2024年5月末、アメリカのリアルを知るべく、FundGarageは恒例の米国リサーチ・ツアーを行いました。今回も、現地調査がいかに重要であるかをあらためて強く実感する旅となりました。
なお、
・半年前のリサーチ・ツアーの様子(無料記事『FG米国視察ツアー①シリコンバレーの光 編』)
・その半年後(現在)のリサーチ・ツアーの様子(公式YouTube 『【10分でわかる経済】米国投資のプロが見てきたカリフォルニアの現地は今』)
もご参照いただき、是非比較しながら今回のレポートをお楽しみいただけたら幸いです。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
アメリカ政治経済の「二極化」を堪能した2週間
経済の二極化①シリコンバレーの現状
1996年9月に初めてリサーチ目的で渡米してから、既に30年近くが経つ。
総括的な印象を語れば、アメリカの二極化、それは「光と闇」と呼んでもよいほどに拡がってしまったようだ。それは単に「貧富の格差」が拡がっただけでなく、企業の業況格差に関しても景気が良いか悪いかの両極端で、その中間が存在しないという印象を受けた。これは恐らく、FRBが「超金融緩和策」(QE:Quantitative Easing)を打ってコロナのパンデミック期を凌いだ後、2022年6月から始めたマネー回収(QT:Quantitative Tightening)の影響が出はじめたからだろう。
今回のリサーチツアーも、サンフランシスコ空港に降り立つところからスタート。
サンフランシスコといえば、「貧富の格差拡大」のために、ダウンタウンの治安が悪化しているという話は日本のニュースでもよく目にする。ところが、「AIブーム」の震源地でもあり、沸き立っている筈のベイ・エリアやサンノゼ・エリアまでを含めたシリコンバレーで、驚くほどに「For Lease(空室あり)」と掲げてテナントを募集している空室オフィスが増えているという事実は、実際に足を運んでみなければ知り得ないだろう。
そしてこれは、「貧富の格差拡大」だけでは説明できない、「企業の業況格差」のストーリーで語られるものだ。驚くことに、いわゆる「空きテナント有り」のようなフロアー貸しレベルの話に留まらず、5棟の立派なビル群が丸ごと空室になっているなんてことさえあった(下の写真)。
半年前に渡米したときと比べて、サンフランシスコのダウンタウンの治安悪化の現状については、「まあ、こんなものだろう」と予想の範囲内だったが、シリコンバレーのオフィス群が上記写真のようになっているのには、流石に驚きを禁じ得なかった(私が走り回ったところが、たまたまそうだった可能性はゼロではないが)。
米国の超優良企業であるヒューレットパッカード社(HPQ)も、シリコンバレーの英知の象徴とも呼ばれるアルファベット社(GOOG)も、共に創業したのはこの地のガレージからで、バリバリのベンチャー企業として始まった。
(※そのリアルを、グーグル・ジャパンが『Google が生まれたガレージへ!』というタイトルで紹介している。ご参考までにどうぞ。)
実際にシリコンバレーに行くと、この地でベンチャー企業がなぜ立派に育っていけるのかを肌で感じることができる。それは単に、優れたアイデアには資金を投じるベンチャーキャピタルとのエコシステムがこの地では出来上がっているからだけではない。高層ビル街のような窮屈さがなく、大らかに自由なアイデアが湧き出しそうな風が吹いている土地柄だからだ。
だから、そんな流れがQTによる金融引締めの影響で減速しているということは、雇用統計・CPI・PPI・PMIなどのマクロの統計データを机上で解き明かしているだけでは汲み取り難いのだ。
経済の二極化②ハイテクの里は西海岸、金融の中心は東海岸
さて、翻って、金融の中心地は言うまでもなくニューヨークだ。ほとんど全ての投資銀行の情報発信拠点がニューヨークにあり、そして主だった運用会社や機関投資家の拠点はボストンにある。すなわち、どちらも東海岸なのだ。実はここに問題の本質があるのではないかと、私は常々思っている。
というのも、ニューヨークとシリコンバレーは同じ米国内とはいえ、かなり遠く物理的に離れている。具体的には飛行機のフライト時間が片道約6時間、時差なら3時間もある。
つまり、広大な国土を有し、肌の色・宗教・母国語さえも異なる人々の集まりがアメリカ合衆国なのだ。また最新の情報によれば、アメリカの上位1%の富裕層が全体の約30%の富を保有し、上位0.1%の富裕層が全体の富の14%を保有しているというデータもある。
だとすれば、アメリカの東西を、日本の東京-大阪のように頻繁にビジネストリップできるだろうか?猛烈な働き方で知られるゴールドマン・サックスなど米系投資銀行のアナリストの猛者達でさえも、それは物理的に難しいだろう。
今の時代ならばZOOMなどのビデオ会議システムがあるので、昔よりはかなり情報収集も便利になったが、この距離の遠さはさまざまな面で情報収集の障害となる。
これらの結果、だからこそ、雇用統計にしても、CPIにしても、週末発表された個人消費支出(PCE)価格指数にしても、エコノミストを中心とした市場コンセンサスが毎回大外れするのだと思う。そもそも雇用統計でさえ、「毎月12日を含む週のデータを集計」しているに過ぎず、ひと月間全てのデータではないのだから、バイアスは当然だ。
政治の二極化——大統領選挙の白け具合
私がアメリカにリサーチツアーに行くようになってから、既に7回の大統領選挙の年を見てきて、今回が8回目となるが、これほど白けた大統領選挙の年を見たことがない。
通常はこの時期、民主党支持者(Democrate)にも、共和党支持者(Republican)にもそれぞれ強い主張があり、建国の時から守り抜いてきた「我々が選んだ大統領」という意識を強く持つような展開が続いていた。その象徴として、下の写真のような選挙に関わるポスターのようなものがそこかしこに存在し、そして何よりテレビのニュース番組では、常にどこかで大統領選挙に関する話題が報じられていた。
だが今回のツアー中、この写真のような立て看板が目に飛び込むことはほとんどなかった。
またテレビのニュースでは、トランプ前大統領に関しては「米国史上初の大統領経験者の有罪評決」という話題が、それも時々報道される感じであり、それに伴う(米メディア得意の)討論番組も目にしなかった。一方バイデン大統領もまた、ウクライナ問題や中東状勢、あるいは対中問題などあるにも関わらず、メモリアル・デーに絡んで退役軍人の人達と握手しているようなシーンばかり。
酷い話で言えば、トランプ前大統領が収監されたら警護のシークレットサービスはどうするのか、とか、バイデン大統領はこの先、医学的にどの程度の割合で認知能力が低下するかといったもので、本当にこれで大丈夫かといった感じだった。簡単に言ってしまえば、「重罪で有罪判決を受けた人を大統領とするのか、任期中に交代せざるを得なくなりそうな人を大統領にするのか」といった類の話を目にすることの方が多かった。正直、これは異常な事態だと思う。
投資家として、アメリカの二極化をどう評価するか?
以前はアメリカの政治的な二極化(polarization)を気にするだけ(←これだって大変な問題ではあるが)で良かったが、今回のリサーチツアーでアメリカ経済の多くの面で歪を生み始めていると実感した。
空港やガソリンスタンドのフードスタンドで買えば、確かに水のペットボトルが3ドルも4ドルもするところがあるが、WalmartやSafe Wayといったスーパーマーケットに行けば、40本のパックで6ドルもしない。そしてショッピングモールに行けば、駐車場が渋滞でとぐろを巻くほど混んでいたりもする。さらに、オフィス・ビルの「For Lease」案件も多ければ、「Now Hiring」と書かれた求人看板もそこかしこで目に入る。
正直、どれが本当なのか、恐らくアメリカ在住の人でさえ、普段見ているものが違えば随分と違う結果になっているはずだ。ホームレスが溢れて、見るからに治安が悪そうな街もあれば、若いお母さんがベビーカーを押して散歩をしていたり、犬の散歩をしている長閑な街もあるように。
ただ、そのような状況下でNYダウが急落する傍らで、ナスダックは史上最高値をつけ、ドルは強いままだ。5月の月間株価騰落率ではナスダックが約7%プラスになり、NYダウはその1/3の2.3%プラスに過ぎない。このところナスダックに相関性が高かった日経平均は、5月のワーストパフォーマーだということも興味深い。
下に月次の騰落率を纏めておいたので、ご参考にされてほしい。
まとめ
いかがだっただろうか。
株価の騰落率だけを見れば(2000年前後と同様の)バブルと思う人があり、マクロ統計が発表されれば、タカ派になったりハト派になったりと、市場は右往左往する。やはりこの現象は、アメリカの二極化が「光と闇」の如く拡がってしまった現状があるからこそであろう。なぜなら、光に目を向けるか闇に目を向けるかで、正反対のデータが出てくるからだ。
結局は、ザクっと俯瞰するような方法での投資スタイル(インデックス投資など)にとっては難しい局面がしばらく続くだろう。ただ、私は基本的に今後も個々の企業、それも内容を理解できるものにだけ投資をするというスタイルを続けていくつもりだ。
このことが、今回のリサーチツアーで浮き彫りになった。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
また、こちらは無料版記事のため、最新の情報や個別企業の解説についてはカットしております。
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