FG Free Report インテルの「Intel Vision 2024」をどう見るか?(4月15日号抜粋)

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2024年4月に米アリゾナ州フェニックスで開催されたインテルのイベント、「Intel Vision 2024」。こちらでは、「Generative AI(生成AI)」をテーマとしていくつかの新製品が発表されました。

今回は、その「Intel Vision 2024」を通して浮かび上がってきた、インテルの問題点と評価ポイントについて、プロのファンドマネージャーの視点で解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

インテル「Intel Vision 2024」の問題と評価ポイント

私が長年投資家としてさまざまな企業を見てきて、この数年、少なくともパット・ゲルジンガー氏がインテルのCEOに就任した2021年2月以降のインテルの信用は、坂道を下り落ちる石のように見えてならない。どの業界にも口先だけが達者な人がいるが、もしかするとインテルの現CEOであるパットゲル・ジンガー氏も、そのタイプの人なのではないかと疑ってしまう。

というのが、先週4月8−9日に開催された「Intel Vision 2024」でのパットゲルジンガーCEOの基調講演「AI Everywhere」を見た上での正直な感想だ。

インテル新製品の競合製品は、エヌビディアの〇〇?

インテルが今般発表したのは、クラウド/データセンター向けAIアクセラレーター「Gaudi」の最新モデル「Gaudi 3」だ。これは、2022年発表の前世代モデル「Gaudi 2」と比べて4倍のAI処理性能・1.5倍のメモリ帯域幅・2倍のネットワーク帯域幅を持つという。データセンターやクラウド上で、LLM(大規模言語モデル)をはじめとする生成AI処理を高効率で実行できるようになった。

と、ここまでは全然問題ない。AI業界が、ハードウェアでもソフトウェアでも賑わうのは大いに結構なことであり、各社が切磋琢磨することでビジネス・トレンドがより太く堅固なものとなるからだ。

ただし、一つ大きな問題点がある。それは、Gaudi 3の競合製品としてNVIDIAのクラウド/データセンター向けGPUの「H100」と「H200」を挙げた点だ。

今回の基調講演で、Gaudi 3は、

  • 「H100」との比較で、AI学習性能が平均1.4倍・AI推論性能が平均1.5倍・消費電力当たりのAI推論性能が最大2.3倍を記録
  • 「H200」との比較で、AI推論性能は平均1.3倍を記録

したと発表された。

ところがこのエヌビディアの「H100」、実は「GTC2024」で発表された最新GPU「B200」の2世代も前のモデルなのである。この「B200」というのは「H100」に比べて、

  • トレーニングパフォーマンス約4倍の向上
  • 推論パフォーマンス約30倍の向上
  • エネルギー効率約25倍の向上

が見込まれると発表されており、全てにおいて「H100」が見劣りするとしか言いようがない。つまり、「Gaudi3がH100の学習性能の平均1.4倍だよ」とインテルが言っている傍らで、その発表のひと月前にはすでに、「B200はH100の学習性能の平均4倍だよ」とエヌビディアは発表しているのだ。

以上のことを知らなければ、そのまま「ほう、インテルは遂にエヌビディアよりも優れた半導体を作ったのか。さすがインテルだ」と受け取る人がいても不思議はないだろう。事実、この日のインテル(INTC)株は値上がりしているのだから。これは非常に大きな問題と言えないだろうか。

 

…エヌビディアの「GTC2024」に関する詳細情報は、以前の無料記事『エヌビディアの「GTC2024」イベントレポート』を参照。

4月10日付のBloombergの記事。「エヌビディアに挑む」という言葉が躍る。メディア情報も鵜呑みにできない。

インテルの未来は「AIパソコン(AI PC)」にある

ただ、そんなインテルの基調講演で「良い話だな」と思ったのがひとつある。それは、「AIパソコン(AI PC)」だ。つまり、エッジAIとしてのパソコンについての話だ。

その背景のひとつに、「Windows 10」が2025年10月14日にサポート終了となることが挙げられる。あと約1年半後には、今ある「Windows 10」のパソコンはリプレイスが必須となってくるのだ。この流れを受け、技術の進歩とパソコンを取巻くニーズの変化が、AIパソコンの普及を後押しし始めたという。

そして非常に「なるほど」と思ったのが、CEOの持ち出した「Centrino(セントリーノ)パソコン」の例である。下のマークにご記憶がある方も多いだろう。

今でこそ「無線LAN」あるいは「Wi-Fi」なんて言い方を敢えてするまでもなく、「ここってネットに繋がる?」と言えば、それは無線LANが飛んでいるかどうかの話だと分かる時代になった。その無線LANの普及と大衆化に最も貢献したのが、まさしくこの「Centrino」なのだ。

内容はインテル製CPU・チップセット・無線LANモジュールで構成されたモバイルPCで、この「Centrtino」マークがついたノートパソコンであれば、同じマークのある街中のスポット(公衆無線LAN)で無線LAN接続が問題なくできるようになっている。「Centrino」は、CPU・チップセット・無線LANモジュールの3つ全てがインテルから発売されている製品であり、インテルにとってもユーザーにとっても、共にメリットのあるものであった。

その「Centrino」の話を持ち出して、同じような流れをAIパソコンでも起こすというのが、今回のパットゲルジンガーCEOがいうところの「AI Everywhere」のひとつなのだ。恐らく、「Intel Core Ultra processor」が搭載されているノートパソコンをAIパソコンとして認定してブランディングする何らかの手立てを打ってくるのだろうと思うが、そうなると一気にノートパソコンの需要も膨らむかもしれない。

インテルの「AIパソコン」から、何か一つの大きな潮流が起きるのに期待したい。

まとめ

今回は、以下の内容でインテルの問題点と高評価点についてお伝えした。

 

  1. 4月8−9日に開催された、「Intel Vision 2024」でのパットゲルジンガーCEOの基調講演「AI Everywhere」では、インテルが抱える問題と未来について浮かび上がってきた。
  2. 問題点としては、今回の新製品の競合(比較対象)として、2モデルも前のエヌビディア製品を挙げていたことである。これは、「エヌビディアよりもインテルの技術力が優っている」という誤解を招かざるを得ず、インテルの技術力を本質的に評価する指標にはならない。
  3. 一方で、明るい未来を感じられたのは「AIパソコン」についてだ。これは、エッジAIの新たな潮流を作るきっかけとなりそうである。

 

いかがだっただろうか。ブランドの知名度や信頼だけで企業価値を判断してはいけないということを、今回のインテルの事例で理解してもらえたら幸いだ。

もちろん、今なおインテルには相当数のファンや根強い信者がいる。ただ、長きにわたるインテル・ウォッチャーとして私は、やはり近年のインテルに対して、「技術のことは正直に伝えてほしい」と切に願っている。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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