies Corporation (RTX) として知られる航空宇宙、建築技術、防衛産業に携わる複合企業。
  6. 3M Company(スリーエム)(MMM):接着剤・研磨剤・ヘルスケア製品・消費財などの幅広い製品で知られる複合企業。

実はこの6社には、よく考えるとバークシャー・ハサウェイ以外には共通のキーワードが隠されていることが分かる。

それは、「国防(Defense)」というセグメントだ。

特に6番目の3Mは、日本でも「住友3M」として幅広く身近にその製品があるため「国防」といったイメージは湧き難いかもしれない。確かに事実、日本のWebページで調べるとこんな感じではある。凄く身近なものだと、ポストイットなども同社の製品だ。

「3M社が国防に関わっている」という事実は、実は同社のUSA本社のWebページを下層まで掘り下げると見つけることができる。

このあたりが米国企業のひとつの特徴であり、日本企業とは大きく異なる点と言えるだろう。

 

★★FG編集部のひとことポイント ~コングロマリットのメリットとデメリット~★★

コングロマリットの最大のメリットは、シナジー効果(相乗効果)であるとされています。これは、複数の事業を一つの企業が持つことで、それぞれの事業のスキルやノウハウを共有したり、それらを組み合わせたりすることによって相乗効果が生まれるからです。これにより株価が上昇することは、「コングロマリット・プレミアム」と呼ばれます。

一方で、デメリットもあります。それは、事業が多岐に渡るために、監査の目が行き届かないことです。これによって、経営不振や株価低下につながることもあります。

コングロマリットと米国国防産業

「国防産業」というと、ある意味では非常にデリケートな一面があることは事実だが、米国企業への投資を考える際には、日本企業との大きな違いのひとつとしてポイントになる。

前述したように、およそ日本で見えているその企業ブランドからは「国防」という文字は殆ど想像がつかないものでも、例えばプラスティック爆弾の主成分を生産しているといった例がある。

また、インターネットやGPSも、実は米国の国防のための軍事技術の民間転用、平たく言えば米軍が使う為に開発された技術だ。

米軍が、通常の通信回線をそのまま利用していたとすれば、もしそのどこかの接続が切断されたり、どこかの交換機基地局が破壊されたりした場合、全く通信ができなくなる場合が想定される。

そのような事態は、緊急時の米軍各部隊の展開にとっては致命的な損害を与えかねない。

しかしもし、それを避けるためには網目の様に通信網が張り巡らされいて、どこか繋がっているところがありさえすれば、通信データ(パケット)がそちらに迂回して必ず相手に届くようにすることができる。

このようなアイデアで通信の切断をなくすように開発されたのが、インターネットの基本だ。

GPS(Global Positioning System)こと、カーナビなどの位置情報を提供する人工衛星も、クルマでドライブをする時に便利だろうということで開発されたものではない。米軍兵が、戦地での位置情報をきっちりと把握するためのアイデアなのだ。

米軍は、戦地ではかならず一人一人がGPS受送信機をつけており、兵士の居場所が基本的に常時特定できるようになっている。

出始めのカーナビでは、時々高架を走る高速道路上に居るのか、下の一般道に居るのかを識別できないという不具合も少なくはなかった。しかし、近時のカーナビは、高架の高ささえも認識する。

実はそのような技術開発は、911同時テロの前後から加速している。何故なら市街地のテロ戦を想定した場合、2次元的な位置把握だけでなく、立体的にビルの何階にその兵士は居るのかということも重要な位置情報だからだ。

通信用の主要な技術である「符号分割多元接続」ことCDMA(Code Division Multiple Access)、および「広帯域符号分割多重接続」ことW-CDMA (Wideband Code Division Multiple Access)を開発したのは、サンディエゴに本社を構える「クアルコム」(QCOM)だ。

なぜ、このカリフォルニア州最南部の土地でこの技術が完成したかと言えば、それはサンディエゴの港が米国太平洋艦隊の主要な基地の1つだからだ。

特に通信傍受技術なども含めて、この地は米軍の通信技術の発展には密接な関係がある。

つまり、米国企業の非常に特徴的な側面のひとつとして、米軍との関係があるということだ。日本企業にも部分的な技術に関して軍需産業と関わっている企業は存在するが、当然のことながら米国企業ほど日常的なものとはなっていない。

再度コングロマリット・ディスカウントについて考える

ここで再び、「コングロマリット・ディスカウント」について考えた場合、米国の「ディスカウント」部分は、この「国防(Defense)」関連部分にあるように思われる。

何故なら、所謂「国家機密」に関することでもあるので、どれほどディスクローズ(情報開示)が進んだ米国企業と言っても、投資家向けにIR情報として開示されるものは質量ともに少ないからだ。

「今期は『ジャベリン対戦車ミサイル』の発注が○○もあるので、大幅増益になります」とか、「米軍の新しい通信技術開発予算がついたので、R&D費用について・・・・」と言った開示などできる訳もないだろう。

そう考えると、前述の6企業の例で言えば、バークシャー・ハサウェイ以外は「市場参加者が企業の多角化によるシナジー効果や経済的な利点を適切に評価できないから」と言った説明は的外れなものと思われる。

一方、日本のコングロマリット・ディスカウントの影響を受けていると言われる代表的な企業には、バフェット氏のお気に入りでもある総合商社などが並ぶ。三菱商事・三井物産・住友商事・伊藤忠商事などがその典型であり、或いは日立製作所のような総合電機と呼ばれるような企業が候補として挙げられる。

また歴史的な背景もあり、三菱重工や三菱電機などは自衛隊に関わるものがあるのは事実だが、憲法9条との関係もあり、それは米国企業の「国防(Defence)」関連とは、関わり方も、シナジー効果も相当に異なるものだ。

またそもそも、それがあったとしても、大きなシナジーを生むとか、濡れ手で粟の如く収益にプラス効果をもたらしているのに、市場が評価しないから「ディスカウント(割引)」になるほどのものとはどうしても考え辛い。もし日本でそれがあるとすれば、単純にディスクローズが悪いだけだ。

ならば、バークシャー・ハサウェイにはなぜ「コングロマリット・ディスカウント」があると言われているのだろうか。それはつまり、「国防(Defence)」に関連がないうえに、米国企業の一般的な水準としてディスクローズも徹底しているとするならば、なぜディスカウントされるのか、という疑問である。

その答えは、恐らく同社の株価にある。

同社の2023年6月9日の引け値は、一株がなんと「US$510,840.00」ドルにもなる。1ドルを仮に140円とすると、一株の値段が71,517,600円にもなってしまう。

株価対策として、値上がりしたら分割する、あるいは日本株なら単元株数を小さくするなどして、個人投資家も買い易く、機関投資家でも保有比率の調整がし易いようにするのが常識な状況で、この株価は正反対のまま放置されているのだ。

仮に、実際は1億円相当の価値があるとしても、バークシャー・ハサウェイに投資できる人の数は限られるだろう。だからこそのディスカントであり、決して、「市場参加者が企業の多角化によるシナジー効果や経済的な利点を適切に評価できないから」という理由のディスカウントではないと考えられる。

つまり、「コングロマリット・ディスカウント」というのは、実際にあるのかも知れないが、米国株のそれについては「計算しようにも計算しようがない部分」があると言えるだろう。

だから、それを同じように日本株に当てはめるのには無理がある。なぜなら、それは恐らくディスクローズの悪さだと思われるからだ。

私の実体験としても、日本企業で「コングロマリット・ディスカウント」の具体例だと言われるような企業は、正直充分な開示がなされているとは言えない場合が多い。また、カバーしているアナリストについても、そのクオリティに関して、何も問題なしとは言いきれない。

まとめ

今回は、「コングロマリット・ディスカウント」について、以下のポイントを中心に解説した。

 

  1. 「コングロマリット・ディスカウント」とは、多様な業種や産業にまたがる企業(コングロマリット)の株式が、各部門の実際の価値の合計よりも割安で取引されることを指す。
  2. 「コングロマリット・ディスカウント」の要因は、市場参加者が企業の多角化シナジー効果や経済的なメリットを適切に評価できないからだと説明されることが多い。
  3. しかし、実際に米国の代表的なコングロマリットを見てみると、「コングロマリット・ディスカウント」の原因は、「国防」によるものと考えられる。
  4. 「国防」に関することは、ディスクローズ(情報開示)できない場合が多いために、「コングロマリット・ディスカウント」が起こりやすい。
  5. また、日本株において「コングロマリット・ディスカウント」の具体例だとされている企業の多くも、十分な情報開示がなされているとは言い切れない。

 

「コングロマリット・ディスカウント」は、ディスクローズが不十分であるがために起こる場合が多い。

つまり、情報開示されていない部分に関して、私たち投資家はその理由を探ったり、疑問を抱いたりすることが大切なポイントになるといえる。

米国株と日本株の違いは多くあるが、今回のような「国防事業」に注目してみてみると、値動きの理由を見つけることができるかもしれない。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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