理解され難いソフトバンク・グループの決算内容

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決算発表を受けた11日の株式市場でソフトバンク・グループの株価は前日比△120円(△1.76%)となる6,711円で取引を終えた。

投資会社ソフトバンク・グループの決算をどう見るか

決算説明会の動画は必ず見るべき(8月10日配信開始)

同社は決算発表後、必ず孫正義会長自身によるプレゼンテーションで、決算内容、及び現状、今後や将来への考え方などが説明される。米国企業でもプレゼンテーション資料は配布されるが、動画として配信される例はそう多くは無く、IRとしては積極的な方だと言える。またリアルタイムのライブ配信中ならば、YouTubeを利用していることもあり、チャットを画面横に捉えることも出来るので、視聴者のリアルな書き込みを見ることも出来る。ただここへの書き込みは掲示板などと同じ性格のものだと理解してみる必要がある。

また機関投資家向けの決算説明会では無いので、質疑応答は日本の新聞社やウォールストリート・ジャーナル、Bloomberg、ロイターなどが中心だ。とは言え、質疑応答を生で聞くことも出来るので、メディアの興味のありかなどを知ることが出来る。この辺りの反響というか、トーンを予め知っておくと、例えば翌日の朝刊などに掲載される関連記事への内容理解もかなり深まると言えよう。メディアが何処に興味を持って、どういうトーンで質問をし、それに対して孫会長がどんな風に返答したかはかなりリアルに記事に反映するものだからだ。だから是非、もし時間があれば動画配信を自分自身で見て貰いたい。恐らくその後の株価変動を見ることと併せて、色々と感性も養われる筈だ。下の写真をクリックすれば、当該ソフトバンク・グループのWebページにジャンプするので、あとは直接楽しんで欲しい。正に楽しんで欲しいという感じだ。

純資産(NAV)のアップデート

ソフトバンク・グループ(9984)は事業会社ではなく、投資会社だということを忘れてはならない。それは孫会長自ら何度も決算説明会で発表されていることで、ビジネスモデルもその通りになっている。ならば同社の決算を見る時、通常の事業会社の決算書を見て、それを分析するのと同じイメージで捉えようとしていると、間違いなく同社の状況分析の本質を見間違えるだろう。すなわち良い時も悪い時も投資価値を見誤り、投資機会を逸する可能性が高いということだ。

ならば同社の決算内容で一番注目すべき点は何かといえば純資産(NAV)の変動状況(下記チャート)だ。その意味において、このチャートが示す通り、NAVは順調に伸びており、特に問題とすべき点は見当たらない。3期前のNAVに占めるAlibaba Groupの時価総額が突出しているが、パンデミックが始まってE-Commerceへの注目も需要も大きく伸びた時だと理解出来、それを含むNAVに今期は既に肉薄している。

余談になるが、同社の決算説明会を見ていていつも思うのは、これこそ本当は投資信託のファンドマネージャーに毎期開催して貰いたい運用状況報告会そのものだということ。昨今、公募投資信託で1兆円を超える投資家資金を集めているファンドは少なくない。時価総額1兆円と言えば、東証1部上場企業の中でも約150社超しかない。上場企業には多くの機関投資家がトップによる決算説明を求めるのだから、それに匹敵するサイズの投資信託ならば、この程度の情報開示はすべきかと思う。公募で、主として個人投資家から兆円単位の資金を集めているということは、本来そうした責務を伴う筈だ。

メディアの反応の代表例(日経新聞8月11日朝刊より)

ということで、メディアの反応や評価の代表例としては日経新聞の今朝(8月11日)の朝刊に掲載された記事が一番参考になろう。当然、昨日同社の記者が質問した内容にも重なっている。その記事は下記の通り。

ポイントは2つある。ひとつがやはり中国が最近強めている投資規制の問題だ、前掲の通り、同社のNAVに占めるAlibabaやその他中国関連企業のウェイトは決して低くない。これが中国関連株の値下がりが続き、ドンドン時価総額が縮小するとなれば、当然同社のNAVも小さくなるので、野次馬根性だけでなくてもソフトバンク・グループの会長自身がこの先をどう見ているかは大いに気になるところだろうからだ。

そしてもうひとつが、相変わらずと言えば相変わらずなのだが、事業会社同様に損益計算書に表示された純利益が前年同期比で39%も減少したことだ。純利益が約4割減少したということはセンセーショナルに書き易い。要は新聞記者としては、純利益が前年同期比で大きく減少した上に、保有株の時価総額31.6兆円(NAVは純負債等を控除している)に占める中国関連が減るリスクが高いので「先行き懸念」が大きいと言いたいのだと思われる。質疑応答のトーンからもそれらが伺えた。

孫正義会長の回答

まずは中国当局のハイテク関連銘柄に対する投資規制などの行方と影響だが、孫会長の答えは「中国関連への投資はトータルではまだまだ利益が出ているが、これからの投資については我々も正直言ってよく分からない。もう少し様子を見て、活発な再開はこれから考えていきたい。当面は用心深く行きたいと考えている」だった。運用経験があれば「だよね~」と同意されるだろうが、実に正直な回答だと思う。ただ全体の中で類推すると、ビジョンファンド2に当面第三者の外部資金を受け入れることを予定せず、一方で孫会長自身の個人資産2千数百億円レベル(現在個人で保有するSBGの株式時価は約3兆5-6千億円)の投資を行うことを決めたということは、それなりに思うことがあるということだろうと思う。ベンチャーキャピタルのサラリーマン経営陣との考え方比較は更にそれを追認した発言だったように思う。

そしてもうひとつの前年同期との比較だが、そもそもこの当期純利益の比較ということ自体が意味が無い(事業法人だとしても、投資価値の分析において当期利益の増減比較は意味が無い場合が多い)。また決算短信にも記載があるが「前年同期はSprint 支配喪失に伴う利益など非継続事業からの純利益7,345 億円を計上」しているので、特殊な利益要因が無くなった分、今期は前年同期比4,942 億円減少となっている。つまり逆に言うと、この特殊要因を除くと、その差額となる2,403億円は別に稼ぎ出しているとみることも出来る。投資会社なので事業会社のような損益計算書は出来上がらない。その辺りの理解をすべきだろうと思われる。

Alibaba(BABA)株の市場での株価推移とファンドのNAV

念のため、Alibaba(BABA)のこの2か月間の株価推移を見ておこう。下記のチャートがそれだが、高値が230ドル、8月10日の終値が195.73ドルとなるので、この間の下落率は約15%だ。

一方で、ラテンアメリカを含む投資ファンドなどの時価変動の状況は下記の通りだ。

予てから思うことだが、デイトレードやスイングトレードには実は不向きな投資先だ思われる。そもそも孫会長の発想、ファンドに例えるならばチーフファンドマネージャーかCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)が見ている時間軸が短くはない。自社株買いに対する考え方を問われた時に「NAVから考えると50%程度ディスカウントで取引されている状況」とコメントされていたが、恐らくこの辺りに投資家が見るべき鍵はあるものと考える。

結論

いつもお伝えしていることだが、経営陣自身のコメントを継続してフォローすることで、我々も投資をどうするべきかが見えてくると思う。孫会長のスタンスは一貫して下記の図の通りなのだから。

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