自分自身の過去の投資判断を振り返る
投資をする上で注意をしなければならないのは、時間経過と共に徐々に自分自身の判断基準が動いてしまう事(判断基準のドリフト)が起こることだ。「常に人間は進化・進歩しているのだから、判断基準が変わることは当然だろう」と思われる方もいるとは思うが、意図して変わるのと、無意識に変わるのとでは全く意味が違う。そして往々にして人間の場合、自分の都合の良い方向に変わる。それこそが人間の自己防衛本能であり、常に自分の居心地のいい方向へ、そして都合の悪いことは忘れようとするのが人間の良さでもある。
ただ投資の世界は冷徹で無ければ勝つことは出来ない。端的な例がパフォーマンスが良いファンドマネージャーのひとつの特徴は押しなべて「損切り」が上手いということだ。個人投資家の人に「損切り」はあまりお薦めしないが、職業投資家たるファンドマネージャーがパフォーマンス競争の中で勝ち残るには「損切り」が上手に出来ないとならない。その「損切り」が何故難しいかと言えば、それは自己否定に繋がるからだ。
バブルの時代の(粗製乱造された)いい加減なファンドマネージャーを除き、普通はファンドマネージャーは投資判断をするのに相当綿密かつ緻密に企業分析を行い、その上で投資判断を下す。その瞬間に全知全能をかけて正しいと思われる判断を下す。ならば「損切り」とは何かと言えば、そうして行った判断が間違っていたことを認める事、すなわち自己否定でもある。
ファンドマネージャーという仕事の性格上、殆どの人が負けず嫌いで勝気、自分に自信があって誇り高いと思って間違いない。そして根暗と思える程こだわりを持って超地道に企業分析にあたる。ひと言でいうなら、オタクが多い。そんなキャラクターだからこそ「このポートフォリオの状態では駄目だ」と判断し、銘柄入替や組み替えを行う判断をするのは簡単なことではない。経験から言えば、胃に穴が開きそうになる(と言っても、私の胃は丈夫だったようで、実際に胃潰瘍などになったことは無い。「鋼(はがね)の胃袋ですね」と笑われたことさえある)。
1年前、2020年4月19日付け「ポスト・コロナウイルスと今後の株式投資の考え方」で振り返る
昨年の第一回目の緊急事態宣言の中、「ポスト・コロナウイルスと今後の株式投資の考え方」という記事をアップさせて頂いている(2020年4月19日付け)。そこには当時私が市場や投資環境をどう見ていたのか、それに基づいて読者の皆様に何をどう伝えたいと思っていたのかがきちんとアーカイブされている。見出しを見ると下の通りになる。(下図全体にリンクが貼ってある)
自分自身で読み返して、正直に言えば、驚いている。何を驚いているかと言えば、今と殆ど同じことを言っているからだ。つまり、全くドリフトはしていない。逆に言えば、一年後の今でも内容はこの記事も陳腐化していない。そうしたことの証左が恐らくMFCLのパフォーマンスにも表れている思われる。
ふたつの投資信条「株価の先見性」と「データから読み取る」
投資家として重視する2つの信条として「株価の先見性」と「冷静に分析したデーから読み取る」ということを挙げている。それは株式市場が膨大な数の投資家、すなわち膨大な数の異なった知識や経験を持つ人たちの考えが反映されたものだということであり、だからこそ、頼りになるのは定性的なものではなく、冷静に分析した数値データだということだ。
その一例としてFund Garageで昨年2月20日から毎日更新している「世界の新型コロナウイルス感染動向・国別データの分析」の意図も説明している。「なぜFund Garageで新型コロナウイルスの感染拡大状況の分析をずっと行っているのか?」というご質問を今でも時々頂く。新型コロナウイルスに関する情報サイトかと思われてしまう場合もある。本当の理由は、こうして細かく変化をブレークダウンしたりすることで、投資業務に必要な微細な変化を読み取ることが出来る、またそうした地道な努力が大切だという事を分かって頂きたいと思っているからこそ続けている。そしてこれが実に投資に役立っている。そのひとつの証左が今年の1月中旬位から急速に高まった市場の超楽観論に対して警鐘を鳴らすことが出来たことだ。日々のデータの積み重ねがそれを教えてくれた。
また「3. 新型コロナウイルスによる死亡者数190人の意味」で伝えた日本というひとつの国家で一日に起きている出来事の数値というのは、上記の数値を評価するにあたり、ひとつの尺度を与えてくれた。続いて問題提起した内容は、そのまま今の問題に繋がっている。
市場の見通しは正しかった。それは今でも当て嵌まる。
残念なのは1年経過してもポスト・コロナとはならず、一年経った今でも同じように緊急事態宣言の渦中にあるということ。それはいろいろな理由が考えられるが、投資に対することとしての本論では無いから特にリフレインしたりはしない。
一方で、2021年3月期の企業決算の内容が発表になりつつある。そこで確認出来るのは、1年前の投資判断が正しかったことだ。株価のここまでの動きも当然だが、当時想定した通りの決算内容が発表されている。是非、昨年の記事ではあるが「ポスト・コロナウイルスと今後の株式投資の考え方」を今一度目を通して頂けたらと思う。一年後の今日でも充分に役立つ内容だと思う。また少なくともコロコロ日和見的な見通しを書いたり、言ったりしているのでは無いことも証明出来ていると思う。是非、参考にして頂ければと思う。