
AI関連株が上がるたびに、「これはバブルではないか」という声をよく耳にします。
しかしながら、ASMLとTSMCの決算を読むと、見えてくるのは熱狂ではなくAI半導体産業の構造変化そのものだったのです。
今回は、AI投資の本質がどこにあるのかを、プロのファンドマネージャーが読み解いていきます。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
ASMLとTSMCが描く“止まらない社会”の物理層
AI革命第2幕はバブルか?
いま、私たちは再び「バブル」という言葉の幻影に惑わされているのかもしれない。新聞やテレビでは「AIバブル」「過熱する半導体投資」といった刺激的な見出しが並ぶが、AI投資は本当にバブルなのだろうか。
いや、実際に半導体業界の基盤を形作っている企業の決算を見てみると、今のAI投資がバブルのような実体のない期待に資本が集まる現象とは一線を画していることが目に見て取れるだろう。
本稿では、ASMLとTSMCという世界最先端の半導体企業2社に焦点を当てて、それぞれの決算を精読していく。そこにはどのような景色が見えてくるのか、確認していこう。
ASML──光で刻む“構造的な律速”
ASMLはQ3決算で、売上高75.2億ユーロ(前年比+0.7%)、EUV機の受注比率が過半に達したと報告した。数字だけを見ると派手さはないが、この決算は極めて重要な転換点を示している。
さらに、2026年の売上については、「2025年を下回ることはない」と明言した。通常、設備投資サイクルの頂点に立つ企業が翌年の減収リスクを否定するのは異例である。
ここで注目すべきなのは、その根拠がAIインフラ投資の継続にある点だ。ASMLによれば、AI向けの先端ロジックおよびHBM需要が、既存の半導体サイクルを超えた新たな“構造的需要”を生み出しているという。言い換えれば、AIの拡張はソフトウェアの話にとどまらず、演算・電力・冷却といった物理的制約を突破するための、装置レベルの需要を押し上げているのである。
とりわけ注目すべきは、後工程向けリソグラフィ技術「XT:260」だ。
リソグラフィとは、半導体の回路パターンを光で描き込む技術のことだ。従来は、ウェハーに回路を形成する前工程向けの技術と考えられてきた。ところが、3D統合パッケージの時代には、チップ同士を積み重ねて接続する後工程でも、ナノ単位の精密な位置合わせが必要になる。
ASMLはこの後工程に踏み込むことで、ファウンドリ各社の3D実装競争の中に新しい役割を確立しようとしている。このような、リソグラフィの領域を「2Dから3Dへ」と拡張する動きは、装置ビジネスそのものが“次元を変えた”と言っても過言ではない。
ASMLの経営陣は、AI需要を「予想よりも長く、深く続く」と語った。その意味は、AIファクトリーの構造を考えると見えてくる。
AIファクトリーを1棟建てるにしても、数十台のEUVを稼働させるために、毎月メンテナンスと再調整が必要になる。そこでASMLが講じるのが、Installed Base(稼働装置からの継続収益)というレンタル型モデルだ。
これは、すでに顧客先で稼働している装置に対して、保守、部品交換、性能改善、ソフトウェア更新などを継続的に提供し、そこから収益を得るビジネスを指す。要するに、装置を一度売って終わりではなく、稼働し続ける限り収益が積み上がる仕組みである。
このモデルがあることで、ASMLは新規装置の販売だけに依存せず、景気変動に左右されにくい継続収益を確保できる。AIインフラの拡大が長期戦になるほど、この収益基盤の強さは大きな意味を持つ。
まとめると、AI革命第2幕では、先端半導体を作るための装置そのものが成長のボトルネックになっており、その中心にASMLがいるということだ。いまやASMLは、AIインフラ全体の進み方を左右する重要企業のひとつになりつつある。
TSMC──システム全体で最適化する時代
TSMCの2025年Q3決算は、AI革命の中心で生きる企業の自信を如実に示した。売上高は331億ドル、営業利益率は59.5%と過去最高圏を維持。CEOのC.C. ウェイ氏は、「AIアクセラレータ需要のCAGR(年平均成長率)は従来想定のmid-40%を上回る見通しだ」と明言した。
通常ファウンドリといえば、顧客企業(NVIDIA、AMD、Appleなど)の需要動向を間接的に知る立場にある。だがTSMCは、その顧客のさらに下流、すなわち顧客の顧客であるクラウド運営会社やAIサービス事業者からも直接シグナルを受け取っているという。言い換えれば、TSMCはAI革命のサプライチェーン全体を俯瞰できる、きわめて特異な位置にいる企業なのだ。
そのうえで同社が打ち出したのが、Foundry 2.0という新しい製造モデルである。
前項で見たように、AI時代の半導体は前工程だけでは完結しない。TSMCはその流れを製造全体の最適化へ押し広げ、チップの積層・接続・パッケージングを含む後工程までを一体で設計しようとしている。CoWoSやSoICといった3D統合技術は、その中核を担うものだ。
そしてこの発想の転換をもたらしたのが、AIの常時稼働という新しい現実だ※。AIモデルは一度訓練したら終わりではなく、常に更新されながら推論を続ける。その結果、チップ同士が通信し続ける時間が長くなり、ネットワークの遅延やメモリアクセスの効率が性能を決める。だから、今後はチップ1個の性能ではなく、AIシステム全体の調和が重要視されるのだ。これを実現するためには、チップ間の距離を物理的に縮める必要があり、そのための最前線がTSMCのFoundry 2.0なのである。
また、この「システム思考」を量産体制と結びつけている点もTSMCの強みだ。たとえば、アリゾナ州で建設中の新工場は、当初予定よりも技術世代を一段引き上げ、2nmプロセスに対応する方向で進んでいるという。それに加えて、台湾国内でも新たに二つの大型工場を建設中だ。CoWoSの供給は依然として逼迫しており、NVIDIAやAMDのような大手顧客が納期を確保するために前払い契約を結ぶほどだという。
TSMCの決算説明では、AIインフラ需要を「マルチイヤーで継続する確実なトレンド」と位置づけている。同時に、規模拡大をしながらも資本効率を落とさない、極めて成熟した投資モデルを描いている点も見逃せない。これは、バブル的な拡張ではなく、資本の最適配置に基づく中長期戦略だと言えよう。
このように、TSMCの「システム全体最適化」という考え方が、製造効率の上昇だけを見据えているのではないことがお分かりいただけただろう。それは、チップ・メモリ・パッケージ・冷却・電力供給まですべてを最適化する視点であり、AI社会のエネルギー構造に直結する。
いま半導体産業は、「より小さく作る」競争を超え、「より賢く組み合わせる」時代へ突入した。これこそが、TSMCが見据える今後の10年であり、AI革命のリアリティなのである。
※1…AIの常時稼働については、前回の無料レポート『OpenAI×AMD提携の本質とは? AIインフラ社会が目指すもの』を参照。
※2…CoWoSについては、以前の無料レポート『TSMCのCoWoS倍増計画とアリゾナ投資が日本企業に与える影響』を参照。
ファンダメンタルズの真実──AIバブル論が成り立たない理由
AI革命を「バブル」と呼ぶ論調は、いつの時代にも現れる。だが、ASMLとTSMCの決算を丁寧に読むと、今回起きていることは、実体のない期待先行とは明らかに異なる。むしろ見えてくるのは、AI社会を支える物理インフラへの構造的な投資である。
AIバブル論が成立しない最大の理由は、その構造の持続性だ。AIファクトリーを支える装置・工場・電力・冷却・パッケージ設備は、一度作れば数年から10年単位で稼働し続ける。ここで動いている資本は、すぐに回収される軽い資金ではなく、社会の中に固定される重い資本である。つまり、資本が現実の設備へと姿を変え、社会の基盤そのものになっているのだ。
また、AIバブル論が成り立たないもう一つの理由は、需要を決めているのが金融市場のムードだけではない点にある。確かに、金利が高止まりする局面では成長株の理論価値は抑制される。しかし、ASMLやTSMCが属するAIファクトリー領域は、他の成長産業とは異なり、需要が利子率よりも電力供給と技術制約で決まる世界なのだ。言い換えれば、AIを動かすのに必要なエネルギーと演算資源の総量は、単なる金融変数では説明できないということ。ゆえに、ASMLがEUVの供給を止められず、TSMCがパッケージ工場を増設せざるを得ないのは、株価対策のためではなく、AI社会の物理的需要が飽和点を超えているからに他ならない。
もちろん、株価が先行して動く局面や、一部銘柄に過熱感が出る局面はあるだろう。だが、それだけで全体を「AIバブル」と片づけるのは正確ではない。ASMLやTSMCのように、長期受注と高い稼働率、そして継続的な設備需要を持つ企業が示しているのは、一過性の熱狂ではなく、止まらない社会を支える基盤投資の現実だからだ。
要するに、いま市場で起きているのは、幻想への投機ではない。AI社会を支える装置・工場・供給網に対して、資本が長期的な耐久性を見込み始めているのである。そう考えれば、今回のAI革命第2幕は「バブル」ではなく、物理層の再整備を伴う構造変化として捉える方がはるかに自然だろう。
まとめ:“止めない構造”が描く未来
AI革命の第1幕、すなわちChatGPTの登場によって広がった生成AIブームは、確かに一時的な熱狂を伴った。だが、ASMLのリソグラフィ装置とTSMCのファウンドリ事業が示した現実は、そこから一段深い「社会の物理層」が動き出していることを物語っている。
したがって、いま注目すべきは株価の騰落ではなく、「社会を動かす構造の側」だということを忘れないでほしい。AI革命第2幕とは、テクノロジーをめぐる期待ではなく、社会を支える仕組みそのものを再構築する長期的プロジェクトであり、文明投資であるとも言える。その現実を理解した投資家だけが、これからの10年を「正しく恐れず」に歩むことができるのではなかろうか。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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