みなさんはGenerative AI(生成AI)をご存知ですか。Generative AIとは別名を対話型AIと言い、昨今話題のChatGPTはこのAIの代表的な技術の一例です。使いこなせばとても便利なAIですが、中にはまだ新しい技術に手が出ないという方もいるでしょう。今回はそんなGenerative AIとの上手な向き合い方や、それに伴う投資判断のアドバイスを、プロのファンドマネージャーの視点からお伝えします。
投資での資産形成をお考えの方も、既に投資を始められている方も、ご自身の知識と照らし合わせながらご覧ください。
(Fund Garage編集部)
立証されたAIの大きな変革期
「GAFAM」から「MATANA」へ?
今、世界的にAIへの評価が転換期を迎えている。
世界の代表的なIT企業(いわゆる「ビッグテック」と呼ばれる)5社である「GAFAM」に代わって、これからの時代は「MATANA」が力をつけてゆくであろうと言われていることは、その証拠の一つだ。
GAFAM
「G」=Google、「A」=Apple、「F」=Facebook(現Meta)、「A」=Amazon、「M」=Microsoft
MATANA
「M」=Microsoft、「A」=Apple、「T」=Tesla、「A」=Alphabet、「N」=Nvidia、「A」=Amazon
上記に示した通り、「MATANA」には新たに、「テスラ(TSLA、主に自動車とクリーンエネルギーのメーカー)」と、「エヌビディア(NVDA、GPUが主力の半導体メーカー)」が加わった形になっている。
AI技術関連のソフトウェア開発に強いエヌビディアは決算発表後、株価が本市場取引で+14.02%も急騰したという。
しかも市場評価は前日比で、NYダウが+0.33%の上昇、ナスダックでも僅か+0.72%の上昇であったのにも関わらず、だ。
さらに7月15日の日経新聞では、「マスク氏、AI新会社『テスラと協力』 半導体や自動運転」という記事が出ていた。
「xAI」と名付けられたその新会社は、主に半導体設計や自動運転機能の開発分野でテスラと協力体制を敷いていく(そのテスラのCEOもマスク氏であるが…)という。
もちろん「MATANA」のみならず、様々な企業が近い将来、AI事業に新規参入していくだろうと予想される。
だから我々投資家は、今後の米国市場の動き方に注目していくべきだ。
同様に日本市場を見る上でも、現在ではその主たる投資家が海外投資家(約7割)である以上、海外投資家のポジションや投資判断に影響を及ぼしていることを先ず第一に考えないとならない。
海外投資家から見れば、時価総額が約5%に過ぎない極東の島国への投資、資産をどう分配すべきかは、残りのアセットの大部分が投資される米国の経済動向に左右されるからだ。
では、そんな世界経済に大きな影響を及ぼすAI技術がどのような方向に変革しているのか、早速次項から見ていこう。
ChatGPTが半導体メーカー各社にもたらした影響
決算発表を後に14%超も急騰したエヌビディア(NVDA)。
週末に市場全体が下落する中でもSOX指数(フィラデルフィア半導体指数)の下落率△1.80%にも達せず、それを下回る△1.60%の下落で済んだというのは、それだけ市場のAIに対する認識が変わってきたことを意味するだろう。
この決算発表を受け、素直に投資評価や目標株価を引き上げたアナリストも多い一方で、中にはバリュエーション(=企業価値評価。企業の本来の価値に対して株価が高いか低いかで決まる。)が高過ぎると警鐘を鳴らす人が居るのも事実である。
上記チャートを見れば、エヌビディア(NVDA)がどれだけ急騰したかが分かるが、それは同時に「ChatGPT」に代表される対話型のGenerative AIのポテンシャルに、市場が大きな期待を寄せはじめたということを意味する。
(Generative AIに関する詳しい説明は、Free Reportバックナンバー『FTXの倒産から学ぶ、上手な投資の心得とは?』をご覧いただきたい。)
実際にChatGPTなどが利用し、そこに付加価値のついている半導体は下記の図に表したような「ロジック半導体」と呼ばれるものである。もっと簡単に言うと、電子機器の頭脳の役割を果たす部分だ。
こうしてロジック半導体がCPUだけでなくなれば、CPUにウェイト置いているインテルは分が悪くなる。
だから、チャートの示すようにインテルの株価が残念ながら落ち込んでしまっているのは、このようなことが一つの要因として考えられるのだ。
少し専門的な話になってしまったが、結局最も重要なことは、
「半導体関連銘柄という安易な括り」或いは「パソコンやスマホの時代の半導体に関する概念」だけで投資判断すべきではない時代になった、ということだろう。
ChatGPTがビッグテックにもたらした影響
ではここで、「GAFAM」の株価チャート(ナスダックに対する相対比較のチャートに加工)を比較してみよう。
特に、中ほどに位置する黄色い線で示されたアルファベット(GOOG)の株価に注目してほしい。
2022年2月3日にピークを付けた後は、右肩下がりになっていることが分かるだろう。
同社は、「Transformer」という言語処理タスクを開発した企業だ。
この「Transformer」が、ChatGPTをはじめとするGenerative AIの基盤となる言語モデルであるのにも関わらず、上のようにその開発企業の株価が伸び悩んでいるのはなぜだろうか。
その主な理由としては、以下の二つが挙げられるだろう。
ひとつは、独占禁止法に引っかかるのではないかという議論(実際に訴訟準備が行われている)であり、
もうひとつは、ChatGPTの搭載で検索エンジン「Bing」がGoogleより優勢に立つかもしれないという考え方だ。その「Bing」は、マイクロソフト(MSFT)が提供している。
この戦い、どちらが勝利するかなど誰にも分かりはしないが、ただAIに関する話だけで言えば、アルファベットがこのまま衰退するとはあまり思えないというのが私の意見だ。
だってこれからのGenerative AIは、パソコンの検索エンジンという狭い世界の話だけで終わるものでは決してないだろうから。
Generative AIと上手な付き合い方をしよう
世の中必ず、「出る杭は打たれる」。
新しい優れたものを拒否する否定派は、必ず存在するものだ。
例えば、「「ChatGPT」に警戒強めるウォール街、大手行で利用禁止の動き相次ぐ」という記事がBloombergに掲載された。
確かに、ChatGPTは幻覚の中を彷徨うかのように架空の世界を論じる時がある。
「そのデータ、おかしくないですか」と私が聞き直すと、「すみません、間違えました。訂正します。」と答えてくることなど、幾度となく経験している。
だからこそ、今の段階のGenerative AIは、「そのリスクはあるが、得られる効用とバランスを取りながら上手に付き合えば良い」と思う。
携帯電話を思い浮かべてほしい。これが広まり始めた時、多くの人が「日本はこんなに公衆電話が普及しているのだから、何時でもどこに居ても電話に追い掛けられる携帯電話など必要ない」と考えた。
しかし、現在はどうだろう。時代は確実に変わってゆくものだ。
マーケットなどのリアルタイムデータに関しては、2021年までの分しか勉強していないとChatGPTは自ら教えてくれている。
逆に、それを理解した上で、使い慣れることの方が今のステージでは大事だと思う。
必ず状況は刻々と変わっていくのだから、それに備えよう。
では、次項で「デジタルデバイド=情報格差」についてお話しする。
この次世代AIと上手く付き合う人たちと、その波に乗り遅れた人たちにはどれだけの溝ができてしまっているのだろうか。
デジタルデバイドは新たな形で加速するだろう
インターネットの普及によるあらゆる情報の平等化、そしてスマホの高度化と普及による情報武装の日常化は、間違いなく「使える者と使えない者」の二極化を招いてきた。
その中で事実、YouTuberやインフルエンサーなどの新しい強者、まさにインターネット上の「勝ち組」とも言える人たちが生まれた。
一方で当然、その中で廃れていったビジネスモデルもあれば、職業もあり、さらには「情報弱者」と呼ばれるようなレイヤーまでもが生まれることとなった。
ただ今までならば適度にスキルがあれば「勝ち組」側に回れた人達も、もしかすると新たな試練に見舞われるのではないだろうか。反対に、一旦は「負けた」と思っていたレイヤーが復活する可能性も大いにある。
前項でもお伝えしように、状況は刻一刻と変化しているのだから、それに付いていけなければ戦闘力は落ちる。
例えば、徐々にだとは思うが、単に「検索スキル」に長けているが故に重宝がられてきたタイプのポジションは不要になるだろう。
何故なら今後ますますGenerative AIが言語理解タスクや生成タスクを達成、質問応答、文章生成、感情分析などのタスク処理能力を高めていくことで、検索の仕方自体は稚拙であっても適切な答えが返るようになってくるからだ。
一例を挙げると、文章や描画で「何がバズるか」を分析したコンテンツを提供することだって、遠からず可能になるかもしれない。
なぜなら、少なくとも既に、データサイエンスの世界ではマーケティング向けの手法が研究されているからだ。
端的な例が、リコメンデーション機能だ。これは、今までの購買履歴や閲覧履歴から、好みやニーズを推量して画面表示するような機能のことで、例えば自分の興味のある広告ばかりが出てくるという経験はみなさんもあるだろう。
これが別の分野に応用されれば、凄い加速が期待できる。
ただ最後にそれらを使いこなすのは、人間だということを忘れてはならない。
「AIに使われる」のではなく、「AIを使い倒す」ものが次の時代の覇者になると思いたい。
果たしてそれが何なのかは、まだまだこの時点では分かるわけもないのだが・・・・。
まとめ
今回のレポートのまとめは以下の通り。
- ビッグテックは今後、「GAFAM」から「MATANA」へ変わると言われている。
- ChatGPTを中心とした「Generative AI」が今後の新時代を築いていく。
- 「Generative AI」の台頭により、近年「デジタルデバイド=情報格差」は益々顕著になっている。
- 情報弱者にならないためにも、積極的に新しい技術に上手く触れていこう。
アマゾンドットコムやアルファベット、あるいはエヌビディアやAMDなど名だたる米国テクノ
ロジー企業のCEO達が、CY2022Q4の決算説明の中で、現在のAIのフェーズについて、
“just the beginning” や、“in the early stages” のような表現を使っている。「AIはこれからだ」という意味だ。
確かにある意味では、マーケットでついているリアルタイムの値段は、その時々の市場コンセンサスをすべて織り込んだものと言える。
しかしながら、市場コンセンサスが常に正しい訳ではないのは、これまでのレポートでもたくさんお話ししてきたとおりだ。
だからこそ、大切なのは自分自身の投資判断尺度なのだ。
「流れに乗る」のも一手、「自分の価値観を信じる」のも一手、だ。
ChatGPTなどのGenerative AIとの正しい付き合い方のひとつは、きっとその「自分の価値観」を作るために、良き相談相手になるツールとして使うことだと私は思う。
それは言うなれば、米国大統領にとってのジャックライアンのような存在である。取り得る選択肢を提示してくれ、必要ならばブリーフィングをしてくれるCIAのアナリストだ。
実に面白い時代になったものだとワクワク感でいっぱいだ。
編集部後記
こちらは、Fund Garageプレミアム会員専用の「プレミアム・レポート」の再編集版記事です。
公開から半年以上経った記事になりますので、現在の情勢とは異なる部分がございます。当時の市場の空気と、普遍的な知見を皆様にお届けできれば幸いです。
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