知らなきゃ損、投資チャンスがいっぱいな米国株投資
FG Premium会員様用「FG Report Premium」には、「株主として保有したい10銘柄(My Favorite 10 Companies」(略称:MF10C)として、2019年2月に創刊してからずっと全10銘柄を共有し、その銘柄決定の経緯から、その後のフォローの仕方について、毎週のレポートの中でフォローアップしている。実はその半分の5銘柄が米国株だ。
実は銘柄選びをしている時から、またその後のフォローの仕方をレポートする傍らでも、「米国株の枠がもう少しあれば」と思っているのが本音だ。何故なら、それだけ米国株投資にはチャンスが多く、また着実に儲かる確率が高い銘柄が多いからだ。
これは最近に限った話では無く、私が米国株の企業調査のため、各企業の米国本社にまで赴いて企業調査を始めた1996年当時から抱く正直な気持ちでもある。その米国株投資への熱き想いを叶えるべく、1996年からは日本株だけではなく、米国株にも投資出来るファンドを開発して運用を開始、多くのお客様に喜んでいただくことも出来た。
私は帰国子女でも、海外赴任経験がある英語ペラペラのバイリンガルではないので、当初は企業インタビューをするのも、事前調査や事後フォローをするのも、語学の壁には大変苦労した。今でも英語が得意な人を羨ましく思うことがよくある。
でも、そんなハンディを乗り越えてでも、米国株投資には有り余る魅力があり、また実際に投資収益を上げることも出来る。
そして実はここが肝心なポイントのひとつでもあるのだが、米国株投資を通じて日本株投資のアイデアが沢山得られるというのが実に大きなメリットだ。だから私は出来るだけ皆さんに米国株投資に近づいて欲しいと思っている。
今では日本人が米国株投資をするための障害は格段に低くなった。一番大きいのは「時差と、物理的な距離と、国境を無くす」と言われたインターネットの発展で企業調査が格段にし易くなったことだ。発信されている企業からの情報は、米国企業からの方が、日本企業からのそれよりも格段に多い。それは証券会社などのフィルターを通った二次情報ではなく、ダイレクトな一次情報だ。
英語が苦手でも全然大丈夫。それがテクノロジーだ。
言葉の壁を気にする人が多いのは事実だが、時代は正にAIの時代、Google翻訳や Chromeなどネットブラウザーの翻訳機能を使えば、完璧とまでは言わないが、必要十分な情報は理解することが可能だ。付け加えれば、AIは日々進化しているので、きっと益々精度も上がって便利になると思われる。
また米国株投資が日本株同様に簡単に出来る証券会社も格段に増えた。ネット証券など、眠い目をこすって起きていることが出来れば、現地時間リアルタイムで日本株と同様に売買することも可能になった。
だからこそ、米国株投資を始めることを皆さんに私はお薦めしたい。それはきっと日本株への投資にも役立つ相乗効果を齎すだろう。案ずるよりも生むが易し。まずは一歩前へ踏み出してみることだ。きっと「なんだ、こんなに簡単だった」と思われること請け合いだ。
こんなに身近な米国企業
職業柄か、多くの人に「何かいい銘柄は無いですかね?」とよく聞かれる。勿論私のキャリアを知っての質問ではあるが、だいたいいつも「米国株って考えたことありますか?」と返答することにしている。だが残念ながら10人中7,8人の方が「いや、米国株は・・・」と及び腰になる。「何故ですか?」と続けると、殆どの人の答えが「米国企業なんてよく分からないし、ましてや英語でしょう?」と言い返される。
と言いつつ、おもむろにiPhoneで株価チェック(当然日本株)を始められたりする。
ファンドマネージャーという人種は天邪鬼な人が多いから、そんな時は私も「ふーん、なら日本株なら分かるんだ」と意地悪なコメントが浮かんだりもする。
でも、実際そう言って米国株を遠ざける人でも、パソコンは使うし、iPhoneでTwitterやFacebookに呟いたり、スターバックスのカプチーノを好んで飲んだりするものだ。つまり実生活にはビッシリと米国企業の製品が溢れかえっているということ。
試しに下の図を見て欲しい。見たことが無いというロゴマーク、いくつありますか?お察しの通り、これらは全部米国の会社だ。それも身近な例としてはほんの一例だ。
試しに、ご自身の周りを見回して、どれだけ米国企業の製品があるか、確認してみて欲しい。逆に、それらの製品なり、サービスなりを排除した生活を想像して欲しい。どんなに不便になるか、分かりますか?逆に言えば、製品やサービスの内容を熟知した米国企業がそこら中に溢れているということだ。
株式投資をする上で、私が最も大事にしているもの、かの有名なウォーレン・バフェット氏も、ピーターリンチ氏も異口同音に言っていることだが「知らないものには手を出さず、自分が良く知っているものに投資をしなさい」という座右の銘がある。米国企業はその意味ではぴったりな存在だ。
翻って、下の企業名リストは日本取引所グループが発表している2020年1月末のマザーズ市場の時価総額上位25位までの一覧だ。つまり個人投資家の人が大好きなマザーズ市場の主力銘柄ということになる。
(出所:日本取引所グループホームページ)
このマザーズ市場の時価総額上位25社だが、ご覧になって何社ぐらいの製品なりサービスを日々利用したり、身近な存在と感じたりしているだろうか?
勿論、社名ぐらいは知っているというのは多いかも知れない。ならばもう一歩踏み込んで「第一位のメルカリで何かを買われたり、売られたりされたことがありますか?」とお聞きしたら、グッとイエスと答えられる方は少なくなると思います。最近なら、マスクを購入したという人はいるかも知れないが・・・・。
そこで、もう一度最初のアメリカ企業のロゴに戻って欲しい。建設機械のキャタピラー社や、スマホの心臓部を作っているクワルコムは直ぐにピンとこない方は多いかも知れない。でも戦車やブルドーザーはキャタピラー(正式名称は無限軌道)で走っているということはご存知だろう。キャタピラーの語源はこの会社だ。四輪駆動のオフロード車を「ジープ」と呼ぶ人は多い。これだって、クライスラー社の実は車種名だ。クラウンやプリウスと一緒のものだ。
今や仕事や勉強をする上で無くてはならないのがパソコン。たぶんその中身を作っているインテルやWindowsのマイクロソフトも知っているだろう。市場シェアから見ても、アマゾンで買い物をする人の方が、楽天利用者よりも多い。クレジットカードのマスターカードとビザカードもお馴染みだろう。スタバやマックは言うまでも無い。
株式投資で成功するための秘訣の第一は「自分の知っている企業に投資をする」ことだとは、私だけでなく、多くの著名な投資家が伝えている。前述のウォーレン・バフェット氏しかり、ピーターリンチ氏(フィデリティの礎を築いたファンドマネージャー)しかりだ。
こうして考え、身の回りを見回してみると、米国製品やサービスは身の回りに溢れ、英語が話せなくても、何をしている会社かを知っている米国企業は山ほどある。
にもかかわらず、実はあんまりよく知らない日本株に手を出すのは、何故だろう?そんなに国粋主義に投資の世界だけは宗旨替えしてしまうだろうか?
米国企業の事業ポートフォリオは比較的シンプル
私が米国株投資をお奨めする二つ目の理由は、実は日本の会社よりも米国企業の方が「事業内容がシンプルで分かり易い」、つまり「何をやっている会社か分かり易い」からだ。
食料品を例に取ってみよう。マクドナルドはハンバーガー中心のファストフードレストランだってことは誰だってご存知のはず。たとえ最新のメニューや割引キャンペーンなどは知らなくても、マクドナルドのハンバーガーは一度も食べたことが無いという人は少ないだろうと思う。
一方で、このところ流行りの食料品に「鯖(サバ)缶」がある。もしその成長を狙って投資しようと思ったら、日本企業のどの会社の株を買ったら良いのだろうか?日本水産?東洋水産?実はどの会社も「鯖(サバ)缶」以外のビジネスが大きなウェイトを占めているので、「鯖(サバ)缶」効果だけを狙って投資は出来ない。一緒にカニ缶や養殖業、或いは「マルちゃんの赤いきつね」まで投資をすることになる。
2020年1月末現在、米国企業で一番大きな会社(時価総額第一位)、すなわち世界で一番大きな会社はアップルだ。では「アップルは何をしている会社ですか?」と聞かれたら何と答えられるか?
当然答えは「iPhoneやiPad」或いは「パソコンのマック」であったり、中には「iTunes storeの音楽配信」であったり、或いは「故スティーブ・ジョブズ氏が作った会社」だったり、色々と答えが出てくるだろう。
同じことを前述のロゴマークの会社について聞いても、全く皆目見当もつかない会社は殆ど無いだろうと思う。更にここがポイントだが、その会社の一番核となるメインの事業が何であるか、大体分かる筈だ。
これは有名な会社だからという意味ではなく、一部の例外(GE:General Electronicsなど)を除いて、多くの米国企業の事業ポートフォリオは極めてシンプルだということだ。あれもこれもそれも手を広げて、中心となるビジネスは何なのか、掴みどころのない会社というのは殆どない。これには理由があって、核となる新しい事業が育ってくると、複雑怪奇になる前に、事業分割をして別会社とする資本主義社会の効率性追求の文化が根強いからだ。だからシンプルなままでいられる。
日本の大企業は事業ポートフォリオが複雑
翻って日本の会社の場合、三菱商事は何をしている会社だろう?或いは、日立製作所は何を作っている会社か?と仮に就職活動で企業分析に精を出している学生に聞いても、すんなり答えられる人は少ない。実は私自身がそうだ。
勿論、三菱商事が総合商社で、ありとあらゆるものを扱っている凄い会社だということは知っている。だが事業ポートフォリオのメインが今は何で、今は何が収益の柱で、何が今頑張らないといけない事業なのかと聞かれると答えられない。逆に言えば、原油価格が上昇しているから総合商社の株が良いのではないかと考えた時、同時に食肉やシャケ養殖事業はどうなのかも見極めないとならないという事だ。
総合電機と呼ばれる日立製作所も同じ。今は慌てて事業ポートフォリオの整理を始めているようだが、火力・原子力発電所のようなものも作っていれば、電車も作っているし、当然家電品なども作っている。今話題の自動運転に関わる自動車の電子部品なんかも作っている。
自動運転はこれから伸びそうだと考えて日立オートモーティブシステムズという会社を見つけても、非上場の子会社だから、日立製作所を買うしか投資方法はない。でも、日立製作所を見るなら発電所ビジネスなど重電関連は大丈夫だろうか?ということも同時に考えないとならない。
一方、米国企業のインテルを見る時、同社の事業ポートフォリオのメインはパソコン/サーバー向けのCPUが主体。だからそれ以外のことはあまり検証する必要がない。アマゾンドットコムを見るなら、ネット通販ビジネスとAWS(クラウドビジネス)の二つを見れば充分。そして何より、そうしたものに関する情報は、良くも悪くもこの時代、ネットを含む多くのメディアに整理がつかないほどに溢れかえっているということだ。
おまけに会社自体が行う情報開示の奥深さが日本企業のそれとは次元が違う。
一方、缶詰業界のことやシャケ養殖事業の事、或いは発電所建設のことなど、身近なところで情報を集められると言えば、残念ながら、リアルタイムの情報を体系立てて配信しているメディアは殆どない。
事業ポートフォリオがシンプルであることのメリット
事業ポートフォリオがシンプルだと分かり易いという以外にも投資家としてはメリットが多い。ビジネス・トレンドや技術のロードマップから右肩上がりの流れを見つけてその主役を探した時、その恩恵を全身で受ける企業がきっと見つかるのは米国企業だ。
特に、昨今のようにAIだの、5Gだの、クラウドだのといった最新テクノロジーのビジネス・トレンドの主役は何といっても米国企業だ。
沢山の特許を持ち、グローバルなデファクトスタンダードとなり、肝の部分を作っているのは殆ど米国企業だ。おまけにそれがその会社の事業ポートフォリオの核となっている。
フラッシュメモリーが最初のブームとなった時、当時の東芝のその部門は輝いていた。しかし同時に原子力発電に関わっていた。フラッシュメモリーの部門だけに投資がしたい!と思っても、同時に原子力発電部門の株主(所有者)にもならないといけない。結局それが仇となったことはあらためて説明するまでもない。
日本企業よりも充実している企業IRと情報開示
日本でIR(Investor Relations:投資家窓口)という概念が企業に広まったのは、米国に比べると、少なくとも5年以上は遅れたと思っている。そして現状でも、米国企業のIRに比べて、日本企業のIRの質は、その量と併せても米国企業の方が圧倒的に先行していると言って過言ではない。だから日本では個人株主が増えないのではないかと訝ってしまうほどだ。
その明らかな具体例として:
- 米国企業は四半期毎の決算説明に必ずCEOとCFOが出席し、インターネット通じて、最後の質疑応答まですべて個人投資家にも遍く参加機会が与えられている。
- 日本企業は本決算こそ社長が登壇して決算説明会が開催されるが、第1四半期、第3四半期には開催しない企業が多い。また決算説明会はマスコミ、アナリスト、機関投資家向けに限定されおり、個人投資家がアクセスする術は極めて限られている。
多くの報道が「前期比○○%の増減益」という記述のみで、肝心な市場コンセンサスに対する評価が報じられない日本では、本来、決算説明会で社長が実績をどう評価し、今後をどう見ているのかを伝えて欲しいものだが、一部の限られた人達しか、その場の情報を入手出来ない。
FD(フェア・ディスクロージャー)ルールの徹底
米国でもかつては一部のアナリストや機関投資家にだけ、企業が単独インタビューに応じたり、個別の調査リクエストに対して答えてくれる時代があった。私が米国企業を個別に訪問調査するようになった1996年から数年間は、CEOやCFOとフランクに会う機会が貰えた。
だが、確か2000年前後だったと思うが、FD(フェア・ディスクロージャー)ルールという概念が導入された。つまり、情報開示は全ての投資家に対して公平であること、というルールだ。Aという機関投資家に月次の売上動向を話すとか、そういう個別対応が禁止された。
取材に行って聞くことが出来るのは、あくまで公表された事実やデータまでで、何か聞くと「それは公表していないから」と答えてくれなくなった。
その結果として、決算説明会もテレフォンカンファレンス形式で行われるようになり、誰でも視聴可能となり、事前登録をしておけば質問をすることさえ可能だった。今はWebcastingという方法で、インターネットを通じてライブ配信され、その後、一定期間はアーカイブされて誰でも聴くことが出来る。
残念ながら、わが国日本では、このFDルールはあるのかないのか、或いは緩いのか、未だに決算説明会は密室で行われているに等しい。これは極めて残念であるだけでなく、市場の透明性確保という点で、直ぐにでも当局が改善するように動いて欲しいものである。
IR活動の日米格差、その歴史的な実例
私が1996年に初めて訪問した米国企業はヒューレットパッカードだった。その時でさえ、既に殆ど全ての米国企業にIR専門のセクションがあり、同社を訪れた時には、IR部のの部長(Steve Pavlovich氏)さんがOne on Oneで面談してくれた。全米の多くのファンドマネージャーと親しい(詳細は「私はあきらめない」という当時のCEOカーリーフィオリーナの著書にも記載されている)ようだったが、日本人のファンドマネージャーと会うのは初めてだと言われた。
余談だが、ヒューレットパッカード(俗にハート オブ シリコンバレーとも呼ぶ)は、スタンフォード大学の学生だったウィリアム・ヒューレット氏とデビッド・パッカード氏が、大学のあるPalo Alto(パロアルト)にあった自宅のガレージで計測器を作って起業したの起源。今でもそのガレージは実在する。実はFund Garageという名前を私がつけたのも、その創業にあやかってのことだ。
当時でさえ、NYダウ30銘柄のひとつで、ブルーチップ中のブルーチップだったが、コンパックを買収したあたりでピークを迎える。半導体テスターの世界で、アドバンテストが必死で追い掛けていたのが当時の同社の検査機部門だ。現在はアジレント・テクノロジーズとしてスピンオフした。
そんな当時の全米を代表する大手ハイテク企業で、極東の島国から来たひとりのファンドマネージャーとシニアマネージャーが一対一で会ってくれた頃、これは当時の実話だが、日本ではあのSONYでさえ決算説明会に私は自分の名刺で入場出来なかった。理由はファンドマネージャーを受け入れたことが無いからだという。それから暫くは証券会社の仲が良いアナリストから名刺を借りて誤魔化して入場していた。
日米企業のIR姿勢の格差を嘆いていても何も始まらない
今尚、日米企業のIR姿勢に大きな隔たりがあるのは、この頃からの流れかも知れない。確かに個人投資家の株主が増えない限り、個人投資家向けのIR活動は会社にとっては単にコストでしかない。それは非常によくわかる。
ただ、それは鶏と卵の議論のようにも思われる。とは言え、念仏を唱えて改善されるのを待っているよりは、製品やサービスも身近で、情報開示にも積極的な米国企業の株に投資するというが正しい選択肢のように思う。
「日本の個人投資家の資金は実は米国企業に向かっている」というようなことが報じられれば、きっと日本企業にも刺激的な筈だ。
Part-2 へと続きます