2020年に世界的パンデミックを引き起こしたCOVID-19の影響で、私たちの生活は一変しました。特に「リモート・ワーク」や「テレワーク」と呼ばれる新しい働き方は、従来のいわゆる「現場至上主義」という価値観からは想像もつかないトレンドだと言えるでしょう。さらにそのパンデミック期が落ち着き、「アフターコロナ」と呼ばれる今の時代、働き方はまた変わっていくのでしょうか。今回はそんな世の中のリモート・ワーク事情と今後の見通しを、プロのファンドマネージャーの視点からお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
先週の株式市場の動き
今週に今年最後のFOMCを控えた米国市場
先週の騰落率は以下の通り。
今年、CY2022年は市場参加者の多くが金融引き締めと利上げに翻弄された一年だった。
そして今週13日と14日には、今年の締め括りとして、米国連邦準備制度理事会(FRB)がFOMC、すなわちFederal Open Market Committee(連邦公開市場委員会)を開催し、最新版の金融政策をアップデートする。発表は日本時間15日午前3時、その後午前3時半からジェローム・パウエルFRB議長が記者会見を行い、補足説明を行う。
まさにこれが毎年、年に8回行われる恒例行事の今年の最終回だ。恐らく「0.5%の利上げと、利上げ速度は緩める可能性はあるものの、もう暫くインフレ抑制の為に利上げは継続姿勢、天井は結果的に引き上げられるかも知れない」といった内容が発表されるだろう。
そのような中で今回のレポートでは、右肩上がりのビジネス・トレンドにフォーカスして、投資家の皆さんが着目すべき世界情勢とビジネスについてご紹介していきたい。
テーマは「リモート・ワーク」。CY2022年は、「アフター(またはウィズ)コロナ」や「ロシア・ウクライナ戦争」の時代として世界のトレンドが大きく動いた年であったが、それを受けて各国の働き方事情はどう変化したのだろうか?
次項から一緒に詳しく見ていこう。
右肩上がりのビジネス・トレンド
ヨーロッパのリモート・ワーク事情
アフターコロナ状況下の欧州圏では、コロナ禍で進んだリモート・ワークに回帰する動きが起きている。
なぜなら、欧州の電気代が急騰し、企業はコスト・カットを迫られているからだ。
それは、ロシアからの天然ガスのパイプラインが止まったことや、近時、風が弱かったために不調であった洋上風力発電の影響が主たる原因だ。日本の電力各社も電気料金の値上げを打ち出しているが、欧州の厳しい電力事情は現在の日本の比ではない。
つまり、オフィスビルの光熱費を下げるため、欧州企業各社では自宅でのリモート・ワークを再び奨励し始めたのだ。
さらには企業のみならず、各国政府が「法的に」リモート・ワークを推進する例も少なくない。
例えば、
- オランダ:2022年7月、在宅ワークを法的権利として認める法案を下院が可決。これにより雇用主は、在宅ワークをしたいと申し出る従業員の要求を受け入れることが義務付けられる。(Industrial Organizations of Employersより)
- イギリス:2022年12月、これまで従業員は26週間その企業で働かなければリモート・ワークの権利を与えられなかったが、その期限を排除し、すべての従業員が勤務初日からリモート・ワークをする権利が与えられた。(イギリス政府のHPより)
- ポルトガル:2022年10月、「デジタルノマドビザ」という海外リモート・ワーカー向けのビザを発行。これにより要件を満たした申請者は最大12か月間、ポルトガルに住み働くことが認められる。(Global Citizen Solutionsより)
が挙げられる。他にも、こちらのサイト(英語)では各国の在宅勤務に関する法律が記されているので、参考になるだろう。
アメリカのリモート・ワーク事情
さらに、同じような動きは米国でも起こっている。
2022年7‐8月に実施された野村総合研究所(以下、NRI)のアンケートによると、米国では
- 「テレワーク可能な環境にある」:66.9%
- 「過去1か月に1日以上実際にテレワークをした」:49.9%
となっている。
確かに社員をオフィスに全員集めて働かせる方が良いと考えるイーロン・マスク氏のようなCEOも居るのは事実だ。しかしその反面、リモート・ワークという形態で通勤から解放され、自由に働けることに魅力を見出してしまった労働者も多い。
欧州諸国と違い、働く場所に関しては企業の裁量によるところが大きいため、米国では各企業によってテレワーク実施の賛否は大きく分かれそうだ。
日本のリモート・ワーク事情
では我が国日本の状況はどうだろうか。
同NRIが発表したアンケート結果を見ると、
- 「テレワーク可能な環境にある」:29.7%
- 「過去1か月に1日以上実際にテレワークをした」:19.0%
と、2022年7‐8月時点でもかなり在宅勤務者が少ないことが分かる。
しかしこのような数値とは裏腹に、実際の日本のサラリーマンの本音は違うようである。
以下の2022年10‐11月に行われた国土交通省のアンケート結果をご覧いただきたい。
テレワークを会社から許可されていない雇用者のうち、「テレワークが認められれば実施したい」と答えた割合はなんと約67%にも及んだのだ。
ここで少し私の話をすると、実は90年代に自分のチームの率いてファンドマネージャーをしていた頃から、オフィス勤務の必要性は全く見出せなかった。
なぜなら携帯電話の普及、インターネットの普及とブロードバンド化、そしてチャット機能の利用開始により、仕事を回すには充分な環境が整ったからだ。いや寧ろ便利で楽になったとも言えた。
だから正直、毎週月曜日の午前中に開催される役員会については、「これこそ時間と金の無駄だ」と真剣に思ったものだ。チャットを使えば、全員がわざわざ無理してまで集まる必要も無く、内容もチャットのログとして自動的に記録されるのに、と。
リモート・ワーク文化が生んだ新しいツール
以上の通り、パンデミック以降リモート・ワークが盛んになった世界で、注目を浴びた企業がある。
その一つが、クラウド型電子署名サービスを提供するドキュサイン(DOCU)だ。
ドキュサインが8日に発表したFY2023の第三四半期決算は、前述の流れをサポートする内容だったと私は見ている。
内容的には下記のようなもので、これを受けて翌日の株価は+12.37%と急騰した。
- Q3 Non-GAAP EPS of $0.57 beats by $0.15.
⇒第三四半期のNon-Gaap 1株当たり純利益(EPS)は$0.57と、市場予想を$0.15上回った。
- Revenue of $645.5M (+18.3% Y/Y) beats by $18.27M.
⇒第三四半期の売上は$645.5M(前年比+18.3%)と、市場予想を$18.27M上回った。
- 2022 Outlook: Total revenue $2.493B to $2.497B from prior guidance of $2.47B-2.482B vs. consensus $2.48B, Subscription revenue $2.423B-2.427B. Billings $2.626B-2.636B.
⇒2022年全体の見通し:総売上幅 $2.493B to $2.497B (前回のガイダンスは$2.47B-2.482Bで、それよりも増加している)に対し、市場コンセンサスは$2.48B(実際は、2022年度決算は$2.515Bで着地)
ドキュサインのおおまかなサービス内容は、ハンコ不要でインターネット上のやり取りだけで、契約書等の署名捺印に該当する事務が完結するというものだ。署名捺印の部分だけならば、無料で利用することも出来る。(参照:ドキュサイン日本法人のWebページ)
契約書作成から調印、そしてその後の管理や保存というのは、実は頭でイメージするよりも煩雑な作業が伴う上に、正確性も問われる。単にWordで書いたものをプリンターで印刷して「ハンコ下さい」とすれば良いというものでは無いということだ。
その面倒なプロセスを一貫して電子化してしまうのがドキュサインのビジネスモデルであり、イメージを纏めると下記のような感じになる。
実際、私たちが下記のような企業と何らかのサイニングをしようとする時には、どうやらドキュサインの製品に既にお世話になっているようだ。
同社の株価が決算発表後に急騰したという意味として、
①市場関係者にとっては「予想外」の結果だった
②今回新しいCEOが9月に就任して前向きな印象を伝えた
ことが挙げられるだろう。
①CY2021は一旦株価は上昇していたものの、パンデミック収束と共に経営は危くなるだろうと見られていた。しかし今回、その予想は覆される結果となった。
②そして新CEOであるAllan Thygesen 氏は、前職がGoogle の南北アメリカ地域の社長というキャリアの持ち主である。そんな彼が「新CEO」として就任したということは、それ相応のポテンシャルを彼自身が認識したからだということは想像に容易いのではなかろうか。
Googleに居た立場で、すなわち業界をかなり密接な位置から俯瞰出来る立場で、今のリモート・ワークの流れに自分のキャリアを賭してみようと思わせたのが、このドキュサインなのである。
まとめ
働き方改革は今後間違いなく進むだろう
以下、今回のレポートのまとめである。
- 欧米ではリモート・ワークへの回帰が起こっている
- 中でも欧州では法律で保護しようとする動きも見られる
- 対して日本はリモート・ワークに対して消極的であり、遅れを取っている
- しかし実は日本人雇用者の多くはリモート・ワークを希望しているという事実がある
- リモート・ワークによって新しいビジネスが生まれ、今後も成長の見通し
前述のドキュサイン(DOCU)に限らず、
2023年はリモート・ワークに関わるビジネスは再び脚光を浴びる可能性が高いと考える。
大きな理由のひとつは、間違いなく企業がコスト意識を高めざるを得ないからだ。CEOの考え方も二極化していることは認めるが、日本で言うなら丸の内や大手町の一等地に広大なフロアのオフィスを構えることにあまり意味が見い出せなくなりそうだ。
さらに今、最も無駄な時間が「通勤時間」と言えるのではなかろうか。
これまでは「痛勤地獄」と称されるぐらい、特に首都圏のそれは劣悪な状況にあった。しかしこのパンデミックで、往復2時間の通勤時間が不要な生活を人々は経験してしまった。
中には「出社したい」或いは、「出社させたい」と思う人も居るだろうが、恐らくそれはコロナ以降もライフスタイル自体が変わらずにいる人達のように思える。
またこの先、ARやVRの技術普及によって、フィールドエンジニアでさえも働き方は変えられる世の中になる。
例えば手先の器用な顧客にはゴーグルを宅配することで「DIY」を普及させる方法だって出てくる可能性はある。言ってしまえば同じものをリアルタイムで専門家と一緒に眺めつつ、手先を動かせば良いだけというものは多い筈だ。その結果、フィールドエンジニアは移動時間を大幅に短縮出来、もしかすると自宅からの対応だけで要件が終了する日が訪れるのも、そう遠くないかもしれない。
投資家の目線としても、この未来はフォロー・前向きに評価をしていく必要があるだろう。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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