FG Free Reportの人気記事『投資家の心得』シリーズ第4回目の今回は、「ミクロ的に市場を捉える」をテーマにお話しします。
ミクロな視点で投資をするというのは、各企業の業績を細かく分析したうえで業界全体を把握し、投資銘柄を決めていくという意味です。これを専門用語では、「ボトムアップ・アプローチ」と呼びます。
今回は、現在の市場が陥っている問題を踏まえ、ボトムアップ・アプローチで投資をしていくことの重要性について、プロのファンドマネージャーが解説します。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
「森を見て木を見ない投資」の罠
マクロにこだわりすぎた市場
日米共に1-3月期を含む決算発表が始まった。ところが現状、市場は混乱している。これはなぜなら、恐らくトップダウン・アプローチ型の分析者にとって、「想定外」と言わざるを得ない事態が数多顕在化していることに起因していそうだ。
逆に言えば、ボトムアップに見ることができれば、至極当然な個々の価格修正が行われているだけとも言える。なぜなら、各予測への答え合わせこそが、決算発表だからだ。
市場はこの数年、あまりにもトップダウン・アプローチに頼り過ぎたのだろう。具体的には、
- 中央銀行が金融政策をどう変更するのか?
- CPIやPPIはどうなっているのか?
- 雇用環境や賃金状況はどうなっているのか?
- 消費者や企業の購買担当者のセンチメント(心理)はどうなっているのか?
などといった全体観を概括する情報だ。言い換えれば、「森を見て木を見ず」な状態が続いている。
しかし、現在のパンデミックからのリバウンド相場は、個々の企業選別と再調整に備えて、ボトムアップ・アプローチで市場を捉えていく必要があるのだ。
ではなぜ、「森を見て木を見ない」トップダウン・アプローチに頼ることが、市場の混乱に繋がってしまうのだろうか。
今回は具体的に、半導体と電子部品を例に取って見ていこう。
では現在、
①半導体は足りているのか、ダブついているのか?
②電子部品はどんな用途向けが必要で、どんな用途向けは不要なのか?
と問われたら、あなたは何と答えるだろうか。これに対して的確な解答ができれば、案外と分かり易い結果で半導体市場が動いていることに気がつくはずだ。
①ミクロ的に見る半導体市場
まず、①の半導体について。
半導体製造請負の台湾TSMCによると、最先端半導体製造技術を投入しないとならないもの(例:エヌビディアやAMDのGPU)は、旺盛な需要に支えられて製造が追いつかないままだという。一方で、電気自動車などに多く使われるとされる半導体の需要は落ち込んでおり、それが全体収益の足を引っ張った。TSMCのCEOは自らはっきりと、「AI関連半導体の需要の強さに支えられている」とまでコメントしたぐらいだ。
一方、メモリ半導体市場については、2023年には31%の大幅な落ち込みを経験したが、2024年にはほぼ回復すると予想されている。だがそれはまだ始まったばかり。そもそもそのメモリ半導体とて、NANDフラッシュメモリーなのか、DDRメモリー(DRAM)のことか、あるいはAI向けGPUに搭載されるようなHBM型の物なのかなど、きっちり区分して分析しないと全体の状況は語れない。
また、GPUなど最先端微細加工技術に必要となるEUV露光装置を作る蘭ASMLの業績は、米国による対中輸出規制が影響を及ぼして、市場予想を下回る結果となった。
さらにアドバンテストも、生成AIに組み込む半導体向けの試験装置の出荷は伸びる一方で、クルマに使う車載や民生機器向けは一段と減るとの予想から、利益規模は事前の市場予想平均を大きく下回っている。
この問題の本質は、用途別を細かく分析・判断せずに、ザックリと「半導体」とまとめて捉えてしまった点にある。
②ミクロ的に見る電子部品市場
さて、②の電子部品はどうだろうか。各社の決算内容を比較してみよう。
- ニデック(旧日本電産):売上げの4割を稼いだのは、家電・商業・産業用モーター、そして為替差益であった。
- 村田製作所:スマートフォン向け電子部品の需要が回復し、今後ハイブリット車向け部品が伸びる。
- TDK:産業機器関連が伸び悩むものの、ハイブリッド車を含む電動車向けの需要が底堅い。
- 京セラ:生成AIサービスを運用するデータセンターの増加などを受けて、半導体関連部品の需要が回復。
- 日東電工:半導体や電子部品向けの産業用テープは市況の回復を見込む一方、ノートパソコンやタブレット端末向けの光学フィルムの需要が落ち込むため、前期比3%減の利益水準となる。
本来投資家は、これらの企業決算の内容からパズルを解くようにして、どの業界・セグメントが堅調で、どこが駄目かを紐解いて、想定している予想と擦り合わせていくべきなのだ。そこが、投資の醍醐味とも言える部分である。
そしてここで活躍するのが、「セクターアナリスト」や「ファンドマネージャー」と呼ばれる人たちだ。
「セクターアナリスト」はミクロに担当セクターを掘り下げる一方で、「ファンドマネージャー」は複数のセクターを横断的に見極める。ただ全セクターを横断的に語れることはない。よほど「浅く広く」とするなら可能だろうが、そこまで浅くすると、横断的に見る価値がなくなってしまう。
(決算発表の席上、今回もニデックの永守会長自身がはいつもの毒舌で「当社は伝統的に電子部品のアナリストが見てくれていますが、それでは最近のわが社の状況は全く分からず、だからおかしなレポートが出回って投資家を混乱させている」と言っていたぐらいだ。ただ、そもそも昨今ではこうしたアナリストや、セクター横断的に俯瞰出来るファンドマネージャーも減ってしまった。正に構造不況業種とも言えよう。)
もっと言えば、日本株と米国株を横断的に評価しているアナリストは少ない。もちろん、最低限の見地では捉えているはずだが、言葉の壁もあってか期待するようなレベルとは言い難い。かつての外資系証券会社のリサーチが優れていた理由は、グローバルなリサーチ・チーム内での連携があったからだと言えよう。
つまり、決算発表でどこを見るべきかは、もちろん売上や営業利益などの動向を知ることも大事だが、業界・セグメントごとの内容解析(ミクロの経済)こそが肝の部分となるのだ。
まとめ
いかがだっただろうか。
現在の「半導体・AI」市場で何が起きているかというと、その主役企業(例:エヌビディア)の動向を押さえたうえで、日本企業を見るインフラ自体がない状態だ。
だが、このことにガッカリする必要はない。なぜなら、そこにこそ平等に収益チャンスが生まれるからだ。つまり、完璧な分析に基づくリサーチ情報が津々浦々に浸透してしまっていたら、単純に言えば機関投資家以外に投資収益を稼ぐチャンスがなくなってしまう。
理想的な投資は、皆が売る時に買って、皆が買う時に売り抜くこと。市場の熱狂の中で一緒になって買って、市場の落胆の中で一緒になって売ってしまわないよう、ミクロで市場を見る視点を持とう。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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