まずはプレスリリースから必要な数字を見つける
米国企業の決算発表は当然英語で行われる。これが米国株投資の最初のハードルになるかも知れないが、英語を単なる記号と思ってしまえば、プレスリリースなどでもその「記号」を探せば良い。
決算データを見るポイントは、実績値と予想(ガイダンス)なので、まずそれをプレスリリースの中から探し出そう。数社も見れば、大体どこにあるか見当がつき始める筈だ。
慣れてくるまで、最初に探すべき記号は「Revenue(売上)」「Non-GAAP earnings per share(一株あたり利益)」の文字で、その後ろに記載されている$3.11 billion というような大きな数字が前者にあたり、$1.53といった数字が後者になる。
この実績(終わった期)をみたら、今度はガイダンスと呼ばれる今期予想を探そう。大抵、プレスリリースの後半にある。「outlook」という「記号」が目印だ。そこに通常は日本企業と違いレンジ、例えば「$3.00 billion, plus or minus 2 percent」という記載がある。
これが市場コンセンサスとどの程度乖離しているか、基本的には市場コンセンサスを全部上回っていないと株価は下落する。全部が上回っていれば、即座に株価は上方に反応する。本市場の引け後の発表であっても、時間外取引に直ぐ反映されるから非常に分かり易い。
市場のコンセンサス予想との勝ち負けを調べる
日本企業にも本来市場コンセンサスという数字はある筈なのだが、集計している業者によってかなり開きがあるのが現実。だが米国企業のそれは概ね同じぐらいの値になっている。これはMORNINGSTAR社の米国サイトや、Wall Street Journal誌のサイトなどから見つけることも出来るし、楽天証券なども個別企業の業績・予想という欄に掲載されている。
とは言え、現状の冬時間で言えば、NY市場の大引けは朝6時、なので既に6時半頃には時間外取引の株価が市場のファースト・インプレッションを教えてくれるし、よほどマニアックな米国企業でない限り、WSJ誌は勿論のこと、Bloombergやロイターなどでも、予想をBeat(ビート:打ち勝つ)したとか、Miss(ミス:未達)したとか分かり易く説明されている。
ただワンポイント。時間外取引の動きはあまり気にしない大丈夫。「時間外で5%上昇している」とか、「時間外で急落している」とかよく伝えれらるが、その初期反応(脊髄反射みたいなもの)の後、決算発表のカンファレンスがあり、冷静に皆が分析をする。
だから、この段階から決算書との付き合いが始まる。
具体的に決算書では何を見れば良いのか?
基本的には米国株(アメリカ株)でも日本株でも財務内容を調べる方法に極端な違いはなく、決算書を見る方法に変わりはない。一番の違いは表記言語、英語という「記号」で表記されているということだ。最初はその「記号」の意味をある程度まる覚えするぐらいは頑張って欲しい。でも、そんなにたくさん覚えないとならない「記号」があるわけではない。
会計ルール自体は米国企業も日本企業もほとんど変わらない。実際、日本企業の多くも最近では米国式会計基準で決算開示しているところが多い。
日本企業への投資に際しても、決算書などの財務諸表を全部隈なく調べ上げて投資をされる人は少ないだろうと思う。これは機関投資家といえども同様で、決算書の内容を隅々まで読み込んでいるファンドマネージャーは少ない。逆に言えば、見なくてはならないポイントは限られていると言える。
大きくは
- 「売 上」(Revenue)
- 「営業利益」(Operating Income)
- 「当期純利益」(Net income)
- 「一株当たり利益」(Earnings Per Share)
この程度が常識的な範囲で、「地域別の売り上げデータ」や「セグメント情報」のようなものは、段々やり方が分かってきてからの問題と言っていい。
事実、日本株でも米国株でも決算発表を受けて瞬時に株価は反応するが、それはコンセンサスに勝ったか負けたかの初期反応だけだ。最近ではアルゴリズム取引なども盛んなので、「コンセンサス予想に対してX%乖離したら売り/買い」みたいなプログラムもかなりあると聞く。
むしろじっくり投資をする立場ならば、その場限りの一回の決算内容よりも、時系列データを重視する方が得策。中には黒字と赤字を繰り返す企業も数多あり、四半期毎の決算の癖というものを掴むのも重要だ。
こうした観点から言えば「大島式My四季報」のようなExcelシートを企業別に作り、時系列でデータをきっちりと掌握してから、「地域別の売り上げデータ」や「セグメント情報」のようなものを調べるのが順番だ。
決算データ分析に便利なツール
時系列でデータを集める場合に役立つのが、モーニングスター社のWebサイトであったり、米国株四季報だ。何故なら、どちらも個々の企業の財務データをモーニングスター社ならモーニングスター社のやり方で、米国株四季報なら米国株四季報のやり方で、一律に集計してあるからだ。まずはそうしたデータを自分なりに取り揃えるて時系列の整理をすると良い。
日本企業の決算発表と米国企業の決算発表の仕方で大きく違うところは、冒頭で説明したように、日本企業が通期予想を企業側がピンポイントで提示するのに対して、米国企業はレンジでしか開示しないということだ。それらを元に各証券会社のアナリストが予想数値を作り上げ、それが束になって「市場コンセンサス」という数値が出来上がる。
プレスリリースの本文を読み解こう
恐らく、かなり手慣れてこないと、個人投資家の人が企業の決算書をばらして分析するというのは、理想的だが、労多くして得るもの少なしかも知れない。
寧ろ役に立つのは、まずはその企業が決算発表時に公開するプレスリリースだろう。これは日本企業の決算短信でも同じことが言えるが、数字の羅列を解釈するより、文章で記載されている部分を読み解く方が分かり易い。極論を言えば、粉飾決算を見つけたり、財務状況から何かを読み取るのは、専門のアナリストに任せておけばいい。何かあれば、直ぐに広まるだろう。
プレスリリース、英語を読むのが難しければ、Google翻訳などに任せるのも一手だ。確かに日本語としてはおかしな表現が並ぶこともあるが、概括は掴むことが出来る。三島由紀夫文学を読むわけではないので、ザクっと内容を把握出来れば充分だろう。
更に余裕が出てくれば、決算発表時に行われるWebcasting(テレフォンカンファレンスのインターネット版)を聞いてみよう。特に質疑応答のパートは聞き応えがある。このパート迄を全開示しているのが米国株投資の強みだ。アナリスト達の興味のあるところ、市場の関心事などが分かる。
ひとつ注意をしないとならないのは、日本人が聞くと、米国企業のCEOのコメントは、会社が潰れる直前まで力強く、自信に満ちて聞こえてしまうことだ。これはプレゼンテーションの国民性の違いかも知れない。ただ100のメディアの報道を聞くよりも、直接自分の耳で得た情報ぐらい確かなものはない。