FG Free Report AIの学習と推論とは?(12月25日号抜粋)

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みなさんは、AIに「学習」と「推論」という2つの分野があることをご存知ですか。今や、AI(生成AI)無くしてビジネストレンドは語れないほど、世界を動かしているAIですが、この「学習」と「推論」プロセスの違いを理解することが、今後の投資活動において不可欠になっていきます。

今回は、そんな「AIの学習と推論」のこれまでとこれからについて、プロのファンドマネージャーが解説します。

投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。

(Fund Garage編集部)

2024年、AIは「推論」分野に拡がる

AIの「学習」と「推論」

2023年は、AIのひとつである「生成AI」が脚光を浴びた。逆に言えば、「AI=生成AI」という認識が一般的だったとも言えるだろう。

そしてその爆発的な勢いは、金利が上昇しようが、地政学リスクが加速しようがお構いなしに、右肩上がりのトレンドを描き続けた。具体的には、SOX指数を筆頭に、NASDAQや「マグニフィセント・セブン(除くテスラ)※1」の上昇が見られた。

ただ、人間に右脳と左脳があるように、AIにも二つの側面がある。これらはすなわち、「学習(Training)」と「推論(Inference)」である。そしてこれらのプロセスの違いを理解することが、2024年の投資環境を上手に戦う最初の一手になるだろう。

AIの学習と推論を整理すると、以下のようになる。

学習(Training)

      • 大量のデータを使って、モデルを訓練(=大規模言語モデルなど)。
      • 高度な計算能力とメモリが必要。
      • このフェーズでは、GPUが高いパフォーマンスを発揮する。

推論(Inference)

      • 訓練済みのモデルを使って、新しいデータに対する予測や分析を行う。
      • レイテンシー(応答時間)と電力効率が重要。
      • このフェーズでは、GPUのみならず、エッジAIではNPUが高いパフォーマンスを発揮する。

 

一般的に「推論」という言葉は、論理的な結論を導くプロセスを指す。しかしAIの文脈では、訓練データから学んだ知識(言語の構造、文脈、スタイル、視覚的なパターンなど)を利用して、新しいテキストや画像を生成する、つまり新しいデータに応用するという意味での「推論」となる。

すなわち、生成AIは、人間のように複雑な論理的推論や深い理解を行うわけではなく、パターン認識とデータからの学習に基づいて動作するということだ。

そして2024年は遂に、その「推論(Inference)」の世界が大きく動き始めると予想される。

 

 

※1マグニフィセント・セブンとは、「GAFAM」(アルファベット(GOOG)、アップル(AAPL)、アマゾン・ドットコム(AMZN)、メタ・プラットフォームズ(META)、マイクロソフト(MSFT))に、エヌビディア(NVDA)テスラ(TSLA)を加えたものである。

AIの推論とNPU

前述のように、AIの推論とは、モデルが学習した知識を実際の状況に適用する段階のことだ。たとえば、スマートフォンのカメラで顔を認識したり、音声アシスタントが質問に答えたりする場合などがそれにあたる。

この推論プロセスは通常、リアルタイム(またはほぼリアルタイム)で行われ、低レイテンシー・高効率・低消費電力が要求される。

そこで注目されるのが、NPU(Neural Processing Unit)という半導体だ。これは既にiPhoneをはじめ、多くのスマートフォンに搭載されている、AIの推論処理に特化したプロセッサである。

NPU(Neural Processing Unit)は、AIモデルの推論を高速かつ効率的に処理できるため、特にエッジデバイス(スマートフォン、自動車、IoTデバイスなど)におけるAIタスクに適している。

例えば、2023年はAMDとインテルから「AI PC(AI パソコン)※2」と新たに定義されたノートパソコンで利用される新しいタイプのCPUが登場した。今後NPUは、この分野でも加速すると言われている。

これには、例えばマイクロソフトが11月から提供を開始した「Copilot」といった、アプリケーション・ベースの「パソコンのAI化」の流れも大きく影響している。そのひとつのキーワードが「Neural Network(=ニューラルネットワーク)※3」であり、その処理をするのがまさしくこのNPUこと、Neural Processing Unitなのだ。

先週、メモリー半導体大手のマイクロンテクノロジー(MU)の決算発表があった。詳細は今号では割愛するが、その内容は市場予想を遥かに凌駕するものであった。キーワードは、「アクセラレーティッド・コンピューティング」の世界の話で、HBM(High Bandwidth Memory)という高帯域幅と高性能を提供するメモリの需要が、メモリー半導体業界の状況を一変させているという。

そしてこのマイクロンテクノロジーのCEOも、まだまだAIは始まったばかりだということを繰り返していた。

この一年間、何人のCEOの口から同じ言葉を聞いたか分からない。そして異口同音に、「インターネット革命の時以上に大きな変革の波が来ている」という。

というわけで2024年は、推論分野が加わった生成AIのビッグ・ウェーブに期待したい。

 

※2AI PCについては、以前の無料記事『AMD〜AI分野のオールラウンダー〜』を参照。

※3ニューラルネットワークとは、AIの深層学習(ディープラーニング)に利用されるモデルのこと。人間の脳のニューロンの動作を模倣している。

まとめ

今回は、以下の内容でAIの学習と推論分野についてお伝えした。

 

  1. AIには、「学習(Training)」と「推論(Inference)」という2つの側面がある。
  2. 「学習」は、大量のデータを使ってモデルに学習させることである。一方で「推論」は、学習済みモデルを新しいデータに応用することである。
  3. 生成AIは、人間のように複雑な論理的推論や深い理解を行うわけではなく、パターン認識とデータからの学習に基づいて動作する
  4. NPU(Neural Processing Unit)とは、AIの推論処理に特化したプロセッサであり、主にエッジデバイスに使用されている。
  5. 2024年からは、AIの推論分野に大きな期待が寄せられている。

 

ひとまずは生成AIという「学習(Training)」側のAIが発達し始めた2023年に続き、2024年は「推論(Inference)」の方も動き出しそうだ。しかし、それはあくまで「はじまり」でしかない。

今でも忘れないが、インターネットが始まった当初、多くの人達が「パソコン通信の大規模版の話でしょ。秋葉原のオタクの世界だよね」とにべもなかった。その後によく使われた表現は「パソコンやってる?」とか、「インターネットやってる?」というものだ。今の世代の人に「インターネットやってる?」という言い方は、恐らく日本語表現としてさえ伝わらないだろう。

ただそんな時代は、90年代の終わりから2000年代の初めにまで、確実に存在した。でも今や、パソコンもインターネットも、息をするのと同じぐらい、無意識に日常のものだ。寧ろ「デジタル・デトックス」なんて反対のシチュエーションまであるぐらいになった。

恐らく「AI」というのも、同じような存在になるだろう。そしてそれはまだまだ当分先の話だ。その扉の片方が、2024年に開き始める。

編集部後記

こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます当時の市場の空気と、普遍的な知見の皆様にお届けできれば幸いです。
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ファンドガレージ 大島和隆

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