FG Free Report 投資家の心得:投資のポリシーを定める(4月8日号抜粋)

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投資活動をしていると、「売り時を逃したかもしれない…」「この株はもっと上がるのだろうか?」といった悩みは尽きません。そんな時頼れるのは、投資指南書や小手先の技術ではなく、自分の「投資ポリシー(投資方針)」です。

今回は、個人株式投資家が定めておくべき「投資ポリシー」と、投資活動を通して悩んだ際の対処法について、プロのファンドマネージャーがお教えします。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

株式投資、「売るべき上げ」と「買うべき下げ」を見誤らないために

急落する株式市場を無視するのはプロでも辛い

もし、自身の持っている株式やその関連市場が急落したら、あなたはどのように考え、どのような行動を取るだろうか。

たとえば新NISAを利用して株式投資デビューしたような方々にとっては、「もしかすると、とてつもない失敗をしたのではないか」という疑問が頭をよぎるかもしれない。チャートで過去の株価下落の歴史を見るのと、その株価下落の渦中に実際に立ち会うのとでは、抱える不安は全くの別物だ。「ここでリーマン・ショックがありました」と下髭の長いチャートを出されても、目線を少しずつ右にずらせば、その後どうなったのかは一目でわかる。

ただ、市場急落を目の当たりにして心が穏やかでいられないのは、何も投資初心者や不慣れな人に限った話ではない。実はどんなにマーケットに精通していようと、投資経験が長かろうと、あるいはファンドマネージャーであっても、価格変動の大きなマーケットを見ながら平常心を保っていられるような人はいない。

ただ違いがあるとすれば、練達になればなるほど、こんな時のメンタリティの保ち方を知っているということである。不安な精神状態とは別に、その市場の下落をポジティブに利用しようという視点があるのが投資の専門家たちなのだ。

では、どうすればそのように精神を安定させられるのだろうか。

その答えは、「投資ポリシー(投資方針)」にある。投資の専門家たちは通常、投資の「入り口」時点で「投資ポリシー」をきちんと整理しているのだ。だから、市場が荒れた時にチェックすべき確認事項が明白であり、市場を見る目線が「買い乗せするチャンスではないのか?」とポジティブになる。それがパッシブ運用であっても、決してほったらかすことは有り得ない。

投資とは、

①自分なりに熟慮した結果その株式の「投資価値が高い」と考えたからこそ買い、②それを長い時間軸の中でホールドしたままにし、③さらなる価値向上(値上がり)を期待して、④進捗を見守ることにしたからこそ、⑤虎の子の資金がリスク資産に変わっている

というのが基本だ。

だとすれば、もし市場時価が一時的に(急激にでも)下がるのならば、それは単なる「バーゲン・セール」と一緒ということになる。つまり、「自分の信頼している株がせっかく安くなっているから、この機会に買っておこう」となるのだ。

このように、自信を持って株式を保有するための一番のポイントは、当初考えた投資価値の方程式に狂いや間違いが起きていないかということを、常にルーティンとして確認できているがどうかである。(FundGarageとしては、毎週プレミアム・レポートで、市場動向と「右肩上がりのビジネス・トレンド」を取り上げている。これが正に、そのルーティンの記録なのだ。)

我々がボラタイルな(値動きが激しい)局面に遭遇した時、決して忘れてはならないのは、「株価は短期的にはその瞬間瞬間の需給によって決まる」ことだ。買いたい人が多ければ株価は上がるし、売りたい人の方が多くなれば株価は下がる。

しかしやはり、それはあくまでも短期的な話。中長期的に投資を成功へ導くには、それぞれのビジネス・トレンドを見極めることに尽きる。なぜなら、きちんとビジネスが盛況で利益を出し続けていられれば、その会社の資産価値は増加し続けるからだ。

 

※ここでは敢えて、短期的中長期的という定性的な表現をした。それは残念ながら、その長さを定量的に具体的に1年とか、5-10年とは言えないからだ。とはいえ、ビジネス・トレンドからの乖離が5年も10年も続くことはまずないと思って大丈夫。なぜなら、企業経営の時間軸もそこまで長くはないからだ。一般的な「中期経営計画」は3-5年の場合が多い以上、市場も通常はその長さの範囲で「乖離」に気がつくものだ。

株式の売り時に困ったら、考えるべきこと

「売り時は、どうやって捉えますか?」という質問をよく受ける。

ただよく聞かれる割には、結局「売り時を逸しました」とか、「あそこで売っておけば良かった」という嘆きを聞くことも多い。株式投資は自分自身の懐具合と直結しているうえに、利食い売りのタイミングを計るのが難しいのだ。そしてそれを難しくしている大きな原因は、人間の強欲である。誰もが爪を伸ばし、少しでも「儲かりたい」と願う。そして、市場は行き過ぎる

だからこそ投資判断の基準軸は、きちんとビジネスが盛況で、利益を出し続けているのかどうかの確認が全てなのだ。

最近の事例で言えば、「BEV(電気自動車)」関連が、戻り売り(下げ相場で一時的に値段が上がった時に売り戻すこと)すべき典型だと言えよう。なぜなら、期待先行で始まったBEVは、現時点では間違いなく「ビジネスが盛況」とは言えなくなっているからだ。

そもそもテスラ(TSLA)のようなBEV(電気自動車)関連の株価が勢いを増して、利益なども出ていない内から価格高騰したのには理由がある。それは、世界的なカーボンニュートラルの流れの中で、各国政府が補助金をつけたり、独自の環境政策(例えば東京都が掲げる「2030年までに新車販売非ガソリン車100%」)を標榜したりすることが後押しをしてきたからだ。ところが現在、欧州や中国の補助金政策は既に中断されたものも多く、またGMやフォード、メルセデスベンツといった世界的自動車企業も方向転換している。(BEVの具体的な問題点については、以前の無料記事『電気自動車の課題と水素エンジン車の未来』を参照。)

つまり、たとえ政府が推し進めている政策でも、そこに消費者の”want”が存在しなければ「ビジネス・トレンドが右肩上がり」とは言えないのである。私はこうした状態を、「傷モノになった投資ポリシーは簡単に元に戻らない」と考えており、その傷が癒えるか全く新たな絵が描けるようになるまで、しばらくは手をつけない分野としている。

しかしここで、過去に一度大きな評価益を見てしまっていたり、そのシナリオを微妙に変容させて「いや、将来はやっぱりBEVになるはずだ」といったストーリーに変容させてしまったりすると、そのまま保持してしまう例が多い。この状態のデメリットは、大きく二つある。ひとつは、傷口がとことん拡がってそこに向けた資金が「死に金」となった上に、他で取り返す機会さえも失うということ。そしてもうひとつは、そのシナリオを維持するために、他の投資判断まで狂わせてしまうことだ。

だから、安心したいがために、自分の考え方に肯定的な情報を意図的に探すようになったら、それは危険信号だと思って間違いない。指値などしないで成行で一気に売り切るぐらいの覚悟が必要である。そして、当分はその銘柄の株価は見ないようにする。というのも、売った後に値上がりするのをみて、「やっぱり早く売り過ぎた」と嘆く心が一番厄介だからだ。

 

指値とは、自分が指定した金額で株式の売買をすること。成行とは、売買価格を指定せずに注文すること。

「株式投資は、損切りが上手な人ほどパフォーマンスが良い」のは本当か?

日本がバブルの最高値(1989年12月の38,915円)更新を果たすまでに、34年も掛かったからだろう。日本では、「損切りが上手な人ほどパフォーマンスが良い」というような風潮がある。「損切り」とは、自分が損失を抱えている状態で、これ以上の損失をしないよう見切りをつけ、保有株式を売ってしまうことである。

しかし私は自分の経験、それも典型的な機関投資家のファンドマネージャーとしてのそれと、自分自身の個人投資家としての経験から、個人投資家は余程のことがない限り、損切はしない方がその後の投資の為にも良いことだと考えている。また、そもそも、機関投資家のファンドマネージャーと個人投資家の投資判断は似て非なるものだということを覚えておいて欲しい。

なぜ「個人投資家は余程のことがない限り、損切はしない方がその後の投資のためにも良い」かというと、「損切り」は間違いなく「自己否定」の意思決定プロセスだからだ。自分が一生懸命調べ、考え、そして下した投資判断が結果として間違っていたということを認めることこそ「損切り」をするかしないかの重要なプロセスである以上、恐らく3回も続けると自分の投資判断能力自体に自信がなくなってしまう。

実際、銀行や保険会社でファンドマネージャーに配属される人は、とても「自尊心」が強い人が多かった。だからだろう、バブル崩壊で続いた弱気相場の中で、自分が描いた通りにパフォーマンスが上がらずにメンタルを壊した人を、私は山のように見てきた。損切りができなければパフォーマンス(自己の成績)が悪いことを日々突き付けられ、損切りが上手にできても「また間違っていた」と心が折れるからだ。

でも、機関投資家は、「限られた資金で常に最善の効率的な資産運用を図ることが職責」であることに変わりない。また運用可能期間(パフォーマンス計測期間)はファンドの決算サイクルが予め決まっている以上、その期間毎に成果を上げ続けなればならない。要するに機関投資家は、数年単位の時間を味方にすることができないということだ。ここが、個人投資家との大きな違いである。

時々、「損切りや利食いをちゃんと行って、資金を効率的に使わないと、株に回せる資金が限られているから仕方がないんだ」という説明を聞くことがある。一見すると正論のようにも聞こえるが、もしそれが本当ならば、そもそも「株式投資は余裕資金で行う」という基本原則に反していることになる。この「余裕資金で行う」という考え方の由来は、カツカツの資金で株式レベルのリスク資産に投資をすると、資金ニーズのために、最適とは異なるタイミングでの投資判断と売買を余儀なくされることがあるからだ。

つまり、個人投資家ならば本来は時間を味方につけて、想定よりも時間が掛かったゆっくりなタイミングだったとしても、当初の狙い通り、バランスシートが膨らんでくることを待つ方が良いのだ。投資信託や年金運用のように、最低でも年に一度は決算期日(締め日)があって、定期的(通常毎日)に評価損益も認識しないとならない機関投資家とは背景が違うということを踏まえておこう。

まとめ

今回は、投資家の心得第3弾として、以下の内容でお伝えした。

 

  1. どれだけ経験豊富な投資家であっても、市場の下落が怖くない人はいない。しかし、その下落をポジティブに捉えられるかどうかが投資の明暗を分ける。
  2. ポジティブに捉えるためには、投資を始める時点で自分なりの「投資ポリシー」を策定し、定期的にそこから道を外していないかを確認することが大切。
  3. 中長期的に投資を成功へ導くには、それぞれのビジネス・トレンドを見極めることに尽きる。なぜなら、きちんとビジネスが盛況で利益を出し続けていられれば、その会社の資産価値は増加し続けるからだ。
  4. 機関投資家は、数年単位で時間を味方につけることができない。なぜなら、最低でも年に一度は決算期日(締め日)があって、定期的(通常毎日)に評価損益も認識する必要があるからだ。
  5. 個人投資家は、時間を味方につけた投資を行うことが可能。想定より時間がかかったとしても、資金に余裕があり自身が定めた「投資ポリシー」に揺らぎがなければ、中長期的な投資を成功に導くことができる。

 

これまでお伝えしたように、投資は自分の精神状態に左右されやすい。だから、ピンチの時でもいかに自分の保有株式と「投資ポリシー」に信頼を置けるかが鍵になる。そして、ほったらかしておいて投資収益がもらえるほど、市場の神様は優しくはない。不安を感じながらも、前向きな努力を続ける人にだけ、神様は微笑むのだ。

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第1弾:『投資家の心得:情報の本質を見抜く』

第2弾:『投資家の心得:為替の本質を理解する』

編集部後記

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公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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