
日本で話題に上ることはあまりないPalantir Technologies(PLTR)ですが、FY2025Q1決算は前年から大躍進を遂げる結果となりました。
そんなPalantirの強さは、一体どこにあるのでしょうか。
今回は決算結果を振り返りながら、Palantir Technologiesの事業内容やAI業界での立ち位置について、プロのファンドマネージャーが解説していきます。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
AI時代の例外的存在:Palantirがもたらす構造変化とは
AIという言葉が独り歩きし、誰もが「AIをやっている」と叫ぶ時代にあって、Palantir Technologies(パランティア・テクノロジーズ、PLTR)はその喧騒とは異なる軌道を描いてきた。その異質さは、FY2025Q1決算の数字に表れている。具体的には、
- 米国商業部門の売上は前年比+71%
- 米政府向けは+45%
- 米国全体では+55%
という数字だ。これは、単なるAIトレンドへの追従ではなく、「AIが成果を生む現場」を、Palantirが誰よりもリアルに設計していることの証左だと言えるだろう。
Palantir Technologiesは何をしている会社?
そもそも、Palantir Technologiesという会社はあまり聞き馴染みのない会社であり、実際テクノロジー企業としては理解するのが難しい側面もあるため、まずは基本情報をお伝えしておこう。
Palantirは、データ分析ソフトウェアを専門とするアメリカの企業だ。主に政府機関(諜報機関や軍など)や大企業を対象として、データ駆動型の意思決定を支援する製品を開発している。
要は、政府機関や大企業は、いろいろなフォーマットで膨大な量のデータを保持していて、それらを縦横無尽に効率的に使うことはなかなか難しい。身近な具体例を挙げるとすれば、社内で誰かがファイルしているPDF形式のデータをExcelシートにコピー&ペーストしようと思っても、フォーマットが違うのでうまく変換できないといったところだ。
Palantirは、それらのデータを全て統合して、ひとつのデータベースのようにして分析可能なものとする技術を持つ。またそのツールは、膨大な量の情報を処理できるように設計されており、災害対応・防衛・インテリジェンス・不正行為検出に至るまで、多くのタスクに使用できるのだ。
さらに同社のAI事業として、「AIP(Artificial Intelligence Platform、人工知能プラットフォーム)」という技術がある。これを用いて、人工知能と機械学習を活用したデータ解析を行い、顧客が前例のないスピードと精度で意思決定を行えるようなサービスを提供している。
この、“前例のないスピードと精度で意思決定を行える”のはなぜかと言うと、PalantirのAIPはMicrosoft Copilotのようないわゆる「補助ツール」とは異なるという点にある。つまり、「人間と協働するエージェントAI」なのだ。
2023年から2024年にかけて、生成AIの進化はモデル競争の文脈で語られることがほとんどだった。OpenAI・Anthropic・Google・Metaといった各社のLLM(大規模言語モデル)の性能向上が報じられるたびに、投資家たちは「どのモデルが勝つか」という議論に夢中になったものだ。
しかし、シャイアムCTOが今回の決算説明会で明言した、
「モデルの性能は収束しつつある。問題は、それをどう使うか(AIデマンド)に移った」
という発言は、AIのコア技術が均質化し推論単価が低下しつつある現在、より優れたAIモデルを作るよりも、いかにAIを使いこなす構造を持つかということが重要になってきていることを示唆している。
そしてこの“使いこなす構造”こそが、PalantirのAIPなのだ。
PalantirのOntology(オントロジー)技術
先ほど、Palantirはフォーマットの違うデータを全て統合して、ひとつのデータベースのようにして分析可能なものとする技術を持つと述べたが、この技術を支えるのが「Ontology」だ。
Ontologyとは、人間の知識や情報をAIが理解できるようにするメタ言語である。しかもその情報の汎用性は高く、商業分野から医療、あるいは軍事システムにまで及ぶ。
具体例としては、
- 商業分野
AIG(米保険会社) …アンダーライティング業務を担うAIエージェントが導入され、従来人手で処理していた数千件の評価を数時間で完了。 - 医療分野
Tampa General Hospital …AIエージェントが敗血症の兆候を監視し、リアルタイムで医療判断を補助。 - 軍事分野
米国防総省の「Project Maven(プロジェクト・メイブン)」 …AI技術を軍事データに用いる計画
「TITAN(Tactical Intelligence Targeting Access Node)」 …AIによる攻撃目標の認識や位置特定システム
などが挙げられる。
中でも軍事利用はPalantirの強みで、「Maven Smart System」と呼ばれるものは今やNATO全体に展開され、加盟32か国の共通C2(指揮統制)システムとしての地位を築くに至っている。
この潮流は、「AIを活用すること」ではなく、AIによって再設計された現実を前提に再組織される国家や企業という構造変化に直結する。そして、そこに対応できるソフトウェアスタックを持っているのは、現時点ではPalantir以外に見当たらない。
Palantirが目指すのはAI業界の構造変革
PalantirのFY2025Q1決算における最も象徴的な言葉は、「Enterprise Autonomy(企業の自律化)」という新しいビジョンだろう。これまでの説明を踏まえると、Palantirが描く「自律」とは以下のような構造を意味する。
- AIエージェントが業務単位で常駐し、人間と協働する
- Ontologyによって全社的な意味ネットワークが定義され、構造全体が推論可能となる
- 新たな意思決定は、その構造上にリアルタイムに展開・反映される
つまり、AIが一部業務を代替するのではなく、組織全体がAIを学習しAIに適応する構造へと進化することをPalantirは目指しているのだ。
その意味で同社は、今のAI業界が語る生成AIやLLM応用といった表層的トピックを、一段階深い次元で飲み込んでいると言えるだろう。LLMが汎用化し、誰もがモデルを持ちうるようになった今、差を生むのは構造しかない──これがPalantirの立場であり、それを裏付ける実績が今期の数字なのだ。
2025年のAI地図を描くなら、NVIDIAはその演算空間を、Appleは個人との接点を、そしてPalantirは組織の中核構造を支配している構図が見えてくるのではないだろうか。
まとめ
- Palantir TechnologiesのFY2025Q1決算では、米国商業部門の売上で前年比+71%、米政府向けは+45%といった驚異的な数字が発表された。
- Palantirは、データ分析ソフトウェアを専門とする企業で、主に政府機関(諜報機関や軍など)や大企業を対象として、意思決定を支援する製品を開発している。
- Palantirは、「人間と協働するエージェントAI」である「AIP(Artificial Intelligence Platform、人工知能プラットフォーム)」という技術を持つ。そしてそれを支えているのが、「Ontology」だ。
- 「Ontology」はフォーマットの違うデータを全て統合して、ひとつのデータベースのようにして分析可能なものとする技術で、商業・医療・軍事用などといった汎用性の高さが強み。
- Palantirは「Enterprise Autonomy(企業の自律化)」というビジョンを掲げており、AIPやOntologyの技術を駆使することで、組織全体がAIを学習しAIに適応する構造へと進化することを目指している。
決して、Palantirは華やかな主役ではない。GPUのように演算を誇示するわけでもなく、スマートフォンのように人々の手に直接触れるわけでもない。
しかし、組織がAIを活用する構造の言語(Ontology)を規定するという、極めて根源的なポジションをPalantirは確立している。その全体構造を設計・管理・自律進化させる存在として、着実に歩みを進めているのだ。
編集部後記
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