FG Free Report アメリカ内陸部「赤い州」が映し出す、米国経済のリアル(6月16日号抜粋)

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日本にいると、アメリカ経済に関する報道は「インフレが止まらない」、「財政赤字が膨張している」、さらには「スタグフレーションの懸念」といった暗いニュースが後を立ちません。

しかし、本当にその通りなのでしょうか。 特に、アメリカの生活の現場で何が起きているのかを、彼ら報道者は見ているのでしょうか。

今回はプロのファンドマネージャーが、共和党支持者の多いいわゆる「赤い州」を視察して得た、「アメリカ経済の今」をお伝えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

「赤い州」地方都市に根付く静かな好景気──Boise・Missoula・Leavenworthのリアル

今回のアメリカ視察の目的と訪問場所

昨年12月の渡米から半年ぶりのアメリカ。前回の渡米時は既にトランプ共和党大統領候補のホワイトハウス入りが決まっていた時であり、ある意味では政治は”レームダック”状態の時だった。

一方今回は、トランプ第二次政権発足から140日、既にトランプ政権が国民の負託を受けて、アメリカを変えようとフルスロットルになっている段階だ。少なくともリアルに自分自身で渡米し、体感してきた約30年余りのアメリカの歴史を踏まえると、これほどまで早くに稼働が立ち上がった新政権は少ない。

今回の米国出張は、マイクロソフト(MSFT)、アマゾンドットコム(AMZN)、ボーイング(BA)、そしてスターバックス(SBUX)が本社を構えるワシントン州シアトルから始まった。シアトルはリベラル系の街であり、ダウンタウンなどを歩いていると、多くのところでLGBTQのシンボルであるレインボーフラッグを見かけることができる。つまり平たく言えば、「反トランプ」的な政治思想が強い街なのだ。

さらに今回は、企業訪問で訪ねる機会が多いそうしたリベラル系の街(青い州:民主党支持)だけではなく、そこから内陸部に向かっていわゆる「保守系の街」(赤い州:共和党支持)にも足を運び、その風を感じてきた

メディアが語るアメリカは、ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスといった「コーストサイドの都市」が主役だ。だが、今本当に見ておくべきは「内陸部」だと私は考えている。今回私が通過・宿泊した地方都市、Yakima(ワシントン州)、Boise(アイダホ州)、Missoula(モンタナ州)、Leavenworth(ワシントン州東部)は、どれも決してメジャーな大都市ではない。

しかし、そこで私が目にしたのは、「不況」の影など微塵も感じさせない新しいインフラと生活の安心感だった。

早速、それぞれの都市の様子を見ていこう。

Boise:マイクロン本社が物語る「現場の強気」

ボイジーのダウンタウンから少し離れた郊外に、Micron Technology(MU)の本社はある。かつて1990年代後半、この場所を初めて訪れたときの印象は、「芋畑に忽然と現れる、孤高のハイテク工場」だった。今回も、その土地の広がり自体は変わっていない。

だがそこに展開されていたのは、桁違いのスケールで進む新工場群の建設現場だった。それは、1棟や2棟というレベルではない。明らかに大規模な増設計画が、今まさに“土を起こして”進行している。基礎工事の段階であることから、稼働までには少なくとも2年以上は掛かるだろう。それでも、この建設計画に、マイクロン経営陣の判断の強さと確信がにじむ。

いうまでもなく、メモリー半導体の世界はシクリカル(景気循環的)だ。HBM(高帯域幅メモリ)もまた、いずれ需要が飽和するフェーズが来るかもしれない。しかし、いま目の前で進んでいるのは、NVIDIA BlackwellをはじめとしたAI半導体の需要爆発に、リアルタイムで応えようとする現場の戦いである。

これは、ウォール街の皮肉屋たちが“過剰投資”と冷笑する類の話ではない。実際に手を動かし、土を掘り、未来を建てている経営陣の意思表示だ。机上のシナリオとは違う、リアルなアメリカの強さがここにある。私は、この現場をこの目で見たことで、はっきりと確信した。「AIによる産業革命は、もはや金融市場の幻想ではない。アメリカの現場は、それを“現実”として動かし始めている」のだと。

Missoula:地方都市が持つ「完全完結型の生活インフラ」という驚き

モンタナ州の西部に位置するミズーラという街の名前を、どれほどの人が聞いたことがあるだろう。私自身、今回のルートに組み込むまで、この街についての知識はほとんどなかった。だが、実際に足を踏み入れてみると、ミズーラは間違いなく、今回の旅のなかで最も「想定外の驚き」を感じさせてくれた地方都市だった。

第一印象は、「綺麗な街だなぁ」というものだった。都市の規模は決して大きくない。だが、Walmart、Costco、Target、Lowe’s、Home Depotといった大型ストアが軒並み揃い、マリオットやヒルトン系列のホテルが立ち並ぶ。これが“モンタナの田舎町”か?そんな疑問がすぐに湧くほど、清潔で秩序が感じられた。

もちろん、理由はある。この街には、モンタナ大学という州を代表する総合大学がある。学生や若い研究者たちが多く集まり、街全体の文化水準や生活マナーを支えている。また、ミズーラはモンタナ州西部の物流・医療・観光の中継拠点としても機能しており、近隣からの来訪者が頻繁に集まる地域のハブなのだ。

こうした都市構造が、地方都市でありながらも完全に生活が完結するインフラを成立させていた。

事実、今回宿泊したホテルは新築のような清潔さと快適さを備えており、夕食に寄ったレストランも、薄汚れた感じや過疎化の雰囲気など一切なかった。ただ到着が夕刻を回っていた為、人影は既にまばらになっていたのが、妙なコントラストをなしていた。治安は良さそうだった。新しい街並みなので、落書きの類いは無く、不審者やホームレスの姿も見かけなかった。

このように、地方都市でありながら、都市としての自己完結性と日常生活の快適性が高次元で融合している、それがミズーラという街だ。

ここで感じたのもまた「報道されないアメリカ」の姿だった。ニュースで語られるアメリカは、何かと分断や貧困、麻薬や銃犯罪といった暗いイメージに満ちている。だが、ここにあるのは、秩序が保たれ、生活が穏やかに営まれ、教育と文化が根を張る優等生的な地方都市だ。日本のどの地方都市と比較しても、引けを取らないどころか、むしろ生活水準や都市機能の面では上回っていると感じた。アメリカには、こうした“見えない勝ち組”が、確かに存在する金融市場では語られず、テレビにも映らないが、こうした街が静かに国全体の底力を支えているのだ。

Leavenworth:観光地に隠された「地方創生の最先端モデル」

レーベンワースはワシントン州内陸の山間部にある小さな街だ。だが、ここはまさに地方創生の成功事例として全米から注目を集めている。そして休日ともなると、シアトルから多くの観光客が集まるという。

この街が他と決定的に違うのは、その大胆な「町ごとテーマパーク化」という戦略だ。

1960年代、炭鉱の衰退と鉄道の廃止で一時はゴーストタウン寸前まで追い込まれたこの街は、生き残るために「ドイツ・バイエルン風の観光地」として自らを完全に作り変えた。その結果、いまや年間数十万人の観光客を集めるリゾートタウンへと変貌を遂げている。

街に入った瞬間に驚かされるのは、その統一感だ。建物の外観、看板のフォント、植栽や街路灯に至るまで、すべてが“バイエルンの村”を模してデザインされている。中途半端な“なんちゃって”ではない。行政と住民、事業者が一体となって、徹底的にブランディングに取り組んだ結果だといえよう。

この日訪れたビアホールでは、多くの観光客が豊かな時間を楽しんでいた。清潔で、整った街路。喧騒ではなく、和やかで安心できる賑わい。治安も極めて良く、歩いていて不安を感じる瞬間は一切ない。地方の観光地にありがちな荒廃感や、疲弊したインフラなどはまるで見当たらなかった。

こんなにも小さな地方都市が、地理的条件や過去の産業構造に縛られず、アイデアと工夫で新たな成長軸を掴んでいるという事実。これもまた、今のアメリカ経済の一側面であり、スタグフレーション論では到底説明できない「足腰の強さ」の証左だと私は思う。

まとめ:景気後退?スタグフレーション?──それはメディアが作る“仮想現実”でしかない

いかがだっただろうか。

今回の米国視察では「今のアメリカは景気が失速する気配は全く感じられず、中流と地方がまだ崩れていない、むしろ機能している異例の健全さがある」と私は判断した。

ところが日本に戻ると、「アメリカは景気後退に向かっている」、「関税政策でスタグフレーションに陥るのではないか」という論調がやはり報道や金融市場を支配している。これは、「利下げによるドル安」、「円高の合理化」という日本サイドの視点に立脚した願望混じりの見立てとも言えよう。メディアが流す「米景気後退」・「FRB利下げ圧力」・「インフレ長期化」などのストーリーは、現地の体感とはほとんど接点がないのは事実だ。

実際、先週1週間分のマーケット関連ニュース番組を確認したが、私がこの目で見てきたアメリカのリアルとの乖離は、あらためて予想以上のものだった。またさらに悪いことに、それは実際に「見れる場所(NY)」に居る人達からも発せられているから、より始末が悪いということだ。

ただひとつ断言できるのは、アメリカという国はとてつもなく広いということ。次の最寄りのガソリンスタンドが70マイル(約112キロ)先、なんてこともザラにある国だということを常に頭に置いて聞かないと、かなり誤解が生じる可能性があるということだ(ちなに、東京から西に100キロも離れれば三島を越え、東に向かえば銚子を越える)。

だから逆に言えば、今回10日間をかけて私が観てきたことも、多くを訪ねて聞き及んできたことも、「全米」を語ることにはならないということでもある。とはいえ、かれこれ30年以上、定期的にアメリカを訪ね、企業を見て回り、常に肝に銘じてきたことは「これが全てではない」ということでもあった。そして、常に変化もしているということだった。

投資家として常に心に留め置くべきは、固定的な先入観で投資対象や投資環境を推し量っては駄目だということ。今回の米国視察はあらためてそのような基礎に立ち返る機会となった。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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