多くの個人投資家にとって、「どの分野の、どの企業に投資すればいいかわからない」という悩みはつきものです。また時として、投資の世界では、「最近まで持てはやされていた株式が急落してしまった」という現象が起こります。逆に、「こんなに高値が続いたらいつかは落ちるかもしれない」という場面も多くあります。
では、このような不安を払拭するために、私たちはどのような行動を取れば良いのでしょうか。今回は、プロのファンドマネージャーの投資哲学をお教えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
株式投資に不安を感じないためにやるべきこととは?
その株式、きちんと評価されていますか?
AIは「ブーム」であり、「AIバブル」だと主張する個人あるいはメディアがある。
AI分野で今最も注目されているエヌビディア(NVDA)の予想PERは、概ね32倍前後だ。ところがなんと、それを手掛かりに買われている日本の半導体関連企業のPERは、ほとんどが本家エヌビディアよりも高くなっている。
下の記事は、週末土曜日の日経新聞朝刊の記事だ。アドバンテストのPERは81.4倍、ディスコが73.0倍、東京エレクトロンが52.2倍と表示されている。
この記事を見て「お、日本の企業も頑張っているな」と思われたのならば、それは気をつけた方が良い。なぜなら本来、「黒子」が「主役」よりも高値で取引されることは理に適っていないからだ。
しかし、この記事では「『黒子』の集積が改めて評価されている」と、ポジティブなものになっている。話の本筋としては、「半導体生産に必要な素材株までが高値で売買されていることで、バブルっぽくなっている」とするのが正論だろう。
「バブル」と「右肩上がりのビジネス・トレンド」の違いは?
では、世間で注目を集めているその分野が、「右肩上がりのビジネス・トレンド」なのかどうかを見極めるには、どうしたら良いのだろうか。
今回は、特に私の専門分野である「自動車産業(電気自動車)」と「半導体関連産業(AI)」を例に取って説明したい。
〇「電気自動車(BEV)」のビジネス・トレンド
BEVは、欧州政府が米国と日本に対する自動車産業の主導権奪還(ディーゼルエンジンで失敗した分)を目指して、「EU圏では2030年以降の新車販売はBEVに限る」と打ち出した政策的なビジネス・トレンドだ。
そして、この対米政策の流れに一致した中国政府と、環境政策に敏感な米カリフォルニア州が同調。さらに、カリフォルニア州を最大の基盤とする米民主党バイデン政権が相乗りした。もっと言えば、日本の環境左派も同調した。
BEVは「カーボン・ニュートラル」という大義名分のもと、多くの課題(電力供給、充電施設など)を放置したままでも「やるんだ」と強引に形作られたビジネス・トレンドであり、補助金や支援金がバラ撒かれ、技術的・物理的な壁にぶつかって化けの皮が剝がれるまでは、語り部たちは、それをベンチマークに理論構築できたのだ。
だがそれが、「2030年まであと6年(=新車1台の開発サイクルにも足りない期間)」という段階になって、現実的には実現困難な物語だと気づき始めると、そこから足早に人々は離れ始めたというのが現状だろう。ただそこに、「凄いバブルが生れていた」という認識が低いだけに、相当に痛むまで「バブルが弾けた」ことに気がつかない人もいるはずだ。
〇「(生成)AI」のビジネス・トレンド
現在の「AI」時流と、「ITバブル(ドットコム・バブル)」と呼ばれた2000年前後の時との共通点は、それ自体(=インターネットやAIという新しい技術)が適切に理解され難いものだということである。
ITバブル当時は、「インターネット、やってる?」という言葉が流行り、「ドットコム」とさえ名前がつけば何でも値上がりするような時代であった。
それにもかかわらず、今でこそ世界で時価総額最大の企業となったマイクロソフト(MSFT)も、時価総額第4位のアマゾンドットコム(AMZN)も、当時は「ドットコム・バブル」の時代の寵児の最右翼だったものだ。日本企業で言えば、現在日本株の時価総額第10位にランクインするソフトバンクグループ(9984)が、それに当てはまる。
そして、現在の「AI」時流。これを「第四次産業革命」と呼ぶ人もいて、世界中の会社が自社業務にAIを取り込もうとしている話は枚挙にいとまがない。しかし、個人ベースで考えると、正にインターネット普及の初期同様「ChatGPT、つかってる?」という会話が飛び交うのが現段階であろう。そして、これに対して「ちょっとくらいはね」程度の答えならまだいい方で、「ChatGPTとのディベートが非常に楽しい」と孫正義氏のように豪語する人や、ChatGPTにExcelマクロを書かせて効率化しているような人は、おそらくかなりの少数派である。
むしろ、「AIの倫理問題はどうなっているんだ?」と新しい技術を前に敵対視する例が、いまだに散見される。ChatGPTの幻想に対して、「まだ発展途上だから仕方ないな」と寛容になれない姿は、かつてWindowsにチャットが導入された時、「チャットはセキュリティ対策ができないので、利用禁止」と蓋をした姿に重なる。
では結局、「バブル」とは何だろうか。
それは見る人の立場やスタンス、あるいはそのビジネス・トレンドに関する本質的な理解度によって決まる、と私は考えている。
つまり、背景となるビジネス・トレンドの状況が、リアルな技術動向などを踏まえたうえで、論者の認識がどこまで確立しているかに尽きると言えよう。
だからBEVは、「政策的に作られたビジネス・トレンド」であり、「バブル」だと言える。一方で「AI」は、その技術に対する人々の理解が追いついていないために「バブル」だと思われがちだが、今後更なる成長が見込める「右肩上がりのビジネス・トレンド」なのである。
株式投資のポイントは、「石橋は叩いてから渡り、渡ってからも叩き続ける」こと!
これまでお伝えしたように、何かの資産価格が上昇して来ると、必ず「バブルだ」と主張する人が現れる。その資産に関する理解が浅ければ浅いほど、その傾向は強い。
そして、いつまでも続く高値に不安を感じる頃になると、「まだまだ上昇しそうだ」という威勢の良い話よりも、「ここはバブルだから、一旦慎重に利固めをして、下がったところでまた買い戻しましょう」という堅実な判断を下す人(投資アドバイザー含め)が増える。
しかしこれは、言うは易く行うは難しである。なぜなら、トレーダーやディーラーのように、短期売買を繰り返すわけではないファンドマネージャーにとって、「タイミングを計る」という判断要素は存在しないからだ。
では、投資の適切な判断基準は何か。それは、「ビジネス・トレンドが右肩上がりに続いていて、引き続き当該企業が収益をあげ続けられるか否か」である。それに対して、一時的に株価が「上がり過ぎ」ているのか、「下がり過ぎ」ているのか、その「過ぎている」度合いを測るのだ。この度合いは、市場のニーズ強さ・人々の欲求・技術開発の進展状況・法整備など、マクロ的な要素も加わった様々な要因を総合的に判断する必要がある。
私は、株式投資の世界で「高所恐怖症」を感じた経験はほとんどない。なぜなら私は、落ちるかも知れないと思うような恐ろしいところにはまず近づかないし、かなり「石橋を叩いて渡る」タイプなので、相当に確信犯になるまでは投資しないからだ。さらに言えば、投資してからも常に「叩いて」状況を確認している。だから仮に大揺れしたとしても、「邪魔な重石が落ちて丁度いい」ぐらいに思っている。
実際、株式市場ではこの「石のふるい落とし」のような揺れ(急落)が時々起こる。なぜなら、先に述べた「半導体産業の黒子」のような本来は「石」に過ぎないものが、あたかも「玉」の如くに扱われて吹き上がるからだ。
今の株式市場の動向を見ている限り、日米両市場共に「玉石混交」になってきていることは確かだ。だから、いずれどこかで振り落としは起きて、選別が行われ、最後には本物だけが生き残る。その時に慌てない秘訣は、正しく納得がいくようにリサーチをすることだ。決していい加減な情報に乗ってはいけない。もしきちんとこの鉄則を守っていれば、市場が何かに動揺して急落した時は、バーゲンセールのごとく、欲しいと思っていた銘柄を買い漁れば良い。
投資の世界で「高所恐怖症」になるのは、立っている場所の丈夫さや確かさが分かっていない時だけである。
まとめ
- 昨今の「AI時流」に乗って、AIの本家であるエヌビディアのPERを大幅に超える日本の半導体「関連」企業が続出している。しかし、これらは一時的に過大評価されているに過ぎず、今後急落の可能性がある。
- BEVは、「政策的に作られたビジネス・トレンド」であり、「バブル」だと言える。一方でAIは、その技術に対する人々の理解が追いついていないために「バブル」だと思われがちだが、今後更なる成長が見込める「右肩上がりのビジネス・トレンド」である。
- その企業の業績が上がり続けるか否かを見極めるためには、市場ニーズや技術の進展状況をはじめとした多くの情報を入手する必要がある。
- 「(生成)AI」に象徴されるような、世間の理解が追い付かないまま最近になって急激に株価が上昇し始めた分野に関しては特に、ビジネス・トレンドを推測することは至難。
- 本当に価値のあるものを見極めるために、トレンドを把握し(それに惑わされることなく)、「石橋を叩いて渡る」姿勢をもって投資を行うことが必要である。
みなさんにはぜひ、以上のポイントを踏まえて、失敗しない投資を続けてほしい。
編集部後記
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